8.『六甲ひろば』神戸大学創立百周年記念号企画座談会 2002(平成14)年2月25

座談会 後輩たちへ 未来へのメッセージ

学      長  野上  智行

副   学   長  石川   斉

前 神 戸 市 長 笹山 幸俊

潟N ボ タ社長  土橋  邦芳

元  学  長  新野 幸次郎

江崎グリコ且ミ長  江崎  勝久

学 長  補 佐  宮下  國生

1.神戸大学を取り巻く環境    

司会(石川斉神戸大学副学長 以下【石川】) 神戸大学は、本年をもって創立百周年を迎えます。これを機会に各界でご活躍の諸先輩方にお集まりいただきまして、神戸大学の将来や、皆様方の学生時代の思い出等についてお話を伺えればと、この、座談会を企画いたしました。

 まず初めに、野上学長から、現在の神戸大学を取り巻く諸問題についてお話を願いたいと思います。

野上智行神戸大学長 (以下【野上】) 神戸大学を取り巻く状況ということでありますが、今年5月に百年という記念すべき年を迎えることができます。神戸高等商業学校が明治35年に発足して、それを神戸大学の創立基盤としようということが評議会で決まったことに基づいています。昭和24年には多くの大学が統合して新制神戸大学として出発し、その後、県立大学と統合して医学部と農学部ができました。旧帝国大学に比べると、神戸大学の歴史はそのまま統合の歴史と言ってもいいぐらいでしょう。来年、平成1510月には、神戸商船大学と統合する方向で準備を進めているところです。

 今のところ、海事科学部として、11番目の学部が生まれる予定です。さらに現在9つの研究科と1つの研究所を有する国内有数の総合大学となっています。

 今、課題といいますのは、何といいましても、法人化です。平成16年からということで、法人の設計を始めております。そこにもう1つ、身分がどうやら非公務員型となりそうで、あらゆるものを全部ゼロから設計し直さなければいけない。大学の持っている資産から給 与体系まで全部新たに決めていかなければいけない状況にあります。

 これまで1年かけて研修会を持ってきました。例えば私立大学の副学長や、経済界の方とか、文部科学省とか、おいでいただいて、法人化というのは一体どういうことなんだということのイメージを教官と職員が共同して持ってきました。

 それから、21世紀COEいわゆる「トップ30」があります。トップの30大学に重点的な資金配分をするということなんですが、これは基本的には大学院博士課程の専攻だと位置づけるというものです。

 これは公的ランキングだというようなことを言っておられる学長もありますけれども、お金のことではなくて、名誉、ステイタスということになるということで、今、対応を進めておりますが、大学の持っている実力をそのままきちんと反映できるようにしなければならないと思っています。

 最近、大学は国内だけの競争にとどまらず、国際的な競争力を持たないとやっていけないという時代になってきているということを強く感じます。この前も、上海で、アメリカの大学やオーストラリアの大学が優秀な中国の学生をリクルートするといいますか、獲得するためのチームを連れてきておりました。例えばバージニア大学チームというように、5、6名のチームで中国の優秀な学生を自分のところに呼び込もうというものです。それから、ご存じのように、アメリカの大学がネット上での講義を始めようということで、世界的なレベルで大学競争の大きなうねりが生じております。この中に神戸大学をきちんと位置づいていかなければならないということで、今、教官、事務官 一緒に、将来構想を練っているところであります。

 神戸大学が飛躍するための条件整備をしていかなければいけないわけですが、その中で、一番の課題と私が思っているのは、やはり教育であり、学生をいかに育てていくかであると思います。研究は当然のことながら研究者としての教官の責務でありますから、トップレベルでの研究をやっていただくことに対しての資金援助、あるいは資金獲得は個々の研究者の責任においてもまた大学の責任においてもやるわけですが、教育の方、全学あげていかにクオリティの高い学生を育てていくか、このシステムをどう整えていくかというのが、今大きな課題となっています。

 教養部が解体されまして、全学で教養教育をやる体制になってやってきたのですが、多くの課題が見いだされており、目下、全学をあげて新しい全学の基礎教育のあり方を検討している最中であります。これを成功させないと、まず21世紀の新しい神戸大学の姿はないと考えております。先輩方にもぜひ神戸大学の新しい方向に向かってのいろんなアドバイス等をいただければと思っております。

【石川】学長からただいま、神戸大学の歴史、あるいは現在の状況等についてご説明がございました。1つ1つが重要な問題でございまして、法人化あるいはトップ30等の問題もございますけれども、順次取り上げていくことにいたします。ご意見でもございましたら。

笹山幸俊前神戸市長(以下【笹山】) 最後に学長がおっしゃいました基礎の教育ですね、これに相当力を入れていただければいいんじゃないかと思います。特に学部ですね、大学院になりますともう特定の教育に入ってまいりますから、そう問題はないんだと思いますけども。 基礎的 な学科についての、本当にやっていただく先生方をもう少し支援すべきではないかと、私は思っておるんですが。

 実際、現場におりますと、今、学部卒、あるいは大学院卒でもそうなんですけども、ある部分だけしか知らないということが多いんですね。ですから、総合的にある基礎的な層というものを持っている幅の広い学生、社会に出るための養成をしていただいておけば、非常に特色があるのじゃないかなと、こう思いますね。

 大学全体としては、神戸大学は伝統がありますから、そういったものを充実する、一度にはできないと思いますけれども、やっぱりそこへ持っていかないと。

【石川】土橋さん、いかがでしょうか。

土橋芳邦(株)クボタ社長(以下【土橋】) 独立法人化にしてもトップ30の問題にしても、これらへの対応は全学を挙げて、きっちりとやっていただく必要があります。伝統ある神戸大学を引続き発展させていくためにも、この際、形だけはしっかりと整えて貰わなければなりません。特にトップ30に入ることは非常に大事なことだと思います。そうすれば内容の充実も可能となるはずです。

 私は、新野先生の後を引継がれた鈴木・西塚両学長時代、神戸大学OBで関西の経済人のトップの集まりである「学長を囲む会」のお世話をさせていただきました。野上先生が学長になられてからは中断していて申し訳なく思っていますが、いい会だったと思っています。

 その会には、副学長制度ができてからは副学長のお二人にも出席していただいて、それぞれ大学の現況や、これから進むべき方向についてのお話を伺いました。我々の大先輩OBを含め、みなさんの母校についての関心を呼び起こされたようで、いろいろ質問も出しておりました。

 私自身、卒業してからずっと母校のことは全く無関心でしたが、冒頭の野上学長のお話にありましたように、いろんな改革について、歴代学長のリーダーシップのもと、よくやってこられたと感謝しております。今回の法人化についてもしっかり対処していただきたいと願っています。

江崎勝久江崎グリコ(株)社長(以下【江崎】) 私もあまり大学のことに関心がないというか、卒業しましたけれども、学生時代にあまり勉強したわけじゃなくって、先ほど土橋さんが言われた学長を囲む会にご案内いただいて、1、2回出たことがあるんですけれども、その頃から、大学が変わっていくというようなお話を聞きました。何年か前に、加護野先生ですかね、雑談で、大学がリニューアルせないかんのやというようなことで、いろいろやっておられるようなこと聞いたんですけど。

 今、商船大学まで一緒になるというのを初めてお聞きして驚きました。

 そうすると、ますます六甲台といいますかね、3学部の、神戸高商の伝統というのをですね、我々はその3学部の出身ですからそういうものがあった方がいいわけですが、大学としてはそれを余り出しますとね、新しい次の大学をつくっていくのに障害になるのじゃないかなと。医学部も伝統がありますし、工学部もそれぞれ伝統があるんでしょうけど、1つの総合大学としてはもう戦後20年代後半ぐらいから、そこからスタートしたということで考えていかなければならない。ですから、そういう点では、新しい伝統をつくるというようなことが、大学としてはそれなりに必要だ思うんですけども。

 先ほど土橋さんおっしゃったように、もしトップ30は、どんな手をつかってでもやっぱりそれに残らないと、これはやはりある意味では文部科学省との戦いでしょう。大体今の日本というのはもうブランド指向ですからね、阪大や京大、東大というのはもう残って当然みたい に、OBも思ってますし、先生も思ってるようですけど、決してそんなものじゃなくて、本当に実力で見れば、神戸大学というのは絶対上位に入ると思うんです。しかし、なかなか正論ではいかないところがあるでしょうから、やはりまず生き残りといいますかね、それはやはり中身がなかったらできないと思うんですけども、その辺の努力というのは、先生方、なかなか大変でしょうけれども、ぜひやっていただきたいと思います。

【石川】今、江崎さんがおっしゃった、六甲台の3学部、神戸大学の看板というようなことじゃなしにというようなことも、ちょっと含めておっしゃったと思うんですが、新野先生、いかがでしょうか。

 新野幸次郎元神戸大学長(以下【新野】) そうですね。その前に、私が大学にまだ籍を置いているころに、例の臨教審ができたり、大学審議会ができたりして、根本的に大学のあり方をどういう具合にしたいいのかというようなことは議論が始まっていたのですが、今日のような形で独立行政法人の形にしようとか、非公務員化をやろうとか、いうようなところまで進む時代ではございませんでしたから、まだ楽な時期であったと言ってよかったのかと思います。

 そういう意味では、今、学長はじめ副学長、それから学長補佐の皆さん方が事務局を含めた、皆さんに対して大変ご苦労さまと申し上げねばなりません。

 それはともかくといたしまして、今、現職の皆さんだけでなく私どもも大変な課題を担っているように思います。

 一番大きな課題というのは、こういう大学のあり方が問題になってから、野上学長もおっしゃっていますけれども、大学が本当に残っていこうと思ったら、グローバリゼーションの中で、国際的なレベルを保てる大学になっていかなくてはならないのではないかと思いますが、そのやり方が非常に難しいわけです。

 アメリカでも、ユニバーシティとカレッジを含めると4,000ぐらいあるのですけれども、そのうち、Ph.D.を出せる国際的な大学というのが6.6%ぐらいですか。そういう意味では、日本で30という言葉がどこで出てきたのかよくわかりませんけれども、日本の大学の中で国際的な力を持てるような大学を幾つつくるのかと、あるいは国から各大学にそれだけの補助をどれだけしていくのかと、というようなことを考えると、非常に大きな課題を担わされた時期だなということを感じるわけです。

 しかも、国際競争に耐えられるということになりますと、外国人留学生が勉強するなら日本の大学で勉強しようというようにならないといけないということですが、それをやれるようになるのには、いろんな整備をする必要があるのではないかと思います。

 そういう意味でも、現在の先生方だけではなくて、卒業生のいろんな方々がそれを支援する体制をどうつくれるのかなと、そして、それを社会全体及び国全体で、地域を含めて、どういう具合にサポートできるのかなというのが、大きな課題になるのかなというようなことを、今は感じております。

2.学生時代の思いでを振り返って 

【石川】この問題につきましては、また後ほど触れさせていただくことにいたしまして、少し視点を変えまして、先生方、今日こられております先輩の方々、学生時代に神戸大学で学んだことが、社会に出て生かされたかどうかという視点、それから、各界におられる諸先輩が、神戸大学の学生はどういうふうな学生に育って欲しいかと、就職試験等でどのような学生を採りたいのかというような視点をお聞かせ願えればと思うんですけれども。

【江崎】学生時代に学んだことがないものですから、もうそういう質問は一番困るんですけど。私は占部ゼミなんですけども、当時、占部先生は売り出し中でね、ゼミ、月1回か2回ぐらい休講なんですね。

 当時は、ですから、ああまた休講やというようなことで、みんな、勉強する人はそれなりにしてたんでしょうけれども。ただ、占部先生はそのときに、冗談でしょうけれども、君らに教えているよりもどっかで話した方が収入になるとかですね、しかし考えてみると、やっぱり経営学部なんかもっともっと現場の方へ出ていかないとだめなんで、そういう意味では、占部先生なんかの方がかえってよかったのかなと思います。

 経済の理論とか法学の六法、企業の組織論とか一通りの常識的な知識は要るんでしょうけれども、結局、会社に入ってすぐに役に立つわけではありません。今だに、恐らく経営学でも実務的には恐らくすぐ役に立たないと思うんですね。

 ですから、普通の学部の講座の中でもっとケーススタディとかを勉強していくと同時に、答えは出なくとも実際の企業に入った時にどういうふうなことが起こるか、みたいなことをもっと教えてもらえばよかったかなと思います。

 今、大学でときどき一般の企業の方は半年とか1年の期間で講義されていますが、単に話を聞くだけではちょっと、それだけに終わってしまうのではないでしょうか。

 神戸大学はあまり役所に入る人は少ないようですけども、私は、神戸大学にとって非常に良いことだと思うんですね。神戸大学の1つの特色じゃないかと思うんです。もちろん勉強も大事ですが、そういう意味ではなおさら、もっともっと学生の間に実際の企業で起こっているケーススタディのようなものを勉強する機会があればよいのではないでしょうか。

 学生が会社に入ってすぐに企業で約に立ってもらうということは考えておりませんし、最初から自分で考えるのは無理なんですが、いつまでも指示待ちタイプの社員であっては困ります。 

宮下國生学長補佐(以下【宮下】) 経営学というのは非常に難しい学問で、学生も大変だろうと思うんですよね。いろいろ説明をするんですが、現実の世の中を実験室のように説明しますと、またわからないですね。

 今、江崎社長がおっしゃったような、トップの講義を聞くとですね、これは本当に憧れの目で見ると、実際的にはほとんどわかっていないのですけれども、そういう諸先輩を前に置いてなんですけれども、なかなか難しい面がありますね。ですから、私たちも非常に工夫しないといけないなと。それから、今まではいろいろと大学院の方の工夫はしてきたんですけれども、学部についてもいろんな工夫をしなければいけないなと、そういう感じもありますね。

【石川】土橋社長は神戸大学生を採る場合にですね、どういう学生を期待されてますでしょうか。ひとつのカラーがございますか、神戸大学生は。

【土橋】今の時代、カラーを求めても無理でしょう。

【石川】だめですか。ということは、特色がない。

【土橋】特色はありませんが、みんな優秀な学生ですよ。ただ気になることは、共通一次以来、偏差値によって大学のランクが決まってしまったと学生自身が思い込むようになったのではないかということです。従って、偏差値による大学への入学の難易度だけがクローズアップされて、大学のカラーが薄れてきたのではないでしょうか。

【新野】偏差値のことでおっしゃっているのですね。

【土橋】偏差値というのは絶対的な数値ですから、学生は入学したときからこれを背負うわけですね。私の思い過ごしかも分かりませんが、卒業して我々のような企業に入社するときも、大学のランクについての意識があるのじゃないかなと思っています。今更言っても始まりませんが、共通一次というのはあまりいい制度ではないと思っています。先程も申し上げたように、神戸大学の卒業生はおとなしい、いい学生なので、採用する側から見れば、神戸大学のブランドは安心感があるのではないでしょうか。ただ、私の見る限りでは、やんちゃといいますか、元気のいいのは少なくなったように思えます。我が社は神戸大のOBが非常に多い会社ですが、かつてはうるさい先輩がいっぱいおりましたが。

【石川】その点含めまして、笹山さんは工学部で、戦時中だったんですよね。で、今、市役所に入られて、行政のことをやられたわけですが、工学部で学ばれたことがお役に立ったのかどうかということと、それから、そのころの学生の、鹿児島から出てこられて、今も神戸にいらっしゃるのは、神戸がよかったからでしょうか。

【笹山】戦時中、神戸にきたんですけれども、たまたま私の中学の校長先生が神戸の親和女学校の校長で定年でこられておったんですね。

戦時中ですから早く仕事をしないといけないということで、専門学校に行くことにしたんです。高校とかそういうところに行きたかったら、近くは熊本があるわけですけども、そういった因縁もあって神戸に来ました。それに何か港の関係とか、歴史的に見てですね、非常に神戸というイメージはよかったと、私は思ってるんですけどね。

 当時は戦時中で工学部は徴兵延期になってましたから、私どもは18年に入って、19年の10月から、工学系の者は実習兼勤労奉仕だったんです。実習の方が実は重点的だったと、私は今でも思ってるんですが、大阪府庁へ行ったんです。20年の3月までの半年間河港課というところにおりました。

 その半年の間、例えば堤防が落ちたと、切れたと、それをどうして復旧するかというようなことも、実際に測量したり、あるいは設計図の簡単なやつを書くとか、そういうことを実際にやったものです。役所に入って、そういった仕事をしたいなと思っていたんですけども、それと全然別の仕事をやらされました。それで実際には余り役に立たなかったんですけども、局長、助役、あるいは市長になりまして、それがものすごく効くわけですね。

 例えば以前に大阪と協議したとき、淀川の堤防、例えば左岸ですね、あれは当時、私ら測ったので、高さが第一に違うではないかと、それから、本川が西へ振ってるではないかというのは、そのとき僕らは知ってるわけですね。そういうことを実際にやってますので、説得力は実際にあるんですね。

【土橋】先ほど言い忘れたのですが、百周年記念の基金を早めて90周年基金に変更したのは、10年前のあの当時の判断で、10年後に神戸大学出身の企業のトップはかなり減るであろうとの判断があったと聞いた覚えがあります。勿論景気動向の読みもあったでしょうが・・・・。事実、江崎さんのようなオーナー経営者は別として、現時点での本学出身者の企業トップは随分少なくなったのではないでしょうか。神戸大学の卒業生の力も落ちてきたのではないかと思うこともあります。確かに、景気は悪くなる一方で良くはならないであろうとの読みもありましたが、残念ながらこれも予想通りでしたね。ここ数年、経済界でも新旧交代が激しく、トップも随分若返っていますが、神戸大学の卒業生が社長に抜擢されるケースはひと頃に比べてかなり少なくなってきました。やはり寂しいですね。

3.大学教育と進学率       

【石川】新野先生はずっと大学とかかわってこられましたし、神戸大学の学生のイメージが変わってきたでしょうかという問題と、それから、神戸大学の教官層ですね、これは年次ごとにやはり変わってきたかどうかというようなことについて、何かご印象ございますでしょうか。

【新野】 学んだことが生かされるかどうかということについては、2つのことがあろうかと思います。その1つは、最近、大学生の学力が落ちたとかいうようなお話と関連して議論されておりますけれども、大学進学率が10%内外の時期と、それから、今日のように約5割に近い、レベルになってくると、学生の勉学意欲とか、能力と、IQだけじゃなくてEQまで、取り上げてみますと、全然違ってきてる。それから、水準が違ってきてるということが言えると思うんです。

 私どもの学生のときでもある有名な先生などは、授業にこられて、式などを書いていかれるのですけども、ここのところちょっとよくわからないからきょうはこれでやめておくこの次には考えてくるからとおっしゃったことがあります。それでもみんなが、えらい先生というのを確信してますから、かえって先生はすごいなということで感心して聞き、そのごまかしのない姿勢に刺激をされてより一層勉強しようと考えたものです。

昔でいうと中学生までの勉強の仕方のteach and learnでなくて、旧制高等学校や大学になると先生はteachしなくてもeducateすれば良いという風に変わっていきました。

ところが今は進学率がこれだけの形になってまいりますと、teach and learnでないと大学生でもついてこなくなってくる。ということで、先生の役割も全然変わってきたと思うんです。

 次に、第2番目の問題と関連しては、学問分野によっては、学んだことが役に立つようにシステム化されてる学問分野と、そうでない学問分野があると思います。

 医学部はまだしも、工学部は4年間の勉強では、とてもかつての知的レベルは確保できないと。進学率の問題も両方含めて。したがって大学院の修士課程までいかないと学部卒のレベルが維持できない、こういうようになっている。最近は修士だけでもだめで、もうちょっとやってもらわなくちゃいけないというような話に変わって来ています。

 経済、経営の方でも、最近では、会社でいろんな問題が出てきますから、それだけのテクニカルな能力も備えた人間をつくってもらわんと困るというような意向に変わってきて、ロースクールだとか、ビジネススクールだとかいうものが必要になってきたんですね。こういう変化のためにだんだんと学生に対しての要求が違ってきていると思うんですね。

 ハーバードにはアート&サイエンスのファカルティがあります。あそこの学長をやってました有名なヘンリー・ロソウスキーさんに神戸大学にきていただき話をしてもらったことがあります。そのヘンリー・ロソウスキーさんが、有名な「THE UNIVERSITY」という本を書かれました。ハーバード大学には、9つのスクールがあるわけですね。けれども、基本になってるのは、人数の少ないアート&サイエンスのファカルティだとその本の中でもはっきり書いているんです。

 そこでは、コア・カリキュラムというのをつくっています。コアカリキュラムをつくった目的というのは、効率的な文章をつくれる能力を持つこと。それから、2番目には、数学的な思考ができるようになっているということ、何よりもコンピュータとかで数理的にいろんな問題を処理できる能力を、基礎を確立しておくこと。第3番目は、外国語をマスターしておくことと、どこかの国の言葉を完全にマスターするように教育すること。この3つのことだけをやらせておけば、そこで優れた能力さえあれば、どのプロフェッショナルな分野に進んでいっても、有効に働けるようになるというので、我がハーバード大学の伝統はこのファカルティ・オブ・アート&サイエンスにあるんだということを強調しているんです。

 日本の本来の、従来の大学の一般的な基礎は、このハーバードのファカルティ・オブ・アート&サイエンスのところに置いてたと思うのですね。その基礎の上でいろんなものが発展してきたと思うんですが。やはり学んだことが生かされるかどうかというような形で取り上げられる基礎ですね、そういう大学のあり方の根本についての力点を置いていく方がいいのかなというような感じもしないではないですけれどね。

 ことに最近思いますのは、ハーバードで何でそういうことを一生懸命に言うのかなというのを考えますと、18歳ぐらいから、20歳の前半ぐらいまでというのは一番感受性も強いですし、一生懸命やってみようという気持ちも強い、それから、いろんな新しいものを養育していく上で、非常に強いエネルギーを持っている時期だと思うのです。そのときをどれだけ立派に刺激できるかというのが大学にとっては非常に大事なことじゃないかと思います。私どもは、さっき、土橋さん言ってましたけれども、神戸大学の仮にウエイトがちょっとづつ実業界の中で下がっていく点があるとしたら、そういう面での教育の仕方の迫力が足りなかったのかなという感じもしないではないですね。両方の面が、偏差値の問題も進学率の問題と両方ね、関係してるんだと思うんですけど。

4.組織改革と教育        

【石川】今、新野先生からハーバードの教育システムについて少しお話がございましたけれども、神戸大学の教育をどういうふうな方向にもっていけば、先ほどから出ているような事柄が解決できるのかということにつきまして検討いたしております。その内容を学長から少しお話いただきまして、先輩方のご意見をお伺いしたいと思います。

【野上】ここ最近は週1ペースで部局長を中心として教育体制をいかに確立するかを検討しています。今後は、やはり国際的なレベルで競争しなきゃいけない、そうすると、どうしてもまず言語の、外国語の運用能力がどういう場合であっても必要であるということで、外国語教育に対する全学としてのきちっとした、今以上の責任ある体制をとる必要があるということで、語学教育に関するひとつのセンターを日本一のスケールでつくってですね、それを円滑に運用できるようなことをしたい。この合意をとるには相当な時間がかかりますけど発足させたい。

 もうひとつは、語学の強化とともに海外でのインターンシップと、海外の提携大学との単位互換を促進しようということで、石川副学長に特にお願いをして、海外に幾つかの拠点を設けたいと考えています。国際文化学部などはですね、実際に海外に行って、単位互換を半期、例えば半年の間に、向こうの大学で単位を何とか幾つか取ってくることができるようになってきています。それを全学に広げようとしているところです。

 学位を取りにいくということは逆に受け入れることでもあるので、海外から単位互換で多くの学生を受け入れて、日常的に授業の中に海外の学生がいる状況を作り出したいです。学部教育のレベルでも、特に大学院の前期でその状況をつくりだすことができるように、徐々に準備を整えているというのが1つですね。

 それと、もう1つは、この時代ですので、いわゆる情報に関すること、特に情報のリテラシーに関わることです。単なる情報をあやつ る能力の育成ではなく、大学として、持っている知的な財産といいますか、それを発信するとか、あるいはいろいろな業界との連携をはかる必要があります。いわゆる知的な情報の流れを作る。そしてこれを豊かに、しかもきちんとしたものをつくるために、情報基盤研究センターというものを全学を挙げてつくり出そうとしています。

 そのためには、人が要るわけなんでありまして、会社でしたら、よし、この部分をつくろうと思ったら、簡単に人を集結できるわけですが、大学ではひとつずつ了解を取らなければならない。

 しかし、今、大学の置かれている状況を考えたとき、全学としてやらなければならないことであり、部局長を中心とした会で議論をして、一定の理解を得ることができました。

 さらにもう1つはですね、学部教育をどうやって全学が責任を持つか、これが一番大きな課題なわけです。今、大学教育研究センターの役割の見直しをはかっています。全学としてすべての学生のための教育体制を抜本的に見直し、責任持って運用するにはどうかを議論しております。クオリティある学生を育てようと思ったら、全部局の協力が得られないとそれはできない。お互いさまであるからということで、そこをどうやって乗り越えるかというのが、今の課題であり、ハードな日々を送っているというところであります。

【石川】神戸大学では学部学生の定員が1学年2500人、商船大学も入れますと2700人になります。例えば英語の授業をやろうとしましてもですね、50人クラスとしましても60コマぐらい、まず、要るわけですね。1つの時間帯に。そういう状況というのは非常に大変でございまして、教室のサイズ、それから、カリキュラムの組み方等非常に困難なことになっております。

 今、学長が説明しました、神戸大学を、これからやろうとしていく方向について、何かご意見ございましたら、どうぞご自由に。どうでしょうか。

【土橋】新しい制度に移行すれば、大学側にかなりの裁量権が与えられるのでしょうか。 

【野上】16年度からですか。

【土橋】ええ、平成16年に独立法人化になった場合のことです。現在では国立大学の場合、人件費にしても、研究費にしても、かなり細かく使途が国によって決められており、研究業績を大いに挙げた教員に特別な処遇をするとか、職員の給料について能力に応じて支給するとかは全く不可能であると聞いております。企業においては、成果や能力を重視しない悪平等的な考え方では衰退するほかはないという考え方が一般的です。国立大学もずっと横並び思想できたのではないでしょうか。大学としての特色を出していただくためにも、研究業績至上主義への転換は無理なのでしょうか。もしダメと言うのなら何を言っても虚しいということになります。

【野上】これはですね、法人化ということで裁量権が大学に与えられるであろうとか、非公務員化だということでどんどん自由にできるだろうと言われておりますが、私はどうかなと疑問を持っているのです。文部科学省は今以上に中期目標でコントロールするんではないかという気がしてならないという。身分上はそうなるけれども、予算の上では逆に相当厳しい監視をされることになるのではないかと思っています。

 中期目標6年といいますが、6年の間にしょっちゅうチェックをしてですね、例えば当該年度についての予算が目標通りに執行されてないとすぐ次年度の交付金を減らすとかですね、今まで以上に目標達成度へしばりをかけてくるのではないかという不安があります。逆に自由度が今より落ちるのではないかという恐れさえあるのが正直なところです。

    ここら辺はもう新野先生もよくご存じだと思うんですが、正直なところ不安を覚えています。

【笹山】語学なんかですとね、私らの時代はあまりやかましく言わなかったんですけども。私らは工学部系ですから、どうしてもドイツ語はやりなさいよと、こうして1年ほどやらされましたけどね。

 今、海外に行きますと、神戸大学の出身の商社とか銀行におられる方がいっぱいおられるわけですね。そういった方々が海外の経験を、神戸に持って帰ってきてもらう、国内へ帰ってこられたときに、そういったグループが寄って、何かやっていただいたら助かるんじゃないですかね。

 先ほどの学校自身の知的な情報を別の会社をつくって、これは同窓会、KUCが全部寄って、そういうのを立ち上げないと、アメリカとか外国はほとんど企業の皆さんが大学を運営してますよね、寄付その他でですね。ですから、先生方もそれによって助かってるし、自由に研究ができると、こういったシステムになってますから。今、経済関係、非常に落ちてますから、ある程度基礎学科の方へですね、必要なものの方へ少し支援をしていただければですね、いいんじゃないかと思います。

【新野】非常に難しいと思いますけど、学長が、今、おっしゃったように、独立行政法人化して、非公務員化したら、確かに自由にやれるところは若干は出てくると思うんです。ことに行政法人化したときの大きなねらいは、学長、学部長に権限を集中して、そして裁量権を持てるようにしようということですね。

 特定の方々にいろんなことを決めていく権限を与えておく。それが与えられる条件としては、民主的なルールができあがっており、役職についた人々は、いわゆるアカウンタビリティだけは完全に尽くす。大学のこれからの運営について、先生方が、研究と教育に集中できて、大学運営については、先ほどの権限を与えられた人々がオネスティとインテグリティとを持って、それでこのアカウンタビリティをもった説明でやっていけるようなシステムがもしできあがりますと、確かに割合に安心して長の人々に権限を集めることはできますがこれは大変な変革を必要とします。

 しかも、そのことをやっていくのに文部科学省の金の出し方も問題になります。まだ全て明白になっているわけではありませんが、文部科学省の支出した金の使い方のチェックは各大学が自分で考えなさいよとされているようです。また、文部科学省の中に評価機関をつくって、その評価によって次の年度の金の出し方を決めていきますということも言われています。そうなりますとかえって文部科学省による管理、規制は逆に厳しくなる可能性もあると言わねばなりません。

 いま、地方分権で、補助金だとか交付金の出し方を変えてほしいという言い方が中央政府に対して言われていますね。それと同じようなことを、文部行政についても考える必要もあるように思います。

 あの中間報告を読んでも、そこらの財務の関係がどういうぐあいになってるのかというのは、まだわかりませんが、これは一つの課題です。

イギリスの大蔵省がかつて、ケンブリッジ、オクスフォードをはじめ大学に対して、予算を与えるけども、その使用の仕方については拘束しないというやり方をとっていました。このやり方は10数年前に変更されましたが、我が国もそれに追随しようという方向がありますが、イギリスの場合は、各大学にケンブリッジ、オクスフォードなどが典型的なように、カレッジがございますでしょう。カレッジは完全に独立の組織になっていて、独自の資金を持って、運営をやっております。

 アメリカでも、私学はもちろんですけれども、州立大学でもそれぞれ別個の基金を持っておりまして、それでかなりのことがやれるようになってる。例えばミシガン大学では年間予算が30億ドルですが、別に30億ドルの基金を持ち、ハーバードは、現在180億ドルの基金を持っているようです。こういう基金を持っててやれる体制とね、日本の国立大学のように何も基金がないという体制とでは全然違うということを考えないといけない。

 以上のようにみてくると、文部科学省の方も権限委譲なりお金の出し方について更に工夫してもらわないと、せっかく教員がいろんな仕事に兼業、兼職やれるようにするとか、学長及び学部長の裁量権を増やすとかいっても、実際は狙っているとおりにはならない危険性があるというように思います。

【土橋】私学に設置されている理事会のような、学長や学部長をサポートする体制が必要ですね。

  私、ある私学の理事に就任しているのですが、法人本部というのがあって、理事長以下が大学・短大・高校・中学の経営、運営面できちんとサポートしています。こういう体制があれば、学長を始めとする教員が教育や研究そのものに安心して専任できるのではないでしょうか。しかし私学にもいろいろ国の規制があるのでしょうね。

【野上】先日立命館の理事長ともお話しする機会がありまして、立命館大学は私学ですよね。私学ですから、思う存分にできるはずであるというふうに思うわけですが、あの立命館でさえ、例えば1つの学部の中身を変えることができない。しかも、文部科学省がきちんとコントロールをしている。そして何か新しいことをやろうとすると、新たな学部をつくりだす以外に手はないということで、大分、別府に新しい大学を造られた。要するに、既存の学部は旧態依然として、私学でさえ変えることができない。変えたくても変えられない。

 私学でこうだったら、国立大学が法人にシフトしたにしてもですね、何ができるのか。ということは、大学人の意識を根本的に変えない限り、いくら法人化してもどうにもならない、かえって今よりもややこしい状況にならないかと潜在的にちょっと不安がありまして。

 そういう意味では、大学のすべての構成員が自分たちの大学という意識、ひとつの組織体としての意識を持つ必要がある。かなり、自分の大学だけの独自な立場で組み直すということをやらないとできない。徐々にしかできないけどやらねばならない。しかし、できない。これは大変なことだというのが、正直なところです。いわゆる私学だったら自由闊達にやれるであろうと思うんですが、なかなかそうはいってない状況を目の当たりにすると考え込まざるを得ない。

【江崎】どういうところで、文部科学省は私学でもコントロールできるのですか。お金ですか。

【土橋】補助金でしょうね。

【江崎】学部を統合するとかですね、やめるというようなことも、補助金との関係で、それをやろうとすると反対が出てくるということなんですか。

【新野】私の方からいいですか。私学がやりにくいのはね、設置基準との関連があるからだと思います。

 大学設置基準というのがありまして、そこで、昔ですと、運動場の面積とか図書館の書籍数や座席数とか、そういうのを細かく全部決めてたんですね。最近その基準を大分緩めましたけれども、それでもやっぱり基準は基準でちゃんと設定されてるんですね。

 日本は今まではチャーター方式といって、厳しい許可制にしてたんです。その点アメリカではアクレディテーション方式ですから、勝手につくったらいいわけです。勝手につくりまして、各大学がお金を出して、全国6つの地域にアクレディテーション・コミッションというのをつくって、委員会の人が調査、評価するわけです。その評価を、調査に行った大学と、コミッションに提出するんです。それを見ますと、この大学はマスターの学位は与えられる能力がありませんから、この大学はPh.D.は出せませんというようなことを報告して、それができるためにはこれだけの条件を整えないといけません、先生を変えないといけない、基金をもうちょっと増加しなくてはいけない、設備をこう変えなくてはいけない、そういうことなどを注文するんですね。

 今度の総合規制改革会議の方を見ますと、アクレディテーション方式をとるべきだという提案になってます。もし、そういうことになりましたらね、私学の人々が今おっしゃってるような、文部科学省の許可がないと何もやれないという体制はなくなる、あるいは軽減できるんじゃないかと思います。

【土橋】その場合、教員の業績給というのは可能でしょうか。

【新野】ですからね、それもやろうという方向に動いています。

【笹山】それはそういうシステムをつくれば、そこで大体決められるんじゃないですか。

【新野】ちょっとずつ、ね。

【笹山】みんな、知ってますからね。卒業生なんかは。

5.グローバル化と留学生          

【石川】少し話題を変えまして、例えばハーバードであるとか、スタンフォードであるとか、あるいは、EUが、外国留学生を採るという枠を非常に優先して、中国から200人毎年採るとか、そういうことをやっております。

 で、東南アジア、韓国、中国等が日本を飛び越えてアメリカへ留学するというようなことが現実に起こっておるわけですが、さっき学長が言われたように、神戸大学はサテライト構想を持っていろいろ出かけようとしてるんですけれども、現実面として、留学生の受け入れとか、あるいはアメリカが学生の確保のために中国に乗り出していってるというようなことに関して、何かご意見ございますでしょうか。

【江崎】今、留学生というのは一応希望者があれば制限なしに受け入れはできるんですか。

【石川】定員の中ではね。

【江崎】神戸大学では、何人の留学生がいるのですか。

【石川】院生も含めて800人くらいでしょうか。

【野上】倍増することもできます。

【江崎】ただ、それだけ倍増しようとしてもこないわけでしょ。

【石川】一応努力はしております。

【江崎】なぜこないかというと、いろいろ理由あるんでしょうけど、やはり、何か文系の方はね、日本ではなかなか博士号取ろうと思っても若い人に出さないとかですね、教授の方々も。医学系なんかはもう業績で出すんでしょうけど。

【石川】いえ、今、それはありません。

【江崎】そういうのがあれば、日本の制度の問題になるのかもわかりませんが。よく関西でもね、留学生がこない、素通りすると。昔は例えば東南アジアから来ててもですね、最近こないとか、そんな話が何か大阪の経済界で話題になります。

 しかし、いくらいい施設をつくってもね、お金出しても、そこで遊びにくる人はくるでしょうけどもね、勉強するためにこないのであれば。じゃあ一体神戸大学にきて、何が勉強できるのかと。それなりのレベルというのがありますから、これは。だから、誘致というんですか、招致もやらなあかんでしょうけど。

【野上】これをちょっと見ていただきたいんですが、留学生、5年ごとです。で、これが1977年のレベルですね。これが今年の5月のレベルです。ここ、かなり、800近くにずっと上がってきてるわけです。

 大学院の方は確実に上がってきてます、神戸大学の場合は確実に上がってきてる。ですから、これを着実にやっていけばというふうに思ってるんですが。

【江崎】何か手を打たないと、減っていくということがあるんですか。そういう危機感があるわけですか。

【石川】いや、そういうことではなくてですね。国際的に通用する大学としてですね、やはり多くの国から留学生を受け入れたいという。

【野上】海外からきている留学生たちと一緒に学ぶことで、いわゆる大学で学ぶということの基本的な意味を考えなおす、ある程度の学生数、例えば1クラスの3割が留学生であるといった状況によって生まれる効果というものを期待したいというのがあるわけなんです。

【江崎】日本の学生が英語をできないと、そういうこともね。

【土橋】語学力の問題です。

【江崎】語学でしょうね。

【土橋】アジアでは語学をやるなら日本語より英語だという風潮が一般的でしょうね。そして留学するならアメリカだと・・・。

【江崎】論文でも日本語でないとだめなんでしょ、今、留学生は。

【宮下】いえ、そうではないです。試験も英語でやっていますし。留学生間ではもう英語でペラペラやってます。初めて日本にきた学生というのは日本語使わないですから、その彼女、彼のために、他の方はみんな流暢に英語で。ただ、同時に日本語能力試験というのがあって、それの1級ぐらいを通っておるというのが受験資格になっています。

【江崎】それ、やめれば。

【宮下】そうですね、だから、日本語なしできたらよろしいというのではありませんので、そこのところがどうしても、その辺、制約ですね。日本語というのはね。

【土橋】卒業して就職ということになると、日本の場合そこから先はかなり厳しい。

【笹山】行けない。

【土橋】アメリカの方がかなりチャンスも多いため、いい学生はアメリカへ流れるのではないでしょうか。

【笹山】そうかもしれませんね。

【土橋】残念ながら中国でもよく出来る学生はアメリカ志向だと聞いていますが・・・。

【江崎】それら卒業した後の就職先も、日本の企業ではやっぱりなかなか、難しいからですかね。

【石川】英語をしゃべれないというのが、やっぱり致命的なんですよね。

【笹山】だから、やっぱりそういった資格が取りにくいということと、それから、高いですわな。生活費が高いですから。神戸市は奨学金ずっと出してますけどね。そのかわりに、最近、特に中国はですね、卒業してすぐ中国に帰ったらいかんというのやり始めたんです。2、3年はね、神戸なら神戸で、あるいは関西で仕事をしなさいと、そのための制度をつくると、こういうことで今やっているのですが。

 そういうことで、特に中国については、いろんな市、政府の事務所をですね、こっちへきてくれと言っており、現在9都市が来てくれています。今年中には13都市ぐらいになります。いろんな勉強、あるいは経済、商業関係ですね、そういったひとつのジョイントとしてですね、それを活用する。また、帰ったらですね、それを、ここを利用してくださいよと、そのかわり、神戸では天津とか南京とかですね、武漢とか、あるいは上海にはそういった交流の場所をつくってるわけです。ですから、そういうことが自由にできる大学ができて、うまくいけばいいんですけど。やっぱり文部科学省はうるさいですから、ちゃんと別システムをつくってね、そこを大学も使うし、一般の企業の方々も使う、公共団体も使うと、こういうシステムをつくらないと難しいですね。

【新野】留学生の問題ではね、ご承知のように、文部科学省でも外国人留学生の受け入れ体制をもう少し強化しようではないかというお話をしていましたが、実は神戸大学が中心になりまして、兵庫県外国人留学生交流推進会議を全国で最初につくりました。それで文部省だけでなく、外務省等々でも高い評価をしてくれたのですが、それに対応して、県と市でも留学生の受け入れの奨学金制度や住居まで確保してもらったのです。

 留学生については2つの観点があると思うんです。1つは、留学生を受け入れようとする側の経済政策の1つとして、受け入れ体制を強化しようというのがありますね。たくさんの奨学生を受け入れたら、それぞれの国が自分のところの奨学金を出しますから、いろんな経済的な、及び学術面でのプラスを引き出すことができます。留学生がたくさんくることで、先ほど野上学長もおっしゃっていましたけれども、学術面では非常に刺激があります。留学生自身がたくさん集まると、自分の国の学生も刺激を受けて、勉学意識が高まっていく。それから、研究者も一緒に呼ぶようにすると、そうすると学問領域全体でレベルアップができる。

 こういうことを考えるとね、留学生をできるだけたくさん受け入れて、世界の各国に自分たちの考え方を理解してくれる人々をつくりだしていこうと、あるいは学問をリードできる人々をつくりだしていこうというねらいもあるわけです。だとすると、国際的な学生が集まってくるような大学にどうしてできるかということを工夫していくというのは、非常に大事な意味を持っていると思うんです。そういう意味で、ひとつの拠点としてお考えになるのはいいんじゃないかと思うんです。

【野上】パリ商工会議所が持ってるMBAコースに注目しています。あそこは、パリだけでMBAやっても、国際的に通用する人は育たないというので、パリとそれから、ドイツのフランクフルトだったかな、そこと、イギリスのケンブリッジですね、3カ国の都市に自分のMBAの拠点を置いた。そこに入った学生は必ず3カ国に行って、現地でフィールドワークをやる、ケーススタディをやる、というものです。そうしないと、パリだけでやっていたのでは国際的に通用しない。神戸大学のMBAが、将来的には、海外に拠点をつくるというのは状況をもたらしたい。最初は自前ではできなくても、提携大学との中でそういうことをやっていく中でですね、本当に国際的なレベルでのMBAの学生が育っていくようなこともきちんと考えていかないと、太刀打ちできないのではないかということを考えています。将来的にはそういうことができるように、宮下先生にお願いしようかなと思って。

【宮下】ちょっと今の学長の話とは完全にはかみ合わないですけど、コブレンツの方に、経営大学院という著名な大学があり、共同研究をしております。そこではドイツ語で授業をやっているのですけれども、半年間の海外のインターンシップというのを設けおりまして、そのときに、必ずドイツ語圏以外の、英語あるいは日本語等、第二語学を完璧にマスターしろと、そういうのがひとつついているのです。

 そういうことで、経営学部には3人ぐらい、毎年ですね、そこからやってきておりまして、そういう交流は続いておるわけなんです。ですから、これは別に国際拠点はあちらこちらにというわけじゃありませんけれども、海外でもそういうことをやっておりますので、日本の学生もやはり提携校を拠点にして、いろいろな研究を海外でやって、単位を取ってくることをもっと進めたらいいんじゃないかなと。それが国際交流の、今のひとつの大きなねらいになっておりまして、そのためには募金を海外に行くときの奨学金的に使おうと、こういうねらいになっております。

 現実的には、我々の方の経営学研究科の方でも、ビジネススクールの学生を中心に年に4、5人は、アメリカなどに留学して、なかなかいい成績で帰ってきております。

6.未来への展望                 

【石川】お話中でございますが、予定いたしました時刻が近づいてまいりましたので、神戸大学が研究教育を含めて、今後どのような大学になることが期待できるかということを、最後のテーマにいたしたいと思うんですけれども。

【土橋】極端な言い方をすると、国が余程頭を切り換えないと、個々の国立大学に個性や特色を求めるのは無理ではないかと思っております。特に総合大学においては難しいのではないでしょうか。しかし、一面では独立行政法人という大学始まって以来の制度変更を大きなチャンスと して捉えることも必要かもしれません。そのためにも、この座談会の冒頭に申し上げましたように、大学の教職員が一致協力して、新しい制度の下での新しい大学の形を作り上げてもらいたいと念じております。

 私のようにテニスコートで4年間の大半を過ごした人間が言うのはたいへんおこがましいのですが、学内に割いた時間は少なくとも実に豊かな空間を大学から与えられたと感謝しております。現状からかなり手狭になったとはいえ、神戸大学は素晴らしい立地に恵まれています。物理的には限られた空間であると思いますが、学生諸君がこの空間を上手く利用するならば、そこから大学としての個性が生まれてくると思います。

 先程、留学生の話がありましたが、神戸という立地を生かして東南アジアへの国際協力ということに、より視点を置けば、自ら新しい特色が生まれてくるのではないかと考えております。

【江崎】今、お話をお聞きしますと、やはり文部科学省との関係、文部科学省の考え方が変わらないとということになりますね。我々の業界でも農水省とか厚生労働省ですけども、もう毎日毎日いろんなところで不満だらけでもあるし、また、逆に、農水省のいろんなことで、仕事もできるというのもあるんですけどね。日本全体にやはり何か官僚統制みたいなね、それを変えていくのに、やはり大学の先生が、もっと危機感をもたないとね。企業でもそうなんですけど、危機感持て言うても、なかなか温度差があるんですね。恐らく先生方は、学長という立場になると、もう当然危機感以上のものがあるでしょうが、一般の先生方はですね、そんなこと全然関係ないという方もたくさんいらっしゃいますわね。

 だから、本当に日本を変える教育をしようと思えば、幾ら民間でお金集めても、私は意味ないと思うんですね。もう今、関経連との統合とかいろいろ出てますけどね、もっともっと経済界もそういう意味では、いろんなこと、行政に対してやらないけないのでしょうけども。大学も、もっとアピールするということですね。マスメディアをやっぱり使わないけないというようなこともあるでしょうし。

 じゃあ神戸大学をどうするのかと。これは、やはり、差別化ということになりますね。今の日本の大学のマイナスというのは、標準化された教育とかですね。だからもっともっと特殊な能力のある人間を育てるとかですね、あるいは英語とかですね。そうすると今度、中高から問題になってくると思うんですね。ですから、付属小学校、中学校はあるんですね。高校までつくれないですかね。小学校から一貫してやればもっと、少数の人間でもできることになるんじゃないかと思いますので。

【笹山】神戸の大学に行けば、経済学部やったら経済、あるいは工学部やったら工学、それぞれですね、特色があるんですけれども、それを生かしてないんではないかと、こう思いますね。

 特に、震災前からそうですけども、特に世界の港町の人たちは、神戸という港町を知ってるわけですね。そして、今回の震災でアフリカの人まで今は知っている。こういう時代になってきております。だから、学生として、また、商売でこられる方もです、神戸へ行けば勉強ができる、商売になると、こういうような町というのをねらって、そういったPRも必要かなと、私は思っているんです。

    商船大学の件でもそうなんですけれども、少なくともアジアの人たちは商船大学の価値というのを十分認めておるわけですね。そういう意味では、神戸はそういった人材養成の場所になるのではないかなと思います。また、医学関係もポートアイランド2期に集中しますので、人材養成のためのトレーニングセンターをつくるなどですね、いろんな部門のセンターがあれば、非常にいいなと思います。神戸大学の先生方にそれの指導に参加してもらう。神戸大学ではこういうふうなことができるんですよと、こう言えば、私は、大抵の方はそうかそうかと言うてくれると思うんですね。

    そういったことを、今後、目指していったら、神戸全体、また、関西全体にわたっての大きな力になり得ると、私は思っているんですけどね。

【石川】それでは、新野先生、まとめとして、神戸大学の今後の姿、あるべき姿というものについて。

【新野】端的に1つだけ申し上げるという形ではお話しできないと思いますけど。私、たまたま大学に長いことお世話になっておりまして、大学教育研究センターをつくったり、それから、教養部の形を変えていく、教育学部を発達科学部に変更してもらうというようなことの下準備だけはさせていただきました。

 設置基準改正の本当のねらいは、今まで教養部の本来のあり方が生かされてない、形式的なものに終わってしまってるので、本当に各学部の人間づくりに役立つような形で一般教育、あるいはリベラルエデュケーションというのを生かせるシステムをつくったらどうかということでした。しかし、実際は、教養課程、あるいは一般教育、あるいは、英語で言うと、リベラルエデュケーションを放擲する方向に、本来の意図とは違って、進んでしまいました。そのことの反省というのを、痛烈にしているわけです。

 大学教育研究センターをつくる時、当時の文部省でお話をしましたのは、教養部の教育を本当に充実させていくような仕事をできる場所にすると同時に、ファカルティデベロップメントの出来る場所が必要だということでした。我々は、小中高の先生方と違って、教育をやろうと思ったらどういうことに注意をしなくちゃいけないか、教育技術はどうしなくちゃいけないかというようなことについて、何の教育も受けずに大学の先生になってしまってるわけです。そういう授業の仕方では、先ほどの進学率の変化もありまして、これからはいけないのではないか。だとすると、どういう教育のあり方を考えたらいいかということを考えるような仕組みにしたいというふうに言っていたのです。それが事実上なくなってしまっていますが、大学教育研究センターを強化して、そして全学の教育体制を強めていく形にして、先ほどのハーバードのファカルティ・オブ・アート&サイエンスのような格好のものが、神戸大学にできるといい。各学部でそれが大事で、本当のスクールを持ち高度な専門職業人をつくろうと思ったら、それがないとだめなんだということを自覚した教養、一般教育の振興が各学部でやられるようになると、私は神戸大学の特徴の1つが出てくるんじゃないかと思ってます。

 経済学部で、カナダから見えましたある先生が中心になりまして、特別授業を3年生のときからやってみると、今、各大学の大学院にも進学している学生もあるようです。将来どこの大学院に行ってもトップレベルの神戸大学の卒業生というのが出てくるわけです。神戸大学に残ってるのもいますけども、こういうのを各学部で養成してもらうというようにしたら、卒業してからも若いときの感激を与えてくれた大学を支えていこうということになる。

 そういうことをバックにして、ロースクールだとかビジネススクールだとか、それから、エンジニアリングや、メディカルの分野でも、高度な職業人をつくるシステムをつくっていただくと、どこの大学院を出ても、この神戸大学の教育を受けたために私はこうなれたというように思える学生づくりができるのではないかと思います。

 それと、もう1つは、世界中の学生が一遍にはとてもだめですけれども、日本で勉強するとしたら、神戸大学に行こうと思えるような大学になる。その点神戸大学は、土地柄と雰囲気だけは、ダニエル・ベルというアメリカの社会学者が言うように、世界中でも美しい街にあります。外国人留学生を大切にしようという雰囲気も豊かであると言ってよいと思います。しかし言うまでもなく問題は大学が持っている研究推進能力と教育です。私はこういう世界のどこにもないとうような土地柄を生かしてすべての学生が神戸大学に来て勉強して良かったと思える大学に発展していくことを願っています。

【石川】ありがとうございました。元気づけられました。長時間にわたりご討論いただきまして、まことにありがとうございました。

(出典 『六甲ひろば』神戸大学百周年記念号 2002〈平成14〉年)