新聞記事文庫 電気工業(10-110)
大阪朝日新聞 1923.3.20(大正12)


堅実に発達せる山陽中央水電株式会社

本社 岡山市天瀬弐拾五番地

事務所 大阪市東区北浜四丁目

出張所 兵庫県飾磨町清水

出張所 兵庫県赤穂町加里屋

出張所 岡山県上道郡西大寺町


沿革

同社はもと両備水電株式会社と称し、大正八年七月資本金三百五十万円を以て設立し、広島県下より岡山県に流下する帝釈、東城の両川に二箇の発電設備を建設し、両備並に西播地方に電力を販売するを以て目的としたが、大正十年二月十一日播磨水力電気株式会社(明治四十三年創立爾来良好なる成績を以て発展し来りしもの)と合併して、資本金四百二十五万円と、播州産業中心の殆ど全部を占むる広大なる供給区域を増加し、次で大正十一年三月六日、赤穂電灯株式会社、西大寺電灯株式会社、牛窓電気株式会社の三社を合併して新勢力を増加し、会社内部の整備と共に一段の強固なる地盤を築くに至った。今や資本金八百四十五万円(払込六百七十六万九千円)の大会社となり中国地方電気事業者中の精鋭として将来大に嘱目さるるに至った。
而して現在同社の経営に当っている重役は左の諸氏である。
取締役社長 平賀敏
専務取締役 速水太郎
常務取締役 志津野直文
取締役 井上周
同 清水栄次郎
同 南郷三郎
同 木原通一
同 奥藤研造
監査役 伊藤長次郎
同 木間瀬策三
同 長尾佐助

優越せる地位

両備、播州地方は南に瀬戸内海を控え、阪神中央市場に隣接し、海陸の交通至便にして且地価低廉に労力豊富なるを以て、近年各種工業著しく勃興し、工業会社の新設及拡張の盛なるに従い工場を此の地方に設くるもの漸を趁うて増加するの傾向を示している。交通機関の発達と、都会に於ける地価の騰貴と、労力の欠乏とが工業の地方的分散を促進するに至るは必然的趨勢と云うべく、之が発達には一に低廉なる動力の供給に竢たなければならぬ。同社は此の要求に応ずべく生まれたもので、其の地理的特異の優越点は創業以来順調なる発展を続け、他の同業会社中一頭地を抜くの好成績を収め得た所以である。

発電設備

現在の発電設備は左の如くである

[図表(飾磨発電所(兵庫県飾磨港))あり 省略]

[図表(寺前発電所(兵庫県神崎郡))あり 省略]

[図表(帝釈川発電所(広島県神石郡))あり 省略]

同社が最も強みとする所は前記の如く水力、火力両様の設備を完成して居る点で、両者相竢って長短相補い調節統一を保って行くことが有利且安全であることは同業者間の等しく認めるところである。
飾磨発電所は飾磨築港の海岸に建設せられたもので石炭運搬には頗る便利な地位を占めて居る。今や炭価は世界的下落を告げて居る際であるから一層生産原価の低廉を見ることを得べく甚だ有利の状態に置かれて居る。
帝釈川発電所は広島鳥取両県の分水嶺に発し東流して岡山県の西部を貫き児島半島の西に於て海に注げる高梁川の上流、帝釈、東城の両川の水力を利用して発電するものである。水力電気事業の第一要件は豊富なる水量にあることは勿論、従って使用すべき河川流量の測定は最も精密でなければならぬ、同社の発起人は大正五年八月以降帝釈川筋田川瀬に量水標を設け、毎日一回水位を観測し且随時河底断面の変化を調査し以て流量の実測を継続し来り、殊に大正六年十一月より大正七年二月に亙る九旬を通じて一滴の降雨なく我国稀有の大渇水を来し、各地の水力電気孰れも発電量著るしく減退して重要者に多大の不便を与えた此期間に於ける両川の最大渇水量を以て起業計画の基礎としたものであるから最も安定的なる工事設計と云うべきである。
第一発電所は帝釈川に依り広島県神石郡新坂村大字新免に設け、出力四千キロワットで既に竣成を告げている。第二発電所は其下流三里半の地点に於て東城川に依り岡山県川上郡平川村字法谷に設くるもので出力六千キロワット、目下工事中である。
又同社は渇水時に於ける対策として発電所附近に一大貯水設備を施して居る。渇水時期は一箇年を通じて僅かに数旬に過ぎないから、其他の時期に於ける豊富なる流量を貯溜し置き、以て常に最大の水量を利用し得るよう調節すべく、第一発電所建設地点の上流にある渓谷を利用し、石造堰堤を以て之に締切工事を施して貯水池を建造し、此の貯水池より適宜水量を補給し、以て帝釈川に於て常時不断の水量を利用するの資に供している。貯水池は百六十尺の堰堤を作り面積五十町歩、優に四億八千万箇の水量を包蔵している。

営業成績

供給区域は東は兵庫県明石より海岸線に沿いて岡山県に達し、更に備中、備後の各地に及び、又播備電気株式会社、備中電気株式会社三木電灯株式会社等へも送電を契約して居る。
現在の電気供給先には、大口として鐘淵紡績の五工場、三菱の鉱山製紙会社等七箇所へ一万二百二十五キロを、其他小口として五千六百馬力を供給し、電灯数は十一万八千灯に達している。
現在に於ては水力、火力ともに殆ど余力なき状態なるに一般の需用は益増加の傾向あるを以て鋭意工事の完成拡張に努力して居る。前述の如く同社は其の地理的関係に於て特に優越の地位を占むると経営者の周到なる用意及び経営宜敷を得たるとの為め創立以来順調なる発展を遂げ次第に大をなして強固なる地盤を築き上げたもので、前期の如きも払込資本金六百七十万九千八十七円に対して四十七万九千余円の利益金を挙げ、年一割の配当を継続せるを見ても其の内容如何を窺うことが出来る。更に水力第二発電所の工事完成した暁には又一段の進展を見ることであろう。

[図表(山陽中央水電送電線路図)あり 省略]



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