新聞記事文庫 建築業(2-076)
大阪朝日新聞 1931.10.26(昭和6)


秋空にそそり立つ銀と玻璃の十層楼 朝日ビル竣成

きのう厳かな奉告祭 堂島川畔に新しき景観


大阪北区中之島三丁目堂島川畔渡辺橋南詰に昨年一月十一日起工以来一年十ヶ月にわたり竹中工務店によって建設中の本社創設五十数年記念事業の一つ株式会社朝日ビルディング新築工事はこのほど完成二十五日午前十時半から竣工奉告祭が挙行された、この日ビル屋上奉告祭場には清浄なる天幕を張り□らし祭壇を設け午前十時村山朝日ビル社長、本社側上野取締役会長、小西専務、辰井取締役その他、工事関係者竹中工務店側から竹中藤右衛門、山脇友三郎、石川純一郎、滝邦一諸氏ほか本社員工事関係者五百余人の着席を待って斎主御□神社社司ほか祭員一同着席、修祓、降神、駄饌の前儀おごそかに済んでのち祝詞を言上、斎主はじめ参拝者一同玉串を捧げ、終ってから撤饌、午前十一時退下したなお今二十六日は午前、午後の二回本社機を飛ばし午前九時より十一時半までと正午より午後五時までの二回にわたり京阪神における官界民間の知名の士約七千人を招待する

健全・明朗の建築 屋上に輝やく「空の灯台」

朝日ビルの概要は建坪三百九十三つぼ、延坪四千四百二十一坪、地上十階、地下二階、軒高百十七尺、標識塔竿頂まで二百四十二尺、鉄骨鉄筋コンクリートの外装をビル建築材料として日本最初の試みになるニッケル・クローム鋼と軽合金属と耐火グラスによって装填され、秋空に銀と玻璃との諧調燐然としてそそり立つ景観は、西部日本の新文化中枢地帯に一つの擢んでた偉彩を添えるもので、設計者石川純一郎氏は半歳余にわたり独、墺、和諸国の新建築巡礼を続けたほどである、その内容は屋上航空標識塔から地階機械室に至るまで、健全にして明朗、しかも近代生活の頂角をゆく設備によって満たされている

屋上

夕闇せまるころから赤、緑、白の三色、三千ワットの大光芒が夜間航空標識として「空の灯台」の機能を発揮しつつあることはすでに近畿各地の人々の実見したところであるがさらに屋上露台には百三十坪のスケート・リンクを開設

十階

——アラスカ食堂はヴァイタ・ランプによって紫外線を放射して、屋内の植込みを野外と同様の健康状態に育てこれに対して本みやけの和食堂は旧上方情調たっぷりの数寄屋づくり独特の寂びを持っている

九階

——をはじめ八、七、六、五(一部)、四、三の各階は貸事務室である。各室とも窓は二重硝子とし、外硝子はプロテックス・グラス(耐火硝子)で譟音と戸外の寒暑熱から完全に絶縁し、室内の騒音も自然に吸収される新設備だ、現在貸事務室居住者は中之島洋画研究所のほか
 ライジングサン石油会社、加奈陀サン生命保険、日本コーンプロダクツ、竹中工務店、シンガーミシン大阪中央店、石本、平賀建築事務所、橋本建築事務所、岩城商科医院、大阪赤貝揮発油発売所、西本組大阪支店、長栄商会、金田写真館、河瀬魁商会、巽商事、高砂煖房工事、マンネスマン会社日本事務所、建材社大阪支店、藤野隆三本店、小松製作所、萩原製作所、阪井理髪店、協調会大阪支所、木村法律事務所、角、沖両法律事務所、美術新論社画廊等

五階

——にはこのビル居住者のために設けられた朝日ビルクラブ(A・B・C)とその集会室の調度は玉□、黒胡桃、縞黒檀練り合せで日本木工業技術の最頂点を示す製作と木工業者間に定評がある、これに続く同階西側は朝日会館パーラーでこれまた富士テックス白聖天井、チータ練合せ調度、ボックス型化粧張り照明、ダンロップ・ゴムシートフローアという豪華づくりで朝日会館公演場東正面と連絡している、今後会館公演場への入場者はいずれも朝日ビルから出入することとなり、パーラー内には□洒なソーダ・ファウイテインや売店もある

二階

——は全部専門大店陳列即売場で京阪神八十軒の老舗の出張所から成り、陳列場には優良品と粗悪品との比較陳列、お買物相談部等がある

一階

——正面は最も華やかなビルのプロフィルで七十余坪の大玻璃窓の中は□塚植物園、朝日ビル喫茶店、銀座千疋屋支店、プレイガイドの四軒から成る大阪初めての綜合商店で、エレヴェーター乗場には全世界大都市の現在の秒刻がすべて一目でわかる大きな世界時計が眼を惹き、その奥の朝日ビル郵便局では電報を川向うの中央電信局までにゅーまてぃっく・チューブによって即座に送る、同階の本社営業局は紙型応用の壁張りと凸版応用の取引台にジャーナリスティック・オフィスの尖鋭な感覚を表現している

第一地階

——の大衆食堂と朝日新聞社員食堂は舗道に数千の穴を穿って分厚デッキグラスをはめこみ、外光を取入れ地階の陰鬱さを脱却している

第二地階

——の機械室はボイラー全部を重油燃料とも、夏季は二百五十馬力の冷凍機二台を据え朝夕間断なく華氏七十度の涼風を各階に送り、遠方制禦装置ではスイッチ一つで各室の温度、湿度を調整し、強力なオゾーン発生機を二六時中動かしている


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