新聞記事文庫 雑工業(4-040)
神戸又新日報 1934.4.28(昭和9)


インフレに躍り出た新興事業の再検討

鉄管に代るもの

伊太利で発達の新興製品エタニットパイプ


(7) 鉄管に代るもの

伊太利で発達の新興製品 エタニットパイプ

略称エタパイで通っているエタニットパイプは、これが独占的製造会社である
日本エタニットパイプ会社の株価が、一部策動方面の買煽りた空売筋の踏み上げで、東西市場の人気を煽り、十二円五十銭払い込みの同社新株は、大阪市場の如き一事百円搦みという爆発高を演じたものだ
かくてこれまで殆どその名も知られなかった同社株は、一躍花形株として投機市場を賑わし新興事業中の一大異彩を放ったのである、尤もこの異常に吊上げた相場は、忽ち没落を演じて、人気は次第に冷却したが、それでも同新株は六十円台の好値を保持している有様であり、而も同事業の将来を考慮せば、単に非常時の生んだ一時的新興事業だとして葬り去ることを許さない特殊性を持っているようだ
一体エタニットパイプとは、どんなもんであるか、新興製品だけに余り多く知られてないようだから一応説明を加える必要がある
エタニットパイプとは恒久性の管なる原語から附せられた名で、伊太利人アドルホ・マッザー氏の発明に係るものだ、その製法は、原料にポートランドセメントと石綿繊維とを用い、これ等に適量の水を混合して糊状となし、これを薄層として所要の径の軸に巻付けつつ、絶えず圧力を加えて製出するのだがその品質は頗る強靭で、管体に気泡、偏肉等もなく、密度緊緻で、永久不変の管なので、その名に恥じないものだそうだ、その製法は伊太利エタニット会社の特許に掛っている、即ち右の発明は可なり古い歴史を有するが、一九一三年伊太利カレーザ市で試験試作を為し、一九一六年始めて製品として市場に現われたのだ、当初は専ら水道用として使用されたのだがその後これが経済的利益を材質の不恒久変性なること軽重なる等が一般に知られて、その需要は急激に膨脹市、従来の鋳鉄管や鋼鉄管に代って、上下水道は勿論、温泉ガス、送風、蒸気、送油その他各種工業用の導管として使用されるに至った、このため伊太利では従来の鉄管は殆ど駆逐されて鉄管会社は大部分倒産してしまったとのことだ、この好成績に鑑み製造機械に改良を加え、世界主要工業国三十二箇国の特許権を獲得し、我が日本においては大正十年及大正十四年それぞれこれを獲得したのだ
以上の如くエタパイはファッショの国イタリーで発達し、スペイン、フランス、ドイツの順で行われ、英国では一九二八年、米国では一九三〇年それぞれ分権製造を開始したのである、日本では昭和六年これが特許権を買収し、同年二月前記日本エタニットパイプ会社が生れたのだ、この特許権買収金は六十五万円で内九万円を現金で支払い、残金は売上げの三パーセント宛を充当支払うとの契約であり、この特許製法に、日本独特の工風と研究とを重ねて、東京芝浦に工場を建設、昭和七年下期から製品を市場に供給するに至ったものであり、日本としては、全くの新興製品だ、このエタパイの長所は、前にも述べたが、従前の鋳鉄管や鋼鉄管に比べて軽重であり、かつ値段が低廉であることと電接、腐蝕等の懸念がないことだ
そして相当の高圧力にも堪え得るので、小規模な水下管や電纜管、瓦斯管、送湯管には最も適応した製品だ、殊に値段が鋳鉄管などに比べ三割近くも安くかつ軽重で運搬並に取付工事の容易な点に於いて、その使用価値が普及されて来ると事業そのものとしても将来非常に進展性のあるものだ(この稿続く)
エタニットパイプは前述の通り発祥地イタリーで発達し欧米諸国に漸次普及わが日本においては、昭和六年、日本エタニットパイプ会社が設立されてから、水道、瓦斯管その他各種用管として、従来の鋳鉄管や鋼鉄管に代って用途を開拓した全くの新興製品だ
その製法は現在のところ日本エタニットパイプ会社の独占するところであり、かつこれが製品は、本場イタリーの製法に更に一工風を凝らしていると原料セメントの良質であることなども関係してか、伊太利製品に優るとも劣らぬ優良品を提供しているので一度びこれが市場に紹介されるや斯界へ一大センセーションを巻き起したものだ、殊にこれが企業的経営においては最近一両年来、従前の鋳鉄管や鋼鉄管が原料鉄材の暴騰と共に、著しく騰貴したので、これが代用としてエタパイの需要を激増した、この結果、同社は、その創業当初においては、製品そのものが一般に知られなかった関係もあり、金融その他の点で、並々ならぬ苦労を感じたものだが爾来これが普及されるに従って全く註文に追われ通しという有様で、製品販売には何等苦痛を感ぜざるのみならず、製品の独占的なものだけに、会社側の利益も莫大なものがある、業績は予想以上に順調を示し、新興事業中での花形たるを失わなかったのである
即ち当社は昭和六年二月の創立に係り、七年下期から製品を供給したのだが、会社設立後、早くも昭和六年下期には四十万円に増資し更に八年下期には五百万円に増資して現在払込資本百五十五万円の新進気鋭の会社だ、営業開始以来一割二分配当を踏襲するという好成績を収めている、試みに最近三期間の成績を見れば左の表の通り(単位千円)

[図表あり(◇最近三期間の成績 一、収入の部) 省略]


[図表あり(◇最近三期間の成績 一、支出の部) 省略]

即ち配当開始の七年下期には利益金四万三千円、利益率二割一分六厘、八年下期には増資後の払込資本膨脹にも拘らず利益率二割一分八厘という好成績であったことを知ると同時に、一割二分配当の踏襲は必ずしも配当偏重に失した無理な決算でもないかくて当社は新興事業中でもその独占的利益を満喫し、かつ財政インフレ、軍需インフレの恩恵を直接間接被って、まことに驚異的飛躍の第一歩を踏み出したのだ(この稿続く)
日本エタニットパイプ会社は既述の通り伊太利の特許権を買収獲得して、先ず東京芝浦に約二千三百坪の工場敷地を設けて、製造開始したが、その後間もなく埼玉県大宮に約八千坪の敷地を選定した
後者の大宮工場は昨年十月完成した新工場で、製管設備は、両工場とも各二台、合計四台であるが、その生産能力は大体四インチパイプに換算して、一台が日産約六百八十本で、これを販売価格にすると、一台当り一箇月五万円前後だとのことだ、当社は昭和八年下期決算において芝浦港場二台の生産力で、五十五万余円の売上高を示し十六万八千余円の利益を挙げたが、更に本年上期は大体冬期の不需要期にも拘らず、予想外に需要が多く、その売上高は、大約百万円を下らない模様である
その収益率を前期と同率の約三割とせば今期利益は約三十万円を下らない訳だ
払込資本金百五十五万円に対し三割八分強の利益率に代る素晴らしさである、それで今期配当はやれば可なりの増配も出来るが、会社当事者の意向は大体前期の一割二分に対し三分増配の一割五分配当とするようである以上の通り当社は営業開始以来、頗る順調な成績を収め、しかも一方製品需要は、その優良なることが漸次一般に普及されると共に、ますます拡大の趨勢にあるので、更に一大増産計画を立てた、即ち第二次拡張計画として屋島(四国高松)へ敷地二万坪を買収して、第三製管工場を増設すると共に適当の地を卜し自家用のセメント工場を建設する予定でこれがため中国地方の某セメント山の買収交渉を集めている
四国屋島工場は既に着工して、本年七、八月ごろから操業を開始するが同工場の設備は製管機械二台で、工事費四十五万円を投ずる理想的工場だ、この三工場がフルに運転を開始すれば原料たるセメントの一箇年消費量は優に二十万樽に上る、現在セメントは小野田、宇部の両社から主として購入しているが、この自家用セメントの製造を開始することになれば、一段とその強味を増し、会社収益率の増大が計れる、このセメント工場は約百万円を要する見込みなので、これが資金調達のため、増資計画が進められている増資方法は現在未払込三百四十五万円をそのままとし、新たに七百万円の第二エタパイ会社を新設する変態増資となすことになっている
かくて三年前には僅か三十万円の小会社も茲に一挙一千二百万円と大会社とはいえないが、兎に角相当の会社に成り上る訳だ、而も増資後の収益状況については、現状を以てする限り一割五分配当の踏襲には何等支障を来すまいという頗る有利の事業であり、しかもその独占的性質を保持する点においては一時株式界の花形株として熱狂的人気を呼んだ所以であろう、しかして同社株価は、一時の腕力相場否な空売筋の踏み上げが作用して、十二円五十銭払込みの新株百円台に乗せたもの目下六十円搦みにあるが、増配増資の将来性ある当社の現状から見てこの辺の値段は投資価値を充分に保持しているようだから今後も新興株としての当社の存在は依然注目さるべきであろう(この項終り)


データ作成:2004.3 神戸大学附属図書館