新聞記事文庫 雑工業(4-114)
時事新報 1935.5.16(昭和10)


理研で画期的な新録音法発明

これでトーキーも雑音が減る

渡辺俊平氏の苦心完成


理化学研究所大河内研究室助手渡辺俊平氏の苦心によってトーキーに関する面白い発明が完成されようとしている
即ち発声映画にはスクリーンから出て来る声の背後に雨のような耳ざわりな雑音を伴うがこの雑音をなくすることは従来殆ど至難事とされていた、然るに今から二年前、渡辺氏が理化学研究所で電気に関する或る特殊の研究中に、『X線によってもトーキーの録音が出来るものだ』と云うことを偶然に思い付き其の後研究を重ねその結果を、種々の機会に発表もしたが、当時は未だ一向問題にされなかったものである、然るに一年程前、理化学研究所のドイツから帰って来た人がドイツの或る有名なトーキー研究所で製作されたフィルムの一片を持って来て渡辺氏に見せたので渡辺氏はそれを顕微鏡にかけて見たところそのフィルムは渡辺氏研究中の『X線による録音方法』に近似し在来わが国に行われていた濃淡型フィルムと面積型フィルムの長所を取り入れたものであった、渡辺氏の発明にかかる多面積型フィルムも亦在来の濃淡型と面積型との長所を兼ね備えたもので一口に云えば雑音を少くすることが出来る外に

一、フィルムの現象焼付けが楽なこと
一、高い音に歪が少いこと
一、音量を充分入れることが出来ること
一、フィルムに縦きずが出来た時に有利なこと

等の利益をも備えているこの多面積型フィルムは写真で見る如く、十数本の音の流れが平行に並んでいて、要するに面積型フィルムの集りである、この発明はまだ誕生したばかりで日本の発声映画会社では実施されて居ない、而して諸外国でこの種の発明が行われて居るかどうかと云うに、この点に関する渡辺氏の説明に依れば最近日本に輸入された英国ゴーモンブリティッシュ発声映画会社の超特作『朱金昭』の録音は二本の音の流のフィルムであった、だから私の発明したものを多面積型フィルムとすれば、朱金昭のフィルムは複面積型フィルムとでも云うことが出来る、斯んな様子だから英国やドイツでは相当研究が進められて居るのではないかと思う
と近頃、日本の各発声映画会社では競って種々な立場から録音方法の研究をすすめている、例えば音の遠近を明瞭に出そうとしたり音の立体化等を考究したりしているが、理化学研究所の渡辺氏の発明はこれ等の大きな目標に通ずる基本的な発明であると云える
尚お、渡辺氏はこの発明を本年四月から五月二日まで上野公園で開かれた、精密機械展覧会に於て十七ミリ半のフィルムで実験したことがある、而してこの多面積型フィルムの特許は機械の方面、考案の方面等、数種に分れ次々に出願して居る為め、既に特許を得た部分もあるが尚目下出願中のものもあるわけである

[写真(発明者 渡辺俊平氏)あり 省略]



[写真(陰極線オッシログラフ前の発明者とフィルムの音溝=上から濃淡型、面積型、多面積型)あり 省略]

工業メモ 録音

録音にもいろいろあるが、普通トーキー映画で云われている録音とは、音域は声の高低を電気仕掛けで、黒と白の濃淡の差に分けてフィルム上に現わすことで、濃淡型、面積型、多面積型等があり、そのフィルムに電光を通して、元の音域は声に化して一般観衆に供する訳である、また蓄音機のレコードに吹込むのも録音であり、録話器やティクターフォンに吹込むのも亦録音の一種である


データ作成:2004.3 神戸大学附属図書館