新聞記事文庫 鉄道(07-036)
大阪毎日新聞 1917.5.18(大正6)


吉会鉄道の急設

東満富源開発の動脈=急設の必要


南満、朝鮮両鉄道の併合経営に関しては其筋において着々調査を進め居るものの如し、両鉄道を合併したりとて、別段有り難き効果の現るべしとは思われざるも、従来の如く互に相牽制し、相競争するの弊害を除去するだけにても、其利益は少しというべからず。系統を一にし条理を整え、永遠の目的に向って秩序ある歩武を進むることは如何なる事業に対しても望ましき事なれども、特に我が対支外交において然るの望ましく、対満蒙経営に於て更に最も其望ましきを感ぜずんばあらず、満鉄が鮮鉄を併呑するの可否に付いては吾輩別に議論なきにあらざれども此意味において両者を合して一となし、系統ある経営策を進むることは決して失当の計画にはあらざるなり、朝鮮満蒙の富源開発、利権の扶植が交通機関の整備に待つの大なるは論なき処、今日は実に朝鮮及び満蒙に対して組織的の鉄道政策を樹立するの好機会にあらずや。吉長鉄道の改訂契約は、既に日支の商議纏まり、支那の国会を通過すると共に効力を生ずべく、一方四鄭鉄道の敷設計画も亦着々進行中にあり。最近我政府が、鄭家屯、開魯間百三十哩の新鉄道の投資権を支那政府に要求し、既に其承諾を得更に満蒙五鉄道の一たる開原、海竜城鉄道を朝陽鎮に延長せんとするの提議も、亦支那側の承認する処となりたりとの報あるは、日支国交上、満蒙開発上、頗る満足すべき事というべく、即ち吾輩は此機会において吉林、会寧線を急設して、朝鮮満洲を包括せる鉄道網を敷くを以て最も機宜を得たる策たるを認めずんばあらず。是れ単に日本の利益たるに止まらず満蒙を開発し其富源を増進せしむるにおいて支那のためにも亦実に多大の利益たるなり。
吉会鉄道は明治四十二年九月の日清協約によって日本が其投資権を獲得したるもの、同地方は交通甚だ不便にして民度未だ開けず、従って調査研究に幾多の困難あるは言う迄もなしと雖も、之を政策上より見るも、貿易上より見るも、日本が今日迄同鉄道の敷設計画に向って何等手を下す処なく単に之が放資権を得たるに満足し、積極的行動を取ることなかりしは吾輩の甚だ怪訝に堪えざる処なり、近頃、我政府は満蒙鮮の将来の関係に顧慮する処あり、一方満蒙富力増進の一手段として、比較的充実せる我資力を本鉄道建設のために投ずるは機宜の処置なりとの見地より、本鉄道敷設に関する計画を進め遠からず支那政府に向って交渉を開始すべしとの説あるは、遅しと雖も亦適切の処置たるを失わず、本鉄道は吉林において吉長鉄道と連絡し更に其終点たる会寧より南に延長して清津に達するにおいては海路遙に敦賀と相望み、東満の物資を此方面に吸収するを得べく、更に将来京元線を延長して清津に達せしむるに至らば、運輸交通上の利益挙げて数うべからざるものあらんとす、本線にして実現するに至らば吉長、南満両線と相待って満洲を鉄道網中に包括し四鄭、鄭開、鄭●の諸鉄道によりて東蒙の富源をも吸収するを得べきなり。民度の低き東満の土民が依りて被る利益の莫大なるは言う迄もなき処なり。
本鉄道が何れの地方を経由すべきか、未だ確定せる計画なるものなく、予定線として伝えらるるもの二線あれども吉林より長広財嶺山脈を越え、敦化の北方額木索を過ぎて牡丹江の平原に出で哈爾哈巴山脈を越えて間島の沃野を横ぎり局子街竜井村を経て会寧に達する一線を可なりとするものの如く、松花江の鉄橋架設、長広財嶺の横断等難工事少からず、従って全長約三百哩の全敷設費は或は多大に上るべしと雖も沿線地方には間島、及び牡丹江沿岸地方の沃野あり、天宝山の銀鉱其他の鉱山之れあるのみならず、日本が日支新条約によって採掘権を得たる夾皮溝の大金鉱の如きも亦本鉄道により開掘上多大の便利を得るに至るべし。要するに松花江牡丹江上流地方の無限の天富と間島の沃野とが、本鉄道の敷設によりて広く世界に運び出さるるの結果を来すものにして、長春より奉天、安東県、釜山を経て神戸に達する距離の千三百十哩なるに比し長春より吉林会寧を過ぎ海路敦賀に出で更に神戸に達する全長の九百六十余哩に過ぎざるの一事に見るも本鉄道が対満貿易上甚大の利益あるを推して知るべきなり。
本鉄道敷設の急要なること右の如し、加うるに日本は欧洲大戦以来、俄に輸出超過国となり経済力に十分の余裕を生じ、敷設費約三千万円の支出の如き甚だ易々たるものあるにおいてをや、明治四十二年九月の間島に関する日清協約において、支那政府は将来吉長線を延吉南境に延長し、朝鮮会寧に於て朝鮮鉄道と連絡すべく其一切の弁法は吉長鉄道と一律たるべしと規定しあり、即ち本線に関する契約締結当時は日本は投資権以外には甚だしき利権を有せざりしと雖も、今や吉長鉄道契約改訂に関する談判は既に終了し、唯国会の承認を待つの有様にして吉長鉄道に対する日本の関係は前来と同じからず、従って改訂されし吉長鉄道契約が其儘吉会線に応用さるるは勿論なるが吾輩は此に至りて吉長線改訂談判の効果が頗る不十分の点あるを遺憾とせずんばあらず、或は此際において吾政府は改めて吉会線の完全なる敷設権を要求するも亦妙なるやも知るべからず、斯くするは東満の民度を開発する所以にして支那のために謀りて忠なるものにあらずや、何れにせよ、吉会線敷設の急務たるは何人も異議なき処なるべし。



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