新聞記事文庫 鉄道(13-148)
万朝報 1919.11.7(大正8)


政友会と鉄道


政友会は一個の私党で有る、其の党勢を拡張するが為めには、如何なる奸悪手段を用うることをも□しない団体で有るが、原内閣成立以来、種々の怪聞が、頻々として各地に伝えられて居る、特に鉄道に関しては、最も甚だしく奇怪なる風説が、日本全国を通じて行われて居る
鉄道が国有となって以来、政友会は之を党勢拡張に利用せんことを企て、原氏が内務大臣となった時に、鉄道院総裁を兼任して、其の鉄道を党勢拡張に利用する悪手段の濫用を開始した、爾来政友会の政権を執る毎に、鉄道は其の党勢拡張の最大武器として濫用せられ、現内閣に於ても、床次内相が鉄道院総裁を兼任して、以て之を党勢拡張の武器として居る
或一地方に鉄道を敷設すべき二線が有って、それが競争線となって居る時は、政友会は直に其の地方の人民を説き、逸早く政友会に入党したる地方の一線を取って、速かに之に敷設することを決定するが、苟くも政友会に入党しない以上は、如何に良い線路でも如何に必要なる線路でも、断じて之を排斥して敷設しない、又若し両線共に政友会に入党しないならば、共に之を打ち捨て置き、幾年を経過しても、其の敷設を決しない
一地方が鉄道を得ると否とは、其の地方の盛衰に大関係を及ぼすから、唯其の鉄道を得んが為めに政友会へ入党する者が多い、而して若し其の競争線が、共に入党したる場合には、政友会本部へ寄附金の多寡に依って、其の採否が決定せられるのだ、未だ曾て其の線路の性質如何に依て決定せられたことは無い
今や日本全国には尚多くの未設線が残って居て、未だ鉄道を得ざる地方の人民が、鉄道を望むの情は、さながら大旱に雲霓を望むが如くで有る、而して政友会は地図を披いて、其の鉄道未敷設の地方は将来の政友会員を製造すべき地方として赤い筋を引いて居る、不幸なる鉄道未敷設地方の人民は、単に鉄道と云う好餌に釣られて、政友会の何者とも知らずして続々と入党しつつ有るのだ
既に鉄道の敷設されたる地方には、停車場増設の問題が有って、之れが政友会の党勢拡張に利用される、政友会に入党すれば、格別必要もない所へ、停車場が作られる、苟くも反対党の地盤で有る以上は、如何に必要なる所へも停車場を置かない、されば停車場を得て、其の地方の便利を望む者は、争うて政友会へ入党して居る
此の如く鉄道を党勢拡張に濫用する結果として、日本の鉄道は頗る乱脈になって居る、比較的に必要でない所に高い金をかけて敷設したり、必要なる線路の未だ敷設されない所も有り、比較的必要のない停車場が多くて、必要な地方に停車場が無い、折角の交通機関が十分に其の効用を尽し得ないのは、全く此の党勢拡張に濫用する結果、鉄道行政の根本が乱れて居るからで有る
今日の実際に於て□機関車も貨車も不足で貨物の停滞は甚だしいのだが、鉄道当局者の頭脳は、鉄道其の者の改良や、交通機関の整備に重きを措かずして、如何にして之を党勢拡張に利用すべき乎をのみ考えて居るのでは、我が鉄道の改善は得て期し難いと謂わなくてはならぬ、吾人は政友会の此の方面に於ける罪悪のみを以てするも、此の内閣は一日も其の位に在らしむべき者で無いと考える、国民は奮って此の腐敗せる原内閣を倒さなくてはならぬ



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