新聞記事文庫 交通(04-225)
大阪毎日新聞 1927.7.27(昭和2)


太平洋横断飛行 わが国の計画成る

明年五月乃至九月に決行する

委員会で原案可決


太平洋横断飛行を決行すべく鋭意調査をつづけていた帝国飛行協会では、いよいよ具体案ができ上ったので、二十六日午後一時から帝国飛行協会に開会した
第二回太平洋横断飛行調査委員会の席上その原案が提出されたが当日はそれぞれ専門家の立場から論議し非常な緊張裏に満場一致で原案の可決を見た出席者は

【機体および発動機】帝国大学栖原博士、松岡、馬越両少佐、和田大尉【操縦士および訓練】福岡大佐、安地中佐、利根川少佐【航路と気象関係】松永中佐中央気象台築地技師【庶務および会計】稲留大佐、利根川少佐【一般交渉と外国関係】谷田総務理事、松永、和田両中佐、阿部航空官【製作会社側】航空輸送会社川西製作所阪東支配人、石川島飛行機製作所代表有川中将

の諸氏で午後四時半まで厳重な秘密会議をとげた後谷田総務理事は左の原案内容を発表した

実施時期 明年五月乃至九月
航路 アリューシャン群島の西北方航路八千キロメートル
発着地 東京附近よりシアトル沿岸
使用飛行機の大要 (一)飛行機の型式。陸上水上型、陸発水着型など型式については制限なし(二)乗組員。二名(三)操縦装置。五十時間は困難と見て一名ずつ交互に交代操縦し得るよう二座複操縦装置とすること(四)航続距離。八千キロメートル以上(五)操縦性。相当軽快にして特に長時間に適するもの(六)飛行機強度。普通飛行に堪え得る程度(七)耐久性。夏季はシアトル附近に霧雨多いため長時間の雨中飛行に堪え得るもの
離着陸(水 装置の強度 ガソリン満載で離昇、軽荷で降着し得る程度
発動機 耐久力強大にして耐寒性に富むこと
艤装 各種の計器ならびに無線電信装置一式完備
特殊要求 (イ)不時着水の場合相当長時間水上に浮泛し得ること(ロ)燃料を急速に排除し水密区画に浮泛力を助長せしむること(ハ)救命ゴム布製筏を造ること(ニ)座席は摂氏零下十度の冷気において長時間飛行に堪え得ること(ホ)糧食は二人一週間分および簡単なる蒸餾器を備えること

また最も主要なる発動機および機体は少くも五トン以上のガソリンを積載する必要があるので、このタンクを翼もしくは胴体に取付るがその細部に関しては一切製作者側の石川島、川西両飛行機製作所に一任することとなった。しかして会社側では時日を急ぐため右原案にもとづいて直にデザインに着手本年内に両社とも各一台ずつの練習機を完成して長距離飛行を行い各部の修正を行ったのちさらに横断機を製作して選抜された操縦士が十分同機に親み操縦の機微をとらえて初めて機を待ち一気に太平洋を横断することとなった。同協会では、来月二日の理事会の決議をもって直に総動員でスタートをきり各委員はそれぞれ全国各地の部署につき一斉に基金募集を開始するが総費用は約六十万円である(東京発)

飛行士は−民間から選ぶ すばらしい意気込の諸氏

太平洋横断飛行の原案は別項のごとく調査委員会で原案を可決したが、飛行協会側で最も頭を悩ましているパイロットの人選については、まっさきに民間側から元所沢陸軍航空特務曹長で帝国飛行優勝盃を第一、二回とも獲得した一等操縦士遠藤辰五郎氏(三五)の申出があり
又三菱内燃機から中尾純利(三一)中島製作所から石上全尚(二四)加藤寛一郎(二七)川西飛行機製作所から後藤勇吉(三二)阿部勉(二八)亀井五郎(二六)藤本照男(二五)愛知時計から横山金吾(三三)
各一等操縦士が直接会社で製作中の飛行機について細心の注意を払い、完成後は自ら設計に当たった愛機に搭乗して一気に横断翔破せんとする意気込みなので、大体前記の優秀なる民間一等操縦士の中より予選を行い、体力査定の後選抜決定することとなった。なお横断飛行機二機雁行の噂もあるが、これは太平洋横断飛行には不利で来春五月下旬先ず一機を先発せしめ、もし不幸にして突風、時化などに遭遇した場合は必ずその後に来る快晴を見逃さぬよう直に第二機を追かけて出発させることになっている(東京発)



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