新聞記事文庫 海運(17-105)
大阪毎日新聞 1921.11.6(大正10)


船主と船員の争議頻発


法規無視

海運界が稍恢復したと謂うもののコハ本年七八月の不況のドン底に比してであって昨年の今月に比しては決して良好でないから船主は経費節減策として無暗に人件費を削除する関係上種々の葛藤が増加して来た即ち千噸以上の船舶には高級船員五名以上乗組ましめる法規現存せるに拘らず船主は此法規さえ無視し減員の場合既定の人員補充をせず航海を続け帰着後逓信省海事部に発見されて乗組員より反則者を出すことなど決して尠くない

船主横暴

又船主は財界不況後船員給料及手当に大斧鉞を加え船員の実収入を戦時好況時の約三分の一に減じている位であるが社外船の内遠洋航路に従事せる船舶に於ては戦時好況期に日本を出帆し専ら外国航路に従事していた乗組員等が二年越に昨今漸く帰着し給料手当精算の上船員が之を領収する場合に其額の余りに尠いのに驚き船主に其不法を詰るものもある模様であるコハ全く船員の無識と船主の横着に基くものであるが斯くの如き悪現象は今後益々増加する模様である

船員怠慢

此外船主船員の葛藤は随所に演ぜられているが此悪風を助長せしめた原因の一半は船員にも分たねばならぬ最近国際汽船のブラジル丸の如き新嘉坡にて乗組船員が給料の値上を要求したので船主は之を下船せしめ支那船員で補充し米国に航して亦ニグロ人を雇傭し更にスエズでアラビヤ人を雇替え之が為め思わぬ経費の増加を来したのなどは明かに船員の怠慢の結果である海運界が今一段好化せない限り此種争議は頻繁となるだろうと



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