新聞記事文庫 海運(34-259)
中外商業新報 1942.3.26-1942.3.28(昭和17)


戦時海運管理令 (上・中・下)


既報=逓信省では二十五日戦時海運管理令及び同施行規則を左の如く公布、即日実施した

(上)

第一章 総則

第一条 国家総動員法(昭和十三年勅令第三百十七号に於て依る場合を含む以下同じ)第四条の規定に基く船舶運営会(海運事業の統制の為にする経営を目的とする団体を謂う以下同じ)の運航する船舶に乗組ましむべき船員の徴用、同法第六条の規定に基く被徴用船員の解雇、従業退職又は給与に関する命令、同法第八条の規定に基く船舶運営会の運航する船舶の使用に関する命令、同法第十三条の規定に基く船舶運営会をして運航せしむべき船舶の使用及び船員の衛生及び教育訓練に関する施設の管理並に同法第十八条の規定に基く船舶運営会の設立に関する命令及び船舶運営会に関し必要なる事項に付ては本令の定むる所に依る

第二章 船舶使用

第二条 逓信大臣は命令を以て定むる日本船舶を使用することを得但し陸軍官憲又は海運官憲が法令又は契約に基きて為す船舶の使用を妨げず
第三条 逓信大臣船舶を使用せんとするときは当該船舶の所有者に対し使用令書を送達すべし但し已むを得ざる場合に於ては権原に基き当該船舶を占有する者(以下管理者と称す)に対し之を送達するを以て足る
前項本文の場合に於て所有者が管理者に非ざるときは逓信大臣は管理者に対しても令書を送達すべし
第四条 逓信大臣令書の送達を為したるときは命令の定むる所に依り之を官報に公告すべし但し軍機保護上其他特に必要ありと認むるときは使用の目的たる船舶に付権利を有する者(令書の送達を受けたる者を除く)にして知れたる者に対し之を通知し公告に代うることを得
第五条 令書には左の事項を記載すべし

一、令書の送達を受くべき者の名
二、使用すべき船舶の名称及び番号
三、使用すべき船舶の引渡の時期及び場所
四、使用の期間
五、其他必要と認むる事項

第六条 使用の目的たる船舶の所有者又は管理者は使用に支障を及ぼす虞なき場合を除くの外逓信大臣の許可を受くるに非ざれば左に揚ぐる行為をなすことを得ず

一、当該船舶を改造し又は修繕すること
二、当該船舶の機関若は艤装品又はその部分品若は附属品を撤去し又は其備付けを止むること
三、当該船舶を譲渡し若は賃貸し又は抵当権の目的となしその他当該船舶に付新なる処分をなすこと

第七条 使用の目的たる船舶の所有者又は管理者は当該船舶に付譲渡その他の事由に因り他の者が所有者若は管理者たるに至りたるとき又は滅失、毀損その他已むを得ざる事由に因り第九条の規定に依る引渡を為すこと能わざるに至りたるときは国家総動員法第三十一条の規定に依り遅滞なく之を逓信大臣に報告すべし
前項の規定は前条の許可ありたる場合には之を適用せず
第八条 逓信大臣令書を送達したる後第九条の規定に依る引渡前に於て当該船舶を使用せざるものと決定したるときは其所有者及び管理者に対し其旨を通知すべし
第四条の規定は前項の場合に之を準用す
第九条 使用の目的たる船舶の所有者は管理者は令書に記載したる引渡の時期及び場所に於て当該船舶を逓信大臣に引渡すべし
前項の規定は当該船舶に付強制執行手続、国税徴収法に依る強制徴収手続其他此等の手続に準ずべきものの進行中と雖も其適用を妨げず
第十条 逓信大臣は当該官吏をして使用の目的なる船舶の引渡を受けしむるものとす
前項の規定に依り当該官吏をして引渡を受けしむる場合に於ては其身分を示す証票を携帯せしむべし
第十一条 当該官吏船舶の引渡を受けたるときは受領調書を作り引渡を為したる所有者又は管理者に之を交付すべし
当該官吏前項の規定に依り受領調書を管理者に交付したる場合においては遅滞なく所有者にその謄本を送達すべし

(中)

第十二条 使用の目的たる船舶の使用権は当該船舶の引渡ありたるときにおいて政府之を取得し其他の権利は使用の期間其行使を停止せらる、但し使用を妨げざるものは此限に在らず
第十三条 逓信大臣は命令の定むる所に依り被使用船舶を船舶運営会に貸付くるものとす
第十四条 船舶の使用期間満了し又は其使用を廃止するときは逓信大臣は当該船舶を所有者に返還すべし、但し返還の時期に於て管理者たることを得べき者より予め請求ありたるときは其者に返還することを得、逓信大臣前項の規定に依り船舶を返還せんとするときは予め返還通知書を返還を受くべき者に送達すべし、但し所有者知れざる場合又は所有者に送達すること著しく困難なる場合に於て前項但書の規定に依る請求なきときは官報に公告するを以て足る
第四条の規定は前項本文の場合に之を準用す
第十五条 返還通知書には左の事項を記載すべし

一、返還を受くべき者の名
二、返還すべき船舶の名称及び番号
三、返還の時期及び場所
四、其他必要と認むる事項

第十六条 船舶の使用権は返還通知書又は公告の返還時期に於て消滅す
第十七条 本令又は本令に基きて発する命令の規定に依り為したる手続其他の行為は被使用船舶の使用者又は関係者の承継人に対しても其効力を有す

第三章 船員徴用

第十八条 逓信大臣は左の各号に揚ぐる者を徴用することを得

一、第三条第一項の規定に依る令書送達の際当該船舶に乗組中の船員
二、日本船舶の所有者又は日本船舶の所有者の組織する団体にして逓信大臣の指定するものの保有する予備員たる船員
三、船員職業能力申告令第二条に揚ぐる船員にして前各号に揚ぐる以外のもの
前項第三号に揚ぐる者の徴用は同項第一号及び第二号に揚ぐる者の徴用に依る所要の人員を得られざる場合に限り之を行うものとす

第十九条 本令に依り徴用する者は船舶運営の運航する船舶に配置せらるるものとす
第二十条 被徴用船員は其職務に関し第四十六条の規定に依り手為す船舶運営会の指示に従うべし
第二十一条 被徴用船員に対する給料、手当、賞与其他の給与は命令の定むる所に依り船舶運営会之を支給するものとす
第二十二条 被徴用船員の乗組む船舶が陸軍官憲又は海軍官憲において使用せらるるに至りたるときは逓信大臣は当該船舶に乗組む船員の徴用を解除す
第二十三条 被徴用船員の解雇及び退職は命令の定むる所に依り逓信大臣の認可を受くるに非ざればこれを為すことを得ず
被徴用船員に付ては雇傭期間の満了其他解雇及び退職以外の事由に依り雇傭関係の終了する場合においては引続き雇傭関係を存続せしむることを要す、但し命令の定むる所に依り逓信大臣の認可を受けたる場合はこの限に在らず
前項の規定は海員の雇人契約には之を適用せず
第二十四条 被徴用船員は逓信大臣の定むる服務規律に従うべし
第二十五条 被徴用船員船舶運営会の運航する船舶に乗組み職務に従事中戦闘行為又は之に準ずべき危険に遭遇し因りて傷痍を受け若は疾病に罹り又は死亡したるときは政府は命令の定むる所に依り本人又は其前項の遺族の範囲及び順位は命令を以て之を定む
第二十六条 船員徴用令第六条、第七号、第十二条第二項、第十三条第一項、第十七条の二、第十九条及び第二十条の規定は第十八条第一項各号に掲ぐる者の徴用に付之を準用す
船員徴用令第八条、第九条及び第十六条の規定は第十八条第一項第三号に揚ぐる者の徴用に付之を準用す
逓信大臣必要ありと認むるときは第十八条第一項第一号及び第二号に掲ぐる者の徴用に就ては第一項の規定に拘らず徴用令書及び徴用解除令書並にその交付に関し命令を以て別段の定を為すことを得
第二十七条 逓信大臣は船舶所有者又は海事に関する法人に属する船員の衛生及教育訓練に関する施設を管理することを得
第二十八条 逓信大臣は前条の規定に依り管理する施設における船員の衛生及教育訓練に関する業務に付経営者を指揮監督す
第二十九条 工場事業場管理令第三条乃至第五条(第二条の規定を準用する部分を除く)第八条乃至第十条及び第十二条の規定は船員の衛生及び教育訓練に関する施設の管理につき之を準用す但し同令第四条第三号中第十四条の規定に依り主務大臣の職権の一部を行う官衙の長とあるは戦時海運管理令第六十四条の規定に依り同令第二十八条の管理に関する職権の一部を行う条約局長とす

第四章 船舶運営会

第三十条 船舶運営会は戦時における海運の総力を最も有効に発揮せしむる為海運事業の統制の為にする経営を為し且海運に関する国策の遂行に協力することを目的とす
第三十一条 船舶運営会は其目的を達する為被使用船舶其他の船舶に依る海運事業を行う
船舶の運営会は逓信大臣の命令に依り又は其認可を受け前項の事業の外其目的達成上必要なる附帯事業を行うことを得
第三十二条 船舶運営会の構成員たる資格を有する者は日本船舶の所有者又は日本船舶の所有者の組織する団体にして逓信大臣の指定するものとす
第三十三条 逓信大臣船舶運営会を設立せしめんとするときは命令の定むる所に依り前条の規定に依り構成員たる資格を有する者に対し船舶運営会の設立を命ずべし
前項の規定に依る船舶運営会の設立の命令ありたるときは命令の定むる所に依り創立総会を開き之に諮りて定款其他船舶運営会の設立に必要なる事項を定め逓信大臣の認可を受くべし
第三十四条 船舶運営会の定款には左に掲ぐる事項を記載すべし

一、目的
二、名称
三、事務所の所在地
四、構成員に関する規定
五、事業及び其執行に関する規定
六、役員に関する規定
七、会議に関する規定
八、資産及び会計に関する規定

第三十五条 船舶運営会は第三十三条第二項の認可ありたる時又は国家総動員法第十八条第三項の規定に依り定款の作成ありたる時成立す

(下)

第三十七条 船舶運営会には左の役員を置くべし

[図表あり 省略]

第三十八条 総裁は船舶運営会を代表し其業務を統理す
理事長は総裁を輔佐し船舶運営会の業務を掌理し総裁事故あるときは総裁の職務を代理し総裁欠員のときは其職務を行う
理事は総裁及び理事長を輔佐し船舶運営会の業務を分掌し又は之に参与す、業務を分掌する理事は予め総裁の定むる順位に依り総裁及び理事長共に事故あるときは総裁の職務を代理し総裁及び理事長共に欠員のときは総裁の職務を行う
監事は船舶運営会の財産の状況を監査す
評議員は総裁の諮問に対し答申し又は総裁に対し意見を具申す
第三十九条 船舶運営会の役員は海運に関し経験ある者及び学識ある者の中より逓信大臣之を命ず総裁、理事長及び理事の任期は三年、監事及び評議員の任期は二年とす
第四十条 総裁、理事長及び業務を分掌する理事は他の職務又は商業に従事することを得ず、但し逓信大臣の認可を受けたるときは此限に在らず
第四十一条 通常総会は毎年一回総裁之を招集す
総裁必要ありと認むるときは何時にても臨時総会を招集することを得
第四十二条 定款の変更は総会に諮り総裁之を決す
第四十三条 総裁は毎年総会に船舶運営会の事業の状況を報告し監事をして財産の状況を報告せしむべし
第四十四条 船舶運営会は命令の定むる所に依り被使用船舶を借入るべし
第四十五条 船舶運営会は逓信大臣の指定する航海及び逓信大臣の指定する人又は物の運送を為すべし
船舶運営会は逓信大臣の許可を受くるに非ざれば前項の航海又は運送以外の航海又は運送を為すことを得ず
第四十六条 船舶運営会は命令の定むる所に依り被徴用船員に対し職務に関する指示を為すべし
第四十七条 船舶運営会は命令の定むる所により被使用船舶の所有者に対し一定の金額を支払うべし
被使用船舶が知れたる先取特権又は抵当権の目的たる場合に於ては船舶運営会は前項の金額を供託すべし
先取特権者又は抵当権者は前項の供託金に対しても其の権利を行うことを得
第四十八条 船舶運営会は第二十五条第一項の規定に依る一時金の支給及び第二十六条第一項に於て準用する船員徴用令第十七条の二の規定に依る扶助に要したる金額を命令の定むる所に依り国庫に納入すべし
第四十九条 船舶運営会は業務規定を設定すべし
第五十条 船舶運営会に運航実務者を置く
前項の運航実務者は船舶運営会の構成員中より逓信大臣之を命ず
第五十一条 運航実務者は命令の定むる所に依り船舶運営会の為す指示に従い船舶の運航に関する事務を処理す
船舶運営会は命令の定むる所に依り運航実務者に対し一定の事務処理手数料を支払うべし
第五十二条 船舶運営会は其の構成員に対し船舶運営会の事務遂行の為必要なる事務の処理又は報告の提出を命ずることを得
前項の規定に依り事務の処理又は報告の提出を命ぜられたる者は遅滞なく之に応ずべし
第五十三条 船舶運営会は定款の定むる所に依り定款に違反したる構成員に対し過怠金を課することを得
前項の過怠金を滞納する者ある場合に於て船舶運営会の請求あるときは市町村は市町村税の例に依り之を処分するこの場合に於て船舶運営会は其徴収金額の百分の四を市町村に交付すべし前項中町村とあるは町村制を施行せざる地に在りては之に準ずべきものとす
第二項の規定に依る徴収金の先取特権の順位は市長損其他之に準ずべきものの徴収金に次ぎ其時効に付ては市町村税の例に依る
第五十四条 船舶運営会の定款の変更並に業務規定の設定及び変更は逓信大臣の認可を受くるに非ざれば其の効力を生ぜず
第五十五条 船舶運営会の剰余金の処分に関し必要なる事項は命令を以て之を定む
第五十六号 逓信大臣船舶運営会の目的達成上必要ありと認むるときは船舶運営会に対し必要なる事業の施行を命じ又は定款の変更其他必要なる事項を命ずることを得
第五十七号 逓信大臣は船舶運営会に対し業務及び会計に関し監督上必要なる命令を発し又は処分を為すことを得
逓信大臣必要ありと認むるときは監事をして監査の結果を報告せしむることを得
第五十八条 船舶運営会は命令の定むる所に依り登記を為すことを要す
前項の規定に依り登記すべき事項は登記の後に非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず
第五十九条 逓信大臣は船舶運営会の役員又は運航実務者の行為が法令に基きて為す処分、定款又は業務規程に違反したるとき、公益を害したるとき其他船舶運営会の目的達成上役員又は運航実務者を不適当なりと認むるときは之を解任することを得
第六十条 船舶運営会は逓信大臣の命令に因りて解散す

第五章 雑則

第六十一条 国家総動員法第二十条の規定に依り補償すべき損失は第二十七条の規定に依る処分に依り通常生ずべき損失及第二条又は第四十五条第一項の規定に依る処分に因り生ずべき損失にして命令を以て定むるものとす損失補償請求の時期其他損失補償に関し必要なる事項は命令を以て之を定む
第四十七条第二項及び第三項の規定は第一項の補償金に付之を準用す
第六十二条 逓信大臣又は海務局長必要ありと認むるときは国家総動員法第三十一条の規定に依り使用せんとする船舶の所有者若は管理者、逓信大臣の管理に係る船員の衛生及び教育訓練に関する施設の経営者又は船舶運営会より必要なる報告を徴し又は当該官吏をして其事務所、営業所、船舶其他必要なる場所に臨検し業務の状況若は帳簿書類、設備其他の物件を検査せしむることを得
前項の規定に依り当該官吏をし臨検検査せしむる場合に於ては其身分を示す証票を携帯せしむべし
第六十三条 本令及本令に基きて発する命令中船舶所有者に関する規定は船舶共有の場合に在りて船舶管理人を置きたるときは船舶管理人に、船舶貸借の場合に在りては船舶借人人に之を適用す
第六十四条 逓信大臣は本令に定むる職権の一部を海務局長に委任することを得
第六十五条 第二章及び第四章を除くの外本令中逓信大臣とあるは朝鮮、台湾、樺太又は南洋群島(以下外地と称す)に在りては各朝鮮総督、台湾総督、樺太庁長官又は南洋庁長官とし海務局長とあるは朝鮮又は台湾に在りては各朝鮮総督府逓信局長又は台湾総督府交通局総長とす第
二章中逓信大臣とあるは朝鮮又は台湾に船籍港を定むる日本船舶に付ては各朝鮮総督又は台湾総督とす
第四条及び第十四条第二項中官報とあるは朝鮮又は台湾に在りては各朝鮮総督府官報又は台湾総督府報とす
第五十三条中市町村とあるは朝鮮に在りて府邑面、台湾に在りては市街庄、南洋群島に在りては南洋群島地方費とし市町村税とあるは朝鮮に在りては国税台湾に在りては市街庄税、南洋群島に在りては地方費税とし百分の四とあるは朝鮮に在りては百分の五とす
条六十六条 逓信大臣船舶運営会が内地に在る者と外地に在る者とを以て組織せらるる場合に於て之に関し左に揚ぐる処分を為



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