新聞記事文庫 海運(34-277)
神戸新聞 1942.6.16(昭和17)


機帆船の統制強化

政府、組織化を重視

戦時海上輸送力確保策


戦時海上輸送力の確保は赫々たる戦勝を不動のものたらしむる最重要素でありその総合的活用乃至運営こそ大東亜戦争完遂のキイ・ポイントであることは今更贅言を要しない、曩に我が政府は大東亜戦争勃発とともに重要物資輸送の万全を期するため船舶運航能率の増進、計画輸送に基く配船の合理化を図り大東亜戦勃発するや次で去る第八十回臨時帝国議会に臨むに積極方針を以てし標準船型による計画造船案、或いは各種の助成方策の設定等の諸具体策を次々と施行、戦時下ややもすれば逼迫せんとする船舶事情に万般の措置を講じ来ったが、更に最近に於て政府は戦時輸送強化の一環として沿岸、近海貨物の輸送に全陸運にも匹敵するという機帆船の活動を重視しこれが輸送能率の増進に各般の特殊施策を考慮するに至ったことは蓋し注目さるべき一事でその隻数、航路、輸送力に於て内外地近距離輸送に最も適当な海上輸送機関たる機帆船今後の役割こそ刻下海上輸送問題の重要題目たるを失わないのである、かくして戦争の長期化、占領地域の拡大に伴って機帆船の再確識並にその重要性の強弱が、一般汽、機船の払底に反比例して強烈となるにつれて機帆船部門の統制強化と組織化が関係各部門の重大関心事として新に登場して来たのは当然である、しかし右に関しては一般汽、機船と同様遊休船腹の活用、港湾施設の改善、船員需給対策等による運航能率増強を企図するは勿論、更に最近機帆船部門において緊急に解決さるべきものとして次の三項目がとり上げられる

一、運賃の是正
二、造船促進の具体策
三、金融、保険問題の解決

しかして、右三項目に対する根本的方策の樹立こそ機帆船将来の方向を示す重要課題である、しからばこれら課題は如何にして解かれようとしているか

一、運賃の是正 運賃は機帆船運航能率に直接の影響をもつ重大事で、この解決なくして機帆船部門の全幅の能率増強を期待することは出来ない、元来戦時統制経済の下にあって一般汽、機船に比し機帆船部門は遥に自由主義的色彩の濃いものであり従ってこの運賃の多募が大部分の船主経済を支配し、運航能率ひいては配船をも左右する最大因子であった、しかるに現在はこの運賃は公定されてをり、事実上一元的統制下に置かれていると見るべきだが、しかし事実はこの公定運賃は一定の基準であるに止まり実際には殆ど履行されてはいないのである、即ち港における荷主対船主間に行われる運賃は屡々闇運賃であり、運航許可制に基く輸送は登簿船のみというのが実情である、しかしこの登簿船は現有機帆船の約四割弱であるということは如何に機帆船部門における運賃の是正が必要であるか自ら明らかであろう、之に対して海務院が近くどう具体的に是正策を講じるか、或は積極的に闇運賃の取締りに乗り出すかが注目されているが最近検察当局がこの闇運賃摘発に活発な調査を開始すると予想されていることは将来機帆船運賃の是正の前提行動としても注意すべき点である
二、造船促進の具体策 一般汽、機船と同様、機帆船部内にも刻下緊急を要するものに新船の建造問題がある、戦時下船腹需要の増大につれ造船促進の具体策は可及的速かに樹立する必要があるが政府は過般第八十回臨時議会に於て標準船型十九種をもって計画造船の万全を期する旨●明したが、その内に含まれる木造船五種即ち二百五十トン、二百トン、百五十トン、百トン七十五トンの五標準船型が機帆船に割当てられているのであって之に対して先ず問題となるのは資材と、労力の確保である、最近の造船に対する資材、労力の供給問題は特に重要なる課題で価額の昂騰に加えての資材の供給不足と労力(船大工の相対的減少に伴う賃銀昂騰は機帆船建造の上にかなりな支障となってをり之が統制の強化と円滑化が関係方面から要請されている而して之に対する海務院或いは造船統制会の応急的措置に多大の期待が掛けられているが、目下のところ海務院の企図するものは

(一)建造日数短縮のため、造船所の集約とともに、資材、労力の集中化を図る
(二)労力確保と建造能率増強策として、一定期間一定箇所において集約建造作業を行う

等が考究されその具体化が進められている模様である
三、金融、保険問題の解決 いかなる時代においても海運業発展の基礎は金融及び保険にある、これなくして海運業の発展はあり得ない、従って現在の如く機帆船部門における金融、保険の欠如は実に致命的なもので、機帆船が時局的要請により新に海運界の寵児となれる今日、金融保険問題の解決なくしては機帆船による輸送力の増加は期し難い

即ち百五十トン以上の被徴用船は兎も角として現存機帆船の大部分は船体保険が課されていないし、船体保険を課したとしても高々船価の六割五分程度でしかも保険料率は極めて高率という悪条件である、為に金融の途が与えられないというのが実情である、船主経済の微弱な機帆船部門においてこの事実は当然とはいいながら機帆船将来の発展の為には根本的な隘路でありその解決こそ刻下最も必要なるものとされている
而して最近この機帆船部門に対し積極的な融資に乗り出すこととなった日本興業銀行では目下全国造船所に対し機帆船建造に関する資料調査を開始し一方海務院でも最悪の場合には三割程度の助成金を出すことを考慮しているといわれているが恐らくこれ等金融、保険等の諸問題は最近活発に前進しつつある機帆船統合問題とともに近き将来全面的に解決を見ることとなろう(東京支社水野生)



データ作成:2002.7 神戸大学附属図書館