新聞記事文庫 製糖業(01-069)
二六新聞 1912.9.2(大正1)


新高製糖の将来

千二百噸の白糖装置

糖業界の一大問題


創立及営業状態

新高製糖会社は高島小金治氏台湾に於ける製糖業の有望なるを認め実地に就き種々調査するの所あり資本金五百万円(内二百五十五万円払込)を以て明治四十二年十月三十日創立総会を開き其後社運隆盛を極めて以て今日に至りたるものなるが現重役は
▲社長高島小金治▲専務取締役山田申吾▲取締役牧山熊二郎、大倉喜八郎、阿部幸之助▲監査役河瀬周治、門田清経、阿部幸兵衛
の八氏にして山田、牧山の二氏は台湾の本社に在り各重役は戮力共心社運の発達を企画し居れるが今や同社は第二回の製糖を終わり現に第三回の製糖期に入らんとする際にて同社の製造場は台湾彰化に第一工場もあり七百五十噸の機械を据付け第二回製糖期の終了まで専ら該工場の機械のみを使用し昨年は一割、本年は十五万俵を製造し一割二分の利益配当をなせり第三期即ち今期に於いては嘉義に千二百噸の工場を建築中なれば今後不測の天災其他の事故起こらざる限り此新工場の機械を運転し十万乃至二十万倍の製糖を増加することを得之が為め新高の製糖能力は千九百五十噸に達し其産出額は少なくとも二十五万俵に上り従って営業成績も漸次良好を加うべき順序にて同社の機械は何れも英国製の堅牢無比、最新式の物なれば其製造能力等も極めて完全にして且つ建設基礎工事に毫も費用を惜しまず聊か粗漏の点なきは同社の誇りとする所、而して新工場たる嘉義の千二百噸は全然白糖装置にして製造方法その他に関し布哇、瓜哇に専門技師を派遣し目下実地研究中也

特色と将来の企画

同社は万事堅実質素を旨とし甘蔗栽培奨励保護の費用として年々十余万円を支出し共進会を開催し耕作者に対し充分の奨励をなすと共に凶作虫害等に対しても出来得る限りの保護をなし又臨時に肥料を無料にて供給する等力めて耕作者に満足を与え会社と耕作者との利害関係を相一致せしめんとの方針なり例えば第一工場たる嘉義の如き台湾に於ける最も有望なる米作地の中央に位し夫等の関係より水田中に甘蔗の栽培をなさしむる特殊の事情あり殊に昨年の如き台湾各地を通じ甘蔗は非常なる凶作なりしも左のみの影響を受けず同社が産出高に於いて一二を争う多額の産出ありたるは全く耕作者保護奨励方法が完全に行き届き会社と耕作者の関係円満なる結果に起因するものなり又同社の新工場たる嘉義は南方に位し甘蔗栽培地の中央に在り彰化の如く米作と競争するが如きことなく自由に甘蔗を栽培し得られ南方の他会社と同様の利便あれば嘉義新工場竣成の暁には同社は耕作上非常の利益を得ることとなり南北両地に於ける甘蔗栽培の利害便否を相殺し平均し極めて安全なる利益を得此点は他の会社に見ざる同社の特色なり、尚お同社は事を永遠に期し一時の配当を高むるが如きことをなさず漸次其基礎を鞏固にし徐ろに前途の発展を企画するものにして只一時の企業熱に駆られ目前の利益に汲々たるものとは聊か其趣を異にす然らば同社は甘蔗の退化、虫害、枯死の為め栽培者が蒙るに打撃を憂慮し何とかして之を予防し救済せんとし昨年布哇より甘蔗種苗を取寄せ栽培したるに其成績良好なりしに鑑み本年も莫大の費用を投じ専門技師を派遣し七十万本を輸入し目下移植中なるが是等の方法に依り栽培せる甘蔗が今後増殖せば同社の甘蔗は最優秀の物となり自然砂糖の品質も改良せられ其利益も決して尠少ならざるべし又同社は集約的農法に依り来るべく僅かの耕地より糖分を多量に含有する甘蔗を多額に産出し其生産高を増加すると共に生産費を減じ価額を低減せしめ品質佳良の砂糖を消費者に供給せんとするものにて此点は同社が最も苦心の存する所なるが製造方法は欧米に行わる最新式の機械と最も進歩せる方法に依り熟達せる技術家を使用したるを以て改良の余地甚だ少なきも栽培方法に関しては布哇、瓜哇の夫れに比較し極めて幼稚なれば今後尚お充分改良の余地あるものの如く其方法としては先ず甘蔗優良種の選定、栽培方法、耕地の整理、肥料の選択土質、天候の調査、排水の方法、灌漑の便否等重なるものにて是等は糖業界に於ける極めて重要なる問題にて一会社、一資本家の力にては到底企及し得ざる所なるも同社は甘蔗栽培方法の改良に関しては希望を将来に繋げ之を大にしては国家の為め之を小にしては我糖業界の為め鋭意之が改良発達を企図する方針也



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