新聞記事文庫 港湾(2-082)
河北新報 1916.3.13-1916.3.19(大正5)


[塩釜]築港と横断線 (其一〜其二)


其一 塩釜築港と横断線 完成後の其影響(本県調査)

(一) 全国港湾と塩釜港

内務省土木局に於ては全国の港湾千五百二十の内より明治四十二年乃至同四十四年の三ケ年間の出入船舶平均六十万噸以上若くは輸出入貨物二百五十万円以上の港湾を選み即ちこれに該当する百五十二の港湾に付主として内地貿易に関する事実を毎年各府県をして調査せしめたる報告に依り編纂したる最近大正三年大日本帝国港湾統計に依り全国輸出入貨物の状況を観るに総額四十億三千二百二十三万六百五十五円にして内輸入は二十億六千二百八十八万四千六十六円輸出は十九億六千九百三十三万九千五百八十九円を占め輸出入の差九千三百五十四万四千四百七十七円を示し輸入超過を表わし居れりその輸出入の最も多きは横浜の九億九千四百万円これに亜ぐは大阪の七億五千四百万円神戸の六億九千七百万円東京の一億九千二百万円にして一千万円以上の輸出入ある港湾は三十七港を有すその他の百十五港は何れも一千万円に達せざる状況にありこの港湾統計に依り塩釜港の地位を比較するに同港は輸出入総額千二百四十五万九千余円にして全国百五十二の港湾中二十九位にあり東北及北海道に於ては小樽函館青森室蘭に及ばざるも釧路根室酒田釜石石ノ巻の諸港に比し迥に多く敦賀高浜若津清水堺の諸港とは殆ど伯仲の間にありてその地位決して低からざるを観る(別表参照)これを更に出入船舶噸数により観るに神戸の五千三百六十一万噸最も多くこれに亜ぐは門司の四千四百五十四万噸長崎の二千二百五十二万四千噸横浜の二千六百十一万九千噸にして東北北海道にありては小樽の八百六十一万九千噸最も多く全国の八位にあり函館の七百四十六万一千噸の十位青森の四百二十万噸十七位釜石の三百六十四万四千噸十八位室蘭の二百五十二万七千噸二十六位釧路の百八十四万五千噸四十二位荻ノ浜の百九十一万四千噸三十八位にして塩釜は百七十一万三千噸四十五位にありその輸出入貨物の順位に於ては二十九位にあるも出入船舶にありては四十五位と低下せるは畢竟同港は水深浅く大船の出入不可能のためにして即ち荻ノ浜に釜石の諸港が貨物に於ては迥に寡なきに拘わらず船舶噸数の多きはこれを証するものにして荻ノ浜は日本郵船の寄港地に係り又釜石は田中製鉄所及三陸汽船会社の大船が関西関東各港及室蘭等に出入頻繁なるを以てなりこれを以て観るも塩釜は港湾の設備不充分なる故に自然的に大船の出入を阻止せられある状況にあるを以て築港完成の暁きには現今の噸数に比し数等の増加を観るは敢て想像に難からず現今の状態よりするも全国の四十五位を占むるはこれ亦低き地位にあらざるを知るべし

[図表あり 省略]

(二) 塩釜駅の貨物集散

当駅に於ける最近十ケ年間貨物出入の状況を観るに明治三十八年度にありては発送貨物六万六千二百九十三噸到着貨物一万六千六百十六噸計八万二千九百九噸なりしが最近大正三年度に於ては発送貨物九万三千六百六十一噸到着貨物五万六千七噸計十四万九千六百六十八噸にして発送にありては二万七千三百六十八噸(日割一分増)到着に於ては三万九千三百九十一噸(二倍四分増)計六万六千七百五十九噸(八割増)の増加を示せり既往十ケ年間に於ては年に依り一高一低あるも到着貨物は逐年増加の趨勢を呈しあり発送貨物は入港貨物の多少米作海産物等の豊凶等により多少の増減あるも凶作の年にありては海運により輸入する外米多くこれ等の大部分は鉄道に依り各地に発送せられ居るを以て凶作水害の年発送貨物減少を見ずして却て増加の統計を現わす居れり
当駅の地位を比較せんとせば勢い当駅と稍やその状態を同うせる集散地を物色し比較の要あるも材料を欠くを以て塩釜を除き最も貨物集散の多き仙台駅を選み比較するに左表の如くにして

 塩釜駅 仙台駅 仙台駅に比し
発送 九三、六六一噸 三二、七七七噸 六〇、八八四増
到着 五六、〇〇〇 九五、一八五 三九、一八五減
計 一四九、六六一 一二七、九六二 二一、六九九増

これに依て見れば発送貨物にありては塩釜は仙台駅に比し六万八百八十四噸多く到着貨物は三万九千百八十五噸寡なく総噸数に於ては二万一千六百九十九噸多き状態を呈しありその発送貨物の多きは主として海産物木材薪炭食塩大豆粕等にして到着貨物の少なきは塩釜は仙台の如く消費地にあらざるを以て日用品及食料品の輸入寡なき結果に依るものの如し更にこれを仙台駅を除きたる県下各駅を合算したる出入貨物と比較するに左表の如くにして

[図表あり 省略]

即ち十ケ年間の三十八年度にありては県下各駅の出入貨物を合して十万九千八百二十八噸に過ぎざりしが最近大正三年度に於ては三十一万五千八百三十九噸に上り二十万六千十一噸の激増にして殆んど三倍に上昇せりこれ畢竟陸羽線軽鉄線の布設等に依るべきも亦生産事業の振興商業の発達を証するものにして而してこれを塩釜駅の出入貨物と比較するに県下三十一駅を合したるものは三十一万五千八百三十九噸なるに塩釜駅は十四万九千六百六十一噸にして殆んど半額の出入噸数あるに徹しても如何に重要なる地位を占め居るかを想察するを得べし
更に出入貨物の品種毎の消長を視るに別表塩釜線汽車貨物累年表の如くにして年により高低あるもその増減の著しきものを比較すれば発送にありては食塩の三十八年度には六百三十九噸なりしもの大正三年度には一万二千六百五十八噸の巨額に上り鮮魚の五千八百四十四噸は一万一千八百五十五噸に増加し繭の百八十九噸は七千九百八十四噸に石材の千四百七十七噸は三千七百七十七噸に木炭の千六百四十五噸は六千二百八十七噸に塩干魚の三千七百二十噸は七千九百八十四噸に肥料の五千八百四十四噸は九千〇六十五噸に増加せり十年前発送貨物としてなかりしセメントは一千四百七十一噸の発送あり又著しく減じたるは砂糖の三千百三噸は十三噸に減じ木材の一万八千八百六十一噸は一万六千七百二十一噸に石炭の一万百三十六噸は四千三百八十六噸に減ぜるは主なるもの也、米穀及雑穀に於て減少の数を現わし居るもこれは一時的の現象にして敢て減少の趨勢にあるものにあらず
到着貨物にして著しく増加したるものは砂糖の三百二十八噸は千〇十四噸に和洋酒の百三十二噸は五百三十八噸に甘藷の二千二百二十六噸は四千五百三十三に肥料の七噸は八百六噸に木材の百四十一噸は六百九十二噸に石炭の四千五百八十噸は二万二千九百十噸に煙草の十九噸は四百三十三噸に石油の百三十八噸は九百二十二噸に果物の三十三噸は四百四十二噸に増加し十年前到著貨物として絶無なりし『セメント四百七十七噸煉瓦の三百六十二噸鉄物の六百三十九噸を掲表するに至る減少したるものの主なるものは塩及干魚の七百九十四噸は百九十二噸に減じたるのみにして他は概ね増加の趨勢なり当駅発送貨物の増加は海運貨物の増加を語るものにして到著貨物の増加は海運に依る輸入貨物の減少を証するものなりとすその発著貨物の仕出地及仕向地毎の集散状況は塩釜港出入貨物散集の現況に記るせるを以て省略す

(三) 荻ノ浜港貨物集散

本港貨物集散の範囲は主として京阪地方及北海道方面にして近海諸港には殆んど貨物の出入なく所謂本県に於ける対外的商港の位置を占め居れり然れども本港には商取引の機関は絶無にして石ノ巻、塩釜、仙台等の商人に依り取引せられ本港は単にその運輸上の機関たるに過ぎざる実況なり
本港の対外的商港の位置を占め来りたるは本港には大船の出入する港湾なく又本港は日本郵船会社の寄港地に属するを以て前記方面に輸出入すべき貨物にして海運に依るものは一に本港に拠らざるべからざるに因る而してその輸出入貨物集散の変遷を観るに曾て政府の命令航路に属せる当時は出入貨物の総額五六百円に上り大に殷盛を極め郵船会社に於ても石巻に支店荻ノ浜に出張所を置き海運に依る貨物の吸収に力むる所ありしが明治三十七八年の頃より命令航路を廃され自由航路となり随がって陸上交通機関の発達は海運に大なる影響を及し年々貨物の減退を観るに至れるを以て郵船会社に於ても出張所を廃し現今に於ては北上株式会社の出張所を置きて貨物運輸上の事を取扱い居れり今既往十五ケ年間に於て日本郵船に依り出入したる貨物の統計表を掲げてその変遷を比較するに別表の如くにして明治三十四年には輸出噸数二万六千余噸価額二百十七万八千余円輸入噸数二万八千余噸価額三百六十五万余円合計噸数五万四千余噸価額五百八十三万二千余円に上りしか大正四年に至りては輸出噸数一万四百余噸価額七十八万八千余円輸入噸数三万八千余噸価額二百三十五万六千余円合計四万九千噸価額三百十四万四千余円にして輸出にありては噸数一万五千余噸価額に於ては百三十九万円余の減少を示し輸入にありては噸数に於て一万噸を増したるにも拘わらず価額に於て百二十九万八千余円の減少を示しその合計にありては噸数五千五百噸価額二百六十八万七千余円の大減少を観るに至れり明治四十年以前は年に依り多少の増減は免れずと雖も五百五十万乃至一千一百万円の間に在り概ね六百万円内外の輸出入ありしが同四十一年以降漸次減退の趨勢を呈し最近二、三年は最も甚だしく減少を示せりその輸出の減少は主として石巻方面より海運にて東京方面に輸出したる米穀の漸次鉄道輸送に依れる結果にして又輸入貨物の減少は外米、砂糖、石油及北海道方面より塩魚及肥料等の輸入は大部分鉄道に依る趨勢に変じたるもの主因にしてこれを十年前に比せば殆んど半額の減退を示せり要之に本港輸出入貨物衰退の原因は一面に於ては命令航路廃止の結果寄港度数の減少、艀連絡の不便等に依るものの如く又一面に於いては近時物価の変動甚だしく時間の経済より陸運に依るもの多きを致したると同港と最も密接の関係を有する石巻港より小牛田に至り軽鉄線の布設等その他陸上交通機関の完備は危険なき陸運に依るもの漸次多きを加えたる結果に依るものの如し本港の現に呑吐しある貨物の種類仕向地及び仕出地等の状況は大正四年の実査したる統計に依りてこれを観るに輸入にありては食塩の七十三万五千余円外米の二十九万一千余円砂糖の十九万二千余円塩魚の十六万七千余円肥料の十五万三千余円大豆粕の五万四千余円塩及び干魚の五万一千余円大豆の七万二千余円燕麦及び洋酒の各二万八千余円清酒の二万四千余円澱粉の三万二千余円麦粉の二万八千余円セメントの二万七千余円等にして食塩は神戸より外米は東京、横浜、神戸、四日市、大阪方面より砂糖は東京横浜より塩魚は小樽、大阪、函館、根室より肥料は東京、大阪、函館、小樽、神戸、根室、門司等より大豆粕は東京より塩及干魚は函館小樽東京横浜より大豆は小樽函館より燕麦は小樽より洋酒は東京より横浜清酒は東京横浜大阪境四日市門司等より澱粉は小樽函館より麦粉は東京横浜神戸より『セメント』は東京函館より輸入しあり又輸出にありては石材及石盤硯スレート等の十八万七千余円魚油(鯨油を含む)の十三万九千余円木材の十万六千余円白米及玄米の十万三千余円製綿の五万四千余円海草の五万余円雑穀の二万六千余円鯨粕の二万五千余円米糠の一万一千余円は主要輸出品にして石材及石盤硯スレート等は東京横浜神戸大阪名古屋下ノ関長崎小樽函館等へ魚油は東京横浜四日市神戸兵庫大阪等へ木材は東京横浜大阪函館基隆安平打拘等へ白米及玄米は東京函館小樽へ製綿は小樽室蘭函館根室へ海草は東京大阪神戸へ雑穀は東京横浜大阪へ鯨粕は東京横浜四日市神戸等へ米糠は東京に輸出しありこれ等の貨物は全部石巻及塩釜港より艀連絡積卸のものと本港直取扱の二種ありこれを各関係港の輸出入割合を観るに(貨物価額により)輸出入貨物総額百中荻ノ浜港は一二、六石巻港は三八、七塩釜港は四八、七ノ割合を占め塩釜港は最も多き割合を示しあり
将来塩釜築港完成後に於いて日本郵船が荻ノ浜の寄港を廃し塩釜港に寄港するとせば現在の荻ノ浜港の輸出入中荻ノ浜港直取扱貨物と石巻港の艀連絡貨物の大部分は塩釜港に移るは疑いなき事実にしてこれに依りてのみ塩釜港の増加すべき貨物の輸出入の噸数二万噸価格に於いて約百五十万円に達すること明かなる事実なるが如し

[図表あり 省略]

(四) 塩釜港貨物集散(一)

今回の実査に依るときは本港に於ける貨物集散の範囲頗る広く輸入にありては北の方三陸方面より遠く北海道樺太に延び南方は京阪及清国よりするものあり輸出に至りては前記各地の外朝鮮台湾の遠きに及べり、三陸方面の出入は三陸汽船会社及竜丸佐藤回漕店の汽船に依り、北海道、樺太、京阪、清国台湾等へは日本郵船を主とし往々社外船出入するあり、郵船会社は荻ノ浜に(塩釜より二十一浬)社外船は石浜に(塩釜より五浬)寄港し皆艀舟を以て連絡せり、その大正四年中に於ける輸出入貨物の総価額は金一千二百九十五万〇四十三円にして内輸入に属するもの金八百三十八万四千二百十二円輸出に属するもの金四百五十六万五千八百三十一円に上れり
而して輸入の主なるものは鮮魚、鰹節、食塩、缶詰、魚粕、塩魚、乾鯣、竹輪蒲鉾、海草、魚油、乾鮑、乾魚等の海産物大部分を占めこれに次ぐものは米穀、木材、大豆粕、繭、木炭、生糸、豆類、人造肥料、鉱石、外米、鉄物、紛炭、セメント等なり、輸出貨物にありては米穀最も多く石油、酒、煙草、綿布、砂糖、食塩、石炭、陶磁器、紙金物、製綿、甘藷、麦、菓子、藁細工品(縄莚)麦粉、野菜、粘土、雑穀、茶味噌醤油、雑貨等これに亜ぐ、今各回漕店に就きその取扱貨物を調査したるに三陸汽船会社は価額金六百三十四万六千八百二十六円(輸入貨額金三百四十万七百五十三円輸出価額金三百三十万六千〇七十三円)白石商会運輸部は金百九十一万六千八百二十九円(輸入貨額金百七十五万五千六百九十四円輸出価額金十六万一千百三十五円)竜丸佐藤回漕店、は金百七十七万二千八百七十七円(輸入価額金百五万二千九百六十四円輸出価額金七十一万九千九百十三円)にしてその余は帆船及漁船等に依り出入するものなり更にこの輸出入貨物を各仕出地、仕向地に分類してその勢力範囲を観るに別表に示すが如く岩手県沿岸に於ける金六百八十九万六千余円にして実に全輸出入に対し約半額に当り本港の繁栄は一に岩手沿岸地方のために維持せらるる観ありこれを要するに本港は三陸全体の沿海地方に対しその生産物を呑吐しその日用品を供給するの地位を占め特に岩手県の沿海地方に対して最も密接の関係を有しその宮城県沿海地方に対しては第二にあり即ち本吉、牡鹿、桃生、宮城の沿海地の輸出入総価額は金四百十三万七千余円を示せり、これに次ぐに神戸の同金八十一万四千余円北海道各地の同金五十一万六千円大連及牛荘の同金三十五万円東京の同金十一万五千円台湾の同金四万二千余円等なりとす、これによりて本港貨物輸出入を比較するに輸入大部分を占め総額に対して約三分の二に居り、輸出貨物としては岩手、宮城沿岸に対する食料品及北海道に対する製綿、木綿東京、台湾に対する木材等を算するに過ぎざるなり
今本港に於ける輸出入貨物の集散状況を摘記するに左の如し
輸入貨物

鮮魚 本港輸出入貨物の大宗は実に鮮魚にしてその価額金百九十万二千余円に上れり、これを仕出地に依って区別すれば釜石の金十九万円大槌の同十八万三千余円最も多くこれに次ぐは宮古の金十四万七千余円にして本県に於ける気仙沼、志津川鮎川はその三位にあり、蓋し鮮魚の集散地たる金華山漁場の近地にあり、牡鹿半島の漁獲を挙げこれを吸収呑吐するがためなり、鮮魚の輸入に関する範囲は前記の如くなりと雖どもこれが輸出先に至りては甚だ広く鉄道の通ずるところは年と共に販路を拡大し奥羽官線に於ける秋田、山形、東北本線に於ける福島、栃木、茨城勿論今や岩越線の全通により遠く新潟県下に及べり、若しそれ新庄横断線にして全通せんか、その山形秋田地方との交通は数層の便を増し販路の延長は期して待つべきなり、特に新潟地方日本海岸に至りては彼此漁期を異にして有無相違の漁大なるものあり、当業者の努力と共に相互利するところあるや明らかなり△鰹節は本港輸入貨物の第二位を占めその価額金百八万四千三百円の巨額に上りこれが輸出地は宮古の金二十三万余円、山田の金十七万一千余円、大槌の金十六万余円、気仙沼の金十五万二千余円大船渡の八万五千余円釜石の金八万余円を主とし爾余は岩手及本県沿岸よりの輸入に係りその大部分は東京、三重、関西地方に輸出しある現況なり

(五) 塩釜港貨物集散(二)

輸入貨物(承前)

△食塩は輸入総額金七十三万三千四円にして内金七十三万一千余円は神戸よりする赤穂塩の輸入に係りその仕向地は本県管内は勿論広く岩手福島の大半に亘り総噸数は一万四千噸価額金三十二万六千余円に上れり
△白米及玄米は主として石巻及松島よりの輸入に係り全部岩手沿海に輸出せりその石巻港よりするものは石巻港口の改修を了せざるため一時塩釜港を経て三陸汽船に積換ゆるに過ぎず他日石巻港の港口改修を了せば本港輸入米中三万五千石余は挙げて直接輸出するに至るべし△木材は岩手沿岸及本県本吉、牡鹿、桃生沿岸並に北上川沿線より帆船又は筏にて輸入するものに属しその石数二十万石価額金五十万八百余円に上りその内鉄道に依て輸出せらるるもの十二万二千余石価額金三十万五千余円その大半は東京にしてその他は仙台、名古屋、京都、静岡、福島宇都宮、大阪等に属し水路に由るものは基隆の四万余円大阪の四千六百余円を主とせり△大豆粕は北清地方の産に係り輸入の総額七千八百二十七噸価額金四十万四千余円にして過半は本県内に消費せられその余は福島、岩手、山形等に販路を有せり△缶詰の輸入は金三十八万八千余円に上りその内本県気仙沼よりするもの金二十八万余円岩手県釜石よりするもの金七万四千余円大槌よりするもの金一万四千余円にして皆鉄道に依て東京、神戸、小高、仙台方面に輸送せらる△竹輪蒲鉾は近年著るしくその販路を拡張し将来有望なる輸出品の一にして本年中輸入したる価格金十六万九千七百余円に上り気仙沼地方より産するもの最も多く全輸入の殆んど九割を占めその余は岩手及本県沿岸各地よりの輸入に係り仕向地は東北地方は勿論東海道、山陽、関西、中央各線に及び範囲の広きこと塩釜駅送出品中第一位を占め産出期間中多くは貸切車にて送出せらるる例なりとす△鯨粕及魚粕の輸入は総額金三十五万五千余円にしてその内小樽、函館、根室、門司等よりするもの金八万三千余円岩手県及本県沿岸よりするもの金二十七万二千余円その過半は本県内に消費せられその他は福島、栃木、山形、茨城、岩手、長野、大阪、神戸下ノ関、尾ノ道、神奈川等へ輸送せらる特に鯨粕は中央線辰野並に神戸、大阪、尾ノ道方面に多く輸出せられつつあり△塩魚及乾魚 塩魚の輸入は金二十三万九千六百六十三円にして内函館根室よりするもの金十五万六千余円その他は岩手県及本県沿岸よりの輸入に係りその仕向地は本県管内及東京、名古屋、大阪、栃木、茨城、福島、山形岩手、横浜、甲府、長野、三重、兵庫、下ノ関、静岡方面に輸出せられ又乾魚は主として乾鯣、乾鮑、田作及身欠鰊等にしてその価額金三十二万四千余円に達し身欠鰊の六千九百余円小樽、函館より輸入ありたる外総べて岩手及本県沿岸より輸入に係りその仕向地は概ね塩魚に同じ△魚油及鯨油の輸入は金十万六千百十四円にしてその大部分は岩手及本県沿岸各地より輸出は鉄道に依り横浜、大阪、兵庫等に販路を有せり△海草は若布、昆布、海苔等を主としその輸入総額金十五万五千二百七十六円に上り岩手県及本県沿岸より輸入し東京、大阪、横浜、神戸、宇都宮、那珂、湊等に輸出せらる△繭の輸入は金二十六万六千七百円にしてその大部分は岩手県沿岸高田、大船渡、釜石、大槌、宮古及本県気仙沼等よりの輸入に係り鉄道に依りて仙台、楯岡、岩沼、原ノ町、一ノ関、新田、涌谷、方面に輸出せらる△生糸の輸入は金十三万六千四百八十五円にして岩手沿岸高田、大船渡、釜石、大槌、宮古及本県気仙沼等よりしその輸出は鉄道に依て福島、伊達、福井、横浜方面販路を有せり△木炭の輸入は金十三万七千四百六十九円にして岩手県及本県沿岸各地並に北上川筋より輸入に係りその多くは鉄道に依り東京、横浜、静岡福島、楯岡、茨城方面に輸送せらる△鉱石は輸入総額金八万九百四十五円にして仕出地は本吉郡大谷、気仙沼及岩手県釜石等に属し仕向地は東京、助川、四ツ倉、原ノ町、王子、花巻等なり△豆類の輸入は金十一万四千八百五十円にして内金七万二千余円は函館小樽よりし他は本県石巻、気仙沼、志津川及岩手県沿岸各地よりの輸入にしてその多くは鉄道に依り東京、四日市甲府、浪江、上田、藤枝、銚子等に輸出せらる

(六) 塩釜港貨物集散(三)

輸入貨物(承前)

△人造肥料 の輸入は金六万四千八百八十四円にして全部東京、大阪、神戸より輸入に係り本県管内及び福島県岩手県等に於いて消費せらる
以上の外輸入品としては外米燕麦鉄物セメント紛炭鉄管薪澱粉雑貨等あるもその記述を省略す
輸出貨物

白米及玄米 米の輸出高は総額九万五千七百石価額金百三十三万九千八百十五円にして、輸出品の第一位にありその大部分は本県の産出に係り陸稲の小数は福島栃木に於いて生産する陸糯なりその仕向地別を観るに内九万石は岩手沿岸宮古釜石大船渡高田大槌小白浜細浦越喜来山田等に属し本県に於ける気仙沼志津川鮎川等に輸出するものは僅かに五千余石に過ぎず前記輸出額の確否を証せんが為めにこれを本県米検査所の検査額と対照したるに塩釜輸出米検査所の検査高約二万石松島同検査所約一万一千石石巻同検査所約三万一千石及本県各地(主として古川小牛田石越方面)より鉄道に依り輸入したるもの約三万二千余石合計九万四千石にして前記数量の信認し得べきを知れり
雑貨 本項は蝋燭マッチ紙類その他輸出品種列記以外の日用品食料及小間物にして輸出総額金百十五万余円に上り実に輸出品の第二位を占めその仕出地は仙台塩釜等に属し仕向地は岩手県及び本県沿岸なり
石油は新津、柏崎、沼垂、黒井、雄物川、東京、新潟、野内、松崎等の各地より鉄道にて輸入せられ更らに汽船及び帆船等に依って岩手県及本県沿岸各地に輸送せらるその輸出額金二十九万三千余円なり
煙草は仙台及び盛岡よりの輸入にして総べて岩手県及び本県沿岸に輸出せらるその総額金二十万四千八百余円なり
和洋酒は東京横浜半田仙台増田亘理岩出山山形花巻米沢水沢福島等より輸入のものと本港製造のものとありその総額金二十一万六千余円に達しこれ等は総べて岩手県及び本県沿岸各地に輸出せらる
綿布は仙台東京浜松加茂和歌山盛岡水戸等より鉄道にて輸入し更に岩手県及び本県沿岸各地に輸出せらるその額金十九万六千余円なり
砂糖は東京横浜仙台等より鉄道に依り輸入し更らに岩手県及び本県沿岸に輸出せらるその額十三万二千余円なり
食塩は神戸より汽船にて輸入し更に本港より岩手県及び本県沿岸に輸出せらるその額金十二万円なり
石炭は福島県綴湯本平、磯原広野等より輸入し岩手県及び本県沿岸各地に輸出し多くは汽船の燃料に供せらる輸出額金十二万二千余円なり
陶器は仙台東京多治見四日市等の各地より輸入し更らに岩手県及び本県沿岸に輸出せらるその額金六万余円に達す
金物は仙台東京盛岡高崎等より輸入し更らに岩手県及び本県沿岸に輸出すその額金五万九千余円なり
製綿は仙台市東京製綿会社宮城分工場の製綿にして小樽室蘭函館根室等の各地に輸出せられその額金五万四千余円なり
甘藷は桶川猿田飯岡銚子旭町佐原等より輸入し更に岩手県及び本県沿岸に輸出せられその額金五万四千余円に達す
麦は大部分本県産に係り岩手県及び本県沿岸各地の食料品として輸出せられその額六千余石価額金五万一千余円に達す
菓子は和洋菓子及び水飴等にして東京仙台名古屋より鉄道に依りて輸入し更に岩手県及び本県沿岸各地に輸送せらるその額金五万六千余円なり
藁細工 縄及び莚は本県宮城郡地方製産のもの大部分を占め往々中村石越福島盛岡大河原等の各地より輸入せらるるものありその仕向地は岩手県及び本県沿岸の漁場にしてその額金五万円なり
木材は岩手県及び本県沿岸より輸入し大阪東京及び台湾の基隆安平打狗等に輸出せらるその額金四万八千余円に達す
麦粉は宇都宮東京仙台横浜等より鉄道に依りて輸入し岩手県及び本県沿岸の各地に輸出せらるその額金四万六千余円なり
粘土は福島県平より鉄道にて輸入し更に釜石鉱山に輸出せらるその額金一万八千余円なり
以上の外輸出品として紙肥料野菜茶果物味噌醤油等ありと雖も、その記述を省略す

其二 横断線と築港 完成後本県商工業に及ぼす影響並に之に対して施設すべき事項 仙台商業会議所調査

(一)

塩釜湾の築港並に陸羽横断線の開通は一は太平洋面に於ける北日本の門戸にして一は中央山脈を横断し太平洋方面と日本海方面を聯絡する公道なるを以ってその関係する所独り近接地方のみならず東北全体の開発上至大の効力あるべきは何人も認むる所にして塩釜港の如きは仮りに大規模の築港をなし大船巨舶自由に出入するを得せしめなば東北経済の振興と相俟ちその横浜湊に対する位置は恰かも北米に於けるシヤトルとサンフランシスコに対する位置に髣髴しその前途の発達容易に測るべからざるものあるべしと雖も東北現時の状態より見る時はその実現は前途頗る遼遠なりというべく差当り陸羽線の全通並に現今工事中の程度に於ける塩釜築港完成に依りて近き将来に本県商工業に及ぼす影響如何なるべきか左にその概要を記述せんとす
陸羽線全通の影響及び施設すべき事項

陸羽線全通の結果及影響に就いては大要之を左記の如く区分するを得べし
(一)旅客貨物運輸系統の変動
陸羽線全通の結果仮りに当市を起点とせば南に福島を経由し及北新庄を経由せる当市山形間に於ける環状線の中心は天童神町間に当り又た陸羽線経由及東北線経由の当市青森間に於ける環状線の中心は大鰐弘前間に当るを以って従来奥羽線に由りたる天童神町以北の旅客及貨物にして当市以北に対するものは当然陸羽線を経由すべく(新庄以北のものにして本県白石以北に対するもの同様)又奥羽線大館以北にして従来東北線を迂廻せるものは反対に大鰐以南は南走して陸羽線を経由すべしのみならず仙台山形間の如き哩数に於いては陸羽線の方約十九哩の増差なるも到着時間に於いては僅に十九分(貨物時間の如きは却って減少せり)旅客運賃に於いては二十銭の増差に過ぎざるを以て両地間の旅客は寧ろ板谷の難関を避けて陸羽線に由るもの多かるべし唯だ貨物の運賃に至りては哩数の増加に応じ通常噸扱一級二十六銭二級三十八銭三級五十銭方の増加なるを以って至急を要せざるもの並に重量容積に比し価格の低廉なる貨物は依然奥羽線を経由するなるべし尚お本県各主要駅を起点とせる貨物輸送の各分界駅は左の如し

[図表あり 省略]

(二)

陸羽全通の影響及び施設すべき事項

(二)商業勢圏の伸張
従来本県と両羽地方との取引は秋田能代大館その他に及びたるものなきにあらざりしも至って僅少にして青森を迂廻せる製板類奥羽線を経由する海産物を除くの外は大体に於いて運賃の関係上山形県新庄附近に限られたりしやの観ありしが陸羽線全通後は仙台小牛田新庄間に於ける哩数その他従来の奥羽線廻りに比し左記の如く大逓減を来たすべきを以て本県の商業勢力は陸羽線に依て西は酒田その他庄内地方、北は横手大曲並に秋田土岐に接近すること従来の奥羽線廻りに於ける山形方面に対するよりも更に一層近接の度を加うべしと雖も一方両羽地方殊に山形市と盛岡間に於ける哩数その他著るしく減少せる結果山形商人は本県の北部地方より岩手県に掛けて販路を拡張し来るべし即ち本県の商業勢圏は庄内地方及秋田方面に延び山形県の商業勢圏は本県北部地方より岩手県管内に伸張せんとするものなり主要駅哩程その他の比較を掲ぐれば左の如し

[図表((イ)哩程比較表)あり 省略]


[図表((ロ)時間比較表)あり 省略]


[図表((ハ)旅客賃金比較表(三等))あり 省略]


[図表((ニ)貨物運賃比較表)あり 省略]

(三)商品の種類
陸羽線全通後如何なる商品か両羽地方より来たりまた両両地へ向うべきかというに現在両地間に於いて取引せらるるもの並に運賃低減のため益々その取引を増加し及新たに取引を開始せらるべしと思惟せらるる重なる商品の種類を挙ぐるに左の如し

両羽地方より来るもの
織物類(殊に山形市及附近綿織物)清酒(山形秋田両県)漆器(仏壇其他山形産及秋田県川連其他漆器)製板及木材(秋田県)石油(発動機用其他秋田)銅鉄器(山形)曲木細工(湯沢)生果、製紙原料(新庄其他)草履表(天童附近)銀細工其他秋田物産、鮮魚庄内米、木炭(新庄附近)其他
両羽地方へ向うもの
鮮魚、鰹節其他干魚類、蒲鉾、鰮麺、大豆、肥料、海草、竹材、硯及石材類、竹行李、硝子器、貝塗漆器、味噌醤油、古着、漉返、傘綿、石炭、外米、和紙、畳表、其他

以上の内両羽地方より移入せらるべきものに付ては綿織物は山形商人に依って恐らく本県北部地方より岩手県管内に至りて販路を拡張せらるべく清酒は従来米沢その他山形産に加え更らに秋田品の輸入を増すべく秋田能代大館辺の製板類も運賃の逓減と共に輸入を増加すべきも庄内米は彼我両地とも米穀の主産地たる関係上主として本県違作の場合若しくは夏季在米不足の場合等専ら価格の相違より移入せられ、木炭も本県産昇騰せば追々新庄附近より移入あるを見るに至るべし、次に本県より両羽地方へ移出するものに付ては従来運賃の関係上秋田方面に対するものは極めて僅少にして中には不引合のため全然移出せられざるもの尠なからざりをし以て陸羽線全通して運賃並に時間減少せば数量並に種類に於ても増加すべきは勿論にして若し詰め鮮魚類、蒲鉾類は輸送を劇増すべく竹行李、傘類並に硯その他石細工類も販路を拡張せられ中形以下本県特産の紺染物は秋田県に有望なるべく又和紙並に畳表は秋田県管内産額寡少にして遠く府県から供給を仰ぎつつあり只当地産とは一尺を異にする所あるを以て寸尺を改良せば本県より輸出するを得べく味噌醤油類は本県は従来隣県に対し多少の輸出をなしたるに反し両羽地方は他の輸入を仰ぎ居れるに徴して今後品質の改良を図らんには清酒の輸入に対抗して同地方に販路を開拓するを得べし又た硝子器類の如く製綿の如きカーバイドの如き当市の産額を増進せば頗ぶる有望なるべく野菜類も名古屋附近より富山県地方へ供給すると同様有望にして又た仲継品として鉱山用石炭その他当市商人に依りて供給すること亦難からざるものあり

(三)

陸羽全通の影響及び施行すべき事項

(四)物価に及ぼす影響
陸羽線全通し両羽地方に対する輸出並に輸入増進せば地方物価に如何なる影響を及ぼすべきか、従来鉄道開通のため地方商品の価格に頗ぶる顕著なる影響を及ぼし甚だしきは低廉なる同種品若しくは類似品の輸入に依り地方物産の漸次圧倒せられし事例も少なからず例せば日鉄線開通の後(一)京浜地方より輸入する雑貨その他は一般に低落しこれと同時に(二)販路を拡大せられたる本県絹織物埋木細工並に鮮魚類が価格昂進し次に(三)低廉なる人造藍その他の輸入に依り本県地藍が需要激減して次第に衰弱し又た山陽塩の輸入に依りて一時本県塩等の衰退を来たし駿河産紙その他関西地方の和紙輸入に依り本県製紙業が大打撃を被むるを免れざりしが如し(酒田線全通後同地方に於いても輸入雑貨類は一般に安価となりし傾きありとは同地会議所の報告に見ゆる所なり)然れども以上の如き影響は鉄道開通前に於ける交通不便の程度及び輸出入商品需要供給の範囲並にその価格の如何に関するものにして如何なる場合に於いても同一なりと云うを得ず今陸羽線全通後の結果に付き運賃低減の度合並に彼我両地に於ける需要供給の範囲その他を対照する時は輸出品に在りては販路の拡張するに随い気配を強むるものあるべく輸入品に在りては運賃の低減せるだけ気配を低下するものあるべしと雖ども然れどもために同種品の相場その他に対し著るしき変動を起すべしとは期待し得ざる所なり(当市各当業者の如きも概ね差したる影響なかるべしと云えり)故に若し秋田地方の製板木材類輸入のため地方の木材市場に変動を起し山形秋田両県清酒輸入増加のため本県清酒の価格低落すべしと云うが如きは杞憂に属すと云うべし(岩越線全通後の新潟地方に見るに福島県より輸入増加し又は新に輸入し来るものなきにあらざるも在来商品の価格に付ては別に影響を及ぼす□云えり略ぼこれと同一の状況を見るに至るべし)然らば陸羽線の全通は地方物価に何等の影響なかるべきかと云うに両地共通の商品に付いては暴騰暴落を緩和してこれを平準に近かしむる効尠なからざるべし例せば麦作その他の場合に於いて本県の米価暴騰するとせば直ちに庄内米侵入して緩和すべく製板並に木炭類も同様にして又た輸出品に在りては近海豊漁にして鮮魚市場に溢るる如きことありとせばその過剰は東京方面様直ちに両羽地方へ吐き出され比較的価格を維持するに至るべき等暴騰暴落を緩和する効力は従来に比し一層顕著なるものあるべきなり
(五)金融に及ぼす影響
陸羽線全通して本県と両羽地方との商取引が漸次頻繁を加うるに至らば為替取組高の如き亦漸次増加すべきは勿論にしてこれを岩越線全通後の新潟市に徴するにその福島県に対するものは左の如き増加を示しつつあり

[図表(大正三年上半期)あり 省略]


[図表(大正三年下半期)あり 省略]


[図表(大正四年上半期)あり 省略]

(附記)酒田線全通後の酒田町に於いては主要物産たる米穀は汽車開通以来東京へ向い絶えず輸送せらるるを以って従前は船便のため冬期間困難なりしも金融の調和を助長し極めて円満の状況を呈するに至りたり陸羽線全通の結果は酒田線開通後の酒田に於けるものと聊か事情を異にするものあるべしと雖ども岩越線全通後の新潟市に於ける如き為替取組高の増加は当然期待し得べき所なるべし
(六)施設すべき事項
陸羽線の全通に対し本県に於いては如何なる施設を要すべきか塩釜築港に付いての施設を共通すべきもの尠なからずと雖ども第一陸羽線に沿う主要の道路を改修して少なくも貨物運搬に不便なからしむる事渡波石巻間並に石巻小牛田間より陸羽線に接続する海産物その他の輸送に不便なからしむる様各種交通機関の改良就中現在の仙北軽鉄を国有に引直すの如きは尤とも必要なるべく又鳴子その他沿線温泉地に於ける旅館の改良及設備を計らしむるも要務にして次ぎに産業に対しては実質ある同業組合並に産業組合の設立を奨励して県外に輸出すべき物産の改良を図り例せば畳表の如き和紙の如き漆器及木製玩具の如き併せて低利資金融通の途を講ずるは主要の事項なるを認む

(四)

塩釜築港完成後の影響及施設すべき事項

築港完成後は現在の如く荻の浜を経由するに比し艀船その他の費用に於て著るしく減少すべきのみならず(商品に依って異なるも一噸に付大約一円乃至二円内外減少すべし)と海陸聯絡の便宜、荷役の迅速、倉庫の設備等築港に伴う百般の便宜を亨有すべきを以て従来の輸出入品は益々輸出入額を増加し又た運賃その他の関係上従来不引合なりしものは新たに輸出入を開始するに至る等商工業を刺撃して地方産業の発達を促進すべきは勿論ながら鉄道開通の場合と異なる地方物産と競争品侵入してその圧迫を被むる如き憂は先ずなかるべし蓋しこの種の商品は綿織物の如き和紙の如きその他概ね鉄道に依て輸入せられ海運に由るもの甚だ少なきを以てなり而して築港完成後に於て輸出入する商品の種類は如何なるべきか先ず現在の状態を見るに三陸沿岸に対しては大部分海産物及び缶詰その他多少の海産製造物を輸入する代り米穀酒類その他食料品、日用雑貨品及び鉄物類等既製品を輸出するも京浜阪神その他全国の大市場に対しては外米砂糖及人造肥料類は暫らく措くも清酒洋酒菓子鉄器木綿等概ね既製品を輸入して本県よりは石盤スレート魚油及び些少の節類を除くの外他は木材、石材、海草干魚及び米穀等大部分半製品若しくは原料品を輸出し又た北海道に対しては各種海産物、大豆、雑穀、馬鈴薯、セメント、下駄材、石炭等を輸入して硯、石盤、石材、製綿、白米、鶏卵、節及び固形苦汁等を輸出しつつあり思うに貨物の輸出入に於いて理想とするところは半製品若くは原料品を輸入して各種の既製品即ち工産品を輸出するにありて港湾の著るしく発達するその因由の一も亦此にありと称せらるるものなり(原料品類は供給時に制限なきを得ざるも工産品は販路次第如何ほどにても増加し得べきに由る)この点より見る時は本県港湾が京浜阪神その他大市場に対する関係に於いては反対の現象を呈しつつあるは遺憾なきを得ざるも産業幼稚にして彼我経済事情を異にする以上亦已むを得ざるところにしてこの傾向は築港完成後に於いても暫らく持続すべしと雖も北海道方面に対する現在の輸出に至りては甚だ不振にして東北各県並に北越地方中未だ本県の如く不振の地方あるを見ざるを以て築港完成は地位相当に増進し得ざるにあらず、否な必らず増進せしめざるべからず、而して如何なる商品が北海道の如何なる方面に向い輸出し又は増進せらるべきかというに現在本県より輸出する白米、鶏卵その他前記諸品の外北海道各地に於いて需要せらるるものは大略

味噌、醤油、清酒、素麺、焼酎、梨子、畳表、茣蓙、竹行李、箪笥、傘、履物、麻裏草履、和紙、蝋燭、太物、合羽、鼻緒、毛筆、漬物、縄その他各種藁細工品等

にして殆んど枚挙に遑あらず、この内本県に於いては現在の儘若くは多少の改良を加うれば何れも直ちに輸出せらるべきもの多く(現在に於ても輸出せるものなきにあらざるも至って僅少なり)又たその輸出の方面に付ては函館殊に小樽地方の如き北越地方出身者大部分を占めこれ等の商人ありて専ら自国の商品を取扱い且つ従来北陸筋との船廻りの便利ある関係上その地盤も相応に牢固なるものある如くなればこれと同種品なる本県商品の競争は容易の業に非ざるべく勢い室蘭、釧路その他東南海岸新開地に向うの外なかるべしこれを地理的関係に見るも他の東北各県並に北越地方に比して本県はこの方面に販路を開拓するを有利とすべし特に北海道に於ける東北海岸は今や開発振興の機運に向いつつあるをや
(附記)北海道に対する本県輸出業の振わざるは船舶寄港度数の少なきに比して運賃の割高なる等諸種の原因あるべきも亦常に当業者の資力薄弱なること、取引対手の選択を誤り代金の回収に失敗すること多き等も関係するが如くなるを以って輸出者はこの点に付いて注意を要す
次には港湾背後の経済地域に対する関係にして後方の経済地域大なれば大なる程消費力並に生産力とも大なるが故に随ってその商港の発達すべきはいうまでもなしこの点より見る時は塩釜港は横浜より函館に至る五百海里の間他にこれと匹敵すべき港湾なく後方には面積三千余方里、人口三百四五十万にして農産、水産、工産、鉱産その他総生産額二億四七五百万円を包有する宮城、岩手、福島の三県の殆んど全部及び山形県の半部余を地域とし尚お三陸沿岸と北海道方面に対しては関東平野の一部たる栃木、茨城両県の幾部をその勢力範囲として現時既に貨物を輸送しつつあるを以てその経済的潜勢力の大なる予想の外にあるべく従ってこれ等後方地域の発達する所にしてその結果委托販売業者その他大なる問屋業を営むものは各地に対する商権を握るに難からざるべく金融機関の活動もこれに連れて増大し又た倉庫業、鉄工業、造船業等の興起すべきはいうを待たざる処なり

(五)

塩釜築港完成後の影響及施設すべき事項

施設すべき事項
塩釜築港に対しては施設すべき事項尠なからずと雖も最も急務とすべきは海陸聯絡に関する交通機関の改良及設備にして各主要地間に通する本県々道の改良就中仙台塩釜間に於ける新道の開鑿の如き最も必要なり現時仙台塩釜間の道路を始め是等の県道不良にして貨物運搬に多大の労費を徒消しつつあるは既に世人の訴うる所なり、次には運河開鑿にして曾て県に於ても其計画ありしやに聞きたりしが旧藩時代に於ける御船堀跡に運河を開鑿して仙台市と塩釜間に於ける貨物運送の便を計るべし元来仙台市が海浜に近き大都会として之を通ずる舟揖の便なきは一大欠点なりとす次に仙台湾と(石巻を包含す)三陸沿岸並に北海道との航路を近接し聯絡を円滑にする為め女川湾より万石浦及石巻間に於ける運河を開鑿することは早晩之を実行せざるべからず此の工事は固より経費上の大問題たるに相違なかるべきも三陸沿岸が太平洋岸に於ける大海産地にして又現時塩釜港に於ける輸出入総計一千二百余万円の内其一千万円強が実に三陸沿岸に対する輸出入なるより見るときは同地方は実に本県に取りて一大宝庫なりと云うべく特に仙台湾と北海道との航路が金華山沖を迂回するの不利なるに徴して前記の運河を開鑿して其聯絡を円滑ならしむること塩釜港の附帯事業として必要なるのみならず又本県経済の発展上急務なり又た山形仙台及塩釜港を直接聯絡せしむべき交通運輸機関の布説は最も急要の問題にして本県官民が山形県官民と協力して実行を期せざるべからず、次は遠洋漁業並に海産製造物の奨励にして此の両者は県に於ても既に奨励しつつあることながら之を鉄道輸送に見将た海運に見るも本県より県外に輸出せられ其の販路益々拡大するものは実に海産同製造物に係るもの多きを以て更に一層之を奨励し其生産力を増進するは実に本県産業上の急務なり次は工業組織の改善にして本県の工事は或特種の事業を除くの外総て資金の欠乏を訴い生産力微弱にして且製品整一ならざるが為め多数の注文に応ずる能わず徒らに地方の小地域内に於て競争しつつあり故に堅実なる同業組合若くは産業組合の設立を奨励し共同一致して生産力の増大を図らしむると共に製品の統一を期し一面に於て低利資金融通の途を講じ併せて買次所其他販売機関の設立を奨励するは築港完成後本県工産品をして北海道其他に対し発展せしむる要務なるべし次に塩釜築港を広く紹介して関西其他の企業家資本家等を招致すべし塩釜築港は未だ世上に周知せらるるに至らず随って何等新事業の計画なきは未だ同業家資本家等の耳目を惹く能わざるは由るべし故に広く之を世上に紹介し経験ある企業家及資本家を招致するは築港に附帯して地方事業振興の為め必要也(築港を利用して経営し得べき事業肥料製造の如き紡績業の如き有利の事業尠なからざるべし)
当地に希したきは当業者を選抜して浦塩方面を視察せしむるにあり現在青森県に於て草果木材醤油木炭及雑品新潟県に於ては食塩野菜果実醤油其他を輸出し塩鮭塩鱒を直輸入しつつあるも本県に於ては未だ何等輸出せしものなし之れ航路の関係其他諸種の原因あるべきは勿論乍ら又同地方の実況を知悉せさるに由るべきを以てなり
(附記)
新潟に於ては開港以来二十余年間外国貿易としては毫も見るべきものなく曾て外人が帰国の際僅かに携帯せる土産物を海外輸出品として計上せしを見しことありしが明治二十二年頃に至り偶々露領沿岸地方に渡航して帰り盛んに同地方交易の有利なるを吹聴せしものありしを動機とし数年ならずして漁業用食塩其他数万円の商品を輸出するに至りしが更に又此の露領輸出が動機となり同地方商人の気風を一変し漸次清韓印度北米其他に直輸出入を為すに至りしものなりという記して参考に資せんとす(完)


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