新聞記事文庫 逓信事業(8-065)
大阪朝日新聞 1936.2.16(昭和11)


居留民団長らと朗らかな交歓

法人の活躍振りを聴く

上海□本社日支国際電話の第一声


東亜の空を結ぶ待望の日支国際無線電話の開通の日−十五日午後一時本社では真先に民間第一通話を獲得して国際都市上海へ輝かしい交歓通話を行った「もしもし」と呼出しの挨拶に応じて海を隔てる二千キロの電話口にまず現われたのは上海日本人居留民団長甘濃益三郎氏、それから上海工部局警視総監補田島昶氏−いずれも日支親善の佳き日を喜ぶ力強い声が手に取るようにはっきり伝わる

本社 モシモシ甘濃さんですか、こちらは朝日新聞社ですが本日はどうもお目出度うございます
甘濃 ハア私が甘濃です、どうも有難う存じます
本社 今回は居留民団長の大役を引受けられ、さぞ御面倒なことでしょう……
甘濃 いやどうも私も出来るだけ誠意をもってやる覚悟です
本社 最近の日本人居留民の数はどれくらいですか
甘濃 昨年の国勢調査によると二万八千人です、上海事変前と大差なく却って多少増加しています、欧米人の方は増加しませんその原因は上海の財界不況のため欧米人の仕事がなく引揚げるものが多くて新しく来るものがないからです
本社 日本人は何故殖えるのですか
甘濃 勿論不況ではありますが紡績方面の影響がなく、まア自然増加ですね在留法人の景気はよくなくとも踏み留まって頑張っているのです、土着の商人も非常に困っているが是非とも上海で復興する悲壮な決心を固めているのです
本社 排日の状況は?
甘濃 これは一口でいうと表面的には好転しています、商売人の方から見ても排日貨は現在見えないようです
本社 上海事変救済の復興資金の活用はどうですか
甘濃 総額は五三十万ドルですが現在四百五十万円貸出されています、不景気のため償還期間延期の運動が起きていることは事実です
本社 上海の四月の市参事会員選挙には現在日本人二名が三名に勢力を増大するそうですね
甘濃 それはまだ確定しませんが日本人の市参事会員三名を是非出したいと目下準備中で候補者を選定しています、私は在留日本人を代表して内地の皆様に朝日新聞を通じてよろしく御礼申上げます

続いて上海工部局警察警視総監補田島昶氏が電話口に出る、まるで市内電話でインターヴューするほどの明瞭さだ

本社 もしもし田島さんですか、こちらは朝日新聞ですが実は「犯罪の都」といわれる上海の最近の犯罪状況についてお聴きしたいのですが
田島 実は先程も甘濃さんからもお話がありましたが、なにしろ最近の不況からこそ泥が非常に多くなって悩まされておりますしかし上海特有の犯罪だといはれていた人浚いとかその他の大事件はだんだん少くなっているように思われます
本社 中山水兵狙撃事件の犯人については……
田島 あの事件については懸賞付で捜査を続けていますが遺憾ながらまだ目星もついておらない始末ですが、十分捜査する心算です、また外交次長唐有壬氏の暗殺犯人についても何分事件が仏租界に起ったことではあるし捜査に困難を来していますが、未だに犯人逮捕の端緒も掴み得ないような状態です
本社 過般起った上海らしい犯罪郵便局を襲ったギャング団はその後どうなりましたか
田島 あの事件は既に犯人も捕われてそれそれ判決も下って落着しました、主犯は江蘇省生れの坊さんだったが、これらは上海らしい犯罪のように思われますその他租界警察や支那警察との聯楽協調、それから共産党の動静、日本人巡査の活躍振などについても詳しく申上げたいと思うが時間がありませんのでこの次ぎの機会に譲りましょう、どうぞ皆さんに御紙を通じてよろしくお伝え下さい


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