新聞記事文庫 日本(28-073)
東京朝日新聞 1938.7.19-1938.8.2(昭和13)


戦時経済の実相 (1〜14・完)

本社記者の解説問答


(1) 近代戦即ち“資材戦” 物資調達が根本問題

超非常時、長期抗戦、堅忍持久、消費節約、勤倹貯蓄、国民精神総動員−今日の戦時体制の下になんと数多くのスローガンや掛声の多いことよ、然し今日はも早や単なる掛声や空念仏の時代ではないのである、国民は官も民も真に挙国一致、その実行において長期建設の大業に邁進せねばならぬ秋である、所が国民に果して此長期戦なり長期建設の意味が真に理解出来ているであろうか、よし理解出来ているとしても戦時体制に順応すべき戦時経済の実相をよく把握して、物資の制限なり、消費の節約なりのほんとうの意義を十分呑み込んでいるか何うか、如何なる労苦も長期の臥薪嘗胆も「何故我々はかくせねばならぬか」が十分解っていなければ国民的実行も又国民精神の総動員も頗る不徹底に陥る恨みがある、何よりも先に国民に事態の実相をしらせる事が必要である、所謂事態の十分なる認識を基礎として初めて国民精神は総動員出来るのである、そこでわが社はこの意味で戦時経済の実相を其要因から現状、将来の見透し等あまねく問題を捉え来って国民の理解徹底に資することにした、所謂国民に実相を十分呑み込んで貰って、そこから長期建設に備うる国民の一大覚悟と発奮を促さんとする意味である、その方法として社内各部門担当の専門記者が野村編輯局次長司会の下に「戦時経済の実相」と題して自由会談の形で左の如き問答会を開催した、今日以後右問答会の速記を連載し江湖の参考に資し度いと思う
問 戦時経済の実相というものが、解っている人もあるかも知れないが分っていない人が多いのじゃないか、政府が法律や規則を盛んに公布し実施しているがこれは只物指的のものでこれだけでは国民には分らない、又政府はその法律規則の運用について色々と物の制限禁止を為しているけれども、どうも国民によく徹底していないのじゃないかという憾みがある、吾々としてはこの際皆さんのような専門家にざっくばらんに今の日本の経済の実相は斯様である、国民としては斯ういう風にしてこの長期戦に耐え所謂銃後の奉公を全うせねばならにという一つの大きな指導的意味を含めてお話を伺いたいと思います
その意味に於て先ず真っ先に誰方かにお聴きしたいのは所謂戦時経済の全貌という様なものを大掴みに話して貰い度いと思います
A 全貌と云うか特徴と云うか兎に角それを考える前に、これは勿論誰でもが常識として知っていることですが近代における戦争と云うものは非常に大きな、以前には想像も及ばなかった程大量の物資を消耗するものだということを前提に置かねばならんのじゃないでしょうか、世界大戦後の二十年間各国の軍隊は機械化とか動力化とか技術化とか非常に急速に進歩して居る、然も従来からあった兵器も極度に性能が大きくなって来ている、そう云う機械化した大部隊が戦線数十里にわたって猛烈な戦闘をやるのだから近代の戦争というものは実に莫大な物資の破壊消耗を伴います
例えば最近の軍隊が非常の動力化しているという一つの例にシュタインベルガーという人がその数字を挙げている、それによると一個師団の軍隊が必要とする動力機関の数はタンク三十五台、トラック四百五十台、乗用自動車百三十三台、自動自転車二百台、そしてこれだけのものを動かすのには実に四万三千馬力という大変な動力が要る、それがないと一個師団の軍隊というものが動かないというのです、もう一つ近代戦はどの程度の銃砲弾を消費するかというと−これはポーランドの一軍事記者が一九三五年現在で調査したという数字ですが−それで見ると十五個師団兵力約十八万人の軍隊が一日に消耗する銃砲弾の数は、鉄砲の弾丸が小銃、重軽機関銃を合せて九十八万八千発、軽砲が九千発、重砲が三千六百発
−斯ういう風に吾々がちょっと考えてもどえらい消費が一日に行われる、近代戦は資材船なりということをいうが今日戦時経済を考えるにはやはり一応この点を前提にして置かねばならない
問 今度の事変で戦費は正確にいってどの位になっているんですか
A 戦費予算は、臨時軍事費特別会計という名前でとってあるのですが昨年の第七十一特別議会から、七十二、七十三議会の分を全部合せて七十三億九千万円という数字になっています、これは直接戦費として費われる分だから、これ以外に一般行政費にも事変関係の経費は相当計上されているわけです
問 日露戦争の戦費はどの位でしたかね
B 日露戦争のときはやはり臨時軍事費という名目でこれと各省の臨時支出を合せて十九億八千万円だったと思う、その前の日清戦争などはたった二億五千万円で形が附いています、今なら一会戦の費用にも足らんでしょう、それから世界大戦からシべリヤ出兵にかけての経費が十五億九千万円、大体そんなところです、だから戦費から見ただけでも、こん度の事変は日清日露戦争なぞとは比較にならぬほど大がかりなものといわなくてはなりません
問 よく戦費三百億円は平気だとか六百万円迄は大丈夫だとかいうものがあるがそんな莫大な戦費がうまく賄えるんですか
B 今日の戦時経済を考える場合に問題になるのは、前に述べたように戦費が非常に大きくなって来るという点に基本的特徴があるんですが、もう一歩進んでそれが単に金の問題−所謂戦費其ものの調達の問題−じゃなくて物資調達の問題に転化して来ると云う点に近代戦の特徴と今日の戦時経済の特異性があると思います、之が平常時の国家財政なら要するに財政収支のバランスが合いさえすればそれで問題は一応解決する、若干の赤字公債などが出ても必要とする物資は大体賄って行けるのです、ところが今度の様に戦費が七十三億円、そのうち物件費を仮に七割五分とすると五十五億円以上の物資需要が予定されている様になると、問題は財政のバランスをどう合せるかと云う問題ではなくなって、それだけの物資を如何にして調達するかという事が経済の出発点となり根本の問題になって来ます、戦時経済が進むにつれて物の予算だとか物の経済だとかいうことが幅を利かして来たのはそのためなんです、ところでこの戦争物資の大量調達ということから、我国における戦時経済の特質が現れて来るのですがそれは、これもよく知られていることだが、わが国には戦時資材の原料となる資源が比較的少いというころ、第二には軍需資材を製造する生産力の発達、つまり工場だとか機関設備の発達が十分でないという二点が問題の核心になって来るのです、勿論近代戦は非常に多種多様な物資を必要とするものでそのための資源を全部自分の国内に確保しているという様な国は世界中どこにもない、一番資源の豊富なアメリカですら、かつて軍事委員会の報告によると、二十六種の原料が不足しているそうだ、ゴム、錫、黄麻、硝石等の物資は全部海外に仰ぎ、羊毛、マンガンなども国内生産だけでは需要の半分若くは三分一を充たすに足りないと云っている、ただわが国の場合はその程度が非常に甚だしい、大概のものはあるが、その代り石炭だとか銅、マグネシュームなど極く僅なものを除いては肝腎の量が非常に少いんです
それから生産力と云うものも軽工業、例えば紡績その他繊維工業とかそれから雑品類の輸出産業とかそう云うものは相当発達して居るが戦争の資材を直接生産するような重工業、近代戦に重要な役目を演ずる化学工業の様なものの発達は比較的遅れている、この二つが日本の政治経済の、最近の色々な所政策に非常に強く影響して来ています、一方で大規模な戦争をやりながら、他方では生産力そのものをあわてて拡充しなければならぬ、生産力を拡充する為には工場とか機械とか更に物資を必要とする、そう云う物資は長く国内で供給出来ない、どうしても外国から買わねばならない、斯う云う訳でそれは国内の問題ばかりでなく此処に喧ましい国際収支と云う問題が非常に大きな、重要なポイントになって登場する訳です
これが、所謂準戦時と謂われた広田内閣の馬場財政から林内閣の結城財政にかけて、更に今事変が勃発して戦時経済に急速に発展して来たときに真先に国際収支の均衡と云う問題が取挙げられて来た理由なのです、戦時体制の整備と云うものが、真先に、例えば為替管理の強化だとか、金政策の変更、例えば金現送の開始だとか貿易統制だとか、そうした何かの形式で国際収支に関係ある部面が最初に戦時体制を執らねばならなかった大きな原因です

[図表(戦費の膨張)あり 省略]

(2) 需給統制に全力 戦争目的の遂行へ

問 戦争が経済戦であるとか、戦争の目的遂行のためには経済力を動員して行かねばならぬ、それには資源の確保、生産力の拡充とか或はそれに関聯して所謂国債収支の均衡を図るとか色々なこともあろうが今政府として既に戦争目的を遂行する為にどう云う様な政策を取って来ていますか
之を二つに分けてお尋ねするが戦争が始まってからどう云う政策を取って来ているか或は戦争前に何か色々準備して居ったかそう云う様なことに就て話を伺いたいと思う
A 「準戦時」という言葉はつまり戦争準備時代という意味にとってもよいと思うのですが、この言葉を自分の政策を説明するために初めて使ったのは死んだ馬場さんが蔵相時代だったと思います、即ち陸軍の七ケ年計画とか海軍の第三次補充計画とかいう国防充実計画を中心とした大きな予算編成、それから取引税とか財産税の創設というような戦時を予定した根本的財政改革、それは結局実現しなかったが、この辺が先ず一応戦時態勢への出発点と見てよいのじゃないでしょうか、ところが、いざ積極的な国防充実計画にとりかかって見るとえらいことが起ってしまった、丁度一昨年から昨年の春にかけての事ですが、それインフレだというので物価はぽんぽん騰る、見越輸入は激増する、其処で愈これはいかんというので去年の一月八日、従来は資本の海外逃避を防ぐことだけが目的だった為替管理令を改正してはじめて輸入為替許可制度というものを実施し、勝手な外国品輸入は罷りならぬということになったのです、この輸入為替取締りはその後も次第に強化されて、最初は月額三万円以上の輸入は政府の許可が要ルということになっていたのが、月額千円となり、今日では月額百円以上のものを輸入するには総て政府の許可がなければ出来ない、それから前に述べた様に物価が暴騰し、輸入が激増するのは国内の生産力発達が十分でないからだ国防計画を円滑に進めるためには先ず肝腎の生産力を拡充しなければならない、それには虎の子の様にして貯めた金を送り出してでも一時海外の物資を買入れて生産力の拡充を急いだがよい−というので去年の三月結城蔵相時代にはじめて日銀の金を海外に送り出したわけです
それからこれも生産力拡充のためですが、従来日銀は商業に関する金融だけに限っていたのを産業金融も積極的にやるということになった、これは日銀としては正に画期的な機能の改革だと思います、次に賀屋財政が登場して日銀の正貨準備を評価替してその評価益金で金資金特別会計を作ったり、産金法によって産金を政府に集中する様に工夫したり、貿易調整法によって輸出入貿易の統制、振興を図ったり、そう云う色々な法律を第七十一特別議会に出そうとしていたところへ、今度の事変が突発したというわけです
もっと根本的な対策としては例の財政経済三原則というやつで、国際収支の均衡、生産力の拡充、物資需給の適合ということを計画的にやろうというのでやっと手をつけていた、そんな訳で戦争準備にやっと取りかかったところへ、いきなり戦争がやって来たのだから、準備としては十分でなかった、軍備という点ではどうか判らぬが少くとも、経済戦の準備というものは十分出来ていなかった、そう思います
C 準戦時体制時の準備としてはA君がいったような経済政策の外に先ず最初に国内における制限の考えをもって代用燃料問題その他重要物資の代用の研究、それからボツボツ所謂資源局による資源調査の様なものが−之は政府としても今日こんな戦争があると云うことを予期して居たわけでは勿論なかろうが東亜の空気が相当謹白していると云う情勢に備えてやっていたのだと思うが、そういう資源動員に関する研究が机上から現実の問題に移されて来ていたように思われます
問 では愈々戦争になってからはどうですか、沢山の法律や規則や或はそれに基いての政策なんかも行われたがその説明をして下さい
A 金融の部面では先ず臨時資金調整法、これは極大雑束にいうと、事業設備の新設、拡張、改良などに費う資金を統制し、その資金の統制によって物資の需要を統制しようという法律です、それから国際収支に関する部面では、前にのべられた日銀正貨準備の評価替、金資金特別会計の設定、産金法、この産金法に基いて実施された金使用制限規則、これは九金以上の金属品の製造を許可制とし、その他種々の場合の金使用を制限したものだが−以上の様な金政策を強化し、国際支払手段である金を政府の手許に集中しようという法令が出た、その間為替管理法は勿論次々と強化された訳です
問 貿易部門の統制はどんな工合に進んで来たのですか
D 貿易部門では前にちょっと話が出た貿易及び関係産業調整法と云うのが制定されてそれがそのまま直ぐ休眠状態に置かれ、更に強化された輸出入品等臨時措置法と云う法律が第七十二臨時議会を通過した、これは非常に広範囲の権限を持ったもので日本の物資が大部分輸入に仰いでいる関係上、物資の輸入、それから輸出、それに国内における配給、それ等に伴う色々な命令も一切合財を含めた相当広範囲の授権立法です、それに基いて臨時輸出入許可規則と云うものが制定された、これは商工省令で、その別表によって甲号として輸入制限をするもの、乙号として輸入を禁止するもの、丙号として輸出を禁止するもの、丁号として輸入を確保して配給統制をするものという風に各々別表を仕分けて、先ずそれによって輸出入の全面的な統制に取掛った訳です
その甲号によって綿か、羊毛等の輸入制限が行われ、乙号によって二百六十何品目かの不用不急の民需品(一般の人々が日常生活に使う品物)例えば化粧品だのウイスキーだのの輸入が禁止され、丙号によって軍需品(戦争に必要な品物)の兎毛皮はじめナフタリン、硝酸、アンチモニー、自動車及び部分品からブラシ用の豚の毛まで十数品目の輸出禁止が行われました、また最後の丁号によって、これは極く最近追加されたものだが、白金や銅や錫などの国内配給統制が加えられた
こうして輸出入を統制して置いて、同時いそれに基いて今度は輸入される物資の国内における需給統制という様なことが非常に広範囲に開始されましたこれも民需の方は戦争だから我慢して貰っても仕方がないので全力を挙げて軍需向と輸出品原料に振向けようという建前で非常な馬力で需給統制にかかったという訳です

(3) 強力なる大黒柱 輸出入品臨時措置法の正体

問 それでは最近一番喧しい物資の使用制限だとか配給命令だとか、色々の統制命令が出ているが、大部分はその輸出入臨時措置法にもとづいているものなんですね
D そうです、それによって出て来た色々な物資の使用制限配給命令等を簡単に挙げると鉄では鉄鋼工作物築造許可規則というものが出来て五十トン以上の鉄鋼工作物は殆ど禁止的制限を受けた、これは極く先金五十トン以下の除外例もなくなって全面的に平和工作物は禁止されました、また銑鉄鋳物製造制限規則、これは南部鉄瓶が駄目になったので御存じでしょう、それに鉄鋼製品製造制限規則も出た、液体燃料では揮発油、重油販売取締規則が出来て五月から切符制が始まった、それから銅の使用制限、これは大砲や鉄砲弾の製造に向けるためなのですが、それから白金の使用制限も出た、白金というのは軍需向きの化学工業になくてならぬもので、矢張り軍事目的のための使用制限です、それから繊維製品の使用制限が非常に沢山出ました、この繊維製品の制限は前の色々な品と違って軍需品というよりは輸出向の原料を優先的に確保しよう、そのためには国内のし様を制限しようというために行われたもので、綿製品にステープル・ファイバーを三割以上混用させる規則、それから羊毛にステープル・ファイバーを混用させる規則という風に各品目毎に省令が出て居り、今この法令集を見ただけでも綿製品の規則だけで十五、六も出ており、それから羊毛製品の場合でも七つか八つ省令が出て居り非常に細かい統制に入って来ました
ところが折角綿製品の混用を続けて来たのだが六月末になって、混用だけでは手緩い、内地向のものは綿の使用は一切禁止するということになったため、それまでの綿の混用規則は御破算になって綿業管理の簡単な三省令に取りかえられてしまった、最近はそれだけ統制が進んだのです、それから薬品についてははじめ暫くなかったが昨年十月に硝酸製造命令が省令で出た、そのとき商工省の役人も云っていたが支那の戦場で皇軍が大砲を一発々々射つ度毎に生産能力の全運転を要求する−それほど重要な軍事資源です、この省令は硝酸の製造の全運転を命じたものでした
問 同じく物資制限と言っても直接軍需の必要によるものと、輸出増進の為にやるもの、そうした区別は
D そうですね、その全貌を見るためには先ず六月二十三日の物資総動員計画の発表に際し政府が声明した民需使用制限の三十二品目、話が長くなるが、いいですか−鋼材、銑鉄、金、白金、銅、黄銅、亜鉛、鉛、錫、ニッケル、アンチモン、水銀、アルミニユーム、石綿、棉花、羊毛、パルプ、紙、麻類、皮革、木材、重油、揮発油、生ゴム、タンニン材料工業塩、ベンゾール、トリオール、石炭酸、硝酸、ソーダ、加里、燐鉱石−これはみんな国内資源が不足で輸入を俟たねばならない物ですがこのうち輸出製品の貴重な原料としての意味を持っているのは棉花、羊毛、それからパルプ、このパルプは国内の紙の原料でもあるが他方に人絹の原料で重要な輸出製品向の原料です、それから紙ですが、これは紙パルプの輸入防遏のためです、木材が挙げられているのも軍需供給の意味もあるけれど主な目的は輸入の節約のためです、そういうものを除いた残りの商品は殆ど全部軍需向けの供給を優先的に確保するためのものです
最近では右の三十二品目のほかに商工省では工作機械の民需工業向けの供給を禁止することにしています、専ら兵器工業用にのみ集中させようというのですね、処で右の政府発表の品目のうち今日まで現実に民需消費の禁止的制限の為商工省令が出した品目は金、白金、銅、揮発油及び重油、銑鉄、綿製品、皮革、鋼製品、羊毛ゴム、米松、鉛、亜鉛、錫、ニッケル、アンチモンで、これに工作機械も近く制限するという発表があったから、実施中のものとこの確定的なものを加えると今日まで十八品目だけ済んだわけです、最も主要な品目からはじめて、これでもう峠を越えた形で、あとは木材と非鉄金属が若干省令になって出るでしょう、それ以外の品目は多分省令によらないで、法律の睨みによって配給を抑えて制限を加える方法をとうはずです、余り矢継早やに制限令が出たので国民は驚いたようですね
次に輸入でなしに輸出の厳重になった品目ではさっきも一寸話したように兎毛皮、これは軍隊の防寒用毛皮に使う、それから豚毛、これはみんな支那から入って来て居たが事変のため支那からの輸入が止まったので、寧ろこれはブラシ輸出のための原料確保と云う様な意味です、ナフタリン、硝酸、これは軍需的化学工業の原料は一寸でも外に出すまいと云うことです、それから麻類、これは今外国からは殆ど入って来ない、日本でも勿論出来ない、これは軍事上非常に重要なものです、それから話は非常に細かくなりますが屑の綿繊維の輸出が禁止された、日本から襤褸だけでも千五百万円という位大きな輸出でした綿襤褸は再生されてパルプの原料になるのです、アンチモン、自動車、自動車部分品という様なものです
問 使用を制限したり或は禁止したりした品目は相当あるのですが、それに代る何か方策として、政府の方ではどういうことを考えているか例えば綿布に対してス・フを省令しているとか、何とか云う類で
D それに対する対策としてはなるべく不要不急の国内の消費を節約して貰う、使わないで済ませると云うのが第一番です、それが一番徹底したのは綿の内地使用禁止でした、だがそれでもどうしても消費しなければならぬものは代用品で補って行く、で代用品の生産というものは非常に積極的に奨励している次第です
問 その内容はどう云う物ですか
D 代用品全部ならべれば大変だが、早い話が皮革の使用が制限された対策としては代用皮革がある、また動物性の代用皮革だけでなく、紙でつくった人造革もある、こう云う様な代用品で間に合わせる行き方が一つ、それから全然新しい資源を発明によって作り出して行くと云う二つの行き方に拠って居ます、いま商工省が代用品工業の企業化を奨励しているのは、人造ゴム、合成樹脂、大豆カゼイン、合成タンニン、尿素、代用麻繊維、水生動物ゼラチン、鯨皮による代用皮革、パルプの新原料、大豆カゼインによる人造羊毛といった十種です
問 段々聞いて見ると輸出入臨時措置法という法律はいよいよもって大変な法律だが、それの内容を一通り説明して見てくれませんか、そう云う大きな権力を持った法律を
D 臨時措置法の第一条には次の様に規定しています「政府は支那事変に関聯し国民経済の運行を確保するため特に必要ありと認むるときは命令の定むるところにより、物品を指定し、輸出又は輸入の制限又は禁止をなすことを得」−詰まり政府が必要ありと認めたらその物品を指定して輸出又は輸入の制限又は禁止が自由に出来るという条文でこれがさっきお話した輸出入禁制甲、乙丙、丁各号の基本立法です、それから最近物の使用制限で非常に活躍している条文は第二条です、政府は特に必要ありと認めたときは輸入の制限その他の事由により需給関係の調整を必要とする物品について次のことが出来る
即ち輸入の制限その他の事由によってどうしても国内の需給関係を何とかしなければならぬと云う物品について斯う云うことが出来る、銅製品の製造に関して必要な命令を出すとか或は制限をするとか又はそれを原料とする製品の配給から譲渡、使用、消費についてまで必要な命令が出来る、わが国の物資が大部分輸入品であるだけに輸入の禁止制限から製品の製造、それから配給譲渡そう云う消費の部面にまで広汎な権限を持ったということは余ほど大きな影響力を持つ訳です
初めこの法律が出来たときに役所でも大分問題になったが注文には「輸入制限その他の事由により」と書いてあるが「その他の事由」というのはどういう意味か、ここに法律の妙味がある訳で各種の制限を厳重な意味での輸入品目でなくても他の品目でもやらせるという途が講じてある訳です、例えば石炭は九割以上も国産で間に合い輸入は九牛の一毛だがそれでもこの条文にあてはめることが出来る、それから輸入品又は其製品の配給譲渡使用又は消費に関して命令が出来るとあるが、配給という文字も普通に物品が東京から大阪へ配給されるというだけでなしに、括弧して「実は値段も含む」というような立法解釈がそのとき出来たそうだ、法制局もはじめは一寸頭をかしげたが結局同意しました、だから単なる物の需給だけの法律でなしに価格統制迄一切できる、そこ迄広範囲な立法なんです
現に今回制定された物品販売価格取締規則−これは物品全般に対する価格管理令ともいうべきものですが、これなんかが一番よくこの事情を物語っている、この規則も臨時措置法に基いて制定されたものです、所がいいですか「物品」という以上は物品全般で、敢て輸入品目には限られない、漁夫のとった生魚でも、お百姓の作った大根でも含まれる、そういう風に先ず「その他の事由」が活用されている、同時にその価格は今の第二条この配給という文字の中に値段も含まれているという解釈から出て来たものなのです
だから法律の名前も「輸出入品等に関する臨時措置に関する法律」といって特に「等」という字が挿入されている、これはこの際役人のインチキ呼ばわりをすべきではない、これだけ広汎な権限が含められているから事変下の戦時経済の大黒柱として大きな活動が出来て来た訳なのです、国家総動員法の該当条項を発動しなくても済んで来ているのはこういう所にあるのです
問 その物資自体は制限する必要はないが他の物資との釣合上制限とか禁止を受けるとかいうことはないですか
D そんなものはありませんね、政府が最近指定している品物は国家としてはどうしてもやらねばならぬ−消費の制限をしなければならぬものばかりで、決して他との釣合上お相伴をさせているという様なものはないと思います

(4) 狙い所・物の統制 資金調整法の目標

問 輸出入措置法と為替管理法の関係と云うものはどうなっていますか
A 前にも云った様に現在では外国から一ケ月百円以上の品物を買わうとすると、その代金支払のために必要な為替はすべて大蔵省の許可をうけなければならないことになっている、もし代金が送れなければ品物は買わうにも買えない、その意味で、輸出入臨時措置法に基いて商工省が出した輸出入許可規則と大蔵省の輸入為替許可に関する命令とは大体同じ目標に向って取締りを行っているといえます、ただその場合取締の基準は違う、一方は絶えず為替資金の多い少いをにらんでいて許可不許可を決めてゆくのだし、他方は物の需給という立場から統制する、つまり同じ対象物を金と物と両面から取締ることになるわけです
そこで具体的にはどんな手続になっていたかというと、例えば棉花を輸入するとする、その場合棉花の輸入商は先ず商工省に対して輸入許可申請書というものを出す、商工省では原料の供給状態を考えてこの程度のものは必要と認めるとそれに許可書を与える、そうするとその輸入業者は今度はその輸入許可書を添えて大蔵省に輸入為替許可申請書を提出する、そうすると大蔵省は全体としての為替資金の状態を考えて許可の当否を考える、若し許可になればその輸入商は其処で初めて棉花の輸入商談を取極めることが出来る、そういう順序で、非常に煩瑣な手続が要ることいなっていたのです、然し考えて見るとこんな馬鹿な話はない、同じ政府が、同じことを取締るんだから、最初から為替資金と物資需給と、双方をにらんで管理してゆけばよいわけです、お役所では手続の煩瑣なことなぞはピンと来ないが、そういうことのために取引上の商機を逸するということが非常に多かった、例えば手続が煩瑣な為に商談が遅れるということがある
又商工省の輸入許可を得れば輸入為替許可の方は当然許可を得ることが出来るだろうというので引合をやり話を進めたところが、大蔵省では資金が足りないから許す訳に行かないとて押えられる、そこで海外の輸出商との間にゴタゴタが起きるという様なこともありました、ところが最近になってそういう馬鹿々々しい手続は簡易化しようじゃないかということになった、そこで最近先ず大蔵省の為替局輸入課の執務場所を商工省の庁内に移したのであります
問 その結果手続は相当簡易化されましたか
D 只今では執務場所は商工省の玄関を入って左右両側が大蔵省の為替局の分室で同じ屋根の下で商工省の貿易局輸入課と連絡を執って執務しています、輸入許可の申請と為替許可の申請は今のところ二通出して居ります、役所が別ですから二通出しては居るがあっちこっち持廻る必要はないし以前に較べると許可の決定が非常に早くなった様です、そこで今度は法制的にもそれを一元化しようじゃないかというので輸出入許可規則の中の輸入制限と配給統制、この二つ−即ち別表の甲号と丁号というのは廃止しよう、そうして大蔵省の為替許可の運用でやって行こう、それを基準にしてやろうということに大体話が進んでいるのです
問 大蔵省が許可する許可しないは資金があるかないかに依るということですが、そこをもう少し具体的に……
A 外国から物を買うにはドルとかポンドとか外貨資金が用意されていなければならぬ、それは品物を輸出した代金と海外からの保険料の収入、それから外国間を貨物を運んで得る船舶の運賃収入−即ち海運収入、或はブラジルとか南洋とかの移民の送金、そういう貿易外の収入、それに産金を現送して売った代金、そう云うものがつまり外貨資金となるわけです
政府は一年を通じてそう云う外貨資金が幾ら手に入るか、他方輸入代金その他の支払が幾らになるかということ、つまり全体としての国際収支の見透しというものを立てているわけだが、更にその外貨資金は毎月平均して入って来るものではない、多い月もあれば少い月もある、そこで例えばこの八月には幾ら入るかという見当をつけておいて、仮に一億円入る予定になっているなら、物を買う方も大体その見当で賄わなければならぬ、それ以上は輸入為替を許せないということになるわけです
問 随分窮屈なものですね
A そう、これが普通なら、つまり国際関係が円満にいっている時なら不足の分は一時外国銀行からでも融通して貰うということもあるわけですが、今日はそれが殆ど期待出来ない、だからどうしても買わねばならぬものがあれば金を送らねばならぬということになります
問 外国に旅行するのが喧しいのは為替管理法で喧しいのですか、今はどういう風になって居りますか
B 海外に旅行する場合は、外国通貨を千円それから信用状か送金為替を一年間を通じて千円までは勝手に持って行ってよいが、それ以上になると政府の許可がなければいけません、ではそれ以上はどういうことになるかというと、これはその旅行者の社会的地位によって許す程度が違います、学生が留学する場合と徳川公が赤十字社の総会か何かで出掛けて行くのとでは大分違うわけだが、これはどうも已むを得ないのです
問 用向きにも依るのですか
A 勿論そうです、格別規定の様なものはないが、国家にとってどうしても必要だとか、時局関係で必要なものは優遇される、留学するとか、漫然と視察旅行をして来たいなぞというのは、まあ許されんでしょう
問 話は違いますが消費の節約とか、制限とか、使用の禁止とか、こういう問題と資金調整法との関係はどういうことになりますか
B 資金調整法の第一条には『本法は支那事変に関聯し物資及び資金の需給の適合に資するため国内資金の使用を調整するを目的とす』と規定している、資金の需要を調整するというのも一応の目的ではありますが、それよりも寧ろ資金に伴って物資が需要される、物が消費される、そこを資金の側から調整するのが立法の主要な目的なのです、だから資金の需要と云っても借入金を返済するために払込を徴収するというような場合、つまり物資の需要を伴わない資金ならこの法律に引っかからない
問題になるのは事業設備の新設とか拡張、改良などを行う為の資金なのです、ただ鉄鋼築造物の許可規則とか、銅の使用制限とかいうような規定は直接にその物資を狙って使用の制限をするのだが、資金調整法は資金を通じて全体としての物資の使用を統制して行く、そして時局柄余り必要でない事業に物資をとられることを統制する、それが眼目です、そこで仮に資金調整法で工場の新設が許されたとしても、さてその工場を鉄筋コンクリートで建てようとすると、今度は鉄鋼建築物許可規則というものに引っかかって来る、鉄筋は贅沢だから木骨で我慢しろというようなことになるわけです、つまり二重にも三重にも網がかかっているようなものですね

[図表(本邦貿易外収支)あり 省略]

D ところが最近物資の統制が非常に窮屈になっている、例えば鉄鋼なら鉄鋼の国内一般使用を窮屈に制限して鉄鋼工作物築造許可規則といって五十トン以下は従来自由だったのが今では全面的に駄目になり、資金調整法に調子を合せて除外例を認めていた、つまり鉄鋼を使ってよいという除外例があったのも縮小されてしまった、機械工業にしても兵器関係の機械工業中心で他の大部分は禁止的の制限を受けるということになった、これは数日前のことです
それから別に今度公布の工作機械の供給統制規則も兵器関係の工作機械以外は全面的に禁止するというのです、斯様に資金調整と物資統制との間に最近非常なギャップが出来て来ていると思う
問 現在資金調整は具体的にはどんな方法でやっているのですか
B この統制は二つの側面からやっているのです、一つは銀行、信託の様な金融機関や証券業者等の貸付や社債引受を取締る、一口十万円以上の場合は政府の許可が要ルということになっているのです、ただこの金融機関等を通じての統制は、政府が一定の標準を示して、それによって金融機関が自治的に統制している、これは割合うまくいっている様です、もう一つは事業会社そのものを取締る、資本金五十万円以上の会社の新設、増資、合併等はいずれも政府の許可を要する、払込を取ったり、自己資金で設備の新設や拡張をやる場合もそれが十万円以上なら同様に許可を受けねばならぬ、そう云うわけです
問 政府が許可する場合には何か基準の様なものがあるのですか
B それは事業資金調整標準というものがあって色々な事業を甲類乙類丙類に分けてある、更に甲類は(イ)(ロ)に、乙類は(イ)(ロ)(ハ)に分類してあってそこに若干の軽重があります
甲類に属するものはどんな事業かというと大体金とか銅とか鉄、石炭、石油などの採掘とか、自動車、航空機製作業、兵器製造業、硫安製造業というような時局の関係上どうしても生産力の拡充をやらねばならぬ産業百余種がそれに属して居ります、乙類はパルプ、ガラス、油脂など二百種ばかり、丙類は紡績、写真機とか蓄音機の製作、酒造業、百貨店等で百五十よ種であります
この中甲類は大体許して行く、乙はまあその事業の性質とか資金の多少によって許して行く、丙は先ず時局柄新設などということは差控えて貰いたいというわけです、金融機関の自治的統制もこの標準によって処理して行くことになっている
問 この法律は相当効果を挙げているのですか
B 瞭りしたことは判らないが、先ず効果は挙がっているでしょう、この法律が実施されたのは昨年の九月末ですが、それから今年の三月末まで約六ケ月の成績を見ると、事業資金十九億五千万円のうち、大体時局産業と見てよい工業と鉱業だけで七割七分も占めている、それに交通業を加えるとそれだけで全体の九割三分になり、農村、水産業だとか商業の様な時局に関係の薄いものは殆ど新設拡張という様なことがなかったのですから……
問 資金調整法と公債消化の関係は
B 現在までのところでは、何しろ生産力の拡充を急がねばならなかった、それでその方へ向ける資金を抑えてまで公債消化に振り向けるという様なことはしなかった、又そんなことをしなくとも公債消化は順調に進んでいました、然し将来もしも公債の消化が困難になって来る様なことがあればこの法律で産業方面への資金の流入を抑え、公債消化の方へ振向け得ないことはない、政府がやる積りなら、やれるだけの機能は具えているわけです、積極的に動けばその結果はそういうことになり得る機能を持っています

(5) 輸出不振の対策 登場したリンク制度

問 輸出貿易は最近大分減っているようだがその辺の事情を少し、最初に貿易の現勢を説明して貰いましょうか
C 先日、本年上期の貿易、輸出入の数字が発表されましたからそれについて申して見ますと輸出が十二億八千七百万円、輸入が十四億八千三百万円で差引入超一億九千五百万円という数字が出ています、上期二億円程度の入超ならそう大した問題ではない筈なのです、然し、今日わが国の貿易について考える場合には二つの重要な点がある
その一つはただ単純に輸入超過の額が少ないというだけでは困るのです、入超額が多くては無論困るが、少ないからと云ってそれで満足は出来ない、何故かというと今日のわが国は出来るだけ多くのものを輸出して、出来るだけ多くのものを、例えば軍事用の物資だとか生産力を拡充するための材料だとかいうようなものをどしどし買わねばならないからです、輸出も少ない代りに輸入も減ったからとすましてはおれない、輸入はどうしても統制しているのだから、出来るだけ輸出が殖えて呉れなければ困る、これが一つです、もう一つは輸出が幾ら殖えても、満洲や北支、中支へ出ているのでは何にもならぬ、品物はアメリカやイギリスなどから買うのだから、こちらの売るものもアメリカやイギリスに売ってドルやポンドを稼ぐのでなければ何も役に立たぬ、満洲や北支へ売ったのでは、何んのことはない親子同士で(所謂円ブロック内で)売買している様なものだ、儲けた儲けたと云っても一家としての購買力はその場合少しも殖えないからです
ところが、本年上半期の貿易は、前に述べた数字を更に穿鑿して見ると去年に較べて輸出がまるで減っている上に、満洲や北支への輸出ばかりが馬鹿に殖えているのですいまその数字を挙げて見ると−この上半期に満洲、関東州及び北支中支向けの日本からの輸出は五億八百万円ばかりある、輸入が三億一千万円ばかりあります、差引一億九千八百万円というものが輸出超過になっています、そこでこれ等の数字を除外して前申しました純粋の第三国間の貿易の数字を算出して見ると輸出が七億七千八百万円輸入十一億七千三百万円、その結果入超は三億九千三百万円となります、つまり国際収支という点から見るとこの上半期の入超は一億九千万円よりもずっと多いということになる、然も輸出は僅に七億七千八百万円程度です
同様の計算を昨年上期についてやって見ると、昨年は中支は勿論北支も円ブロック−つまりわが国との親子兄弟附合がなかった、従って北支中支へ輸出すれば法幣という外貨を得ることが出来た訳ですからこれは除外しなければなりません、それで満洲、関東州だけを除いて輸出貿易の数字がどの位であったかといいますと十三億三千万円です
それに対して今年は七億七千八百万円ですから約五億五千万円というものが減ったということになる、第三国への輸出が減ったということは要するにそれだけ品物を買う能力が減ったということです、この点が大きな問題なのです
問 軍需品のために使用制限をしなければならぬ、輸出増進のために使用制限をしなければならぬということを国民に求めている訳ですが、国民がそれだけ犠牲を払えば輸出貿易が所期の目的を達成し得るかどうか、政府の輸出振興策というものはどういうことを狙っているのですか、この点が明かになれば国民の消費節約も更に一層本当に真剣にならざるを得ないと考えられるので詳しく説明して下さい
C それを考える前に今日の輸出不振は何から来たかということ、それを一つ考えて見る必要があると思います、大体今年になって輸出が悪くなって来た時、真先きに、そして一番喧しくいわれたのは前に為替管理が問題になった時に説明されたように棉花とか羊毛とかいう原料品、これはその製品が内地向のものも勿論あるが大部分は輸出商品の原料いなるのですが、この原料品を為替資金の関係で急激に抑えなければならぬことになった、計画もなしに抑えなければならなかった、然も手続は煩雑だ、取扱は不手際だというわけで原料の手当が非常に困難となり円滑を欠いだ、それが延いて輸出の商機を逸することになり、そう云う関係で輸出が不振に陥った、これは確に大きな原因の一つです、だが、原因はこれ一つだけではない、若しそれだけが原因ならば外国から原料を輸入する輸出品、例えば毛織物とか綿布とかメリヤス製品などだけが減る訳ですが、実情は決してそんなものじゃない
大体わが国の重要輸出品にはこの他陶磁器とか生糸とか壜詰、缶詰、食料品の様に国産の原料に加工して外国へ出しているものがある、又機械類とか人絹織物のように外国から原料の鉄なりパルプなりを輸入すると同時に国内にも原料がある、いわばその原料が国産と海外と半々というような品物があります、大体以上の三つのグループがある
ところで輸出不振の原因が単に原料の手当難だけなら陶磁器などのように原料が国産である輸出品は不振にならないでもよい訳ですが、それも大変悪い、それから国内と海外に半々に原料を得ている物も勿論悪いのでありますが、そのうちで一番悪いのが国産原料で作るものが一番悪い、その次が国内海外半々の商品であります、そして一番喧しい問題になっている海外から原料を得ている商品は減っては居りますがその割合が他の二つに較べて却て少ないのです、この点から考えて見ますと輸出不振の原因は原料の手当難以外に他にもなければならい
それは何かというと、先ず第一にアメリカの不景気、この国は大体去年の九月頃から反動期に入っていますが、不景気の程度は何なり酷く、既に恐慌状態なのです、このアメリカという重要な市場が購買力が減っているということが原因の一つで、生糸の売行などは非常に悪い、それから従来日本品といえば廉価良質というのがその看板で、昭和七年以来躍進的の発展を遂げて来たのですが、最近は物価も可なり騰って来た、賃金も騰って来た、従って製品のコストが可なり高くなって以前の看板ははげて来た、これが原因の二であります
もう一つの原因は支那事変以後各国に排日、日本品ボイコット運動が非常に組織的に起って来たのです、イギリスでもアメリカでも主として平和団体、宗教団体、婦人団体、労働組合の様なところが音頭をとってやって居ります、南洋方面も支那商人所謂華僑が中心になって日本品のボイコット運動をやって居ります、この種のボイコット運動も肝腎の品物が廉い間は旨く行かないものです、何といっても良い品物を廉価で売るのですからこれは動かすべからざる一つの強味でありましたが、最近の様に物が高くなって来るとこのボイコット運動は著るしく効力を現して来る、この影響は決して軽視することは出来ないのです、以上の三つと先程いったように原料手当難、最近の輸出不振の原因としてはこの四つを挙げることが出来ると思う

[図表(棉花輸入額)あり 省略]

問輸出不振の原因がそう沢山あっては、輸出振興と云っても簡単にはいかんですね、差当りどんな対策がとられているのですか
C そうです、第一にアメリカの不景気、これはわが国としてはどうにも致し方がない、それから各国の日本品ボイコット、これも今度の事変が済んで暫くしないと到底下火にはならんでしょう、してみると対策は原料手当をもって豊富円滑にすることと、生産コストを引下げることの二つにつきる、政府としてもこの二つを狙うより他ないわけです、そこで羊毛や棉花の様な原料の手当難を除去するためには輸出輸入のリンク制度というものが工夫されている
輸出したものにはそれに必要な原料の輸入を認めてやる、今まで一万円の輸出をしていたものが二億円に輸出をふやせば、それに対してはちゃんと二万円の原料輸入権を認めてやる、つまり余計輸出したものにはそれだけ余計の原料輸入権を認めてやる、これは輸出に対して輸入をリンク(連繋)させる行き方で、いわば奨励制度ですね、これと逆なリンクもある、輸入した原料は必らず輸出製品に向けさせて、その間絶対に内地に洩れることを許さない、つまり内地流入を防止して輸入に輸出をリンクさせて居るだが前の輸出に輸入をリンクさせる場合でも原料が内地に流れ込むことは絶対に紡糸するようになっていることは事実で、その意味で何れの場合を通じて見ても義務輸出という考え方と内地流入防止という考え方は何れもつきまとっている、理窟は極く簡単なんですが、いざそれを実行するとなると、輸出用原料の積りで輸入させたものが、輸出されずに国内向に振向けられたのでは何んにもならない、よく新聞にでる「内地流入防止」というのはそれで、例えば綿布のように国内向の販売は、小売のストック品と特殊の手続を経たものを除いては全部禁止するというような、詰り製品は厭でも輸出に向かざるを得ない様にする為に相当思い切った方法も必要になって来る
更に棉花を輸入して綿布を輸出するといっても、そのなかには棉花の輸入商もあれば紡績業もあり、織屋もある、輸入、輸出の義務を誰に、如何なる形でおわせるかということも中々むずかしい、棉花の場合は、輸入した棉花を輸出製品として輸出商の手に渡すまでを紡績聯合会の責任にしました、その限りいおいて原料と製品とがリンクしたわけです、そして輸出商に対しては輸出製品を或る一定量以上手持することを許さない義務を課しました、これは義務輸出という奴です、だから棉花の場合はリンクと義務輸出が縦につながっているわけです、これは棉業界が複雑なためにこうしたのであって、羊毛の場合は羊毛輸入を直接に製品輸出にリンクさせています

(6) 消費節約の本義 その狙い所を掴め

問 リンクにも色々種類があるようだが綜合リンク制というのは何う言うのですか
C 今までお話した棉花や羊毛の場合は商品別のリンク制といっています、或る一つの商品の原料輸入と製品輸出を一貫して連繋させる行き方ですが、お尋ねの綜合リンク或は一般リンク或は混合リンクともいいますが、これは特定の商品によらないで、どんな商品を輸出してもよい、その輸出額の成績に応じて一定の輸入権を認めてやる、しかもその輸入権は輸出された商品の原料に限らない、他のどんな商品の原料にも通用させて宜しい、その間に輸入権の売買が行われるわけで、余計に輸出した者は輸入権を余計に入手して費ることが出来る、原料を輸入するものはこの輸入権を買わなければ輸入が出来ないから争って買求める、だから輸入権にある程度の権利金がつくことは当然です
この綜合リンク制は目下折角準備中で、何れ商工省令で詳しい規則が出ることでしょう、商品別リンク制の棉花の場合などは内地に綿飢饉を宣告してまでやったことだけに、業者も政府も大変なハリキリかたで、何とでもして輸出を増進しようという悲壮な気持が見えます、こう言う所にもわが国経済力の根強さが認められるのです、それから言い忘れましたが、このリンク制に際して、綿の場合などは生産費低下に非常な努力が加えられているということです、綿工聯という団体に組織されている全国の機屋さん七千軒が強制的に紡績聯合会の下請の賃織工場にさせられたのはそのためです、こうして少しでも安く製品を輸出しようというわけです
そのほか、輸出製品を安くするためにはもっと大筋として物価委員会を中心とした物価政策があります、然しこれは後の機会に纏めてお話しましょう
問 政府は消費の節約と並行して頻りに貯蓄奨励に力瘤を入れているがあれはどう云う意味をもつものですか、又貯蓄に八十億円という限度を定めたのは?
B 最近ではむしろ物資の節約という意味が多いでしょう、例えば軍事工業方面は最近収入が増加しているが、之をどんどん使うとすればそれだけ物が消費される訳ですからこの金をなるべく使わせないようにする
つまり貯蓄を奨励する、それが郵便局なり、金融機関に集って来れば、その資金は公債消化に当てられたり当面必要な生産力拡充に使われたりする、そこで一方から言えば物資の節約であり、他方から言えば公債の消化ということになる、八十億円というのは別に大した意味がある訳じゃないので、従来一ケ年間の貯蓄は大体三十億円で、これに今度の事変インフレに依る収入が五十億と見積って合計して八十億と目度を付けた訳です
問 貯蓄奨励の狙い所の重点は物資の節約の方にあるのか交際財源の涵養の方にあるのかどちらです?
C それは物資と金と両面から考えなければならない、例えば我々が按摩をとって一円払っても物の消費にはならないが、これは特殊の場合で大体金を使えば物の消耗を伴うのであります、従来の政策はただ金の方だけ考え貯蓄といえば公債消化という風に単純に考えて大体よかったのですが最近の政策はそうではありません、物と金と両面に亙って眼を配って政策を立て按排して行くということが必要になって来た、物と金と両方である、それはこの物と金とどちらを重く見るかという考え方は古いのじゃないでしょうか
問 今まで行われて来たのは主として衣と住についての使用制限だった、今後はそれが食まで及ぶ様なことがあるでしょうか
D まだ調べが出ていませんね、然し日本人が非常に幸なのは食料が、例えば米と魚と野菜が豊富にあるということです、これだけは外国から輸入しないでも国内で生産して、潤沢に食べて行ける、これがイギリスやドイツなぞになると食料確保ということが戦時経済の主要題目の一つになって来る、愈戦争にでもなれば、我国のガソリンの様に、食料品配給のために切符制度を採用しなければならなくなるだろうが日本では余程のことがない限りそんな必要はない、消費制限が食料品にまで及ぶようなことは特殊のものを除いてはないと思われます、この点日本の戦時経済の大きな強みでしょう
C ただ国民精神総動員中央聯盟あたりでは国民精神作興という意味から酒をやめろ、煙草をやめろという標語を掲げてはいるがそれには倫理的な要素が多分に含まれていますね−
問 全面的消費節約ということになると、余ほどその影響を考えねばならぬと思う、消費節約ということが取違えられ味噌も糞も一緒にしたような節約論の結果色々の弊害を起し国民生活を萎縮せしめるようなことになる惧れがあるのではないですか
C 消費節約を履き違えて、却て節約にならないという様な例はよくありますね
小学校の先生が、生徒に下駄を強制したため、子供は未だ履ける靴を態々下駄箱にしまい込んで新しい下駄を買うという様な不平が新聞に出ていたことがある、小学校の先生が取違えるのはまあ仕方ないとして政府の役人が飛んでもない見当違いをやる恐れがあるのは、十分是正されねばならぬことと思います
厚生省で何時か国民服を制定するということがあった、吉野前商相もこれは困ったことだといっていた、綿ヲステープル・ファイバーにして新しい国民服を作っても今まであるものを間に合わせるような政策でなければ困るというのです、また青年団服を簡易化して新しく団服を作るというようなことも同じです、必要以上に画一主義をとろうというのは官僚的な考え方でそれが政策として現れて来るのは親の心子知らずという奴です
A 事変の当初は政府は国民に選択的消費節約ということを宣伝奨励していた、それがやがて発展して一般的な消費節約、貯蓄奨励となって来た、これについては最初戦費二十五億の時は選択的消費節約で事足りたが、戦費四十八億五千万円という工合に膨張して来ると、全面的な節約運動を遂行しないと物資、物価への悪影響が大きくなったという事情もあると思う、然しもう一つの見方としては節約運動の様なものを国民の間に大衆的に発展させるためには選択的節約などという様な、むずかしいことを云っていては効果が少ないということもある、こう云う国民的な運動を捲き起すのにはどうしても単純な目標を与えねばならぬ、其結果として或る程度の行き過ぎは已むを得ないのじゃないか、ただその運動を指導するものは−それは今日では役人が中心だが−真当の狙いどころをちゃんと睨んでいなければならない、一般的な消費節約と云っても的は自らある筈だ、ところが役人自身がその的を外して、それをもっともらしく国民に強いるのだから困ったものです
問 先程輸出振興問題に関聯して生産原価の引下げの話があった、購買力を統制しなければ物価はひとりでに上って行く、そのことと精神総動員とを結びつけて説明して下さい
E 輸出奨励と国民精神総動員については繊維工業関係に丁度いい例がある、それを話して見ましょう
日本の産業を大掴みにしていえば原料を海外より輸入して製品を輸出している国だといえる、も少し詳しく申せば、わが国は繊維工業原料を海外から買入れ、之を国内で製品化し、その一部は衣料として、大体自給自足が可能な米を中心とする食料品と相まって国内の労働力を涵養し、他の一部は生糸と共に輸出製品として海外に出され、そして重工業品の輸入を行うといった様な軌道を描きながら、円満なる産業界の運行を行って来たのであります
ところがこの頃商工当局ではよくいうんですが、日本の綿業は実は貿易の調整に役立つものではない、それというのが昭和十二年の例をとって見ますと棉花が約八億円の輸入であるのに、綿製品の輸出というのは六億に満たない、結局綿業自体に於ては二億円の赤字を出しているのです
問 そういう赤字関係はずっと以前から続いていたのですか
E そうです、然し平常の時ならそれで格別大した支障はなかった、然し今日の様な時代にはどうしてもこれを黒字にしなければやってゆけないそれにはどうしても国内での棉花の消費を節約しなければなりません、こうした関係から昨年末、国内向製品には純綿糸の使用を禁じ、ステープル・ファイバーを三割以上混紡すべしという混用規則が発令されたのですが、最近では遂に特殊の商品、綿でなければどうしても困るといった様な商品以外は全然棉花を国内向製品に使用することを禁止した訳です、ところがこれが国民の神経を異常に刺戟し、本年初め、防寒マスクをしながら浴衣の買いあさりをやったというかの晒木綿異変を惹起した訳です、その結果木綿物の値段が甚だしく暴騰した、紡績会社も綿糸問屋も機業家も大部分が目先の利益に眩まされて輸出すべき綿糸を皆国内向として使用したのです、一方外国の物価は下る傾向にあったのに、日本のみは正反対の現象だったので、之では輸出商談が出来る筈はありません、今年に入ってからのわが綿布の輸出は実に惨めな成績を示しましたが、その裏にはいま述べた様な事柄から来た価格騰貴もあったのです、政府のとった処置も完全なものとはいえなかったがこうまで産業家や国民の盲目的な行動のため、輸出が衰退したということは甚だ残念なことです、このためには輸出振興は単に政府や産業家、輸出業者のみが行うべき仕事でなく、家庭に於て一家の主人なり主婦なり、さては子供から女中さんまでが、自分達の日常生活上の些細な注意が、やがて集まって、わが国の輸出産業上に大きな役割をつとめることになるのだということをはっきり意識せねばならぬのだと思う、消費節約とか、精神総動員というようなものも、こう云う点をはっきり把んで、国民を指導するのでなければ意味がありません

欧洲対戦投当時の独逸
欧洲対戦当時のドイツは戦争二年の始め(一九一五年八月)より食料品の騰貴が顕著となったので
◇十月…肉類の節約を実行し、金属類欠乏のため金属類の徴発を行う
◇十一月…食料品価格法令を発布して食料供給の調節
◇一九一六年二月…織物類の売買を監督し、春季売出しを厳禁
◇三月…バターに切符制度を採用
◇四月…脂肪欠乏のため石鹸に切符制度を採用
◇五月…肉類に切符制度
◇六月…衣服局を設置し、衣服類に切符制度
一九一六年七、八月頃の独墺両国の食料品は、一九一四年八月開戦当時の価格に対する騰貴の割合は左の通り
◇ドイツ…黒麦パン四割二分九厘▲牛肉十九割八分二厘▲豚肉十一割七分九厘▲馬鈴薯七割五分▲砂糖三割六分▲鶏卵二十二割八分六厘▲米四十割
◇オーストリア…牛肉三十五割三分三厘▲豚肉二十三割二分二厘 ▲小麦粉十九割一分三厘▲鶏卵三十二割八分六厘

(7) ス・フ人絹の時代 原料不足の繊維工業

問 棉花の輸入抑制というのは一体どの位きつく行われているのですか
E 去年は毎月平均百十四万ピクル−一ピクルは約十六貫です−輸入されましたが、今年はその半分位です、従来百の棉花が輸入されると之が綿布になって七十が輸出され、三十が内地で消費されたものです、昨年末内地向綿製品への人繊混用規則で、その分だけ棉花の輸入が制限されましたが、今後特殊のものを除いて全然内地では棉花を消費出来なくなりますから、その三十に相当する分量の棉花は絶対に輸入されぬことになります
毎月七十万ピクルの棉花が輸入されて、之が全部輸出向けに消費されると大体昨年の綿布輸出実績である二十七億碼は確保出来る計算ですが
 今年になって最近までの実績では昨年より二割余の輸出減退となっています
問 棉花の輸入制限が紡績会社や機業家に及ぼす影響は?
E それは原料不足で極度に困っています、紡績会社は五割以上の操業短縮になっていましょうし機業家は原料綿糸の買入れに必死になっていますがそれでもなお相当多くの休機を余儀なくされています、政府ではかような原料不足の状態を放っておくと無益な競争が起るので、原料棉花の輸入、棉花の紡績会社への分配、それから綿糸の機業家への分配などを過去の消費実績を基準として不足したなりに分配して、打撃を業界全体に公平に分担させようとしています、然し不足は依然不足ですから、単に無益な原料獲得競争がなくなったというだけで、輸出商談が大いに振わぬ限り、開店休業の紡績会社、機業家が出るのは当然です、ただ政府は人絹会社が操短率を引上げた結果、余剰となったパルプで人繊糸を作らせ、之を綿布の機業家に優先的に配布して休機を少くする様にしています
問 棉花は内地では出来ないのですか
A 輸入棉花に対する内地産棉花の量はたった三パーセント程度に過ぎません、農林省では棉花の試作地というものを全国各地に設けている増産計画は実行しています、棉作には適地というものがあるので、その適地を探して作らせる様にしているわけなのですが、大体棉花の適地のような所は、他の作物を作っても棉花を作るよりもずっと算盤がよい、それでどうもうまく行かないらしいのです、昔はそういう適地に作っても算盤が合って行った
明治の初年から明治十二三年頃に棉作がなくなってしまったのですが、その時分にはまだ採算的に適地に作っても作れたのではないかと思うそれと日本の棉業が輸出を中心にして発展する様になったので、大量的に品質の同一なものを産出する必要もあって、日本の様に耕作地が狭い所では不適当になって来たことにもよります
そんな訳で内地における棉作というものはまず望みがないと思います
問 純粋の綿布も品物によっては内地向に認めるということですが、その品物によってはというのはどういうところに目安をおいているのですか
D 禁制の除外品として三十幾つかの品目があげられています、それは純綿でなければ出来ないもので、例えば縫糸とかベルト用布、漁船用帆布、ガーゼ、ホース用布、魚網、洋傘用布、軍手といった様なもので、ステープル・ファイバーではどうしても水に弱かったり耐久力が低くて代用出来ぬ用途のものです、その他の物、今日までわれわれの家庭で親しまれた金巾、キャラコとか晒木綿は新しく製造することが出来なくなりました
晒木綿だけでも赤ン坊のおしめ、肌襦袢、手拭、布巾、浴衣などがあり、天竺木綿では敷布、蒲団カバー等が作られ、その他綿製の簡単服、ワイシャツ地、児童服等もありますが、みんな遂に左様ならをせねばならなくなったわけです
問 蒲団綿などはどうなりますか
E 蒲団綿は今のところ値段が随分高くなっています、主たる供給先である支那産地の出廻りが悪い関係からです
問 国民生活に最も不可欠な蒲団綿の値段ということは相当重要性があると思うが……
E 北支では政策的に向うにある程度の購買力を与えるとか農民を救済するとかいう意味で買っている点があるので、どうしても高くなる訳です、政府も今回蒲団綿の小売価格を定めましたが、既に甚だしく高くなっていますから、現地の事情をよく調査してなるべく安く買入れることが出来るようにすべきでしょう
問 綿業以外の繊維工業はどんな状態ですか
E 羊毛にしろ棉花にしろパルプにしろ国内の生産というのは殆どなくて昭和十年か十一年頃の数字ですが、棉花と羊毛について輸入と国内生産数量の比較を見ますと羊毛は国内の生産が千分の一位しかない、棉花は百分の三です、パルプは幾らかよくて、パルプといっても人絹用のパルプですが、百分の二十五位となっています、全体から見て繊維工業原料は非常に少い、パルプは昭和十七年頃までに自給自足出来る様に計画がたてられていますが、他は殆どだめです、この繊維工業原料を国外から輸入しこれを製品として出して、その結果を黒字にしようというには前にも述べた様にどうしても国内消費を減らさなければならぬ、人絹に於ても内地消費量を制限しようとしていますし、羊毛に於ても代用繊維の最低混用率が最近五割に引上げられました、羊毛などは原料代として海外に支払う部分が多く且輸出額も少いものですから、本来からするともっと輸入の制限を受けねばならぬ訳ですが、それでは羊毛工業関係の国内業者を余り脅かすことになるので、混用率の引上げ程度で置かれることになったのです
問 今後の国民の衣服原料はどうなりますか
C 棉花や羊毛の輸入を制限しても現在製品又は半製品のストックは可成り大量にあるから直ぐ日常衣服の様相が変って来るとは思えないが今日の状態が続けば生糸、人絹、ス・フその他の製品や混用物が幅を利かすことになると思う
問 人絹とステープル・ファイバー(人繊)とは一体どう違うのですか
F 植物中にふくまれている繊維素を抽出して先ずパルプを作り−同じパルプといっても紙の原料としてのパルプがあり人絹原料、ス・フ原料としてのパルプがそれぞれある訳で、その区別によって形状が違っています−これを溶解してその液をノヴルという白金の抽出孔から凝固液中に圧出し凝固させるので、従って原料と性質はステープル・ファイバーも人絹も全く同じです、ただ人絹では凝固液に圧出されるとき糸状にどこまでも長く続きますが、ス・フでは適当の長さに切断されるのです
問 つまり、長いと短いだけの違いですか
F そうです、然しス・フが紡がれてス・フ糸となり、更にス・フ織物となると人絹織物とは大いに違って来ます、ス・フ糸は短い繊維を紡いだものですから毛羽立っており、それだけ保温力は多い訳ですし、弾力も異ります、棉花にまぜる時は棉花の長さに切断し、羊毛にまぜる時には羊毛程度の長さに切断して、自由に之等の代用品となり、又綿紡績機械にかけて糸にひくことが出来ます、綿紡績会社でス・フ糸紡績を兼営するのが多いのはこのためなのです
問 ス・フは棉花、羊毛以外にもまぜることが出来ますか
F 出来ます、麻でも絹紡でも人絹織物にもス・フは入っています、ただ糸の時に混紡するか織物にする時にス・フ糸を交織するか、それぞれの場合で異ります
問 値段と効用の点からはどうですか
E 綿糸は普通太糸と中糸と細糸とに分れ細い程上等となっています、ところでス・フ糸の値段は綿の中糸と同じ位ですが綿の国内消費は主として太糸です、そうすると綿の方が非常に安い、安いものの代用に高いステープル・ファイバーを使うところに非常な矛盾があります、それが一面には輸出用綿がどんどん内地向に流用された原因にもなったのです、現に街に出ているス・フ混用物のうちには「混用物」のレッテルをはって半分位は純綿物が交っているそうです
問 木材以外のものからも同じような繊維は出来るのですか
E 動物からも作っています、また大豆からも薬からも出来る、ガラスからも出来ます、尤もガラスからのは用途がちょっと違って防音装置に使うのです、また熱の伝導を防ぐ性質からアスベストの代用に使うが、将来は衣服の代用品にもなるといっています、勿論遠い将来の問題でしょうが
問 ベンベルグは人絹とは違いますか
E 人絹は原料がパルプですが、ベンベルグの原料は紡績の落綿を使って製法も普通の人絹はビスコース式でやるのですが、ベンベルグの方は銅アンモニア法、通称硝化綿法とも呼んでいる、だから人絹の生産制限が行われた際ベンベルグの生産会社がベンベルグは人絹に非ずと主張してとうとう人絹の生産制限から除外されたこともあります

[図表(日英綿布輸出高比較)あり 省略]

【註】二十二日商工省から発表された人造絹糸販売取締規則にはベンベルグも人絹の一種類として取扱っているがこれは重要産業統制法の時も問題になったことで商工省の一般の取扱いの上ではベンベルグも人絹の一つとして取扱っている、ここで人絹とベンベルグと違うと説明されたのは質の上の相異を示したものである

(8) 貧鉱開発に驀進 絹、皮革の消費現況

問 絹というものはどの程度まで国内の消費需要に応じ得るものですか
E 今までは主として外国から金を持って来るために輸出に向けて少しでも多く輸出して余計に金を持って来ようというので、非常に品質を高級にし、検査を厳重にして優秀なものを輸出し、そうでないものを内地で使っていたものです、全生産の八、九割が輸出でその残りが国内で消費されます
問 アメリカの方の景気が悪いために輸出も思うように行かぬ、政府の手持の滞貨生糸も相当ある、そういうものを先に使って人絹とかステープル・ファイバーをあとにするわけには行かないものですか
E 輸出向に繭を作り輸出向に製糸しているので非常に糸が高級で値段も高いので、それを国内向にするといってもちょっと急には困難です、内地向けには地道糸という座繰糸があります、農林省では新しい繊維国策に順応するためこれから質は少々悪くても、量の多い糸を吐く繭を作ろうじゃないかといっています、そういう風にして今後絹の内地消費は奨励しようとしています
問 では滞貨生糸はどういう風に処分しようと考えているのですか
E 現在では生糸の制高制低価格の操作のため一定の方法売で出し、或は新しい糸を買入れたりしています、丁度米と同じ筆法ですね、それから生糸の新規利用開拓のため漁網にしてり敷物や壁掛をつくったり、又は洋服地を織ったりしています、現在の輸出振興の急務からいって、滞貨生糸を海外で何とかして捌く手はないかということも考えられています、或は少々位政府が損をしても早く金にかえることが肝要ではないかとの意見も有力で、これは大蔵省が承知すれば将来実現することと思います
今日のところでは、何といっても綿なり羊毛なりのストックが相当ある、此ストックを放っておいて取っておきの滞貨生糸を使っては後が困る、ここ一年位はストックの食い伸ばしが一番必要だ、そのストックを食いつくしたところで最後の切札として滞貨生糸を使うことを考えているようです
問 次に皮革の制限について話して下さい
D わが国では大体年額約六千万円の皮革を使用していたが、その八割は輸入していました、皮革といっても牛馬、豚、水牛、羊、その他数多くありますが、軍需以外で主として使用されるものは靴、馬具、自転車のサドル、調帯、運動具等です、今回の使用制限で軍需及び輸出用以外では前に述べた品やその他草履とか鞄、手袋等への使用が出来ぬ訳です、代用品として鯨や鮫の皮だとか、人造皮革であるレザー等があるが、何といっても最近研究所からやっと工場生産へと巣立った程度です
今日のところでは革のストックは約一年分あります、鞄屋や靴屋で大分店を閉めた所がありますが、一日も早く代用皮革が完成されねばなりません、現に鯨の皮、鮫の皮さえ今度の制限の中に入っている始末ですから
問 戦時経済では何んといっても鉄鋼供給の確保ということが一番大事なことだと思うのですが、その現状について差支えない程度で一つ願います
F わが国の製鉄業は近年えらい勢いで発達し世界注視の的となっていました、しかし需要の方は生産力の拡充より以上の駈足で殖えてきた、昭和十一年の需要は銑鉄二百二十六万一千瓲で昭和六年に比べ三倍強、鋼材は四百四十万瓲で三倍弱の増加となった、僅五年か六年の間にこんなに需要が殖えて来たところへ準戦時体制に入ったので鉄はどうしてもっとドシドシつくらねばならなくなった、それが昭和十一年に樹てられた所謂鉄鋼増産五ケ年計画なんです、この五ケ年計画というのは最後の年である昭和十六年には日満を通じて鋼材一千百万瓲生産されることになっているのです
わが国としては日本製鉄が先ず第三次増産計画として北海道の輪西に七百瓲の熔鉱炉を三基、第四次計画としては兵庫県下の広畑に千瓲炉二基−千瓲炉というと鋼材を年に三十五万瓲製造する能力があるのです−第五次計画として朝鮮の清津に五百瓲炉二基の製鉄所を設ける計画で輪西と広畑は既に工場の建設にかかっている
一方満洲でも昭和製鋼所で増産計画をやっています、非常に大ザッパですが大体これがわが国の製鉄業の現状というわけです
問 原料の鉱石の供給は甘く行くのですか、これは相当問題だと思うが
F 実はその鉱石の供給なんですが、わが国ではご承知のように鉄鉱資源には誠に恵まれていません、ですから従来鉱石の供給はその七割までは長江筋とか或は南洋方面その他から輸入していたのです、ところが今日の状態では長江筋はちょっと駄目です、で、差当りどうしたらいいかということになるのですが満洲国の東辺道、朝鮮の茂山の貧鉱処理ということがある
鉄鉱石は普通鉄分の含有量が五十パーセント位なければ企業的に算盤が合ないといわれているところが茂山の鉱石は三十五、六パーセントしかないので平時には問題にならなかったのですがこの際だから何んとかして処理しようと三菱が独逸のクルップ会社からクルップ式の貧鉱処理のパテントを買って来たのでその方法でやることになった、茂山が本格的に開発されれば埋蔵量が十億瓲といわれるだけにどうにかなるわけです、又北支の竜煙からも供給されるので最近問題になっている濠洲のヤンピーサウンドの鉱石が入らなくなったとしても大して心配する程のことはないのじゃないのですか

[図表(本邦革類輸入額)あり 省略]

一方内地でも今までは企業的に小規模なものは顧みられなかったのですが、こういう時代にはそんな贅沢なことはいっていられない、少しでも掘り出してそれを使わなければならぬということで鉱産物の増産奨励法が出た、日鉄では従来あまり小さいものは買わなかったがそれをどんどん買うようにして極力国内の貧鉱開発に乗出そうとしています
問 鉄の使用制限で日常生活に一番響くのは鋳物だと思うが此方面はどんな工合ですか
F 東京附近の川口市あたりは殆ど鋳物工場ばかりだが軍需方面へ転換させようといってもそれも或る程度まで制限されていて出来ない、非常に失業者を出すわけでそれでなくとも今まで銑鉄の供給が不足のため一時は休をとって一週間に何日とか隔日という風にやっていた位ですから銑鉄鋳物の製造制限がヒドクなったこの頃では致し方ないので工作機械の台などを造っている、だがそれも銑鉄の供給は少いしそれにコークスが無くて皆弱り切っています
問 鑿(のみ)鉋(かんな)鋸、釘等は家庭的にも関係が多いがこれ等も作れないのですか
F それらを作る機械の製造が禁止されている、しかし現在ある品物が鋼鉄で出来ている以上そう簡単に壊れるわけでもないから当分は間に合うわけです
問 鉄、鋼等の代用品は商工省でも研究しているのですか
D 非常に研究しているらしいです、現在の製鉄の転換として商工省で挙げているのは砂鉄、硫化鉄、鉱滓等があるが、之はもともと鉄に準ずるもので、結局本当の代用品はエタニットパイプ一つあるのみです、土管みたいなもので水道工事等に使いますが曲らないのが欠点です、そのほか壊れないガラスとか、鉄みたいに堅い陶器とかぼつぼつ発明されていますが、まだ代用品と銘打つまでには行っていません
C 商工省の工業試験場は五つ位あってそれが中心になって技師などが個人々々で受持って代用品の研究をやっている、そこで良い代用品が発明されたらそれを発表して、将来はこれに向へということになるでしょう、それから内閣に科学審議会が出来ている、これは全国の大学、試験所、研究室の権威を集めて商品種別に委員会を作り、手分けして代用品の研究をしています、これは今までの象牙の塔の仕事とは違う、現実の戦争という大きな事実が象牙の塔の障壁をぶち壊してしまって、お互に研究室が連絡提携して国防品のために見る眼も美わしい活動をつづけています、きっと近いうちに権威ある報告が出るでしょう、その報告があったら各省が一斉に手分けしてこれを実行に移すことになっています

(9) 望み多き代用品 廃品回収組織化へ


問 各種の制限物資に対する代用品の主なるものを挙げて下さい
I 代用品といっても、右から左に使えるものと、所謂新興代用品とがあります、この新興代用品は化学的な工業製品であって、これは恒久産業として、国内の需要を充たす一方、将来は輸出品として頗る有望なものと考えられます、これまでアルミニユーム、アルマイトは銅、真鍮、鉄代用の役割をよく果して来ました、然しそれ等の目覚しい代用工業の発達は、昨年で終ってしまっているのです、価格が暴騰した上に材料そのものが平和産業に関する限り入手が困難となっているのです、屑物などの回収で小工業者は多少の材料を得るものがあるとしても本格的な代用金属工業としては成り立たなくなっているのです、これに対し材料が豊富でこの一切の金属に代わるもの、それが新興代用品工業に期待をかける唯一のものでしょう
問 ではその二つの種類について……
I 右から左へ使えるものとして銅鉄に代る陶磁器があります、瀬戸の陶磁器試験所などで一、二年前から鍋、釜、アイロン、匙、フォークなどを研究成功していますが、その他にも日本陶磁器工業組合聯合会などの業者の金属代用可能性のある試作を見ると、撚糸巻用リング、電鈴、ガス七厘の覆、西洋竃のさな、電灯のブランケット、電話器の電話口などは最も優れたものでした
その他のものとしては、足袋のこはぜ、電熱七厘の覆、西洋竃の焚口、蓋、ストーヴ、湯懐炉、ポスト、棚受、玩具の車輪、その他実に多くのものが作られることとなります、振っているのは胴像の代りの陶像という言葉も出来た程です、一般に余り強い衝撃を受けることの尠いものに、硬くて磨耗しない陶磁器、また火に直接ふれる器物、保温的の容器は完全に金属に代り得るものでぼつぼつ生産され始めました

[図表(本邦アルミニユーム輸入額)あり 省略]

次に素焼に石炭酸樹脂リーグナイトを滲み込ませて高圧を加えた「高力陶器」は軽くて丈夫で、ねじ切りも可能な新材料として、この春から鉛管、鉄管の代用材として出現し、工業化されていますこの他に化学工業品として、石炭酸樹脂、合成十字、カゼイン可塗物、セルロイド、その他の多方面の代用性を背負って発展して来ています
セルロイドは各種の医療器具、衛生器具、台所用品、洗面器から把手、引手、自転車把手、電車の吊革、また金属でなくてはと思われるファスナーまで金属の代用となります、耐酸セルロイドなどは電池用電槽にまで応用されて好成績をおさめているようです
無臭セルロイドは一般食器に、また缶詰用としていいものが出来るそうです、柔軟セルロイドは歯磨き、絵具、菓子、靴墨などのチューブなどが試作されているのです、硬質セルロイド、不燃性セルロイドなどは硬質化の研究と相俟って活字や紡織機部分等への進出を約束されているのです、合成樹脂等ではペークライトやリーグナイトなども、それぞれ金属代用として既に工業化されているのです、その材質からも工業の大きさからも金属代用の最も大きな役割を背負うもので、それだけに軍需資材に役立ち、かえって平和産業への展開は阻まれているようにも見えるが、現在でも日常什器のいろんな方面に行渡っているようです、卓上スタンド、照明具の部分品、最近ペークライトで作った壁取付用ブランケットも売出されています
金属鋳物代用材としてストニーというのがあります。これはセメント材料で数種の薬品を調合したものを硬化凝結させたものですが、堅牢で耐水耐火性をもっていて、セメントだけなら金属鍍金が出来なかったが、これは完全に厚いブロンズ層が密着されその表面に金属鍍金が出来るのです、質は御影石の硬質をもち、分子は小さい、真鍮鉄鋳物の代用として、金庫や街灯飾柱、建築用内外装飾彫刻、杖、天井飾、文字看板、マントルピース、シャンデリア台、扇風機、ガスストーヴなど大きいものから小さい工芸品にいたるまで出来るのです、これも工業化されています
問 皮革の代用品はどうなっていますか、街に製品はまだ出ていないようだが
I どんどん工業化されて居り、鯨などは皮が七層から十層に剥取られるし鯨一頭から大きのは牛二百頭分とれるそうです、上の三四枚目までは靴の底革その他は鞄等の革になりますが、街には出ていません、軍需に振り向け、漸次市場に出すといっています
鮫もなかなかいい皮革がとれていて、現在でも街の靴屋の店頭に出ていますが、あれよりももっといいのが出来ています、豚、羊なども出来ていますが生産力が小さいので一般向となるのは今年の末になると思います
問題は鯨でも鮫でもその生産物の皮の蒐集方法がむずかしい、鯨は沿岸から二千頭余、南氷洋で約四千頭とれるのです、また鮫は四尾で牛一頭分といわれ、二百万尾沿岸からとれるのですが、かまぼこ屋からどうして回収するか、その蒐集の系統化が考究されているのです、これも今年の秋までには鮫の半分は回収出来るようになるんだろうと思います、この他代用品として籐に代る竹とか、いろんな細かい代用品の研究が進められています
問 代用品の問題に関聯して廃品回収の話をして下さい、七月七日は派手に一品献納をやったようですが…………
I あの一品献納運動でやった回収の統計は出ていませんが、成功したようです、あの計画の前に商工省は廃品回収を国策の一つとしてとりあげ道府県単位に屑物問屋を中心とした再生工場や、関係係官各団体を含めた「懇話会」を作りましたが、それが活動したのです、その後も、各地方はそれぞれ「廃品回収日」を設定して実行しています

[図表(セルロイドの輸出額)あり 省略]

問 廃品の種類は?それから廃品は年にどれ位あるのですか
I これははっきりした数字はないのですが大体年八百万円ということになっています、目下商工省ではその完全な調査を行っています−東京市の塵芥だけでも八億二千万キロも出ていて、有価物の鉄、銅、アルミニユーム、ぼろ、綿が年五万二千円、養豚飼料は四万三千円、それに農耕地への払下げ堆肥などを合せると十万円になるそうです

[図表あり 省略]

大阪市の拾い屋が一千五百人あってごみ箱の中から半年に二十七万五千円拾うといわれていますから、廃品の資源として大きいものであることはわかります
問 商工省は廃品回収にどんな組織を作っていますか
I それは図のような系統組織を完備しようとしていますが、この秋になれば全く出来上ることになっているのです、この系統的な組織を張って、資源の愛護の認識を強調し、廃品の死蔵をせしめないような運動で絶えず働きかけておきます、そうして各家庭から買出人(屑屋)が買い取るとそれを立場に集め、それが問屋に行くのですが、問屋は品種別になっています
古新聞、製紙原料(古雑誌、裁落紙、紙屑)毛屑、古綿、糸屑、再落布、綿ボロ、布ボロ、古鉄、光り物(非鉄金属)空缶、古ゴム、この十二品種の問屋で、そこからそれぞれの再生工場に向けられるのです、一方路傍や塵芥からはバタや(拾い屋)が集めてそれを親方が集め、そこで品種別に分けられて問屋に向けられるという二つの流れが、廃品回収の手と足です、この古いしきたりをそのままやって来ているので、この点も改良しなければならないし、下の層に対しての教育もまた必要となっています、それは懇話会の仕事となっています
家庭でも屑溜を品種別にしていますと大変に便利であるし、小さいものなどビールの冠なども溜めて売るようにすればよい、捨ててしまうということはいけない……これ等は教化団体から家庭に働きかけています、ドイツでは第二次四ケ年計画の廃品回収をゲーリング大将が最高執行官となってやっているようですが、極めて組織的なものです、商工省の組織は到底そこまではいっていないのですが、将来はそれによって、一旦緩急あれば国民からの物資徴発の機関ともなるように系統組織については非常に力を入れています

(10) 化学工業の躍進 平和産業の大膨張

問 次は物資制限と化学工業部門との関係について聞きましょう
H 化学薬品は省令による使用制限は受けていないが、実際の使用統制は相当強く行われています、一般的にいって戦時における化学工業の役割は鉄とか石炭とか石油とかの重工業とは別の意味で重要性を有っている、近代戦には窒素とか塩素、硝酸、硫酸等を原料とする化学工業が戦闘の決定的要素と認められ、戦争目的遂行のために重要視されるに至りました、世界大戦当時ドイツをして開戦を決意せしめたものはハーバー博士の空中窒素固定法であり、長期抗戦に堪えしめたものはイーゲー会社を中心とする染料工業であるということがよく云われています

[写真(ハーバー博士)あり 省略]

これは空気中の窒素に水素を添加して合成アンモニアを造る方法ですが、世界大戦当時、ドイツはチリ硝石の輸入が杜絶した、この時ハーバー博士の研究が完成、カイゼル皇帝は躍り上って喜び「われ戦いに勝てり」と叫んだということです
このように戦争と化学工業とは密接な関係があるが、硫安工業、人絹工業、曹達工業、染料工業、軽金属製錬工業等によって代表される平和産業が戦争に際しては軍需の方面に爆発的に膨張するのが化学工業の特徴です、例えば輸出入品臨時措置法によって硝酸の生産命令が出て硝酸工場の全運転が開始されたが、この硝酸を独立に生産している工場というものはないのです、総て硫安工場における合成アンモニアを酸化して出来る
曹達工業の場合も同じですが曹達工業の製造方法には二種類あって、アンモニア法と電解曹達法があり、アンモニア法が一番日本に行われている、原料は工業塩です
問 工業塩は内地で採れるのですか
H 工業塩は内地では全然採れません、アルカリ工業の基礎原料である工業塩を外国に依存しなければならぬことはわが曹達工業の根本的な弱点です、英米では岩塩が殆ど無尽蔵といわれる位豊富にあり、英国チエシヤイヤ州では地下五百乃至千呎の所に厚さ数千呎を有する宏大な岩塩層が横わっており、食塩分も九九・九%という良質ですしかもその採取方法も天日製塩のようなものでなく、地中に鉄管を挿入して水を注ぎ込み、それをポンプで汲み上げるという簡単なもので、従って生産費も一瓲につき一シルとか二シルとかいうお話にならぬ位安いものです
問 それでは我国はどこから塩を持って来るのですか
F 一つは台湾、関東州、満洲、北支、青島等からで、これを普通近海塩といっています、それとアフリカ、エジプト、ソマリーランド等で、この方は遠海塩と呼んでいる、大体工業塩の移輸入は百七十万トンで、近海塩の九十万トン、遠海塩の五十五万トン、あとストックが二十五万トンという割合です
H ところでその工業塩を何故使用制限しなければならぬかというと、今F君がいわれた様に遠海塩は約三分の一を占めており、これが為替関係から輸入が面倒になったことと近海塩も急には増産が出来ないという関係です
 塩田の開発には五年位の日数がかかるので急に増産計画が立てられない上に曹達工業は戦争によってどしどし膨張する、軍需用原料確保の上から制限せざるを得ぬという状態になったのです
問 曹達は戦争では何に使うのですか
H 苛性曹達を火薬の原料に使う訳です、欧洲大戦当時にはフランスは一日三百トンの苛性曹達を使った、苛性曹達の使用制限は今まで石鹸製造とか薬品製造に使われていたものを軍需品である火薬の方に振り向けるために行ったのです
 ところで使用制限の影響ですが苛性曹達は平和時にはその大半が人絹、ステープルファイバーの製造に振り向けられているので今度の使用制限でこの方面への供給が阻止されると綿製品の代用品としての人絹やス・フの生産に影響してくるような矛盾が起るかもしれない
 総じて化学薬品は一つの原料から種々雑多な製品が生れてくるので、その根元である工業塩を制限すると一波万波の如く各方面に響きわたって思わぬところに伏兵が出ないとも限らないわけです
問 染料工業はどうなっていますか
H これも戦争とは密接な関係があります、染料といっても昔のように天然染料ではなく石炭乾溜によって出来るコールタールから出来るベンゾール、トリオール、ナフタリン、石炭酸が染料の基本原料になる、染料の製造位複雑を極めたものはなく中間物や副生品が縦に横に相互に関聯している
 黒色硫化染料の原料はデニトロ・フェノールというもので石炭酸にニトロ基が二つ入ったもので、もう一つニトロ基を入れればビクニン酸となり強力な炸薬が出来るという風に染料の中間物からすぐ爆薬に転ずることが出来る
 そういうわけでドイツは世界大戦が長期戦に入ってから疾風迅雷の如く染料工業の戦時動員を行い全組織を一台トラストに組立てI・G(イーゲー)の傘下に統制した、イギリスもI・C・I(インペリアル・ケミカル・インダストリー)という一大化学工業会社を設立しました

[図表(苛性曹達需給)あり 省略]

問 アルミニウム工業は?
F アルミニウム原料はボーキサイトで今蘭領印度あたりから持って来ています、国産アルミニウムを業者が熱心にやっており朝鮮の明礬石からアルミニウムを造ることに成功しました、最近では満洲にある礬土貝岩からアルミニウムを造る研究が既に試験ずみです、併しこれはアルミニウムの純度が低いからうまく行かぬようです
問 ボーキサイトと云うのはどんなものですか
H 石の塊みたいなものでそれを電気炉に入れて、更に電気の力で電気分解する訳です、富士山に行くと赤い岩がありますネ、ああいったものです、アルミニウムの合金として使われているのがジュラルミン、スーパージュラルミンや特殊軽合金で軍需資材として不可欠なものですから民需は制限されている、最近アルミニウムが色々な代用品に使われていますがそれは純度の低いもので軍需品には使えないものです、従って純度の低いものは制限の必要がない訳です
問 ボーキサイトの最も取れる所は何処ですか
H 日本では蘭領印度のピンタン島から持って来る、其処は恐らく無尽蔵だといわれています、運賃も高くない、船がこちらから綿布や雑貨を積んで行って、その帰りに積んで来るからです、唯掘るだけの値段だが、向うでは露天掘りで転がしており殆ど使用されていない、有り余って無料みたいなものらしいですネ

[図表(内地塩生産額)あり 省略]

問 肥料工業と戦争との関係は?
H 硫安も戦争とは密接な関係がある、幸い硫安は不足していません、ところで加里と燐鉱石の使用制限をしたために農村では硫安ばかりやっているものだから肥料が片寄って農作物に与える影響が面白くない、燐鉱石は燐酸石灰の原料になるもので、南洋群島の珊瑚礁が海鳥の糞等の燐分と化合して燐鉱石になる
問 硝酸は日本で沢山造っていますか
H 空気中の窒素に水素を添加して合成アンモニアを造りそれから作ります、これは硫安工場、肥料工場で造っています
問 ゴムはどうせ輸入するんでしょうがどの位入っているのですか
E 昨年の輸入は一億円を突破しています、今度、民間用としてゴムの長靴とかデスクシート、ゴムバンドとか空気枕など二十三品目の使用が禁止又は制限されることになった、人造ゴムというのは化学製品です、一昨年でしたか帝国発明協会で人造ゴムの発明懸賞募集をやったことがあるが、羊毛、皮革におとらず、軍需品として必需品です、ドイツあたりでは人造ゴムで普通のゴム以上の効能のあるものが出来ているそうです

(11) 石炭配給不合理 数量絶対不足なし

問 燃料問題は相当喧しくいわれていますがどういう状態になっていますか
F 石炭はわが国では比較的恵まれていて九割位自給出来る、あとは満洲外地などからの輸入を仰いでいます、事変勃発前は炭界は非常な不況でした
その不況時代に、石炭聯合会には割当てられた数量以上でしたものには一瓲当り二円宛、割当額より少なかったものに対しては五十銭の罰金という罰金協定がありそれを増産奨励のため両方とも一円にした
その後余計出した方だけは罰金を撤廃してしまった事実上の自由送炭にして増産の趣旨を明らかにしました、一方五ケ年計画として昭和十六年の最終年度には六千百五十三万瓲を目標にして増産計画に着手した、これは五ケ年計画の最初の年である昭和十一年に較べて千八百四万瓲を増加することとなるのです
しかしこれも事変前の計画ですから事変勃発によって当然増産五ケ年計画の再検討が行われることとなるでしょう
はっきりしたことはわかりませんが恐らく五ケ年後の需要を充すには七千五百万瓲見当の供給を確保する必要があるんじゃないですか、石炭聯合会としてもこの大増産計画はなかなか容易のことではありません、そこで商工省に増産計画遂行に条件を出したのです
問 条件というのはどんなものですか
F それは先ず第一に労働力の問題で婦人の入坑を許可すること、朝鮮人の新規使用を認めること深夜業の禁止緩和、幼年労働者の入坑許可等で、第二が港湾の施設改良、輸送設備の完備、殊に鉄道貨車繰の円滑調整というようなものです、それからも一つはこれだけの増産をするにはどうしても毎年技術者千百人、事務員六百人、鉱夫二万二千人を新規採用しなくては駄目です
今まで地理的に有利な所だけ掘っていたのを今度は足場の悪いところとか深い坑内まで掘って行かなければならないし機械器具も高くなっている、輸送設備も多く必要とするのでコストが高くなる
だから石炭の値段が高くなることも承知して貰わなくてはならないということです、商工省も暗黙の裡に大体諒解した、それがため最近石炭の値段もグングン高くなった
鉄道省は石炭の最大消費者ですが、今年鉄道省に納入したものは昨年よりトン当り三円五十銭高くなっている、そして炭価は益々騰る情勢になったので高物価抑制政策から最近の商工省は値をあげる、とに反対の態度をとり
 最近になって商工省は石炭の生産統制協議会と配給統制協議会をつくって生産と配給の合理化をはかろうとしています、この炭価抑制方針については業者ははじめの話と違うし、これでは五ケ年計画が予定通り遂行されるかどうか判らぬとぐずぐず云っているようです
問 満洲からは入りますか
F 原則的には入ることになります、輸送設備が問題になるが内地の不足だけは入れる、兎に角船舶を始め貨車繰りなど輸送設備が今のように悪くては内地の石炭すらどうにもならないのでなんとかして貰いたいと陳情したりしている状態です
D 商工省の小金鉱山局長の話では『日本の石炭の需給は大体トントン今年の末はむしろ残る位、三百万トン消費節約をやらそうと思うが今の増産計画が順調にさえ行っていれば需給は十分数量的には安心だ、生産力拡充にも十分応じ得る』といっている
問 山東にある中興石炭が良いといっていますね
F そうです、中興炭は製鉄用のコークス炭としてなかなか良いものです、今までも毎年二、三十万瓲入って来ましたが今少し治安が回復されなくては増産というところまで行かないでしょう、それに輸送設備が悪いので……差し当っては山西省の開□炭の方に大きな期待を繋いでいるようです、現在毎年四百六十万瓲位出てコークス用炭として質も良いし今盛んに増産計画を進めています、今年日本に入って来る数量は確二百万瓲を突破する筈になっています、何れにしてもわが国は石炭だけは可成り恵まれていますが困ったことには特殊向きの良い炭とか製鉄用の炭が竈焚きの方に廻されてしまったり、丸で無統制です
そこで配給網の組織替えをしようというので今言った生産統制、配給統制の両協議会が出来た、世の中をあげて物が足らぬといっているが、石炭に関する限り絶対に数量の不足でなしに配給の不合理から来る局部的のものなのです
問 石炭の消費節約は何か法律か省令によるのですか
D 官民の間に石炭の消費節約委員会というものを設けて、家庭用炭でなく工業用の消費を合理化しようという話が進んでいます、銭湯とか家庭の自家用風呂までの消費節減には来ないでしょう
問 ガソリンの節約、所謂消費規正は所期の効果をあげていますか
D 確に挙げていますね、数字の様なものは絶対秘密ですが法律による貯油義務の外にも貯油が十分殖えています
問 最近ガソリンには強制的にアルコールを混用することになっているそうだが量は相当多いのですか
F この七月一日から実施になったもので差し当って五パーセント混用することになっていますが昭和十六年までには二割混用することになっています、何といっても日本の石油は一割弱しか自給出来ずあとは全部輸入に待たなければならぬのだから油は非常に大事にしなくてはならない、輸出入品臨時措置法によって揮発油及び重油販売取締規則が制定され、重油、ガソリンが切符制度によって強制的節約が行われたのもこれがためです、従ってわが国などでは一朝有事に備えるため軍事的に一定の貯油量というものがどうしても必要であり、これだけは絶対に手をつけぬという建前になっています
問 ガソリンの代用品は?
F 人造石油、木炭ガス等で、木炭ガスは昨今非常な勢いで自動車等に使用されています
低温乾溜は製鉄用のコークスから出た副産物でタールに水素を添加して造るのもで、現在日鉄輪西製鉄所、日本窒素系の朝鮮石炭鉱業、三菱石炭油化工業その他二、三でやっていますが、ガソリンの供給不足を緩和するという程ではありません

[図表(本邦石炭需給)あり 省略]

問 副産物だから量的に出来ないのですね
F そうです、大体が副産物ですから……しかし人造石油になると副産物ではなく初めから人造石油を目的として直接石炭からとるのですから量的に幾等でも造ろうとすれば出来るのですがまだ試験時代をやっと出たばかりで、コストが高くつくのです、然しこんな時代にはそんな事もいっていられないので帝国燃料会社が指導もしたり、資金の相談にも乗ってやり、七ケ年計画で昭和十八年までに重油、ガソリンをそれぞれ百万瓲を造る計画で馬力をかけているのです
問 アルコールの増産については政府はどんな風にしていますか
D アルコールの強制混用が実施されたため全国的に馬鈴薯と甘藷の大量栽培を始めています、官営のアルコール工場が北海道、九州その他に続々出来ています
問 ところで紙の制限はどういうことになるのですか
C 新聞用紙は昨年の実績の一割二分を節約、雑誌、高級印刷紙、雑紙等もそれぞれの割合で節約させることになっています、しかしこれは措置法に基く省令によって強制するのではなくいわゆる自治的統制によるのです
問 包装紙は百貨店を始め、場末の小さな店まで可成りよい紙を使っていますね
C 百貨店では商工省の注意によって包装紙を自発的に減らしています、百貨店に行くと「包装は簡略に致します」という貼り紙をしてあるのを見受けます、ただ包装のマークは広告用という意味の他に万引を防ぐ意味もある、従って紙質の転ではもっと薄くするとか、等級をおとすとか、出来るだけ小さなもので済ますということ、そう云う方法も考えられるでしょう、世界大戦当時のドイツなど今日の日本などでとても及びもつかない程の徹底した消費節約をやったものです
G 菓子でも何でも昔のように新聞紙で包めばいいのではないかという意見もあるが、警察の方針としては昔から衛生上の見地から飲食品類を古新聞で包んではならぬといっています、紙の節約をする以上はこんな小さな点まで取締を変えなければならない事になります、国民がこういった新経済国策と旧来の取締法規の間に板挟みとなるような例は枚挙に遑がないので政府もこういった行政上の統一には余程注意しないと国民の方が面喰うような事になります

[図表(世界石炭産額)あり 省略]


[図表(世界石炭産額)あり 省略]

問 木材の使用制限というものはどの程度のものですか
E 米材というのは大きな兵舎とか橋梁とかの建築に主として用います、南洋材というのは主としてベニヤ板になる原料で、米松は最近米松販売取締規則が出来て、米松の民間使用は自由には出来なくなりました、木材は昨年七千万円ばかり輸入していますが、従来パルプになるべき木材もドブ板もゴッタにして使っていたので、今度はこれ等の消費を調整することになりました、木造住宅の建築制限は建物三十坪以上の場合に適用される予定です、それ以下のものを禁止すれば住宅問題を起して家賃が暴騰するのを恐れるからです

(12) 物価対策に慎重 生れ出た「公定価格」

問 今までの話で色んな品物の輸入抑制、製造禁止、供給使用制限などが各方面に広く行われる様になって来ると勢い物価は騰らざるを得ないでしょう、そこで政府のやっている物価対策はどんな事情になっていますか
D そうです、一般生活用品の不足は勿論、軍需品なども何しろ供給に較べて需要がべら棒に殖えてしまっているのだから、これ等を放って置けば、物価は騰り放題なわけです
これが昔の自由主義経済の時代なら、物が足りなければ物価は騰る、物が高くなれば一方では生産が増加し、輸入が殖えるという工合で供給が多くなる、他方では値段が高くなるにつれて需要の方が差控えられる、そこでいい塩梅に需給のバランスが調節され、従って値段も落着いて来るという筋道になっていた、詰り物価高にも自動的なブレーキがあった
所が戦争が進み、国防経済が進んで来ている今日ではこれと事情がまるっきり違う、品物によっては幾ら値段が騰っても、政府の権力で輸入を抑え製造を禁じて供給を増加させないのだ、他方戦争に使う物資の様なものは値段がどんなに高くなろうが要るだけのものは要るわけで、値が高いからといって買控えているわけにはゆかない、今日では、物価が騰ったからと云って、日用品の供給は殖えないし、軍需品の需要は減らないのだから、そこには自動的に働くブレーキというものがありません、放って置けば糸の切れた風船玉みたように何処まで騰ってゆくか判らない、そういう状態になっているのです、だから物の値段は需要供給を通しては抑え切れない、どうしても物の値段そのものを直接に抑えなければならない、昨年八月事変勃発直後に暴利取締令が改正されたのはその第一着手で、その後棉花及び綿糸に公定価格が出来ました
その後物価委員会の標準価格といい、物品販売価格取締規定による一般的な公定価格制といい、大勢は滔々として価格の公定に向って来ています、という訳ですから昔の価格は経済的な事情から生れたもので経済価格と称されましたが、最近の公定価格は経済価格でなしに、行政価格と呼ばれています、経済事情によって落着く自然的価格でなくて行政的に決める価格という意味です
物が不足しているのだから高くてもいいのじゃないかというので値を不当に釣上げて暴利取締令に引掛る商人が跡を絶たないのは、この事情が変ったこと、それが国策のためだということを知らないせいでしょう、ではどういう国策のためか?物価が騰って一番に困るのは一定の予算で買える筈の軍需品が調達出来なくなり、折角の軍事費で賄い切れなくなります、また前に貿易の所でも問題になったが物価が騰ると輸出品の生産コストつまり元値が上る、そうすると安いので売れていた輸出品が売れなくなる、これが困る、それから一般に国民生活が苦しくなるのも防がねばならない、軍需景気が全国民に平均して行渡っているなら物価高も何のそのといえましょうが、現在は相当大きな凸凹が出来て来ているからそうはいかない
問 今云われた暴利取締令、物価委員会、公定価格制などの内容や関係を詳しく説明して下さい
C 暴利取締令は大正六年米騒動のとき出来た省令ですが、元来が暴利を取締るだけで価格政策としては閂を一本指したような消極的なものです、昨年の改正では品目が追加されましたが改正以来まだ六件しか処分されていません、それは流石にこの宝刀の睨みが利いているためとも見られましょう、つい先日も改正が行われましたが、この時は品目の追加だけでなく全国に総正札を強制したことが画期的なことでした
問 物価抑制は暴利取締令だけではうまく行かないんですか
C 暴利取締令が相当睨みを利かしていることは確です、違反件数が非常に少いことでもそれは判る、だが、この取締令は個々の取引の場合に商人が世間普通の儲け以上に、暴利をむさぼることは取締れるのですが、原料が高い、労賃が高い、運賃が高い、−そう云う色々な事情で物が高くなって行くことに対してはこれを抑える力がない
それから製造家や、問屋や小売商が、この取締令に引掛からない程度で少しずつ儲けを多くした場合、その商品は商人の手から手へ移る毎に高くなって、終いには飛んでもない高い値段になってしまうことがあるが、そう云う場合も一人一人の商人はそう暴利をとっているわけじゃないから、これに文句をつけるわけにはゆかぬ
そう云う欠点がある、だから単的に物価を抑えるのには、一つ一つの取引の利鞘を抑えると同時に、それぞれの商品に最高価格という様なものを公定してかからなければ本当の効果がない、そこで政府は片一方にこの伝家の宝刀を翳して置いて他方に実際に商品の値段を公定する方法をどしどし進めているのです

戦費と国民所得及び貯蓄
欧洲大戦の列国一ケ年平均戦費と国民所得年額との割合は
▲英六八%▲仏九七%▲伊九五%▲米三四%▲露九二%▲独八五%▲墺七三%
で仏国の九七パーセントは国民一ケ年所得と殆ど同額が戦費とされている、また国民貯蓄年額と戦費一ケ年平均額との割合は
▲英四六八%▲仏五五九%▲米二六二%▲露五四一%▲独五二五%▲墺四五五%
で伊国の九八一%は国民十ケ年の貯蓄と相当する額を一ケ年の戦費として消費した事になる

この値段公定の基礎になる法律は物の制限と同じく矢張り輸出入品臨時措置法です、先ず棉花及び綿糸に商工大臣告示の価格を設定したこれが恒例価格の走りです、そのほかに、水銀とかゴムなどには業者の協定で作った最高価格があるが、これも政府の睨みによって作られたのが本当で、その意味では公定価格に近いといっていい、業者がそれを守らなければ直ちに商工大臣告示の肯定価格に振替える用意があるからです
問 物価委員会というのはどう云う組織でどんな仕事をするのですか
D 物価委員会はこの四月に出来たもので、商工省に中央物価委員会を置いて全国的な物価抑制策及び標準価格の決定に当っています、これに対して地方には各道府県毎に地方長官の下に地方物価委員会を設け、その地方々々の事情に応じた物価を相談しています、一番中心になるのは何といっても中央物価委員会で、世間では初め政府の単なる諮問機関に何が出来るかと見縊っていたようですが、いやどうも仕事は大変な馬力です、非常な成績を挙げています、これは確に褒めていいと思います

[図表(欧洲大戦戦費負担力と国富)あり 省略]

中央物価委員会の組織としては先ず一般物価対策を相談するために第一特別委員会というのが出来、個々の商品の値段を抑える方法を相談するのに第二特別委員会が出来た、第一特別委員会の仕事は一般論だけに地味だが価格公定の必要を力説してそれが数週間後に物品販売取締規則という省令になって出た、また最近では「輸入力増進のため金準備を利用するよう」に決議したのも目新しい話でしょう、これの答申は新聞紙上でも御承知のように長い文章になっています、処が第二特別委員会の方は大部分が商品毎の細かい標準価格の決定です、新聞の紙面を埋めるあの小さい数字はみなその仕事です、この第二特別委員会の下には商品の種類別に専門委員会が出来ていて業者の公正な代表者と当局が膝つき合せて細かい数字を算盤に入れていますそれで今迄に発表された標準価格は綿製品、毛製品、麻製品、皮革製品、米材、化学薬品、ゴム製品、氷、石炭等で二十六日の家賃交通費専門委員会では家賃や地代の抑制方針も決りました
地方は地方でこの標準価格を修正して、例えば大阪などは東京よりもいくらか宛安い値段をきめて大阪物価として発表している
岡山は岡山でその大阪を標準としてさらに安い値段をきめて発表しています、中々成績が宜しい、この調子で地方物価が広くきまって行けば確かに効目があるでしょう

(13) 販売価格の指定 公定価格の決る手続

問 中央物価委員会で発表される標準価格というのは強制力があるのですか
D それがないのです、だからせいぜい暴利取締令発動の基準にしかならない、それから国民に公正な値を知らせて業者に自発的に協力するよう馴致する以外にない、だが標準価格より五分や一割高く売ってもそれは暴利とも言えないし、取締の仕様はないわけです、ここに悩みがあった、そこでこれを価格公定制度に結びつけることを考えねばならなくなった、そこで最近一番大きな価格政策である物品販売価格取締規則というものが登場して来たのです、これも初めてお話したように輸出入品臨時措置法に基いた商工省令ですが、その条文は僅に二ケ条、しかもその大眼目は第一条に尽きている、その第一条は後で述べるように二十八日一部改正されましたが最初の規定について申せば

一、商工大臣が告示によって物品を指定した場合は、その物品の値段は指定前日の価格より引上げることを厳禁する
一、商工大臣又は地方長官が告示によって或る物品の価格を公定した場合は、これを最高価格として守らねばならない

という二つの骨子から出来ています、これをくだいていうと、商工大臣はこれによって如何なる物品に対しても価格を公定する権限を得た
今までのように棉花とか綿糸とかに公定価格を作るときは一つ一つについて輸出入品臨時措置法に基く省令を出さなければならなかったが、今度この規則が一本出たことによってこれからはどんな物品でも単なる告示一つで公定価格を作ることが出来るようになったわけです
所が二十八日の同取締規則改正で今いった骨子の第一項に指定された日の「前日の価格」とあったのが今度は「商工大臣の指定する年月日の価格」ということに変えられました、つまり「前日の価格」で抑えていたのでは業者のうちにインチキをするものがある、物価委員会の標準価格とこの物品販売価格取締規則との運用上の関係をよく呑込んでいる業者のうちには、物価委員会で標準価格がきまったと聞くと「ははーん、その翌日には物品指定が告示されて前日価格で押えられるな?」ということが十分予知出来るので、慌てて価格を引上げる者がある、これには商工省も困った、だから今度は「商工大臣の指定する年月日の価格」ということにして、もっと遡って価格を抑えることになったわけです
実際の見透しとしては前日から一日だけ遡って前々日の価格で抑えることになるようです、同時に今はまだ問題はないが、この改正によって商工大臣は自由に過去に遡及して価格を抑える広範囲な権限を得たものといっていい、極端にいえば商工大臣が昭和十二年七月一日という年月日を指定して価格を抑えれば、一切の物価は事変前の相場に逆戻りさせられて、その水準からの引上げが禁止される理窟です、まさかそんな極端なことは絶対にないが、今後色んな政治的或は経済的な変動が起きたとき、或は大きな天災があったとき、物価が急騰するような場合はその異変以前の年月日を指定して急騰する物価に廻れ右を命ずることは十分あるわけです、従来のように単に「前日の価格」ではとても間にあいません、そういう大きな権限がここに含まれているということを覚えて置いて下さい、役所も色んな経験から色んな方法を教えられるのですね
問 公定価格は具体的にはどんな手続で決められることになるのですか
C 商工大臣が例えばゴム靴の価格を抑えたいと睨みますね、物価委員会のゴムの専門委員会は早速ゴム靴の標準価格を決定して答申します、それを見た上で商工大臣は「宜しい、これを公定価格に取り入れよう」という方針をきめるわけです、そのためには何よりも先ずゴム靴の市価が思惑で値上りするのを防ぐ手を打って置かねばならないそのために第一条の第一の項目によって「ゴム靴の値段は何年何月何日現在の値より引上げることを禁止する」という意味のことを告示します
これは官報に出る文句でいうと商工省告示「物品販売価格取締規則第一条の規定により物品及び年月日を左の通り指定す、ゴム靴、何年何月何日」と出るわけです、つまりゴム靴という「物品の指定」と年月日の指定があったときはその年月日の値段でピタリと抑えられるわけです、自分の商店だけが他より少し安い値をつけていたといってもそれは詰らない愚痴で、その「年月日の価格」を引上げることは許されません
これに違反すると輸出入品臨時措置法の罰則によって体刑又は罰金に処せられます、暴利取締令によるのではない、体刑も罰金もずっと重くなる、さてそうして価格の引上げを禁止して置いてから愈公定価格の決定に移るのです、第一条の第二項に出て来る「販売価格の指定」です、これは一般的な大きな商品、全国的に値段を一律にきめ得る商品については商工大臣がきめます
がそうでない大部分の商品については出来る限り地方長官にきめさせる方針です、条文の上では、商工大臣でも地方長官でもよいことになっている、その時さっきお話した物価委員会の標準価格が現実に生きて来るのです、此処が大事です、商工大臣が公定価格をつくるときは中央物価委員会の標準価格をそのまま公定価格として告示します、地方のほうは地方物価委員会が地方事情に応じて地方標準価格をきめるのをまってそれを公定価格として地方長官が告示します、そうするとその道府県の中では厳然たる公定価格になるわけです、商工大臣がきめたのであろうと、地方長官がきめたのだろうと、何れを問わず、これに対する違反は同様に輸出入品臨時措置法によって厳重に罰せられます、この物品販売価格取締規則が公布施行されてからの実績は、商工大臣の「物品の指定」が繊維製品、皮革製品、麻製品、輸入材及び製品、ゴム製品、アルミ、アルマイト製品、其他化学工業品に一番新しい処では氷と家庭及び浴場用石炭も加えて全部併せて二十二品目が指定されています、これはみんなそれぞれ指定の年月日の値で抑えられたわけです

[図表(最近の卸売物価)あり 省略]

これが物価委員会と価格公定との大切な繋りです既に地方では千葉県が商工大臣の「物品指定」に従ってその物品毎に地方の公定価格を告示したそうです、他府県でもどしどし価格を公定して行くでしょう
問 物価問題には船の運賃なども相当大きな関係をもっていると思うのですが、この方はどんな事情になっていますか
H 運賃と傭船料の問題は貿易や物価問題に関聯して相当重要な要素なのです、戦時体制に入ってから運賃、傭船料が問題になったのは国内の物価騰貴に関聯して喧しくいわれるようになったのだが、それも近海−つまり国内の港と港との間の運賃が世界の水準を遥に上廻っているからです
世界の海運界は昨年の秋あたりから下降期に入り、海運景気を左右するといわれる欧洲の小麦が今年は豊作であること−元来需要地である欧洲が豊作だと、他の濠洲とかカナダ、南米とかいう様な主産地からの小麦輸送がそれだけ減るわけでそれが影響してイギリスあたりは繋船がどんどん増加して行くような不景気です
それにもかかわらず日本近海だけが独歩高の現象を呈しているのは、事変の特殊目的のためにその方に相当数の船舶がとられているのと、その他に大陸の復興や開発材料の荷動きが盛んなため船腹がとかく不足勝ちのためだとみています、ところでこの運賃や傭船料を抑えるためには臨時船舶管理法というのが控えていますが、政府はこの法律を伝家の宝刀としてなるたけ抜かないように心懸けて、大きな船会社から出来ている海運自治聯盟というものに協定運賃及び傭船料を実行させようとしています
しかし現状では兎角協定破りなどが出て来て困っているようですから今後はこの伝家の宝刀を繞って抜くか抜かぬかのかね合いがデリケートな問題となってくるでしょう

(14) 失業対策の急務 転業、転職の指導へ

問 労働力の問題はどんな状態になっていますか、或る方面では、例えば軍需工業の様に労力が足りぬという、また一方には平和産業の方面など仕事がなくなったために失業者が出るという様な話も聞きますが……
G それは両方とも事実なんじゃないですか、兎に角、戦時経済下の労働力の問題というものは普通、平時の景気、不景気の場合と違って大分複雑です、時局に関係ある産業の方面では非常に労働の不足を訴えている、殊に下級の技術指導者や熟練工や半熟練工、そう云ったものが絶対的不足を示している
例えばこんな現象すらある、飛行機製作事業−これなぞは時局産業の花形として雨後の筍の様に会社設立が計画されたものですが、資金や資材はどうやら都合がついても肝腎の技術家や熟練工が得られない、其処で高い給料を払って他の既設会社からの引抜きをやる、然しあっちこっちから幾人か寄せ集めたところで勿論直ぐ満足な仕事が出来るわけのものじゃない、然も他方では熟練工を引抜かれた既設会社の方もまたそのために打撃をうけて作業の能率が下がって了う
そんな訳で新設会社の続出が反って全体としての生産力を低下させるという様な実に奇妙な傾向すら観取されたのです、然しそれと同時に他方では何等技術を持たない労働者は依然として相当の量が失業状態を続けている、然もその上に最近では前にも度々話があった様に、色々な方面から生産や配給が制限される様になった結果、平和産業の方面では事業を縮小したり、中止したりするものが大分多い、勢い職を失うものも少なくないという様な結果になっています
問 政府は斯う云う方面に何か対策を樹てていますか
G やや泥縄の感はあるが色々と対策は講じている様です、厚生省では中央と各府県にそれぞれ官民を網羅した失業対策委員会を設けて適切な失業対策を立てることにしました、中央の失業対策委員会は近く開かれる筈です、この委員会で具体案が出来ると全国二百の国営職業紹介所−明年度には約四百となる予定ですが−を動員して就職、転業の斡旋指導をさせる、斯様にして全国的に労力の適当な配置を計って行こうというプランです
それから熟練工の不足については熟練工の速成養成を計画している、熟練工の速成養成という言葉自体がちょっと皮肉ですが、とにかく、大慌てに慌てて対策を講じている様です、例えば今年あたり高等工業や工業学校なぞの生徒募集をどんどん殖やしているが、これなども技術員の増加が目的でその一つでしょう、また商工少あたりでは機械工を養成するために国立の養成所を設けたり、市や町や民間会社などに補助金をやって公営や私営の養成所を設けさせたりしている
問 平和産業方面の失業者に対しては特別に対策があるのですか
G この問題は、実は二つの違った性質の問題を含んでいます、一つはいうまでもなくこれまで平和産業に従事していた労働者の失業対策、もう一つは中、小商工業の企業主そのものの失業対策の問題です、労働者の失業対策については前に述べた失業対策委員会が中心となって対策を樹て、全国の職業紹介所を利用して失業者の救済に当らせることになるのですが、今厚生省あたりで考えている失業対策の大体の方針というのは先ず第一に平和産業方面の労働者で軍需工業に使えるものはどしどしこの方面へ転職させて行くことです
軍需工業では労働者の雇入条件が相当難しく、今まででもこの条件にひっかかって転向出来ない労働者というのが随分ありましたが、今度は出来るだけ平和産業の失業者を救済する意味で厚生省が尽力した結果、軍需工場の雇入条件も相当緩和せられることになった様です
こうして出来るだけ手不足な軍需工業へ失業者を送り込もうという計画です、第二には軍需工業へ現在のままでは転向出来ない労働者のために職業紹介所等が中心となって速成的に技術を教えたのち軍需工業へ送り込む、それでも年齢だとか体格などの関係で転向出来ない人達のためには代用品産業に向けるとか、或いは事業主にも辛いところを忍んで貰って労働時間の短縮、休日の増加などの方法で出来るだけ労働者を失業させない様に考えさせるとか、またどうしても職を失う人々には内職組合等を設けて仕事を与える、帰農出来る者は出来るだけ帰農を勧める等種々の対策が考えられています
失業対策中央委員会では大体の根本方針を樹て、これを地方へ伝えるわけですが、各府県に設けられる地方委員会ではこの根本対策に基いていろいろその土地の事情に応じて更に細い部分の対策を練り、その実行方法を考えて行くことになるのです、そこで前に云った職業紹介所の活動が非常に重大な使命を持って来ることになります
D 次の問題は中小商工業の企業主の失業対策ですが製造の禁止や配給販売の制限などが発展するにつれて最近この問題が非常に深刻になって来ているのです、この方は商工省が中心になって対策を講じて行くわけで今度省内に転業対策委員会といったものを作って大規模の転業を指導することになりました、大体の方針としては出来るだけ従来からの設備を利用して、軍需工業とか又は代用品工業、輸出工業などの方へ転換させて行く、その場合に工業組合などが中心になって転業資金を融通したり、共同施設や材料の供給など色々積極的な援助をやる、またその場合全国の市または商工会議所の商工相談所という様なものも大いに活用して行く、大体そう云う考えらしいです
問 今日の問題としては転職、転業も已むを得ないが、そうすると今度は事変が済んで後にまた新たな努力問題というものが起きて来わしませんか
D それも確に考えて置かなくちゃならぬ問題ですね、例えば近代建築等は今の大工とかいうような職人でなしにどうしても或る程度科学的な知識が要る、これが今の建築の一つの職人なんですが、これが鉄の制限やら材木の制限その他でこれから先、大きな仕事が出来なくなった、大体建築が出来なくなった、その為に仕事を失ってしまう
何処かに転業しなければならぬというので他に転業したとすると、いざ事変が終って建築制限が弛まった時に、そして色々な建築が始まったという時に痛切に困るという訳で非常に問題だと思います、これは一つの部門ではあるが、色色な所に、例えば染色職工にしても手拭を作っているものにしても、足袋を作っているものにしても色々の産業界のかけがえのないものを失う

[図表(重要事業別労働人員指数)あり 省略]

そういう点を無視して当面の目先的解決ばかりを考えていてはいけない、将来大きな問題になるでしょう、だから転職、転業の指導という様な場合にも余程この点を注意する必要があるでしょうね
問 戦時経済に即応して所謂戦時労働体制を整えて行くために政府では国家総動員法の一部を発動する意向のようですが、どういう方面からどういう風にやって行こうとしているのですか
G 総動員法の規定の中先ず発動されると考えられているものは第六条で「従業者の使用、雇入若くは解雇又は賃金其の他の労働条件」に関する規定です、これは先にもお話があった様に、軍需工業方面で非常に労働者が不足している、従って会社工場では熟練工の奪い合いが猛烈に行われている有様で、工科の大学、専門学校の卒業生でも我勝ちに引抜いて行こうという風が見えますので、こういう技術者、熟練工の争奪を防止して適正な配置を図ろうという目的から第六条を発動することになったわけです
そして差当り鉄工業関係の新規学校卒業生の雇入を制限する勅令が制定されるものとみられていますが、これは新卒業生を採用しようとする事業主から厚生大臣に採用予定数を申告させ、厚生省でその申告について雇傭規制委員会の意見を徴して振り当てを定めるもので、Aの会社の十名は多いから五名にせよ、Bの会社は何人まで採用してもよいという風に採用数を制限させようというのです
これは事業主の方が制限を受けるので学生は今まで通り行きたい希望の会社へ志願して行けばよいので、直接法規によって何等の制限を受けるのもではありません、それからこの卒業生の外に軍需工業方面の一般熟練工の争奪防止についても勅令が出される模様ですが、これは国民登録によって労働者に渡される労働手帳を争奪防止に利用しようという方針らしいです
労働手帳は労働者が或事業主の許で働いている間は事業主が保管して置き解雇、解約の際に手帳を返す、そして手帳をもっていない労働者は事業主側で雇入れることは出来ない、又他の事業主の許へ転職するとか暫く職を離れた者が就職しようとする時には職業紹介所を通じてやるという風に定めようとしています
なお第六条に基いて労働賃金の水準化を計るために最低最高賃金制を設定することが厚生省労働局あたるで考えられています、これは最低賃金によって労働者の生活安定を計り、最高賃金によって労働者の争奪を防ごうというのですが、これが実現することは未だ相当の時日を要する問題で、目下厚生省で資料を集めているところです

[図表(欧洲大戦三国小銃、機関銃製造力)あり 省略]

(完) 産業機構編成替 基本政策逆戻りを許さず

問 今言った国民登録というのはどんなものですか
G 国民登録というのは総動員法の第二十条一の規定によって国家総動員上必要のある時は帝国臣民及び帝国臣民を雇傭使用する者から職業能力に関する事項を申告させて、必要な場合に帝国臣民を徴用するというのがその本旨で、あわせて平時にはこの登録を利用して労務の需給を調整して行こうという重大な役割を持つ制度ですが、政府では鉱工業、交通業に従事する労働者について先ず登録制度を行わうとしています、これらの労働者のうち満十六歳以上の男工についてその従事している仕事の種類、技能程度などを申告させるもので、技能については国が作業試験を行って熟練程度を三段階に分けて登録しようという計画ですこの作業能力のテストは主として中小工場に働いている労働者に対して行われるもので職業紹介所がこれにあたることになるでしょう
申告された事項はカードに記録して職業紹介所が保管し労働者が移動すればそれと同時にカードも居住地の紹介所へ移される、そして登録と同時に労働手帳を交付する、この労働手帳の制度が前に云った争奪防止の目的に利用されるわけです
この労働者登録の外に医師、歯科医、薬剤師、看護婦の登録も実施されることになっていますが、これらの登録制度は早ければ秋頃に実現するようです
問 段々と色々伺って、今日のわが国戦時経済の特徴と大体の仕組は判りましたが、斯う云う経済政策は今後何うなって行くのか、その他気づかれた点を……
A これは批評の様なものになるのだが、今日政府が強行している物資の使用制限とか配給制限とか、その他種々の戦時統制経済というものは、それは事変の急激な展開に引ずられて慌てて対策を講じなければならなかった関係上、已むを得ない事情がこれまでは相当あったと思うのですが、色々な政策の間にどうも凹凸が多い、全体が平均して進められていないために、その間に摩擦が生じて来る
例えば今の建築法によると鉄筋コンクリート建ではどの位の鉄を使わなければならない、又木造でも何階建のものにはこれだけのことをやらなければならぬという規定がある、所が最近の鉄の制限、材木の制限によってそう云う規定にばかり従うことが出来ない、其処で、綿布に対するス・フのような工合に代用的な建築材料や方法を考えている
ところが幸いそう云う代用的な建築方法が見つかってもそれを行うのには建築法の条例から変って行かなければならぬ、之に対しては政府は何にも考えていないのです、徒らに発明しても警視庁が許さぬとか、建築法によっていかんとかというので違反にひっかかる、これなどは一例だが、今後代用品という様なものがどんどん発明工夫されて行くとするとそれが現在の色々な規則にひっかかる、そう云う摩擦が到るところに出て来ると思う、そう云うことについては政府の方で相当考慮してどんどん規則を改廃していかなければならぬ、つまり色々な政策、色々な法令の間の均衡ということが計られなければならぬと思います、之からはそういう補正の時期が来なければならないでしょう
問 一体、代用品という言葉は何か斯う一時的、臨時的に使うものという感じがして面白くない様に思うがどうですか……
D 確にそれはありますね、代用品というと、暫くすれば制限が解ける、その間の代用だという風に言葉が取れる、商工省あたりでもそれを嫌って代用品という言葉以外に何かよい言葉はないか、というので、いま「新資源」という言葉を使っている、これは私の思いつきですが「新興製品」などもいい言葉ではないかと思います、然もこれはひとり代用品という言葉のみじゃない、同じことが今日の戦時経済政策全体について云えると思う
最近出た法令には大概「臨時」というレッテルがはられている、そこで例えば輸出入品臨時措置法とあるから臨時のものだという用語上の問題が、精神的に影響する、国民に色々な覚悟を促すのもいいが、国民に映る場合には言葉を通じて反映するので用語は余程気を付ける必要がある
官庁用語の再検討の必要が確にある訳でそこへ行くと先般板垣陸相が初めて使った「長期建設」の言葉などは非常に結構な用語で事変否事変後に処する国民の目標を示して余りあるものがありますこれを要するに戦争が済んでも今迄説明された戦時経済状態は続けられて行かねばならぬということを或る程度一般に植付ける必要があるのじゃないか早い話が安全剃刀にしても、ジレットやバレーの輸入は止めてしまった、そのため現在では非常に優秀な国産品が出来るようになっています、だが戦争が済んだからといって、将来再びジレットやバレーの輸入を許すのでは国産品はたまったものじゃない、だから戦争は済んでも『将来引つづき輸入物は許さないのだぞ』ということが確固不動の既定方針になっていなければならないわけです、内地向の綿を禁止した、そのためス・フ工業が盛になっている、これだって同じです、政府はそこをもっと明瞭に国民に約束し、よく叩き込む努力をしなければならないと思います、未だはっきりしていない嫌いがありますね
問 それは今日の戦時経済が将来どう発展するかという根本問題に関聯して来ると思うのだが、その点はどう考えますか
B 今日実施されている色々な戦時的経済政策が将来どこまで進展するか、それは事変そのものの展開如何によることで、瞭り見透しをつけることはちょっと出来ないが、少くとも斯う云うことだけは云える、つまりもし事変が急速に解決に向う様なことがあるとしても、今日の戦時経済政策の基本的な部分はそう簡単に逆戻りすることを許されないだろう、一つは今度の事変が終っても一般的な国際政局の危機というものは依然解消されないからです、所謂持てる国と持たざる国との利害対立、それからそうした経済的対立を背景に益激化されて行く思想的な相剋摩擦−今日の世界は国と国とが接するところ欧洲でも東洋でも到るところに大なり小なり戦争の危機が孕まれている、見方によっては今度の支那事変は満洲事変、エチオピア戦争、スペインにおける国内戦、それから直接銃火に訴えるには至らなかったが、独墺合併、最近のチェコ問題などと共に大規模な「世界戦争」における一局部戦であり、より深刻な危機への単なる序幕に過ぎないとも云えるでしょう
だから仮令支那事変は終ってもわが国だけがそうした世界的危機の圏外に立つことは許されない、将来戦に対する準備は好むと好まざるとに拘らず今後益々強行を余儀なくされるでしょう、この点は日露戦後や欧洲大戦後と事情が非常に違っています
もう一つは、今日わが国で進行している戦時経済への編成替というものはそれ自体が大規模な新しい産業改革の過程だと云うことです、直接の目的は無論当面の戦争を遂行するためだが、兎に角従来の産業の構成なり、それを動かす機構なりが根本的に、質的に変って来ている
これまでのところで色々と説明されたように例えば従来わが国の産業構成は紡績業とか輸出雑品工業とか、所謂軽工業というものが非常に大きな部分を占め、それ等が産業上支配的な地位にあった、ところが今日ではそうした軽工業はいずれも新拡張を制限され、三割、五割という様な操業短縮を余儀なくされている時に、他方では製鉄業とか機械工業とかいう様な重工業、肥料とか曹達工業とかいう様な化学工業はどしどし生産力拡充が行われ両者の地位は今や転倒しようとしている
又色々な原料の使用制限から代用品工業というものが急速な発展を遂げようとしているがここにも旧原料による産業と新原料による産業との間に当然激しい隆替が予想される、斯様に今度の事変を契機としてわが国の産業構成は質的に一変しようとしているのです、それから、産業を動かす機構もすっかり変ってしまっている、原料の供給から生産配給、価格に至るまであらゆる部面に極度の国家的統制の手が伸び、それが実質上全産業を運転しているといってよい、然もその統制は輸出入のリンク制にしても、物価委員会を基礎とする価格公定にしても立派に経済機構として発展しています、これ等の変化は単に「臨時的」というには余りに広汎で、然も深刻な改革です、考え様によっては、それは明治維新後に進行した産業改革にも匹敵する歴史的な過程だと云えると思う、事変が済んだからと云ってこれ程の変革を簡単に後戻りさせることは到底出来ない、政府は何よりも先ずこの転について自分自身が確固とした見透しを持ち、それに基いた方針をはっきりと国民に納得させる必要がある、国民もまた今日の戦時経済の歴史的意義というものを正確に把んでこそ初めてこの戦時非常時局に処する国民的一大覚悟が生ずるのではないでしょうか、この見地から国民に事の実相をしらしめその正確なる認識に基いて初めて力強き挙国一致があるというものでしょう
近く本社から出版
本社記者問答による本記事は之に関係法規並に各種の政府発表を併せ収録し一冊にとりまとめて近く本社より発行することに致します


データ作成:2003.12 神戸大学附属図書館