新聞記事文庫 農産物(1-124)
大阪新報 1921.2.8(大正10)


胡椒貿易と植付


胡椒貿易は中世初期ベニスに於て隆盛を極め其の後インド航路の発見以来、西、葡爾国人は盛んに之れを欧洲に輸入せり和蘭は西班牙と戦いを交えるやより除外されしかば和蘭は単独にて海路印度に通ぜんとし苦心惨澹途に十七世紀初頭に至り其の目的を達し爪哇の東部バンタンの沿岸に達して茲に於て東印度会社の建設を見十七世紀中葉には該会社輸入殖民地物産総額の三分の一は胡椒貿易の占有する所となれり十七世紀初葉に於ける爪哇の主要なる胡椒は対岸たるラムボン管区並にスマトラのベンクーレンに於て栽培せられたるものの如し胡椒は以前バンタンのサルタンより東印度会社に供給され居たりしものなり次に注意す可きは千八百二十九年の頃既に総督は奨励のため胡椒栽培便覧の発行を命令したる事あり栽培制度の盛なる現今多くの人々は栽培胡椒に局限され居れども該方法による時は其の結果譲る面白からず既に千六百十二年爪哇に於いては胡椒の強制栽培廃止せられベンクレーンに於いても同七十二年に廃止させられたり由て該植民地に於ける胡椒栽培は専ら土人並に支那人の独占となるに至れり現今胡椒栽培地方は□ンボン(スマトラ)ボルネオ何部並に東那、同西部リオリ並に其属島ビリトンの一部セレベスなり千九百十三年即ち欧洲大戦開始前年に於ける該地方よりの輸出総量は約九百万基瓦にして全蘭領東印度よりの輸出総量は千四百万基なり而て右数字中差額五百万基瓦は上記地方の原産なれ共欧米に直接船積されず瓜哇に輸入されし物なり殊に欧洲大戦中は瓜哇経由の貿易は非常に増加し外領からの直接輸入は大部分瓜哇に占奪されたり而して蘭領東印度は世界胡椒供給の四分の一を支配し残余の中にては英領北ボルネオ大部分を占め印度、錫倫、仏領交趾支那、これに次ぎ比律賓又胡椒を産すジョホール又胡椒生産国にしてスマトラは其の主要地位を占め殊にランボン並にアヂーンは最も多く黒胡椒を産す黒胡椒は殆ぜ一般的にランボン胡椒の名を以て世界市場に知られ白胡椒は黒胡椒と大差なく単に其の製法を異にし主としてバンカ島に産し同島首府名をとりマンツユウ並に北ボルネオより白胡椒を若干産出す其の消費国に供給す可き主要市場は東洋方面にはバタビア新嘉坡、彼南にしてランボン胡椒並にマントツク胡椒は主としてバタビアに船積されリオウアチーンセラロックは新嘉坡市場に供給すランボン胡椒の大部分は戦前までバレンバン経由新嘉坡に船積されたが今次の大戦はこれらの総てを製化せしめ各消費国は直接バタビア市場に需要するに至れり戦時中バタビア市場が新嘉坡を淡篤するに至りしため米国は其間最も重要なる地位を獲得したり戦前胡椒の欧洲に於ける主要市場はアムステルダム、倫敦、ハンブルヒ、ボルドウ、マルセイユ、トリエツトにして米国に於いては紐育桑港は自から重要なる胡椒市場として発達し神戸、メルボルン、シドニー之に次けり全蘭領東印度に於ける白胡椒の輸出数量左の如し

[図表(白胡椒の輸出数量)あり 省略]

胡椒栽培地の一例としてアーチン地方を例証せんに該地方に於ては先ず胡椒園を経営するには胡椒栽培に必要条件たる水の浸徹容易なる腐植土に決める処女地を選択し居れり小粒の砂地は胡椒栽培に適せず胡椒樹は溜水に最も注意を払いされば小丘多く傾斜地を可とし沃土は却て其の成育良好に過ぎ稍もすれば収穫を減ずるよりアチーン人はシブラ草等の雑草地は酸性を包含し居るにより排水不良地と居れり更に彼等アチーン人は候補地を樹木によって選択し居れり即ちオートカー並びにマルバシー種の発見せらるる処は胡椒栽培に好適の地とされをれり然しながら他地方にても必ず同一条件によって其の栽培地を選択するものに非らざれども土地乾燥する事と植物あることは其の第一要件なりとす一度其の適当地の選択されるや胡椒栽培地の使用の許可を各土人会長に請願するものにして各地方会長は土人に対して特別の場合の外其の請願を殆ど拒絶する事なけれども外国人に対する許可は稍困難なりされど胡椒園の開園は各会長所得(輸出税よりの所得)の増加を意味するにより其の不許可は全然絶対的というに非らず栽培間労働者の必要人員定まるや非常に質素な材料を以て一時的の仮共同長屋を建築し順次栽培園内に各自の家族の為めに家を建築し行なり而して時に約二十ギルターを支払う雇傭者を使用して雑本草樹の繁茂せる栽培地の清掃をなさしむる事あり而して切り倒したる木材は栽培園の周囲の周壁となし其の不用物は焼き捨てられるものとす栽培園は普通三方々囲み将来発展す可き方面を開放し置くものとす栽培園の開始と共に米の植付をなし米の成育すると共ダダツプ(日蔭樹)を半米突毎に植其の枝は末端を削りて植付く可き穴に挿入されて蔽光用とし用いられる而して土壌の種類如何により各挿枝間の間隔は半米突なる事あり普通ダダツプ(蔽光用掛)は一年乃至二年にて其の根元に植付けられて居る胡椒の苗木を蔽光する事を得るに至るものにして其間排水用の溝を掘らる挿枝用として用いられるものは普通樹根に芽出したる若枝を選択されその植付は出来るだけ同所に同時に而してダダツプの植付後直になさるものとす


データ作成:2004.3 神戸大学附属図書館