新聞記事文庫 東南アジア諸国(13-263)
日本産業経済新聞 1942.11.23(昭和17)


蒙彊地区の経済力

共栄圏の兵站基地へ

現地視察逞しき発展の巨歩


【張家口にて遠藤特派員発】日本の大陸政策遂行の重要拠点であり東亜共栄圏の前衛地帯たる蒙彊地方とは一体どんな特殊的性格を持ち且つ大東亜戦争勃発後その経済的建設事情は従前に比してどう進展を示しているか、記者はこのほど最近におけるこれらの諸状況を見るべく蒙彊地方一体を視察した、そして今更の如くその経済的躍進に意を強くすると共にその地理的環境並に民族問題に絡む政治的、思想的の特殊性を充分に再認識する事が出来た
先ず地域的には内蒙古とそれに接する北支那の辺□とを合し広□五十万七千平方粁、我国の本州、四国、九州及び朝鮮を併せた面積と大体同じ程度であり、東は大興安領を境として満洲国に接し西は寧夏及び甘肅両省に、南は内長城線を境として陝西、山西、河北の三省に、北はゴビの砂漠を控えて外蒙古に接している、人口は漢人五百余万、蒙古人三十万(全人口の五%強に当る)回教を信ずる回教民が七万、日本人四万余(その大半は首都張家口に居住す)満人六千余でその他未調査地域の推定数を含めて略五百七十万人検討といわる、曾ては英雄成吉斯汗の出現によって東西両洋に跨る雄大な帝国を建設した蒙古民族も最近までは徒らにその気魄を沈滞せしめ僅かに陰山山脈以北の草原と砂漠の中に喇嘛教に沈溺しつつ包を結びながら蘇連と中国軍閥の圧迫と搾取の対象物となっていた
しかるに今次支那事変を契機とし果然蒙古の復興に黎明が訪れるや著しく彼等の心魂を揺すぶって今や新しき東亜の運命と秩序に古き殻を打破らんとし、そして今や徳王を中心とした蒙古連盟自治政府(昭和十四年九月一日)が成立し日満両国と緊密なる協力を保ちつつ大東亜共栄圏の一環として逞しき前進譜をかなでている、蒙彊地方に延々と起伏する万里の長城こそは悠々数千年、民族興亡を彩る葛藤の残跡で、それはとりもなおさず今後の民族政策遂行の重要性を示唆するものであり、西北支那と満洲国と赤化せる外蒙に囲繞される地理的環境こそは政治的にも思想的にも一大防共地区としての緊急性を物語っている、又一方経済的には東亜共栄圏の前進基地としていわゆる日満支を打って一丸とする共栄圏経済確立のために如何に重要資源の開発利用を計るべきかの一大使命を担っている、ここに大東亜戦争後最近における蒙彊経済の躍進的全貌を各部門別に一瞥して見よう

通貨次第に収縮 銀行預金の増加著し

金融

蒙古自治政府は大東亜戦争後の新情勢に即応し金融政策としては先ず第一に生産の増強、物資の出廻促進、就中輸出貿易に必要な資金の供給に主力を注ぎ、ついで物資の買溜、売惜競に放出せんとする資金を極力抑制すると共に常に過剰購買力の吸収に努力を払い、かの有奨定期預金の如き制度等をも実施したので最近では漸次資金の対外受払の均衡も得られ通貨価値の安定、物価昂騰の抑制等にかなりの効果を発揮して来た、かかる金融政策を反映し本年一月以来一般銀行の貸出金は農産物収買資金の還流と共に漸減し、その後春耕資金の放出に伴いやや増勢に転じたが六月末現在では一億一千六百三十六万円で昨年末に比し微増に止まった、一方一般銀行預金は逐月増加し六月末現在一億五千四百五十五万円に達し昨年末に比し約二割五分の増加を示した、因に蒙古政府では日本の国民貯蓄奨励に呼応し貯蓄奨励に努めた結果大東亜戦争勃発と共に激増し戦争開始直前の昨年十二月七日現在では二百十五万七千八百七十二円、十二月は二百九十九万四千七十三円と一躍八十三万円余の記録的増加を示し更に一月中、四十五万三千七百円を増し逐月増加の傾向にある、昨年十二月一日以降一月末迄の貯蓄新規加入人員は一万七千五百四十八人でこれを民族別に見ると左の如し
漢人七割六分 日本人二割三分 蒙□人一分
従来一般民衆の庶民金融機関として察南(張家口)晋北(大同)蒙古(厚和)の三実業銀行(資本金は何れも百万円)が存在し小市民への金融と農村金融とを併行し多大の効果を収めて来たが生産力拡充並に金融政策の進展に伴いこれら各銀行の分立は新情勢に即せぬ事が明瞭となったので政府は五月九日以上の三実業銀行を一本に合併し新に同和実業銀行として蒙彊経済の発展に一段と寄与せしめることになった
次に中央発券銀行たる蒙彊銀行(幣制統一と金融機構の一元的強化を目標に昭和十二年十一月二十二日資本金一千二百万円で設立した)券は日満両国の絶対的支持により日本の金円及び満洲国幣、華北の連銀券にリンクし、その紙幣発行高は一月以来順調に収縮し、六月末現在の発行高は八千二百七十万円余で昨年末に比し三千一百二万余円、約二七%を減少している、これが主因は昨年下半期に於て農産物収買のため放出した通貨が漸次預金、為替等によって回収された結果である、而して本年上半期(一月‐六月末)における最高発行高は一億一千三百九十四万余円、最低発行高は八千二百十六万余円、平均発行高は九千六百二十三万余円となっている、同行開業当時からの蒙銀通貨の発行額は左の如し
開業当時 九百万円 昭和十三年末 三千八百万円 昭和十四年末 六千五百万円 昭和十五年末 九千九百万円 昭和十六年末一億一千三百七十二万円 昭和十七年六月末 八千二百七十万円
なお同行の昭和十七年上半期(一月から六月末)における純益金処分は左の如し

[図表あり 省略]

之を処分すること左の如し

[図表あり 省略]

物価

蒙彊における物価は元来蒙彊経済がその物資の大部分を華北に依存しいわゆる経済部面において華北とは密接不離な関係にあるので華北における物価昂騰は直に蒙彊物価の騰勢を刺戟し殊にこの傾向は大東亜戦争勃発後一層顕著であった、かくては蒙彊経済の発展上且つ又民生安定治安維持の上からも憂慮すべき状態にあったので華北の物価緊急対策実施に呼応して蒙彊物価対策大綱を決定し七月五日から全蒙一斉にこれを強行し爾来着々効果を挙げている、要綱は蒙彊の特殊性に立脚し左の如く決定した

一、物価抑制品の範囲=物価抑制は主なる現地生産品及び主なる輸入生活必需品について行うこと
一、物価抑制の目標=蒙彊地域内取引卸売最高販売価格を次の目標に安定し、物価水準を維持すること(イ)現地生産品は原則として華北中央当局の定めに華北における基準価格を以し目標とす(ロ)輸入品は原則として華北中央当局の定めた華北における基準価格に輸入諸費(税金運賃、諸掛及び適性手数料等)を加算したる額を以て目標とす(ハ)華北当局において基準価格なきものは北京又は天津における第一次卸売適正価格を以て目標とし(イ)(ロ)に準ず(ニ)現地生産穀類及び小麦粉は北京又は天津における卸売販売価格を以し目標とし最終目標を一応昭和十三年八月現在価格に対し三〇〇パーセントに置く(ホ)小麦価格は卸売最高販売価格に適性なる運賃諸掛及び二割以内の手数料を加算したる額以内を目標とすること
一、価格の設定=(イ)張家口における標準価格を中央標準価格となり張家口以外の地区に対しては必要に応じ□□□に運賃諸掛等を参酌したる価格を以て標準価格となすこと(ロ)軍需物資並に石炭、鉄鉱等の価格に関しては別に定むる所による(ハ)中央標準価格は政府内に主務機関を置き、これを専掌し軍興亜院、政府、領事館協議の上これを決定し、政府、領事館に於て布告すること

以上の物価対策を更に完璧たらしむべく自治政府は之を並行して生産増強、需給調製、蒐資機構、配給機構、輸出入機構の整備をなすと共に為替管理、消費規正、浮動購買力の吸収、不法行為の取締を厳重にする等万全の対策を講じている

出超三千万円(十六年度)

貿易

昭和十六年度におけを蒙彊の鉄道輸出入貿易は昭和十五年七月出超に転じて以来、十六年に入っては極めて順調に推移し

[図表あり 省略]

これを昭和十五年度と比較すれば輸出に於て六千九百十六万三千余円、輸入において二千六百九十三万六千余円と夫々増加し事実上彊内経済界の発展伸張を実証している、而して昨年輸出超過に転じた主たる原因は政府の適切な諸施策と共に根本的には彊内生産力拡充に伴う輸出余力の増加、即ち穀物、穀粉類、特用農産物、鉱産物、獣毛獣皮類の輸出増大と地区内生産拡充施設の一応の完了による開発機材の輸入減少に帰因した、斯様に輸入貿易面において従来最も大きな比重を占めていた開発機材が漸次輸入減少を示して来たことは必然的に生活必需物資の輸入余力を生ぜしむる結果となり、自治政府の対華北、華中、日本、満洲、朝鮮各地との積極的な貿易政策遂行と相俟って紡織品、嗜好品、食糧品等の数量、金額はともに前年に比し著しい増加を示し彊内の民生安定に頗る好影響を与えている、なお昭和十七年度、華中、蒙彊貿易会議は四月末北京において開催、蒙彊華中間物資交流の申合せを行ったが決定した主たる品目は左の如し

(イ)中支から蒙彊へ 綿糸布、小麦粉、毛皮、雑貨類茶
(ロ)蒙彊から中支へ 石炭、薬草

地下資源開発進む

工業

工業は従来家内工業の域を脱せず一般に小規模経営であったが最近では生産拡充に意を注ぎ特に生活必需品の自給自足と工業立国とを目標に諸工業が勃興し、その主なるものに製粉、酒精、燐寸、煉瓦焼酎、醸造等があり、洋灰、煙草製革、鉄工、火薬その他食料工業(乳製品)膠製造工業、制帽工業カーバイド、製薬工業等も逐年増加を示している、大同炭砿(最近の調査によれば従来の○○億噸を遥に凌駕する事が判明した)下花園炭田、大青山炭砿竜烟鉄鉱(五つの鉱区を合し大体○○万噸)羊毛(蒙彊通過の羊毛額は年額約○○万斤、満蒙毛織会社、鐘紡の公大毛織�}等がある)各種皮革等の重要資源を擁し更に石綿(浅野セメントの漆源鉱山、日本エタニットパイプの薩拉斎鉱山、日本アスベストの大徳鉱山)石灰石、雲母、蛍石等の豊富なる地下資源に富み、農産物も比較的潤沢なので電力開発(蒙彊電業株式会社は資本金三千六百万円で発走電並に配電事業を一元的に経営し現在では火力発電所八ケ所を有し国防資源開発に重要な役割を果している)と相俟ち蒙彊工業の前途は極めて有望である


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