新聞記事文庫 銀行(11-014)
大阪毎日新聞 1922.12.5(大正11)


高倉事件動揺熄まず


小銀行対策苦心

日本積善銀行の破綻暴露は年末金融に対して漸く楽観に傾かんとして居た一般人気に著しく衝動を与えた即ち石井事件以来頓に不安に陥った預金者の心理が同行の破綻によって更に濃厚にされ現に其飛沫を受けて取付の厄に会した銀行もある位で、内容不良の銀行の戦々兢々影響の自行に及ばん事を虞れ之が対策に腐心しているのは勿論大銀行も波紋の拡大を恐れて警戒に怠り無い状態である

預金振替の続出

最近茲に看過す可からざる現象は同行破綻以来市中各銀行の預金状態が激変しつつある事でコハ世上一般より内容不良と目せられて居る銀行の預金が遂日漸次引出されて大銀行へ預け替えられて居る為である何れ組合銀行週報の数字に現れて来るであろう此結果は従来左なきだに資金の大銀行に集中し逐次経営難を感じて居た小銀行若しくは不良銀行は一層窮状に陥るべく殊に日本積善銀行休業以来地方銀行の警戒甚しく従来当地に放出したコール預金及び為替決済尻を回収する者続々現れんとする模様あると

貸借表内容調査

日本積善銀行破綻整理は四日午後京都、大阪両地の本支店に於ける大体の貸借対照表が出来たので之を同行整理委員の今西林三郎、上田弥兵衛、三谷軌秀三氏に交附した、三氏は直ちに同行今橋支店に於て右貸借表を調査した所高倉氏と同行の貸借関係頗る錯綜し高倉氏融通の金額幾何に達するや不明なので更にバランスシートの再製を為すべく京都本店にそのまま送附したがその結果如何によっては刑事問題を惹起する惧がないとも限らず問題は益々紛糾せんとする模様であると

堂島の調査終了

日本積善銀行の破綻に関連して堂島取引所の資産状態調査のため来阪した鈴木農商務省事務官は四日も午前より引続き調査の歩を進め先ず高倉理事長より同取引所の資産変更に関する経過を聴取した上更に各重役に付個々の場合を詳細に訊問する処あり午後二時を以て全部を終了したがその内容に対しては主務省に報告した後ちにあらざれば一切発表する事を得ずとて言明を避けたが、高倉氏が同取引所から資金を引出した事並びに之れを補填するため最近取引所に不動産を提供した事取引所はこれを買収の形式を以てこれが取得を承認した事等に就ては取引所法規定違反その他法律上諸種の問題を惹起する虞れあるは勿論であるも既に取引所の資産状態としては不動産の取得で一時の不安も除去さるる事となったので主務省側は右の不動産買取りの件の点丈けは取引所法二十七条による規定の適用を不問に附せんとする模様である

堂島新理事長

堂島米穀取引所では四日鈴木事務官の資産調査終了後引続き重役会を開催して高倉理事長から正式の辞表を受理し理事長代理として取締役監査役一致で現理事上田弥兵衛氏を推薦した尚代用有価証券の監査会は五日午後三時より開く筈

東洋製鋼善後策

高倉氏の社長である東洋製鋼会社では資本金五十万円を以て鉄索鉄線を製造販売し現在逓信鉄道両省の指定工場となっているが堂島系が破綻暴露をした今日引続き高倉氏が社長になっていては今後の経営上多少考慮を要する点もあるので三日重役会を開き善後策を脇議したが同社も今後重役その他に動揺あるべき模様である

木津運資産調査

高倉氏の社長である木津川土地運河会社では四日緊急重役会を開き吉川、奥谷、白山、西田、武内各取締役、井上監査役出席高倉氏蹉跌後の対策及び同社の内容調査を遂げたが後任社長問題は外部より拉し来ることは今日の場合困難であるからいずれ内部重役の中より後任者を互選する筈だがこれは差迫った問題ではなく会社内容調査を先にしたが兎も角同社の五月末決算による銀行預金及現金四十六万七千円の内積善銀行預金二十七万円か差詰め払戻不能となったのみならず其他の項目の内にもボツボツ穴があいているようなので此善後策も決するに至らなかった因に同社は茲二三期無配当を続ける筈である

港南の計画遅延

港南電鉄も四日堂島取引所楼上で高倉委員長辞退後の後任問題及積善銀行に対する預金の善後策につき協議したが後任委員長は二十四名の委員が互いに押せ押せとなって容易に決せず又積善銀行の預金は同社創立費の第一回払込金百二十五万円の内山口、十五、藤田其他三行にも預金しているもので積善には比較的預金が少ないがしかしこれが回収不能となれば工事資金に支障を来すので後任委員長選任の遅れると共に工事着手も遅延を免れないと

大株市場の投足

大株市場に於る高倉氏の買玉投出しにて取引所に対し決済不能に陥れる関係店の中にて高倉氏直属の機関店たる一般取引員の白洲長平滝川新蔵両店は廃業して証拠金及び身許保証金にて取引所との決済は了する筈であるが滝川は建玉も落ちたが客先との間における整理のため廃業手続が遅れつつあり白洲は堂島取引所株旧千八百株新四百株の買建玉が残り之が肩代りの交渉中にて他の建玉は処分済みであり此堂島取引所株買建玉の肩代り値は高倉氏が担保に供せるものの標準にもなるため容易に調談せざる事情にあり両店共に之等の解決と共に直に廃業の手続に及ぶ予定である而して短期取引員たる堀本平五郎及び関善次郎の両店は最も高倉氏と密接の関係がありて堀本取引店は既に二日廃業を届出で関取引店は決済最後の期間たる四日に至り代弁の資力なきため遂に廃業を届出でたが両店共に幾分の証拠金及び身許保証金三万円を有せるに対し決済不能額は何れも一万五六千円なれば代用処分が規定額に達せぬ虞れはあるにしても廃業の結果は決済完了となるべく其他高倉氏の註文を受けて決済難に陥っていた短期取引員の数店は四日までに決済を代弁し大体において高倉氏関係の決済金総額は二三十万円のものなれば白洲滝川両店の廃業手続も決済を代弁せるものの高倉氏に対する債務関係が残るのみであると


データ作成:2006.5 神戸大学附属図書館