新聞記事文庫 銀行(11-097)
大阪朝日新聞 1922.12.15(大正11)


報徳銀行も遂に休業

積善銀行の飛沫を受けて

帳簿整理の為め本日より二週間


積銀の休業以来ボツボツ預金者の取付に遭っていた大阪市東区高麗橋四丁目報徳銀行大阪支店は帳簿整理を名として十四日未明二週間休業の貼紙を出しこれと同時に西区北境川町、市外鶴橋町の各支店及び北区北野高垣町、南区飛田、堺浜寺、守口の各派出所も一斉に休業した(号外所報)斯と知った預金者は朝来各支店、出張所の門前に押しよせ開かぬ扉の前で口々に罵り騒いだ、高麗橋の支店では朝来楼上でバランス・シートの作製を急いでいるが休業の理由は全く積銀や大阪銀行の余波を受たものらしく鶴橋支店の如き十二日から目立った取付に遭い大阪支店管下のみで十二、十三両日に約五十万円を支払ったと、大阪支店から東京本店に宛て応急救援を言いやったが降雪被害のため電信も電話も思うように通ぜず遂に本店からは送金し来らず十四日早朝になって全国の支店を休業して整理にとりかかる旨報じて来たのである、大阪支店管下の上半期決算の預金高は

定期 二、五四七、三〇九、五〇
当座 一九五、五三八、二〇
特別当座 三、一五三、〇二二、七八
別段預金 二八、四五五、五三
総計 五、九二四、三二六、〇一

で口数約六千口、これに対し貸出高は

証書貸 九、四四六、□六
手形貸 一、八五〇、三七一、六四
割引手形 三二八、一四七、四四
当座貸越 七四六、六四五、九八

等で別に同行が代理をやっている報徳貯蓄銀行の分は前期末の普通預金三千五百口で此金額十五万二千五十八円積立貯金が四千八百口百三十四万六千六百余円に達している、同行は曩に高麗橋の支店を開いた時故竹原友三郎翁に看板を書いて貰いその信用で一時に多数の預金者を吸収したものだがその後何かの事情あり竹原翁は全部同行の株を手放し関係を絶った、同行の支店は関西方面主要都市に多数設置している

京都神戸支店

京都四条通り柳馬場角の報徳銀行京都支店及び西陣、島原、七条、本町の四出張所も積善銀行の余波を受け過日来の緩漫な取付に遭っていたが本店の命令により十四日から二週間休業を発表した、京都の預金は積善休業当時二百五十万円であったのに十三日には八十万円に減じている、貸出しは百万円、預金で一番打撃を受けたのは島原遊廓である神戸には多聞通り五丁目に支店があり葺合、割塚通り七丁目に葺合出張所を置いているが何れも二週間休業の貼紙をした、そして朝来押しかけて来た預金者に対し横手の勝手口で一々行員が説明していた、同支店では今日迄別に取付の模様もなかったところから見ると神戸地方の預金者は不意討を喰った形である支店長の庄田梅吉氏は語る
 東海道電信の不通から行違を生じ一時資金の涸渇を見たまでで二週間を待たすとも開業出来ると信じて居ます預金者の数は種々の貯金を併せて五千人位のものですがその金高及支店の貸出等数字に亙ることはどうぞ不問に附して頂きたい
同支店は相生橋西詰に目下堂々たるビルヂング式の建築をやっている

東京本店 金策に奔走

報徳銀行の本店は東京京橋区南伝馬町にあり大阪支店に於ける取付のため二週間休業に決し全国二十一箇所の支店も一斉に電命したが同時に同銀行の分身たる銀座二丁目の報徳貯蓄銀行も亦親銀行整理期間と同様休業することになった両行共に前に勧銀副総裁たりし佃一予氏が頭取で報徳銀行は資本金二百万円(払込金八十七万五千円)貯蓄銀行は資本金百万円(払込二十七万二千五百円)両行を通じて四千三百万円の預金を有って居るが南伝馬町の本店は十四日朝来三四十名の預金者がやって来たが休業の貼出を見て其の儘引返した店内には北紺屋署の警官十余名出張して万一を警戒し佃頭取以下各重役は前夜来徹宵金策に奔走し此難関を切り抜けるべく努力して居る(東京電話)

玉井重役談

先月の二十八、九日頃から京都に於て商工、積善両行の取付飛沫を浴びて我京都支店も取付にあったが六十万円許りを払出した、本月四日殆ど鎮静に帰し一安心する間もなく九州八幡市の京和銀行の取附がありその余波は八幡、若松、下関の三支店に及んで更に今春以来神経過敏になって居る大阪で大阪銀行、積善銀行の臨時休業の事があって十三日朝来彼地に於ける境川、今橋両支店並に北野出張所に預金者が殺倒するに至り十三日午前中は殊に甚だしく同市の大阪交換所に於ける交換が十七万円の不足を生じ大阪から東京の本店に送金方を急報して来たので東京では直に送金したが関西方面降雪のため電報遅延し代理交換をして居る三井銀行支店もこの際取計い兼ねたと見え立替しなかったため遂に報徳銀行支店の交換資金不足を発表するに至り午後よりは大阪以西の支店派出所は殆ど全部全く取附状態に陥り資金の送附を頻繁に要求するので頭取以下各重役一同は十三日以来徹宵金策に従事すると共に十三日夜佃頭取、奥村常務の両氏は大蔵大臣の官邸に蔵相並に黒田銀行局長、日銀副総裁、三井銀行代表者と会見して協議したが兎に角この際救済を要するものと認むる事となり十五日午前八時大蔵省宛に報徳銀行の財産目録を提出して置いたが十四日朝迄金策が整わず年末多端の際甚だ相済まぬ次第だが休業の己むなきに至ったのです然し目下或る有力者と折角金策中であるから絶対に預金者に迷惑を掛けない決心で居る云々(東京電話)

尾道支店

報徳銀行尾道支店も二週間臨時休業する旨発表したので市内預金者は不安を抱いている(尾道電話)

岡山支店

報徳銀行岡山支店及同出張所も十四日早朝本店の命により二週間臨時支払を停止する旨発表し朝来預金者殺到し混雑を極めて居る清兼支店長は『京阪神及び広島九州方面に於ける取付の余波を受けたもので当支店としては別段支払を停止する程の理由はない従って数日中には開業の運びに至るであろう云々』と語って居た、因に同行岡山支店の最近の貸借比較は預金百四十万円貸出し六十万円、現金有高八万円である(岡山電話)

広島支店

広島支店も臨時休業を掲示した之れを目撃した通行人は次から次へと伝え午後に至っては百余名の厚司袢纏洋服姿の凡ゆる階級を網羅した男女預金者が同銀行□□殺到して支店長粟村豊太郎氏に直談判して居るが年末に押し迫って支店銀行多数を有する広島市の預金者は大恐慌を来し他の銀行支店にも大分預金引出者があった(広島電話)

福岡支店

十四日午前九時頃本店よりの電報に接し二週間休業の旨発表した、同支店は福岡県に於て預金約百万円を有して居るが預金者は勝手口より殺到し今後の成行につき問合すなど非常な混雑を呈した川崎支店長は語る『全く寝耳に水です、九州では若松、直方、長崎其他主なる土地に支店並に出張所を有し九州全体では預金約五百万円を有して居ます』(福岡電話)

名古屋支店

名古屋市本町五丁目の報徳銀行支店でも休業を発表し同時に同支店管内の名古屋市東区千種町と西区新道町の出張所、豊橋市札木町、一宮市、岐阜市、西春日井郡西春、宇治山田市等の出張所にも此旨急報し臨時休業を貼出した名古屋支店の一行員は『当支店管内に於ける預金額は四百十万円程で貯蓄の方を合せると総数三万口に上るでしょう』と語った、休業の報伝わるや一部預金者等は前記支店並に出張所に到り行員に就て事情を質す者もあり大部分は零砕な預金者の事とて子供を背負うたお嫁さんなど多数押かけ『取付もないのに休業するとは怪しからぬ』と喚くものもあって時ならぬ騒ぎだ(名古屋電話)

三井と日銀当局 救済に対しての談

報徳銀行が休業発表前日本銀行及び親銀行の三井銀行へ救済を求めたことに就て亀岡三井銀行大阪支店長は語る
 昨夜(十三日夜)東京で大蔵大臣の官邸に於て銀行局長三井銀行と報徳の重役達が寄って救済策を講じた相であるがこれが大阪市内の支店だけなら百万円足らずもあれば十分だが何分全国に沢山支店があるので二三百万円の金を要することとて昨夜の会議が纏らず遂に休業するに至ったものだろうと思う併し同行は極めて物堅い銀行で積善銀行の例に見るようないまわしいことは聞いたことかなく現に昨日まで十七万余円の交換尻を綺麗に決済した程で貯金者が『積善』といい『報徳』という道徳方面に関するような銀行の名称に対する世人の一種の疑惑と恐怖から取付に遭ッたものらしく斯る例はどこの国の銀行史にもよく見る例である、二週間休業後は勿論開店することと思う
又浜岡日本銀行大阪支店長は語る
 報徳から直接日銀大阪支店へ救済を申出でたことはなく多分東京の方で之んな話かあったのだろうが未だ聞かないし積銀事件以来も未だどの方面からも救済を申出でて来ない併しスペキュレイションなどで大穴を開けたりした銀行でない限り救済して元通り確実な銀行になり得るという見込さえ立てば日本銀行としては直接たると間接たるとを問わず十分日銀の職能を発揮して救済するの準備と覚悟はある現にここ数日来貸出高の多くなったことと十三日の兌換券発行が前日に比して約五百万円殖えたのは間接にその影響で今日(十四日)はこの両者の額が更に増加することと思う


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