新聞記事文庫 経済政策(32-020)
大阪毎日新聞 1941.6.13(昭和16)


金属回収工場清掃運動 (上・下)


(上) 中心目標は鉄銅屑 製鋼法転換迄の暫定的措置

一、戦争と金属回収

 花々しい戦果の裏には地味な、しかも血のにじむような銃後の苦闘があることを忘れてはならない"街の鉱山を据れ"とのスローガンを掲げて国内資源の乏しいイタリヤではすでにエチオピヤ戦争以来ムッソリーニ首相が陣頭に立って巻に埋もれた金属資源の回収に大童となっている、国防に関してはすでに戦争勃発前から万端の準備を進め、その国防経済四ヶ年計画を強行してきたドイツでは昨年三月、四ヶ年計画受託官ゲーリング大ドイツ元帥の名によって大規模な金属回収工作の真剣な努力を続けている、鉄と石炭とに恵まれ"世界の工業を独占せり"と豪語した英国すら"国家わ国民の廃品を要求する"と宣伝して公園の鉄柵を取りはずし、遊休機械を回収し、町から村から工場から、回収し得る廃品は悉く回収して利用更生に努めているのである
 近代戦は武力戦であるど同時に経済戦であり、資源戦であり、もっと突きつめていえば鉄と石油との戦争である、莫大な物資を消耗する戦争において物資はいくらあっても多すぎるということはない、戦争に廃品回収はつき物である、わが国でも事変勃発以来廃品回収運動を実施し、国内金属資源の確保に努めてきたが本年四月には官庁、公共団体の第一次特別回収を実行し、さらに来る十六日から七月七日までの二十一日間には支那事変第四周年記念の実績的愛国運動の一環としで民間工場、事業場の休眠金属清掃運動を行うことになっているので、この機会に金属回収運動の実際問題について少し解説してみたいと思う

二、金属回収の意義

 金属回収の中心目標は何といっても屑鉄、故銅で、わが国の製鋼法は古くかち平炉によって屑鉄から鋼を作る、いわゆる屑鉄法を中心にして発達してきたことは周知の事変であるが、昨年以来米国の対日屑鉄、銅の禁輸、濠洲、インド、香港の屑鉄禁輸などによって、わが製鋼法も急速に鉱石法に転換し、銑鋼一貫作業設備を増強完備せねばならぬ羽目に立至った、もちろんわが国としては事ここにいたるまで全く放任傍観していたわけではなく、すでに数年前から民間工場に対して銑鋼一貫作業設備を勧奨し漸次製鋼法の転換に向ってきており、来年度には一応この目標が達成される予定であるが、この目標完成にいたるまでの過度的期間を円滑に繋ぐために、この金属特別回収を行うのである、すなわちそれは鉱石法によるわが鉄鉱政策の完成をみるまでの過度的手段であり、本建築ができ上るまでの一時的なつなぎという意味を持ったものである
 米国は昨年屑鉄その他金属の対日禁輸を行ったが、そしてわが国としてはそれがために多少の影響を受けたとはいえ、大局からみればその結果は米国の予期するところとは全く反してわが国の鉄鉱業の地固めを促進してくれたことにもなる、すなわちこれによってわが国は否でも応でも英米依存から脱却しなければならぬようになったわけであり、わが国としてはこの機会にあらゆる困難を克服して従来行うべくしてなかなか急速に行い得なかった製鋼法の全面的転換を断行し、銑鋼一貫の鉄鉱政策を完成し得れば禍を転じて却って福となし得るのであり、米国の対日処置をかく観ずれば彼はむしろわれわれに大慈大悲の苦難を与えてくれたものともいい得るのである、ただこれを禍とするも福とするも国民一致してよくこの試錬を克服するかどうか、われわれの心構え如何によって決する問題であろう

三、工場清掃運動とは

 官庁および公共団体はさる四月、まず卒先して第一次特別回収を行ひ予期以上の成績を収めたが、こんど民間の各工場および鉱山、発電所などの事業場を対象として行う、いわゆる工場清掃運動は法規に基づく特別回収ではなく事変以来実行してきた廃品回収運動の徹底強化であり、事変記念事業の実践的精神運動である、具体的にいえばこの運動の実施方法は(第一期)六月十六日―二十三日=関東地方▲東海地方▲北陸地方(第二期)六月二十三日―二十九日=近畿地方▲中国地方▲四国地方▲九州地方(第三期)七月一日―七日=東北地方▲北海道地方の三期間に分け、工場、事業場に、退蔵されている廃金属を動員して、再び時局有用の資源に活用しようというのである(カットは山と積まれたブリキ等の屑鉄)

(下) 廃品の判定に慎重 総力戦の真意義を実証

四、何を回収するか

回収の対象になるものはいまのところ鉄または銅の廃品または不用品であり、逆にいえば必要品および活用品は除外それることになっている、すなわち鉄または銅の加工場の加工屑、不用機械、不用工事材料その他□□□品、埋蔵品が主なもので簡単に集め得るもので、安い代替品で得られるものをいかに費用をかけずに蒐集するかまた輸送上無駄な費用をかけずにいかに多くを集めるかという費用の歩留まりを節減することがさし当りの問題となってくるであろう、清掃運動の実施に当ってこれを三つの期間に分け地域別にしたのは蒐集およびこれを再分配するに要する輸送上の諸費用を節減することも一つの目的であったと思われる
 次に問題になるのは必要品と不用品、屑と鋼材との判定をいかに決めるかという点であろう、たとえば原材料が不足のために現在休んでいるが材料さえ廻れば操業する機械を遊休設備として不用品の部類にいれるか、必要品とみるかであるが、これは常識上必要品として回収から除外するのが当然であろう、また電鉄会社などが一時貯蔵しているレールなどもこれを屑とみるか鋼材とみるかは主観的立場によってどちらにも判定されよう、これらの点についてわ実際の衝に当るものがいたずらに抽象的規則に捉われず、ある程度常識判断によって裁定し、業界に無用の摩際を起さぬよう心掛けることが必要で判定委員会のようなものを設けて実際的な処理をすることも一案かと思われる

五、蒐集と評価

 蒐集機関は昭和十三年国内鉄屑取扱業者を株主とする日本鉄屑統制会社および日本故銅統制会社が設立され、また同年鉄屑配給統制規則および銅□□□□□□□□□制規則の実施によって一応□□□れている、すなわち同規則によって屑金属を総て商工大臣の指定した統制会社および指定商へ集め、これを通じて配給統制を行わんとする趣旨を需要者側から押える規定を設けており、鉄屑配給統制規則第二条には鉄屑を業務用の原材料として需要するものは統制会社および指定商以外のものから受入れることができないことに規定している、蒐集系統は回収運動には同業者団体に回収事務を担任する回収部を、工場および事業場に回収責任者を設けて、ここから供出される屑金属を行商人=蒐集業者(俗にヨセヤ、タテバと称するもの)=指定商=統制会社の各機関を通じて蒐集せられ、かく集められたものを必要な方面へその重要性に応じて再分配それるのである
 廃品不用品の平価は(一)鋼の屑または故=特級一号品、特級二号品、珪素鋼板の屑または故、鋼ダライ粉、その他(二)銑の屑または故=銑ダライ粉、その他に区分して本年五月五日公定価格が公布(五月十五日実施)され、さらにこれを基本としてこれを細分しだ業者の協定価格ができているから一応問題はないが、将来廃金属回収をさらに徹底して押し進めていく場合、特殊なものには別個に考慮して実施上の円滑を期することが必要となってくることもあろう

六、結論

 冒頭にも述べたように戦争に金属回収はつき物であり、欧洲合国はいずれも賑々しく宣伝して堂々と廃品回収を実施している、国富の多少、家の貧富の如何を問わず、また平時、戦時を間わず節約が要求されると同じように廃品回収はいかなる場合にも実行されて当然なものである、従って金属回収を行っているからといってその国の資源が涸渇したなどと推断するは早計であり、欧洲が花々しく宣伝してこれを実行している実例に鑑みてもわれわれは堂々とやって然るべきものと思う、ゲーリング元帥が四ヶ年計画のため委嘱した廃品利用ドイツ国委員代理ヴィンフリード・トムセンは「この戦争が終り、大ドイツの生存権と生活圏をめざした闘争が勝利のうちに終了したときにもドイツにおける古材料回収と利用は依然として続けられるであろう、ドイツは豊かな資源を支配でき、必要な物資を制限なく輸入することが可能であるときにもドイツにある古材制、廃品を利用することを断念しないであろう」と●破し、また昨年三月公布せられた「ドイツ国民金属保護令」では
 金属鬼集はドイツ国民に強制せらるるに至れる、生活を賭する戦争を最後まで闘い抜くための国民的犠牲なり、蒐集せられたる金属もしくは処分権利者によ
って蒐集を指定せられたる金属によって自腹を肥やす者もしくはその他の方法により右金属の利用を妨ぐる者は大ドイツの自由闘争を阻害したるものにして死刑に処せらるべきものとす
と毅然たる態度でこの運動に臨んでいる、万民翼賛も臣道実践も言葉の遊戯に終らしてはならないのである、総力戦の真意義を具体的にここに実証しようではないか


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