新聞記事文庫 議会政党および選挙(29-114)
東京朝日新聞 1925.12.3(大正14)


無産党禁止をかく見る


禁止した上の取締は一層困難 共産主義の心配なら要らぬ 後藤新平子談

政府は今回新たに生れた農民労働党に対してその結社の禁止を命じたということであるが
政府はその綱領中に共産主義的傾向が多分に含まれているというので禁止したもののようである果して然るや否やは別問題として吾輩の見る所では共産主義などということは全く一時の流行であって決して将来実現すべきものとは思わない、故にこんなことには心配なく政府としてはその綱領中に
不穏の点あったならば宜しくその点に対して警告を発し訂正を命じて差支えないものとして助長発達させてはどんなものかか様に大げさに禁止などすることは却って面白くない結果を生じはせぬか、即ち禁止してからの取締りはますます至難となるであろう故に吾輩としては完全なものとして発達助長させたかったと思う

現政府の功績 小川平吉氏談

無産政党の綱領政策規約等に就ては未だつまびらかにしていないがこれを組織している人々の内には露国のボルシェビズムと脈絡をとっているものもあるとのことで吾吾はこの無産政党の組織に就て大に憂えていたのである、固よりその組織の経過を見ると労働総同盟等の主張に依りあるいは更にその脱退に依って多少緩和せられたように見えるがこれはただ外形のみで内容は依然として変っていない元来政党は国家の組識を健全にし社会の秩序を保持して国家と国民の繁栄利福を図るべきものであるに拘らず、この無産政党は階級闘争を兆発助長して国家の組織も社会の秩序をもみださんとするものである以上為政者はこれに対して厳戒するは当然のとである、然るに現内閣は動もすれば国家組織に害があり社会の秩序を毒するものがあってもこれを放任している傾きがあったが今日この無産政党に対して解散命令を発したのは当然とはいえ、現内閣としてはむしろよくやったといってよい

綱領は首肯できぬ 実際化を望む 本党 松田源治氏談

無産政党が折角結党式を挙げたに拘らず、即日解散を命ぜられたため成立を見るに至らなかったのはその関係者は大に遺憾を感じていることであろう、元来結社の
解散は治警法に依り内務大臣が安寧秩序を保持するため必要と認めた場合これを行い得るもので内務大臣が解散命令を発するにはそれ相当の理由があったものであろうがその当否は内務大臣の責任ある説明を聴かねば軽々に断定出来ない然しその無産政党そのものに就ては批評すべき点が多多ある固より時勢の変化に伴うてこの種の政党が生まれるのは必至のことであるが無産政党というはその名称が妥当で無いと思っていた、所がその結党式を挙ぐるに当って農民労働党と称したのは誠にいいことと思うがその綱領政策を見ると到底首肯し能わざるものが多い、即ちその掲ぐる綱領政策はいわば一種の理想案の羅列であって実行し得られるものは極めて少いこれを英国の労働党に見るもその政策綱領は実際に適合し国民の共鳴を得たのであるから我が労働党も大に実際に適応し得るよう緩和化すると共にその行動においても直接行動に依らず
議会を通じて立憲的に行動してもらいたいと希望していたが既に解散を命ぜられた以上今後この種の政党を組織せんとするものもよくこの点に注意せられんことを希望する

結党禁止は当然 憲政某総務談

農民労働党と称する無産政党が内務大臣の行政処分によって解散を命ぜられたということは成立の経過及び構成分子の色彩に対して当然の処置であろう我々政党員としての立場からいえば
無産階級の利益を代表する新政党が出現することは時代の推移から生ずる必然の運命で、これを妨害すべき理由は少しもない、然しそれは純然たる無産階級の利益を代表するという以外不純なる動機及び矯激なる主張を持つものであってはならない、凡ては法律の範囲内において許さるべき政綱政策を掲ぐるものであることを必要とする然るに農民労働党の政綱を見ればその間不穏当と認むべきものもありかつ
共産主義的色彩の濃厚なものが構成分子の中に多数含まれているということは決して健全なる無産政党と見なすことは出来ないと思う、これを解散せしむることは無産階級の利益を奪うものでなければ労働者を不当に圧迫するものでもないことを信ずる

当然の帰結 労働総同盟 西尾末広氏談

我々はいつの日にかこの事のあるは予見して居た、何となれば第一回の綱領調査委員会における評議会、政研、水平社等の人人の議論は共産党の理論そのままであった、そして彼等は我々を日和見であるというが我々は日和を見ないでは仕事は出来ない、彼等は日和を見ないで行動するのであるから彼等と共に居れば必ず今日のこの事あるを思い然る時は政党としての機能を発揮し得ないものとして我々は脱退したのである政党成立に加わった諸団体中にも左傾派と共に一所に在り得ない事を考えて居たものが多いのであるが単一無産政党の合い言葉に引ずられてあそこまで行ったものと思う

解散は意外 安部磯雄氏談

無産政党が解散になったのは甚だ遺憾なことである私は無産者の政党組織は現在の社会における一つの政治的安全弁となって社会のために喜ばしいことであったが、こんなことがあると無産者階級の不平は自然他の方面に向い変なものとなって顕れねばいいがと心配されるのです、以前無産政党から出した綱領には可なり過激ながありこの分では無事通過は困難だろうと思われたし又中にかなり過激な分子が入っているようだったのでさもあるかと思っていましたが総同盟、評議会が脱党して後、昨日(三十日)出した綱領を新聞で見ると穏健で過激な処もなくむしろ両者はある点まで諒解がなるようにも見られた、故に今度の解散は意外という外ない


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