新聞記事文庫 外交(112-136)
大阪朝日新聞 1932.3.5(昭和7)


日支紛争連盟臨時総会


我が停戦命令好印象を与う 我代表堂々所信を述ぶ 詭弁を弄した支那代表 三日ゼネヴァ発本社特電

日支紛争に関する国際連盟臨時総会は三日午前十一時過ぎゼネヴァで開会、午後一時三十六分一旦休憩、更に午後四時半より再開したが、午後の総会で最初に支那代表が演説したが、それは午前中わが代表部が提出した日本軍停戦の報が総会に与えた好印象を毀さんとの目的に出てたもので、二十八日の英艦ケント号上における停戦提議を日本軍が一旦受諾したかのようにいい、それにも拘わらず日本軍が三月一日攻勢をとったかのようにいいたて、また呉淞、南翔などの占拠があたかも停戦命令後に起ったかのように説いて、ゼネヴァで停戦発表後なお日本軍の進出、新戦闘が行われたかの如く主張し総会が先月二十八日のケント号上の条件通りの休戦をはからんことを要求した、右支那代表の演説は長すぎて翻訳ともに二時間余りもかかったので、わが松平代表が登壇したのは午後六時五十分で夜になり傍聴者中帰ったものがあったが、松平代表の演説は四十五分にわたり内容も、声容もよく好成績であった、議長はこれをもって総会議一般討議を打切り、四日午後三時半(日本時間十一時三十分)より各国代表を網羅する委員会において問題を審議することにして散会した

『もう総会は無用だ』満洲問題を軽くあしらう松平代表の演説

[写真(松平代表)あり 省略]

【連合ゼネヴァ三目発】日本代表松平恒雄大使の演説大要左の如し
 三日午後二時上海における日本軍は支那側が今後敵対行動に出でざることを条件に軍事行動を停止すべきことを声明した、従って総会の会議そのものも既に無用に帰したといわなければならぬ、常に日本軍の行動は自国居留民及び共同祖界に対するおそるべき危険に対する自衛手段にすぎず、上海における情勢悪化の結果止むなきに出でたものである、従ってこの危険を除去する確実な方法が見出され得る以上事件は自働的に終りを告げたといわねばならぬ、従って余はここに全世界の前に事実を闡明する機会を得たことを喜ぶ、民国以来支那に勃興した彼の国権回復運動の結果、結局支那政府は全力をあげて自国の政治的、社会的状態の改善、注律制度の完成に努力し居留外国人の生命財産の安全を保障するの必要に直面するに至った、しかもこれらの必要なる準備を実現する能わず、従って一般的にその対外義務の廃止を宣言するの暴挙を敢てするの止むなきに至ったのである、殊にかの軍閥の領袖は理想的国家主義の純粋なる方面を急激に挫きさって終いその結果ボイコットと無責任なる宣伝とが行われるに至った、これに反し日本はあくまで忍耐と寛容を以って臨んだのである、この寛容なる態度に対し支那側が全く無拘束なる尊大軽悔の態度を以って報いたるは余の深く遺憾とするところである、支那各地における日貨排斥運動は漸次悪化するに至ったが、一月九日一部支那紙は不敬記事を掲げて日本皇室の尊厳を冒涜し、次で上海における日本信侶襲撃事件となりかくて日本の輿論は極度の緊張を示すに至ったのである、上海における日支両軍が不幸にして遂に衝突したる後も支那側は停戦を約しながら軍事行動又はその準備を続けて平然停戦協定を破った、但しここに余の遺憾とするところは器材の精巧ならざる結果時に攻撃の目標を誤り不必要に生命、財産を傷害したことである、上海事件に関する日本政府の立場はこれを次の如く要約し得るであろう

一、日本人居留民並に共同租界に対する危険が除去し得るなれば日本軍は即時軍事行動を停止し、上海の状況緩和とともに速に陸兵を撤退する用意を有する
二、日本政府は関係各国の権益を保障するがため関係各国とともに円卓会議を開催する用意を有する
三、日本政府は上海地方において政治的、領土的野心を遂げんとする意図なく乃至上海に日本人租界を設定しまたはその他の方法により日本のみの利益を増進せんとするものではない

満洲新国家に関する日本政府の見解は敢て総会の論議すべきところに属しないが日本政府の公明なる態度は一月二十一日帝国議会における芳沢外相の演説に明瞭である、既に対支調査委員の一行も現地に近づきつつあり、今徒らに論議することはまた会議を紛糾せしめ解決を遅らせるに過ぎぬであろう、日支両国現在の紛争は過去における不幸なる事件が集積した結果に外ならぬ、刻下の困難が近き将来において友好的に解決され東アジアを蔽う暗雲が永久に一掃されんことを吾等は衷心より希望してやまないものである

停戦案を拒否 例の如く日本を誣う 支那代表の演説

【連合ゼネヴァ三日発】支那代表の演説大要左の如し
 第十九路軍参謀戴戟氏はイギリス東洋艦隊司令サー・ジョン・ケリー提督より停戦案を接受したがこれに対する日本側の回答はケント号上における会議で到達した諒解とは根本的に相異るものであり、殆ど支那側に降服を要求したものと相異らず、支那側の絶対に受諾し得ざるところである、我々には日本軍の攻撃を更に阻止する以外途が残されておらず、戦闘行為の継続は今や全く避け難いところと信ずる、本国政府が既に連盟に通告した通り上海における停戦交渉が完全に決裂に終ったことは余の深く遺憾とするところである
 世界としても連盟国の一の領土に他の連盟国が侵入し右軍隊の撤退を実現し得ぬ如き条件に同意し得ないであろう、財政部長宋子文氏よりの電報によれば日本軍の軍事行動は依然として継続し理事会九月三十日の勧告を全く無視し前進停止の公約を蹂躪し去ったのである、かるが故に戦闘行為は依然として継続している、余は連盟総会に対し先ず第一の緊急の要務としてケント号上において達成された協定の趣旨に本づき停戦状態を確立されんことを要望するものである日本が理事会の議を無視したとは蔽うべくもない事実である、上海は勿論江蘇、浙江の繁華なる都市蘇州、杭州も日本軍飛行機の空襲をうけ数十トンの爆弾によって全く廃墟の巷と化し震憾すべき有様を現出した、その結果無辜の非戦闘員で生命を失うもの数千に及んだ、これに反し支那は無条件で自国の運命を連盟の手に委ね、且つ満洲における日本人の生命並にその権益の保護に関してはあくまで責に任ずべきことを申出たのである、しかして支那は結局ここに連盟総会に愬え

一、戦闘行為の停止並に侵略者の撤退
二、理事会の諸決議並に連盟規約の範囲内における紛争の平和的解決を要請するに至ったのである、余は総会に対しこの恐るべき事態に対し支那が全く責任なきことを厳粛に宣言し、かくして全世界の道義的輿論を総動員せんことを要望するものである

かくて同代表が劈頭停戦案拒否の態度を明にしたことは会談に異常な衝動を与えた

円満解決を期待 英、外務次官議会で上海事件を説明

【連合ロンドン三日発】三日のイギリス下院において外務次官ロイ・エデン大佐は上海における日支両軍停戦交渉の経過に関し左の如く声明した
 日本軍司令官は上海時間午後二時半(ロンドン時間午前六時)戦闘行為を停止すべきことを命じた、イギリス東洋艦隊司令官サー・ジョン・ケリー提督は支那軍に対しこの旨通告したがこれに対して支那軍においてもまた同様の命令を発すべきことに同意し会議は更に旗艦ケント号上において続行されるはずである、従って連盟総会の努力と相侯って上海事件が近く満足なる解決に到達すべきことを期待する


データ作成:2014.7 神戸大学附属図書館