兵庫県南部地震記録紙 1995年1月17日午前5時46分 M7.2−この経験を今後に生かすために−
社団法人兵庫県放射線技師会 平成7年1月 P27〜P50
1-1.今回の地震で貴施設の所在地における震度はいくらですか?
1-2.今回の地震により貴施設への被害がありましたか?表1-2
図1-2
1-3.技師の総数及び地震発生当日の出勤者数表1-3 図1-3
1-4.貴施設では入院施設がありますか?
1-5.「あり」と答えられた方へ、入院患者の方への被害はありましたか?
1-6.地震直後の業務状態はどのようにされていましたか?表1-6 図1-6
一般撮影室補修後(神戸赤十字病院)
1-7.通常業務以外の体制をとられた施設における具体的な業務内容
1-7 病院、診療所等の体制
◎職員の院内待機、勤務者増等の緊急勤務体制(9)
◎業務縮小(8)
◎救急患者のみ診療(6)
◎被災患者に対する救急診療体制(7)
◎通電まで業務停止(4)
◎24時間体制と他施設よりの応援依頼(3)
◎被災患者に対して24時間体制(3)
◎職員全員による復旧作業と患者の救出(2)
◎対策本部を設立。
◎避難所、救護所開設
◎仮設診療所開設
◎手術室業務停止、院内給食をプロパン
◎入院希望患者の全面受け入れ体制とドック患者の入院停止
◎被災患者に対する応急処置と投薬。
◎病院の建物に危険があり、入院患者の転院とともに診療業務停止
◎停電、断水、ガスの供給停止により1日業務停止
◎専門外の内科を新設し入院患者の受け入れ
◎電気、ガス、水道が供給されず24時間体制で外来処置のみ
◎当直者3名の救急体制、検診業務は縮小
◎患者、職員すべて避難、患者の転送、避難所にて診療
◎外来部門を縮小しリハビリ室にも患者を受け入れる
◎復旧作業者及び慢性疾患患者の救急体制(工場内診療所)
◎内科、救急のみ診療
◎夜間当直体制の新設
◎外来患者のみ受け入れ
◎断水、停電によりX線撮影と手術は停止
◎ガス、水道の停止により、応急処置のみで対応する
◎近辺地域外の患者の積極的受け入れ
◎中央区内の避難所に対して巡回診療、救急医薬品の輸送
◎警察のバックアップ
◎施設内被害調査、職員の安否確認、施設の復旧作業
◎救急車の道案内、医療団の結成、避難所への医薬品の搬送
◎救援物資の搬送、避難所の確保、被災者の救急活動
◎支援物資の払い出し(医療器、毛布)
1-7 放射線科の体制
◎救急患者の処置や介助を含め他科に応援(17)
◎夜間、休日の当直、宅直体制の設置(7)
◎飲料水、自現機用水、食料の手配(7)
◎機器の点検と応急処置(6)
◎交通網遮断、停電等により撮影業務できず(4)
◎装置整備のため業者との連絡、撮影室の整理(4)
◎ポータブル装置の準備と体制の指示(4)
◎職員、家族の安否確認(4)
◎一般撮影業務のみ実施(3)
◎施設、各部署の被害調査(3)
◎他施設への応援(2)
◎夜間当直者の増員(2)
◎死亡者の搬送、入院患者の救出、搬送(2)
◎救援物資の搬送(2)
◎装置の安全性、線量のチェック
◎すべての撮影を1室にて対応
◎断水のため救急患者だけの撮影
◎自家発電を使用する
◎通勤困難者は院内宿泊体制
◎随時救急体制
◎地震後の業務取り扱いについて電話対応
◎1階で一般撮影およびポータブル撮影
◎被害がひどく、物品整理の人員確保
◎自現機、撮影装置故障により10日の業務停止
◎必要最小限業務とする
◎現像できず透視とCTで対応
◎一般撮影、MRIのみ稼働
◎検診業務のため業務停止
◎患者の避難誘導、復旧活動
◎炊き出し
◎患者の安否情報の収集
【施設における機能状態】
施設における建物、設備関係の被害は、回答のあった施設の約64%に達し、震度別にみると6以上では89%の施設に何らかの被害を与えていた。被害の大きかった地域の施設は救護活動を行う上で、職員の確保に非常な苦労をされている。この原因は、遠くからの出勤者は交通機関が遮断されており、また被災地に住む職員は自身が被災者となり出勤することが困難な状態であった思われる。放射線技師も同様であり、度6以上の地域では顕著にこの状態が現われている。多くの救急患者を受け入れた施設の職の業務状況は非常に厳しい内容であったことが推察される。
このような緊急事態に備え、いかに職員を確保するか事前の対策が必要と思われる。交通機関の麻痺した状態では、自転車や単車が足として威力を発揮したことは承知のごとくである。
1-7に地震直後の事態に対応すべく、病院としての体制と技師としての体制を示しているが、被害の大きかった地域では、一般外来を閉鎖するなど救急体制で負傷者の診療にあたられた施設が多くみられた。しかし、震度6以上では施設自体の被害が大きく、機能停止や業務縮小を余儀なくされた施設が約半数ある。このような状況下においても医療施設としての機能をいかにして維持するか対策を講じる必要がある。
また放射線技師の対応としては、24時間の救急診療が可能な勤務体制を整えるとともに、負傷者の搬送、救急処置の補助、入院患者の避難誘導など、本来の業務範囲を越えた救命救急活動が必要であったかがよく理解できる。
1-8に災害直後の業務上注意すべき具体例を示す。それらの重要な事項を整理すると火災による二次災害の防止が第一の課題として上げられる。まず、装置の点検以前に撮影室のガスの臭い、漏電等に注意して電源投入による火災の発生を防ぐ。次に撮影室が使用可能かの確認と負傷者に備え、撮影可能な装置を確保することである。
装置の点検に重要なことは、使用上の安全性の確認であり、方法として多くの技師が注意深い目視点検にあると答え、断線が見られる場合、浸水している可能性がある場合にはブレーカを切り通電しない。特に天井走行の安全確認には、撮影室天井の状態と固定用アンカーボルトをていねいに観察する必要がある。また、地震により移動した装置は高電圧ケーブルや電気配線が断線している可能性が高い。
今回の地震では、電気が供給されず、直後の撮影に威力を発揮したのが、移動型X線撮影装置であった。バッテリー、自家発電が利用できた点がその理由である。しかし、装置の保管場所は病棟廊下が多く、撮影室と同一フロアにない場合にはエレベータも作動せず、使用できなかった装置も多かったと思われる。
1-10に地震直後に実施された具体的な対応についてまとめた。個々の方法については、被害の状況や地域によって特徴がみられたが、多い事項は、自動現像機の現像液と定着液混濁による液交換や水の確保に苦労されていた。また救急患者に対応すべく、撮影室の整備と装置の点検、職員の確保、安否確認である。
記入欄の意見から落下物の問題を取り上げたい。撮影室には、撮影用補助具や備品がキャビネット内や台の上に保管している場合が多いと思われる。もし今回の地震が診療時間内に発生したとしたら、患者に対して転倒、落下物による重大な被害を与えていなかったか、今後に備え検証してみる必要がある。
これら実態を十分に把握し、この経験を教訓として、将来に備えることが我々の義務であり課題でもあることを強調したい。
1-8.地震当日の当直者、もしくは地震発生の日に最初に病院に着かれた方にお尋ねします。X線装置の作動時の確認、安全確認確保に重要なチェックとはどのようなことでしょうか?
[被災初期の救急業務対応について] 1-9.救急業務対応ができるまでどの様な処置をとられましたか?表1-9
1-10.具体的に対応された処置等をお聞かせください。
1-11.救急対応ができるまでに要した時間はどれくらいですか?表1-11
1-12.技師の方で撮影業務以外で何らかの仕事をされましたか?
1-13.建物の構造について表1-13 図1-13
1-14.建物の被害内容をお聞かせ下さい表1-14 図1-14
1-15.貴施設には自家発電の設備がありますか?表1-15 図1-15
1-16.地震発生直後に自家発電装置が駆動しましたか?表1-16-A
表1-16-B 図1-16-A
図1-16-B
1-17.撮影室の空調関係の被害について表1-17 図1-17
1-18.空調が効かない撮影室での暖房はどのようにされましたか?表1-18 図1-18
1-19.医療配管への被害はありましたか?表1-19 図1-19
【病院建物の被害】
アンケートに回答いただいた施設の建物構造は、80%が鉄骨あるいは鉄筋コンクリート作りであり、施設として使用困難と考えられる全半焼、全半壊は約5%と少ない。しかし機能停止や業務縮小した施設数は多く、考えられる要因は電気、ガス、水道等のライフラインの供給停止と考えられた。
現在の建物の建築基準では、ゆれによる倒壊を防ぐための強度については基準が定められているが、建物が残ったとしても内部の設備や機械の被害は避けることができない。
静岡県放射線技師会が調査されたカルフォルニア地震調査によると、1994年のロサンゼルス地震の教訓から病院の建物は耐震構造が法律により義務付けられている。耐震構造とは、このような緊急事態において、最も重要である救命救急活動が十分に行え、病院としての機能が保たれることを意味している。
残念ながら被害の大きな地域では、業務停止や業務縮小が50%を占め、病院としての機能を十分に果たした施設は少ないのが現状であり、撮影等の検査機器の稼働状況も同様である。
建物を耐震、あるいは免震構造とするには、大きな設備投資が必要となるが、特に被災地では、医療機関は多くの住民の命を守ることが社会的な使命でもあり、建物のゆれを震度4程度に免震できれば、おそらく病院としての機能は保たれていたことをアンケートが語っている。
1-20.地震直後のライフラインの状態
表1-20-A 表1-20-B
表1-20-C 表1-20-D 図1-20-A
図1-20-B 図1-20-C
図1-20-D
1-21.復旧に要した期間または復旧した日表1-21-A
表1-21-B 表1-21-C
表1-21-D
1-22.施設の総被害額(建物、機材等を含む)はいくらくらいですか?
1-23.フィルムの供給状態について表1-23
1-24.現像液・定着液の供給状態について表1-24 図1-24
1-25.その他供給されずに困ったものはありますか?
1-25.その他供給されずに困ったこと
◎RI薬品が供給されず(4)
◎廃液の回収(2)
◎補修用部品の手配が困難である
◎メーカによりバックアップの差がみられた
◎1ケ月分のストックがあり問題なかった
◎県内は連絡先がとれず京都、大阪に連絡した
1-26.貴施設のX線関係の撮影室の数についてお答えください
1-27.貴施設のX線検査機器の設置数と被害により稼働できなかった装置についてお答えください
1-28.自動現像機は何台ありますか?表1-28
1-29.自動現像機本体をアンカー等で固定されていましたか?
1-30.今回の地震で自動現像機が移動しましたか?表1-30-A
表1-30-B
1-31.自動現像機の破損状態表1-31 図1-31
1-32.具体的な破損及び故障内容
1-33.断水等による自動現像機の運用表1-33
1-34.「使用した」と答えた方へ、どのような方法で給水を行いましたか?
【自動現像機について】
自動現像機が使用できなかった主な原因は、装置本体の故障によるものは比較的少なく、給水、排水管、あるいはパイプ類の亀裂や損傷によるものが多い。
自動現像機の設置方法として、アンカーボルト等で固定されていた施設はないと思われ、被害は移動による各種配管の損傷が多く、装置の機能を維持できなかった。
震度5以下では自動現像機自体の破損により使用できなかった施設はなかった。
現像、定着液の混濁は、震度4以下でも8施設に発生しており、液の混濁をチャート等で確認する必要がある。また、振動によるタンクからの液の流出によって、内部の電気系統に影響を及ぼし、誤動作や基板の交換が必要であった施設も見られる。
カバーにより防水対策は施してあるが、より厳密な対策が必要と考えられる。しかし、装置内部の損傷は以外と少ない印象であった。
最近の自動現像機は使いやすさと画像の品質管理の面から全てが自動システム化されており、一部に異常が発生すれば使用できなくなる。
この場合の強制立ち上げや自動システム解除の方法もあらかじめ理解しておくことが重要である。
1-34の記入欄では、多くの施設から水の確保と稼働方法について参考意見が寄せられており参照願いたい。
電気の供給がない場合や自動現像機が完全に破損して使用できない場合には手現像に切り替える施設もあり、事前の策としてバットを用意しておく必要がある。
【ケミカルミキサーの破損状況】
ケミカルミキサーの被害状況は、破損して完全に使用不可になったのは、3施設だけであり被害としては少ないと思われる。
被害の原因としては、ほとんどの施設はケミカルミキサーが台置きの状態であり、装置の移動に対して配管類が固定の役目を果たした結果、配管の被害が多かったと推察される。
1-36にケミカルミキサーの具体的故障内容を示す。
1-38に配管やホース類の被害状況を示す。
1-36.具体的な破損及び故障内容
1-36.具体的な破損及び故障内容 1-37.その他自動現像機の配管関係での破損等について表1-37 図1-37
1-38.具体的な破損及び故障内容
1-38.具体的な破損及び故障内容
◎給水、排水管の亀裂、破損による漏水(18)
◎自現機外の排水パイプ(塩ビ)の破損による排水、廃液の漏れ。
◎補充液塩ビパイプのヒビ割れ
◎自現機と壁の隙間からの漏水
◎水道水配管の破損、水フィル夕の破損
◎排気関係の配管破損で異臭
◎移動により配管が屈折、廃液、排水パイプの接合部の切断
◎現像済みフィルム受け部破損
◎水道管の破裂
◎排気ダクトがはずれた
◎リレー系統、換気扇、排気管の破損
◎補充液メータの損傷
(日本経済新聞 平成7年4月13日)
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