兵庫県南部地震記録紙 1995年1月17日午前5時46分 M7.2−この経験を今後に生かすために−
社団法人兵庫県放射線技師会 平成7年1月 P190〜P193


阪神大震災を振り返って!

兵庫県立西宮病院 藤田 欣邦

 我が家は明石市内の西端で、震度4程度の横揺れであまり影響を受けずに済みましたが、朝から交通機関が壊滅状態で出勤できず、当日の病院の状況が把握できませんでした。
 翌日タクシーをチャーターして裏六甲から西宮市内に入り夕方4時半ごろ病院に到着。当日の状況は、院内ニュース「宮水」より抜粋して記入しています。

《直後の状況》

 1月17日未明の兵庫県南部大地震は淡路、北淡町、神戸市内、阪神地区と広範囲にわたり直撃した。病院は被災地内にあって震度6の激震により、新館、2号棟、3号棟に大きな被害を受けた。停電のなか当直医師、看護婦は入院患者の状態確認に走り回っている頃、午前6時には正面玄関、救急センター入口に家屋の倒壊により梁や家具の下敷きで、多数の被災外傷者、被災死亡者が戸板や畳などで次々と搬入されて病院はパニック状態に陥った。そのうちに、周辺の被災地域から急遽出勤した職員と周辺居住の他病院に勤務する医師、看護婦の応援で、これらのチームワークにより適切なトリアージ、緊急手術を含む応急治療、ヘリコプターなどによる迅速な搬送が実施された。
 午前9時30分、2号棟リハビリ室を急遽指令室兼死体安置所としたが、そこもたちまち死者で埋まってしまう。10時ごろ、余りにも重軽傷の外傷患者が多いので、X線写真の必要性から、なんとか撮影出来ないかとの要望を受ける。

《当日技師の対応》

 直後は当直者1名でどうする事も出来なかった。被災地で家屋が半壊したにもかかわらず自転車・徒歩等で3名(1名は午後より)が出勤する。(平常の1/5)
 診療部の要請を受けて、中央暗室に設置の自動現像機2台(1台はオートフィーダが分離し転倒して使用不能)の中、古い方が乾燥ヒーター不良であるが何とか使用可能なので、断水中にかかわらずタンク内の残水だけで現像処理を実施する。停電は朝の内に復旧していた。取りあえず、新館2階の泌尿科・処置室を仮のX線撮影室にして、使用可能なポータブル装置を搬入し被災外傷患者(脊椎損傷、圧挫傷、骨盤骨折等)の撮影業務を実施する。現像処理されたフイルムは1枚1枚手で持ってエアコン、石油ストーブ等で乾燥する。
 午後6時頃より給水車(自衛隊、市水道局)による飲用水、雑用水の給水を受ける。
 翌日より放射線科はX線フイルムの水洗用に400l程度特別にまわしてもらい現像処理用に使用する。
 当日だけで撮影人数 87人/348件に達し、午前11時頃より午後9時過ぎまでかかり大変な重労働であった。このような状態での撮影業務が1月22日まで続く。

 以下、ポータブルによる撮影業務量である。

※1人平均4枚撮影

《病院の診療体系》

 1月17日〜2月28日:
 24時間緊急診療体制で臨む。(1月一杯は一般外来中止)
 1月17日〜1月22日:
 2号棟のエレベータが使用不能により、継続して仮のX線室(泌尿科処置室)でポータブル撮影。
 1月23日:
 エレベータも復旧したので、放射線科も第1、2撮影室で一般撮影業務のみ対応する。(但し、CT検査のみモニターで読影する条件で稼働)
 余震が続いていたので、夜間は3名当直制で臨む。
 1月30日:
 医師会より一般外来の診療開始要望もあり、24時間体制のなかで診療科目を制限しながら対応するが、周辺地区の被災が大きく大幅に患者が減少する。
 但し、手術室は断水で消毒が出来ない上、手洗い装置、壁面等に多数クラック発生、空調設備破損、タイル一部崩落、受水槽(10t)破損等で使用不能になる。救急センターも同様に被害をうけ診療停止となる。
 早急に復旧工事に入り、手術室、救急センターは3月1日より診療開始。

《病院・構造設備等被災状況》

 震度6の激震により、病院敷地内の最大ズレは東西方向に25cm、上下方向に13cmと縦横の震動により相当の被害を受ける。(概略のみ記入)
 1.構造体の被害:
 構造架構(基礎、柱、梁)には損傷なし、間仕切壁に多数のクラック発生及び一部崩落、外壁タイル剥離多数。(特に新本館の被害大)
 2.ガラス、照明器具、ドア等の被害:
 2号棟、3号棟の窓ガラス多数破損、新本館病室ドア一部破損、新館3階放射線部ドアの歪み多数。
 3.設備関係の被害:
 ボイラーのエア抜き管折損、空調室外機転倒配管破損、3号棟受水槽(10t)、屋外防火貯水槽(40t)破損、2号棟屋外排水管破損。
 4.その他:
 エレベータ5基被害を受け一時使用不能、医事課の端末機数台転倒破損。

 特に、放射線機器関係の被災状況は文末の表の通りである。

《震災で得られた教訓》

  1. 制御卓、リレーボックス等はバランスが悪く、設置方向により横転し易い。
    (アンカーボルトで固定するか、チェーン等で壁に止める。)
  2. キャスタ付きの機器(中間制御器、インジェクタ、フイルムチェンジャ等)は移動するが倒れにくい。しかし、他の機器に接触して破損し易い。
    (移動範囲を抑制すると良いのではないかと思われる。)
  3. 天井吊りCアーム、ガンマカメラ等は特に重量があり、そのうえバランスが悪いので、使用しないときの格納方法を検討する必要がある。
  4. X線テレビ装置では、透視台を立位の状態で置くと管球の重みで左右に振られるので危険である。
    (臥位の状態で終了する習慣をつける)
  5. 自動現像機、レーザープリンタは給排水系統の接続部分で破損し易い。
    (フレキシブルチューブで接続すると自現機が移動しても破損防止になる。)
  6. 壁に亀裂が生じている時は天井裏のレール固定アンカーにヒビ割れが走っている事が多いのでアンカーが抜けないか確認の必要あり。
  7. 放射線機器には冷却水を利用する場合が多く、また、現在の自動現像機、レーザープリンタは断水では稼働不可能な場合が多い。その上、断水中は造影検査が殆ど出来ない状態が続いた。

(病院の水道復旧が2月19日)

《結  果》

 激震により、各撮影、検査室は附属機器、補助具等が散乱し、の踏場もない状態で、各附属機器は位置ズレをしているので、配線は最大限に引っ張られている。
 元の位置に戻してもケーブル内での断線、ショート等、その上コンソール、トランス、中間御器内が震動により異常を来しているのではないかと考えてしまい、通電テストすら出来ないで目視点検ですませ、各メーカーに点検を依頼する。
 しかし、各メーカーも被災地にあり音信不通で連絡がつかず、数日後連絡がついても交通規制と渋滞で病院に着いたら真夜中になっている。それから、点検、整備に入ると断水で冷却水が取れないので、応急点検のみで終わってしまう。
 この時ほど、放射線機器が断水では稼働出来ない装置が多い事も判ると同時に現在の放射線機器に対して私の技量では点検整備すら出来ない無能力さを痛感する。
 この経験を糧に放射線機器の地震対策をいかにすれば良いかを各メーカーともに話あったが、「もう、こんな大きな地震はないでしょう。」とか「アンカーボルトで固定しても、激震にあえば一緒でしょう。」とか、良い結果が得られない。
 現在、得られた教訓から、今後の地震対策として、平素から少しでも心掛けておく事項を検討している。

《余  談》

 断水のため現像処理後の水洗水がタンク内にある残水で処理していたので、乾燥ローラーに付着してラック内に巻き込んでしまうので、ローラを外して手で引張りだした。
 当日何も食べるものがなく、地下1階の売店にある使用可能な自動販売機のジュースばかり飲んでいた。(当日の出勤者談)
 翌日より給水車(自衛隊、市水道局)により、水の補給を受けるとともにボランティアによる食料品(にぎりめし、パン、ペットボトル、等)がどんどん支給される。
 しかし、人間は贅沢になり3食「にぎりめし」で3日続くと見るのもいやになる。そのうち、各自でインスタント食品等を仕入れたりして食するので、折角の「にぎりめし」も腐らせてしまう。
 遠距離通勤者が多いので、一旦出勤すると病院内で寝泊まりしなければならず、風呂にも入れずトイレも使用出来ずとなれば、余震の続く中での生活で職員にストレスが溜まりだす。
 また、2月に入り患者数の極端な激減で暇になり、ぶらぶらした生活で一時的に無気力な状態が続き動かないので地震太りになる。
 良い経験をしたので、これを糧に病院の復興に全員で力を合わせて努力しています。

《兵庫県立西宮病院 放射線関連機器の被害状況》


(c)1996社団法人兵庫県放射線技師会(デジタル化:神戸大学附属図書館)