命を支える食生活を守るために 兵庫県栄養士会 平成9年5月 p10-15


1 一般住民の食生活

(1)家庭での食事の様子は

 震災当日、被災した人たちの食事は、どうだったでしょう。当会が実施した、アンケート結果から様子をみてみた。
 被災の状況は「全壊・半壊・その他」に分類した。震災当日、食事をしたのは、全壊では、いずみ会員75.3%、栄養士会員は85.7%であった。食事の内容は、主に、カップラーメンや菓子パン、食パン、おにぎり、他に果物、クッキー、もち、レトルト食品、前日の残り物で、火を使用しなくても食べられる食品であった。(下図参照)
 食物の入手方法は、全壊では、炊き出しの利用が最も多く、親戚や知人からが多かった。(下図参照)

震災当日、食事をしたか

食事の入手方法(重複解答)

(2)避難所での食事の様子は

 当初「おにぎり」だけの配布だった避難所の食事も、2月になるとかなり改善されてきた。
 平均的な配布内容は、朝…パン、ジャム(バター)、牛乳、時々バナナ、みかんの配布、昼…おにぎり、佃煮、缶詰、夕…幕の内弁当で、これらの栄養価は、エネルギー1576kcal、たんぱく質63.5g、脂質40.9gであった。この頃活発に実施されるようになったボランティアによる炊き出しの豚汁を追加すると、全体では、エネルギー1738kcal、たんぱく質69.8g、脂質49.9gとなった。しかし、野菜や果物の使用は少なく、ビタミン類等については不足状態であった。
 避難所ごとに食事の状況をみると大きな格差があった。たとえば、救援物資の配布が不定期である所、調理設備がないため救援物資の活用がされていない所や救援物資が定期的に配布されている所、ボランティア等により炊き出しが実施されている所、避難者自らが炊き出しをはじめている所まで内容はもとより状況や対応にも格差がみられた。しかし、これらの中で共通して、みられたことはたんぱく質食品及び野菜類の不足であり、乳幼児や高令者、慢性疾患をもつ者にとっては、特に過酷なものであったことである。
 その中で、次に紹介するのは、県立健康センターでの栄養士を中心にした、配給弁当を利用しての、栄養バランスを考えた食事の援助活動の例であり、非常時における栄養士の役割を考える上で貴重な記録となるものである。

避難所への食事の供給について

(2月中旬の状況)

兵庫県:災害時食事生活改善活動ガイドライン(H8.3)

兵庫県立健康センターにおける避難所生活に関する調査から

 1995年1月17日午前5時46分淡路島北部を震源とする、兵庫県南部地震が発生した。阪神地域を直撃するマグニチュード7.2という、大規模な直下型地震であったため、住宅や駅、高速道路等が一瞬のうちに倒壊し、電気・ガス・水道等のライフラインの供給が停止し、道路や鉄道といった交通網が麻痺してしまった中で、当センターへ家族や家を失った被災者が余震に怯えながら自然発生的に集まり「避難所」となりました。
 当センターは、神戸市東灘区に位置し、阪神淡路大震災による犠牲者1,338名を出した被害の最も大きい地域にあります。
 当センターの避難者に、神戸市が提供した食事と当センターで炊き出し等を行い補った食事の内容についての調査と、100日目に「身体に関するアンケート調査」や避難所での対応について報告します。
 調査対象は、当センターに避難していた30世帯53人(男性23人・女性30人)を対象とした。なお、年齢は15〜82歳であった。(多い年代は、50代34%、40代19%、60代13%) 調査方法は、提供された食事を当センターの栄養士が中心となって、計量・栄養価を算出。これを、避難者の年齢構成から、算定した栄養所要量と比較しました。
 100日目には、食生活が身体に及ぼす影響をみるために、アンケートによる聞き取り調査を行いました。
 震災当日、職員が出勤するよりも早く、避難者が直下型地震の振動により少し開いた玄関扉より入館していた。その時の避難者数はおよそ100名にものぼった。
 第1週(前半)は、電気、水道、ガスすべてが切断された中で、区役所から提供されたおにぎり1ケ・パン1/2ケという状況で、2日目からは「おにぎり、菓子パン」が、3日目の夕食では温かい缶詰のごはんも提供でき、エネルギー所要量の17%が確保されました。
 第1週(後半)では、カセットコンロの配置・電気の復旧がみられ「おにぎり、菓子パン」に、カップ麺等が加わり、また、自衛隊からはお湯を入れればよいだけのα米の山菜おこわも提供され、エネルギー所要量の33%で、炊き出しは、雑炊やおこわ、味噌汁、豚汁、夕食のごはんを使ってリゾットなどで、生鮮食料品の補給がないため、職員がはっさく等の果物を購入し配布しました。
 第2週から、(おにぎり)が(おにぎり弁当)にかわり「菓子パン、カップ麺等」に果物缶が加わり、エネルギー所要量の54%であった。炊き出しは、おでん・豚汁・ミネストローネ等20品であった。
 第3週では「おにぎり弁当、菓子パン、牛乳、カップ麺等」でエネルギー所要量の60%、炊き出しは、ビーフシチュー・けんちん汁・白菜妙め・ほうれん草のお浸し等22品であった。炊き出しを行ったことにより、エネルギーが86%・カルシウムが70%、鉄が77%と、補充出来ました。
 第4週で、やっと水道が復旧しました。この週から調理パンが提供され「おにぎり弁当、菓子パン又は調理パン、牛乳、カップ麺等」
 でエネルギー所要量の66%で、1日2回食しか提供されず、ポタージュ・おでん・リゾット・かす汁等23品の炊き出しにより1食分を カバーし、各所要量の90%をまかなえるようになりました。
 2ヵ月では、この週から(おにぎり弁当)から(特製弁当)にかわり、果物やデザートがつくようになりました。「調理パン、菓子 パン、牛乳、果物等」エネルギー所要量の100%であった。炊き出しは、シチュー・カレー スープ・野菜妙め等13品であった。
 ごはんとおかずが別の弁当になりました。朝食は、サンドイッチと菓子パン又は調理パンの組み合わせ、プラス牛乳がつきました。弁当の内容および提供食品が充実してきたため、3月末でセンター独自の炊き出しを終了しました。
 身体に関するアンケート結果Iでは、身体面で肩こり72%、眠れない55%、咳が出る50%、目が疲れる、瞼が麻痺する、体がだるいが共に44%であった。
 身体に関するアンケート結果IIでは、精神面でイライラすると根気が無いが共に56%、物事が気になる・熱中出来ないが50%であった。
 また、体調の崩れを示す、下痢6人、便秘 0人と非常に少なかった。

 【まとめ】

  1. 最初の5日間は、提供された物資のみの対応しか出来なかったが、震災後6日目には、電気が復旧し、カセットコンロも配置され、湯を沸かしたり、電子レンジで温め直すことが出来るようになり、汁物としてカップラーメン等を提供することが出来ました。
  2. 2月末まで2回食であった為、1回分の食事については、当センター独自で炊き出しをして対応しました。なお、当センター独自で炊き出しをするに当たり、注意したことは、衛生的に取り扱う事は言うに及ばず、温かい物を出す・野菜・特に緑黄色野菜をたっぷりと使う・便秘予防のため、こ
    んにゃく・海草・いも等繊維の多い食品を使うことを配慮しました。
  3. 又この間、3種類の「おにぎり弁当」が繰り返し提供されました。週に5回ハンバーグ弁当を提供されたこともあり、弁当をバラして、煮込み、カレー味・トマト味・しょうゆ味等、アレンジして提供しました。
  4. 2月1日から牛乳が、1日1本提供されるようになったが、カルシウムの摂取量が少ないため、救援物資の煮干を毎夕食後に、1日1人当たり5匹提供し、食べるように指導しました。

今回の震災に対して、

【不備な面としては】

 当施設は正規の避難所ではなかったため救援物資の配給を受けられなかった。しかし、幸いなことに区役所までの距離が100mであったため、配給ルートが確立されるまで職員が物資の調達を行っていた。
 施設自身、大規模災害を想定した日頃からの食料品や飲料水の備蓄をまったくしていなかった。

【有益な面としては】

 当施設は健康増進施設として、プールや栄養指導実習室なども備わっており、職員には、医師、看護婦、管理栄養士、運動指導員などの専門スタッフが常駐している。長い避難生活で、体調の崩した者が少なかったのは、施設の環境面もあるが運動指導員によるストレッチ体操の実施と、炊き出しによる栄養補給や栄養指導、医師や看護婦の生活面でのフォローなどによるものが大きい。
 また、建物は気密性がよく1階には室内プールを配し、前々日まで営業していたので、他施設よりも温かく、しかもプールの水がトイレ用の排水として使用できた。
 電気の復旧も早かったため、調理実習室での電子レンジや電気式フライヤーなどがガス遮断中でも弁当などの温めや調理には大変役にたった。
 公共の施設は、避難所になる可能性があるので、食事対応のマニュアルの整備と配置が必要と考えられます。災害当初は、今回のように交通網の麻痺した場合は、食事の配食が非常に難しく、カンパン・水・缶詰等の食品の備蓄も必要と考えられます。(尚、缶詰については、缶切りが “ない”場合もあるので、イージーオープンまたはプルオープンの缶詰という配慮を忘れずに)以上のことから、今回のように、長期間にわたり食事を提供する場合、衛生管理・栄養管理には、栄養士の関与等が、非常に大事であると考えられます。 
 また、どの避難所よりも、当センターの対応が優れていたと自負しています。

図1 震災1週間(前半)

 

図2 震災1週間(後半)

 

図3 震災2週間

 

図4 震災3週間

 

図5 震災4週間

 

図6 震災2ヶ月

 

図7 身体に関するアンケート結果I

 

図8 身体に関するアンケート結果II

 

写真1
震災当日の手作りのおにぎり。その後、第1週目には、お湯を加えるだけのα米の山菜おこわ等も提供された。

 

写真2
震災第2〜4週目に出された。週に3回位。内容はおにぎり、ハンバーグ、しゅうまい等(ハンバーグがコロッケや空揚げに変わる事もあった。)

 

写真3
震災1ヶ月頃に提供されたカルビ弁当。センターでは、この弁当にかす汁とサラダを夕食に加えた。

 

写真4
震災2ヶ月頃のミンチカツ弁当。この弁当に野菜炒めと生タイプの味噌汁を加えた。

 

写真5
震災3ヶ月頃の白身魚のフライ弁当と生カップラーメンや缶スープがついて提供された。


(c)1997兵庫県栄養士会(デジタル化:神戸大学附属図書館)