命を支える食生活を守るために 兵庫県栄養士会 平成9年5月 p41-49


(9)震災当日から復旧までの入院患者の食事対応

兵庫医科大学病院  田 辺 節 子

 1月17日早朝激しい揺れに襲われ、内臓がえぐられる様な横揺れと、その瞬間「ドスン」と頭を叩きつけられた。同時に停電で真暗闇だった。手さぐりで懐中電燈をとり、栄養部に電話した。朝勤者9名全員無事を確認。すでに朝食の準備中であり、食材は入荷済みで安心した。すぐに病院まで車で駆けつけたのは6時10分。1階から地階栄養部に降りようとすると上部階段からザアーザアーと水が流れ洪水の危険を感じた。厨房内に入り、先ずガスの大元栓を閉める。水道は少し出ていたが、断水することを予想し、あらゆる容器に水を貯めた。停電で補助燈だけがにぶく光を放っていた。朝食は通常通りパン食、牛乳、サラダ等で準備の最中であったが、粥は蒸気が止まり炊けていない。ガス、電気、蒸気のすべての熱源が止まりどうする事もできず、粥の人は急遽パン食に切り替えた。治療食にも即座に対応した。流動食は経口できる経管栄養剤を使用し、朝食がようやく出来上がったがエレベーターが止まっている。食事を配膳用ワゴンから運搬箱に移し、手で抱えて水浸しの階段を13階まで運んだ。オーダリングシステムが停止しているので食札を返却してもらい次の食種の参考にする方法をとった。朝食は8時に無事患者さんに届いてほっと一安心。この頃、近辺居住の栄養士、調理師は出勤して来た。息つく暇もなく今後の食事提供を考えミーティングを行う。
 昼、夕食は非常食の備蓄3000食が頼りだ。パン缶詰、トマトジュース、シーチキン缶を常食、軟食にし、粥はレトルトを電子レンジで温め、副食はブレンダー、野菜マッシュ等で、治療食にも対応できた。水は貯め水で賄えた。調乳は乳児の命の綱。欠く事はできないので哺乳瓶は手洗いし、ミルトン液で消毒をする。調乳水は電気ポットで沸かし、ミルクを作った。ひたすら事故のない事を願っていた。
 翌18日の朝食はパンと牛乳は配達され、果物も調達できた。これ等は被災を免れた地区の業者であったため、幸いしたことである。昼食は県庁から救援のおにぎりを予定していたが、交通渋滞で間に合わない事が判明し、急遽職員の自宅から炊飯器をあるだけの数を持ち寄り御飯を炊いた。そして次々とおにぎりを作る。副食は缶詰、ミニトマト、レタスをディスポ食器に盛りつけ、ジュース、お茶缶詰を添えて配膳した。暖房が止まった寒い病室での冷たい食事は心苦しかった。電気はついたのでレトルトパックの粥を電子レンジで温めることができたので喜ばれた。給食用水は遠方から給水車で運ばれて来たのでそれを運搬する。
 19日からの主食の手配に苦慮した。パン屋は被災して作れないと言う。大阪にある業者を紹介してくれたが、取りに行かなければならない。車で病院を出たものの、尼崎で渋滞し3時間も立ち往生。止むを得ず病院まで引き返し、阪神電車で野田駅まで行く。厚生年金病院の計らいで野田駅までパンが運ばれ、この時は駅職員もよく協力してくれた。阪神電車に3000食分(大箱5ケース)をのせ栄養士、調理師で病院まで運んだ。次に御飯は大阪の業者に炊飯を依頼し、保温容器に入れ運搬されたので、温かい御飯を提供することができた。物流関係では果物は入荷するので、簡単に皮をむける例えば、みかん、バナナ等を選んだ。副食は医療食(病院用調理済食品)を搬入することができ、減塩食や他の治療食のためにも活用できた。
 20日にガスカセットコンロが届いてうれしかったがボンベは家庭用ので1本1時間ももたないため、大量の調理はできない。LPガスを依頼してみたが危険だからと認められず、何とか温かい食事を提供したいと思っていた矢先、大阪市立大学附属病院から大型電気レンジを借用することができた。しかしこれも交通渋滞の中取りに行くのは半日がかりである。これで粥を炊きようやく温かい清汁ができた。給食数は次第に減り、700〜500食となり、簡単な煮物もできる様になり治療食の食種を増やした。献立にも野菜が加わり少しずつ平常に近づいたものとなっていった。
 1月25日三田青年ボランティアより自家栽培の野菜が届く。水々しいトマト、大根等々心温まる思いだった。メニューも一人色どりを添えることができた。一番待っていた水が少しずつ出初めたのは、29日のことである。でもまだ1/10の水量とのこと節水しなければいけない。続いてガスも復旧し歓声が湧く。これでようやく温食給与が可能となった。
 30日災害対策会議で入院を500人目標に増やしたい旨指示があり、患者食の食種も従来通り復帰することを宣言した。
 水道が完全復旧したので2月2日には洗米もでき、ガス炊飯器で御飯がおいしく炊け感激した。
 2月9日オーダリングシステムが再開し食札が出る。食数も増加し活気が戻った。
 14日に蒸気が復旧稼働し、大釜使用の運びとなる。又調乳用オートクレーブも久々に動き有り難い。
 18日は震災後1ヶ月で給湯が復旧し、食器洗浄機のテストが終了。ディスポ食器から保温食器を使用することができたのは23日からで、これですべて平常に復帰したわけである。長い長い1ヶ月余の経過だった。
 大震災後1ヶ月をふりかえると、患者食を一食も欠かすことなく提供できたことは栄養士、調理師が “食”に対する使命感のもとに患者さんのために一致協力して行った精神力の成果であったと考えられる。

地震発生後の状況と経過

当日 1月17日 停電、断水、給湯・ガス・暖房停止
2日目 18日 エレベーター始動
3日目 19日 給水車による給水開始
4日目 20日 電子レンジ ガスカセットコンロ搬入される
5日目 21日 医療食入荷
8日目 24日 ミネラルウォーター等救援物資届く
厳寒の中 尚、余震続く
16日目 2月1日 ガス、水道修復し、炊飯可能となり、メニューも通常になる
24日目 9日 食事オーダシステム稼働
1ヶ月目 17日 オートクレーブ稼働、調乳業務正常再開、蒸気釜使用可能、給湯復帰、冷凍室使用可能、食器洗浄機稼働
約40日 23日 完全復帰、保温食器使用

阪神大震災
非常時の献立(一般食)

阪神大震災における非常食(一般食)の栄養量

<災害時の問題点>

*非常時の備蓄 3日分必要
 準備しておきたい食糧

主  食… パン、粥、クラッカー
副食主菜… 魚、肉缶詰め、治療食も使用できるもの
副  菜… 野菜、海草等の缶詰、レトルト食品etc.
飲  料… お茶、LL牛乳、野菜ジュース、スープetc.
その他… 経管栄養剤、ブレンダー食、裏ごし食
食  器… ディスポ各種皿、大・中・深皿・コップetc.

*水の確保

 飲料用、調理用、調乳用、その他生活用

*熱源の確保

 一源に偏らず多様に対応する事が必要

*食材料の確保

 業者の地域的分散、県外業者も必要

*職員の確保

 近距離よりの通勤者大切、遠距離からは通勤路が困難をきわめ無理であった。

*情報ラインの確保

*衛生上の配慮

*とっさの判断と決断

 以上の問題点をふまえ、今後の災害に向けて、入院患者食の備蓄食品についての充実、非常食の献立等、マニュアル作りをし、自衛手段で行える様に心がける必要がある。


備蓄食品一覧(患者食のみ)

兵庫医科大学病院栄養部

<災害時用食品>

1.水と熱源、交通が断たれた場合……(最低3日分)

主食缶 (パン缶、粥缶)
果物缶 (みかん缶、甘夏缶、蜜豆缶、黄桃缶)
飲物缶 (トマトジュース、オレンジドリンク、コンソメ缶、お茶缶)
魚缶 (鮪ステーキ、鮭缶、シーチキン缶)
肉缶 (すき焼き缶、コンビーフ缶、焼き鶏缶)
レトルト食品 (シーチキン・フレーク、鶏ささみ水煮、さしみチャンク)
おかず缶 (肉じゃが缶、ポークビィ-ンズ缶)
野菜缶 (アスパラ缶)
サラダ缶 (ポテトサラダ、ツナサラダ)
おやつ (パンティーヌ、クラッカー)
ジャム類 (いちご、りんご、マーマレード)
チーズ  
マーガリン (マーガリン6g、ラーマ10g)
マヨネーズ (マヨネーズ10g、業務用マヨネーズ)
ドレッシング (ノンドレッシング2種)
佃煮 (鯛味噌、減塩海苔佃煮、梅びしお)
強化食品 (Ca食品、マクトン食品、鉄食品他)、
低蛋白食品  
経管栄養剤 (日常使用している物を備える)
ミネラル、ウォーター (2リットルパック)

2.水と熱源があって、交通が断たれ食品がはいらない場合
普段から3日〜1週間分の確保が出来ている物

2週間分
 
調味料 (味噌、油、ケチャップ、醤油、ソース)
(塩小袋、減塩醤油、減塩だし割り醤油)
乾物 (高野豆腐、ふ、ワカメ、干し椎茸、小麦類、ソーメン)
冷凍物 (ほうれん草、三度豆、グリンピース、鶏ささみ、鶏60g、おやつ、ゼリー)
100%果汁 (オレンジ、パイン、グレープ各ジュース)
豆乳  
粉ミルク (ベビー粉ミルク、スキムミルク)
ベビーフード  
ブレンダー食品 (6品)

非常時用対策・心得

備蓄用非常用食品としての諸条件

(参 考) 給食施設の被害状況

1. 県保健所(被災7保健所……西宮・芦屋・伊丹・宝塚・川西・明石・津名)

 給食施設の食器を除く被害の状況は下表に示すとおりで、約半数の施設で何らかの被害を被っていた。工場・事業所では全壊の施設があるうえに、損壊有りの施設が最も多かった。福祉施設では、全壊施設があるものの損壊有りは3割強でやや少なかった。
 被害は、壁や水道・ガスの配管部分が最も多く、給湯器や冷蔵庫、食器消毒保管庫、電子レンジ等の損壊が報告されていた。

給食施設の被害の状況

兵庫県:災害時食生活改善活動ガイドライン(H8.3)

2. 神戸市

各区給食施設被災状況  (平成7年6月1日現在件数)

給食施設種類別(公立小学校を除く)被災状況 (平成7年6月1日現在件数)

神戸市調査(センター…一般給食センター)


(c)1997兵庫県栄養士会(デジタル化:神戸大学附属図書館)