命を支える食生活を守るために 兵庫県栄養士会 平成9年5月 p130-142


1 備蓄食品

(1)一般家庭

 災害時には、水道・ガス・電気・交通機関等のライフラインがマヒするため、家庭でも日頃から食品を備蓄しておくことが必要である。
1. 備蓄量
 備蓄の量は、家族の人数や構成に応じて、防災袋に入れ持ち出せる物と長期のことを考えて家庭で備蓄する物を用意する。防災袋に入れる物……家族の人数に応じて、飲料水や食糧を2〜3日分を用意する。但し、1つの袋で重すぎるとスムーズに持ち出せないので、5kg〜6kg位にまとめる。
 家に備蓄する物……日常使う保存のきく食糧を買い置きする。長期保存のきく食糧を一定期間ごとにチェックし、期限がきれる前に新しい物に取り替えておく。この、2つの方法で備蓄しておく。

〔*1〕水戻し餅:水に数秒間浸すだけで柔らかい餅になる。きな粉が入っているので、即席安倍川餅が作れる。
〔*2〕α米(アルファ米):米を特殊処理したもので、お湯を注いで約15分で温かいご飯ができる。特徴としては、永く保存できること。米の旨さを保てることがあげられ3年間保存できる。水でも調理できるものや缶入りα米もある。

出典:災害時食生活改善活動ガイドライン(兵庫県保健環境部H8.3)

2. 乳児や高齢者等のための工夫
 〔乳児のいる場合〕

〔高齢者のいる場合〕

〔慢性疾患者のいる場合〕


家庭での備蓄食品メニュー例

(震災1周年講演とシンポジウムから抜粋)

神戸市長田保健所 杉岡ふみ子

 震災直後の混乱期は、食料品を手に入れることが大変なことでした。普段スーパーなどで手に入れるものでも上手に使い回しをすれば、特別なものを使わなくても家庭での備蓄ができます。

≪水、ガス、電気が使えない場合≫

 主としてそのまま食べれるもので組み合わせた例です。

4人家族、1日分の例(1食500キロカロリーとして)

摂取できる栄養価(1人1日分にすると)下段は基準

☆基準は60歳代女性軽い労作の場合の栄養所要量をとりました。

☆1食を600キロカロリーにする場合(20歳代女性軽い労作にあたります。)
 食品を増やす例
  (例1)カンパン     1袋→2袋
      ごはんレトルト  4個→6個
  (例2)ビスケット     1箱→2箱
      カロリーメイト   1箱→2箱
      ごはんレトルト  4個→6個
  ※(例2)の方がビタミン類の充足ができる。

☆こんな食品も備蓄食品にできます。

≪水や電気が使える場合≫

☆こんな食品があると便利


3. 調理器具等

  最近では、アウトドア用の調理器具を活用しても良いが、ひとつの熱源の調理器具に片寄らず、下の器具を組み合わせて用意しておくと便利である。

〔電気もガスも使えない場合〕

〔電気が使える場合〕

(2)給食施設

 給食施設は、1日1〜3回の食事を継続的に提供しており、病院や福祉施設での給食は特に毎日の生活そのものである。また、災害時には負傷者や高齢者等の受け入れが定数以上になることも考えられるので、食糧の備蓄は重要である。
 施設の種類や規模、施設の設備によって備蓄の量や内容は異なると考えられるが、どの施設にも共通する考え方は次のようになる。

  1.  災害時の給食マニュアルの作成
    施設毎に災害時のマニュアルを作成し、関係者に周知徹底させておく。
  2.  非常用の献立
     ライフラインの使用の可否を想定して、少、なくとも3日程度の献立は用意することが必要である。
  3.  備蓄食糧の内容と保管管理
    備蓄食糧は、献立に添った内容のものを用意し、保存期間をチェックしながら定期的に更新する。また、職員の誰もが対応できるよう周知徹底しておく。
  4.  食品の流通状況の把握
     災害時における食糧の確保がスムーズにできるよう、普段から食材料の入手経路を把握しておくとともに、災害時の食材料の確保について業者と契約をかわしておく。
  5.  設備の整備
     代替熱源を複数確保するとともに、食器やアルミホイルや缶切り、使い捨て手袋等の用具を備蓄しておく。
  6.  災害時の衛生
     災害時は衛生状況が悪くなっているので、特に調理従事者は衛生に注意が必要である。逆性石鹸やアルコール等の備蓄はもちろん手洗いを励行することは重要である。また、残飯等の廃棄物の処理についてもその方法について、確保しておく。

 次に、病院の事例として、神戸大学医学部附属病院の例と神戸市における老人ホームについて紹介する。


神戸大学医学部付属病院の経験と提言

神戸大学医学部附属病院 土江 節子

 会場となった神戸文化ホールは、神戸市の中心地、三宮から地下鉄で2駅の大倉山が最寄り駅である。そのほど近くに神戸大学医学部附属病院はある。大倉山公園に隣接し、環境も交通の便も申し分がない。
 シンポジウム中、“市民の立場から”の発表を受けて“病院栄養士の立場から”という題で発表した土江節子氏は、この神戸大学医学部附属病院の栄養管理室長である。
 「震災当日の栄養士、調理師たちの出勤率は83%でした。自宅が全壊、半壊している者もいる中で、他の職種と比較しても高い出勤率が得られたのはやはり業務の重要性を認識していたからだと思います」。
 出勤予定の栄養士が3人中3人、調理師が19人中15人、調理補助1人が、交通手段を工夫して病院に駆けつけた。出勤できたのは合計19人だが、自宅が全壊した者は、一部損壊まで含め、そのうちの14人であった。
 神戸大学医学部附属病院は神戸における基幹病院の一つである。震災当日は、入院患者への対応と共に、負傷した多くの被災者が来院し、重傷者も次々に運び込まれてきた。医師、看護婦を始め、医療スタッフ全員による必死の救急対応が続けられたという。

施設は防災設計で更に復旧しやすい構造にする

 同院では、建物は幸いにも倒壊を免れたが、土江氏が用意したスライドには棚や備品の転倒および壁に走る亀裂が映り、病院機能の低下が容易に想像された。土江氏の仕事場である病棟1階の栄養管理室は、2つの建物をつなぐ役割も果たしており、エキスパンション部分に大きな被害を受けた。天井や床に大きな隙間があいてしまい、空が見えるという状況だった。また、壁が脱落したために外部通路との境界がなくなった。電気は2時間で復旧したが、水道は1月22日まで、給湯は1月25日まで、ガスは2月15日までの、ほぼ1カ月にわたり使用できなかった。
 入院患者への食事提供という業務では水源と熱源の確保は最大の問題である。特に“水”は、手術や診療といった場面以外でも、食事、清掃などすべてに関して必要である。そのため、職員の行った主な震災後の業務として挙げられたのは、「水汲み作業」および「水道・熱源の停止・復旧の情報収集と対策」であった。
 「今後、耐震・防災設計にしなければならないのは当然ですが、震災後、復旧工事のしやすい配管設備などが重要であることを痛感しました。それと、棚や機器類をきちんと固定すること。実際、製氷機やサイの目切り機など、様々なものが転倒し、破損しました」。
 衛生的な環境が強く求められる職場であるにもかかわらず、天井の亀裂からほこりは落ちる、部屋と廊下を分けていた壁は脱落する、といった状況で、衛生環境を保持し、安全な食事を提供することは大変な苦労だった。予測を超えた非常事態で、職員にかかる負担の大きさは計り知れなかった。

蛋白質が不足した震災直後の病院食

 震災直後は、病院食については土江氏らは応急的な対処をせざるを得なかった。
 具体的に言えば、1月17日、翌18日の2日間は在庫食品や、既に納品されていたパン、牛乳、果物を提供した。17日の午後のみ蒸気が使用可能であったため、炊飯と簡単な調理を行えたという。だが、この蒸気はその後、1月21日まで停止した。
 3日目の19日になると、他の国立大学や神戸市対策本部などから救援物資が届き、それらを患者に提供している。他県の国立大学からの救援は、同病院が文部省管轄の国立大学の一つであったため、そのネットワークがいかされてのことである。救援物資を中心とした病院食の提供は1月27日まで続き、震災から10日を経過して、米飯・普通菜食、全粥・半流動菜食、流動食、経管栄養食、ミルク食の調理が再開できたという。特別治療食など、すべてが従来どおりに戻ったのは2月10日と、3週間以上を要している。
 その間の栄養価について土江氏は表1を示し、「一時的に、エネルギー源の栄養摂取が多くなり、蛋白質が少なめになってしまいました。どうしてもカルシウム、鉄分が不足しがちなので、非常用備蓄食品の中に栄養強化食品も含めるといった対策も必要でしょう。また、災害直後の栄養所要量は通常と同じ十分なのかという点も考えなければなりません。大地震の恐怖とその後の余震、非常事態で、患者にはかなりストレスがかかっていました。そういったことまで考慮すべきかどうかなど、検討の余地は大きいと思います」
と指摘した。

表1 米飯・普通菜食の栄養量概算

 

2日分の非常食を分散して保管すべき

 十分な食料の備蓄とはどのようなものであるか、入院患者へ食事を提供しなくてはならない医療機関では、量、内容共に頭を痛めるところである。今回の震災で被災地以外からの救援物資が大量に届き始めたのは、3日後の19日頃からだった。災害医療と同様、食料の確保においても、自力で持ちこたえなければならない期間は、災害直後の2、3日間である。土江氏も経験から、
 「少なくとも2日6食分が必要」
という。内容については、形態別には、米飯・普通菜食、粥・軟菜食、粥・半流動菜食、流動食が、病態別にエネルギーコントロール食、蛋白コントロール食や経管栄養食などが最低限必要であるとする。同院では震災以後、表2、3の食品および用品を備蓄している。また、在宅の糖尿病患者用に検討したものは表4のとおりである。それらの備蓄食品を使用した献立例を、表5aおよびb表6aおよびbに示した。
 「重要なポイントはこれらを分散して保管すること」と、被災者ならではの指摘もあった。
 備蓄をすれば当然出てくる問題が、食品の“入れ換え”である。賞味期限内にうまく新しい物と交換していかなければならない。同院で試みているのは、病院食にメッセージを添えることである(図1)。どうしても、固い、味が落ちる、食べにくいといった欠点を否めない非常用備蓄食品を通常の病院食に流用するためには、患者の理解が必要になる。

表2 非常食備蓄量(500人×2日分)

 

表3 非常時用備品

 

表4 糖尿病備蓄食品(糖尿病食品交換表分類)

         * 他の表の食品も含む
 

表5a 非常食献立(1日目)

 

表5a 非常食献立(1日目)

     * 災害発生時刻により朝食、昼食、夕食がチェンジする。

 

表5b 非常食献立(2日目)

 

表5b 非常食献立(2日目)

     * 災害発生時刻により朝食、昼食、夕食がチェンジする。

 

表6a 糖尿病非常食献立例(糖尿病食品交換表17.5単位)

* ビタミンやミネラルを強化した食品

 

表6b 糖尿病非常食献立例(糖尿病食品交換表20単位)

* ビタミンやミネラルを強化した食品

※ 以上は「薬の知識」第47巻第4号から抜粋したものであり、「震災シンポジウム」を、取材編集したものである。

日ごろから柔軟なネットワーク作りを

 「私たちは、神戸市からの1日2食のお弁当と国立大学からの援助を受けることが出来ました。こういった救援ネットワークを日ごろから持っておくことが大事」
 と士江氏は話すが、“ネットワーク”という言葉は、震災後の神戸のキーワードでもある。巨大地震などの大災害では、一病院などの個別の対応だけでは限界がある。災害対策、救援活動を “点”から “線”、そして “画”でとらえていく必要性を関係者たちは強く感じている。特に、非常事態が長期化し、1週間単位、1カ月単位になった場合は、ネットワークなくして乗り切れるものではない。そして、栄養管理という側面からは、量、内容だけでなく、物資を必要としている側の使いやすさなど、非常事態だからこそ実際の使い勝手が要求されてくるという。「他施設からの救援物資に頼らざるを得なかったが、物資に使用食品量、または栄養計算値があれば、食品の組み合わせ、増減によって、特別治療食への対応も可能になるはず」(土江氏)。
 行政関係者、医療関係者、そのほか不眠不休で震災後の対応に当たった人たちは少なくなく、栄養士も例外ではなかった。非常業務に忙殺され、細やかな栄養管理を求められる特別治療食に対応する余裕がなかったという回顧からである。
 最後に、土江氏は、
 「栄養士ボランティアの存在も今後は検討が必要です」と述べ、ボランティアを含めて、県内、県外
を問わない柔軟な対応が可能なネットワークの構築を課題とした。

図1 入院患者へのメッセージカード


老人ホームにおける備蓄食品

神戸市保健福祉局施設福祉課

<災害時の食事について(約50人分)>

 施設倉庫には、災害時のための非常用食品を3食分+間食+予備食1食分備蓄しています。災害発生後、必要に応じて下記の献立に沿った食事を、入所者に提供してください。

献立(1人分)

・1食め
パン缶 1缶
牛乳缶 1缶
→牛乳を飲めない人はりんごジュース 1缶
ツナサラダ缶 1缶
お茶缶(1日分) 1缶
使い捨てスプーン 1本
・2食め
とうもろこし粥 1袋
いわし団子缶 1缶
切干大根煮缶 1缶
豚汁 1袋
使い捨てスプーン・割り箸・使い捨て容器(粥用) 各1
・ 間食
Caウェハース 1袋
おろしりんご 缶1缶
使い捨てスプーン・使い捨て容器(おろしりんご用) 各1
・3食め
★山菜おこわ 1食分
★印-下記参照
味付ハンバーグ  1袋
★わかめスープ 1袋
かぼちゃいとこ煮 1缶
割り箸・紙コップ
(わかめスープ用)各1
・予備食
さっまいも粥 1袋
味付ハンバーグ 1袋
豚汁 1袋
使い捨てスプーン・割り箸・使い捨て容器(粥用) 各1

※この献立はライフラインが全て使えない時を想定しています。使用可能なライフラインによって、又、職員の出勤状況によって、普段の食器を使う・温めるなど、適宜対応してください。

※ライフラインが全て使えない時でも、3食めまでは、焚き火・カセットコンロ等で火元を確保し、保存用水を使用して必要量の熱湯を用意してください。

★山菜おこわ 1箱(50食分)に対して5.5リットルの熱湯要
  (熱湯が無理な場合は、常温水でも可)
★わかめスープ 1袋に対して180ミリリットル、50人分で9リットルの熱湯要
  (熱湯が無理な場合は、予備食の豚汁か、汁物無で対応)

※被害状況を考慮し臨機応変に組み合わせると、約250食分の食事が提供できます。


(c)1997兵庫県栄養士会(デジタル化:神戸大学附属図書館)