『震災に関する法律問題Q&A 建物の損壊をめぐって』神戸商工会議所 平成7年4月 P1〜P25

はじめに

 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)によって生じた法律問題のうち相談件数が多い建物の損壊に関する相談事例を中心にご紹介します。また、この震災によって惹起された法律問題には、判例の蓄積もなく学説の展開も不十分な論点が含まれていますが、本冊子ではそのような論点に対しても若干の検討を試みています。
 なお、本冊子の作成にあたりましては、神戸商工会議所専門相談員でもある弁護士の村上公一氏に解説をお願いいたしました。紙面をかりて御礼申し上げます。

平成7年4月

神戸商工会議所

Q1

借家が損傷を受けた場合、家主は修繕をすべきか。

A

 修繕義務は原則として賃貸人(家主)が負担する。しかし、特約や慣行によって賃貸人の修繕義務が免除されている例もある。「小修繕」は賃借人の負担であって「大修繕」の義務は依然賃貸人が負担するものと解すべき契約もある。
  はっきりした約束がなく、これまで事実上賃借人が修繕しているようなケースでは、賃貸人の修繕義務免除の有無・範囲について疑義が生じることがある。
  賃貸人が修繕義務を負担する場合も、修繕が物理的に不能な場合や新築に匹敵するような過分の費用を要する場合は、修繕義務は発生しないとされている。それゆえ、全壊やそれに近い場合は修繕義務が発生しない。逆に建物の外壁にひびが入った場合のように、美観上の問題はあるが使用収益には一応支障がない場合も、原則として修繕義務はないとされている。

Q2

借家が倒壊または全焼した場合、借家人にはどんな権利が認められるか。

A

 借家が滅失した場合、賃貸借契約は当然終了する(判例・学説)。
  ところが、このたび「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下、罹災都市法という)を今般の大震災に適用する政令が施行された(平成7年2月6日)。
  罹災都市法は、主として罹災地における借地人と借家人を保護するものであるが、借家関係での保護は次のとおりである。
  罹災都市法によれば建物の滅失があった場合、建物の借り主には、

(1)敷地の優先的賃借権(罹災都市法第2条)

(2)敷地に借地権がある場合の借地権の優先的譲受権(罹災都市法第3条)

(3)再築建物の優先的賃借権(罹災都市法第14条)

が認められ、相手方がそれを拒絶すべき正当な事由がないかぎりは、いずれかの形でその場所での居住や営業が再開できることになる。

罹災都市法の適用地区は次のとおりである。

【兵庫県】(10市11町)

神戸市、尼崎市、明石市、西宮市、洲本市、芦屋市、伊丹市、宝塚市、三木市、川西市、(加古郡のうち)播磨町、(津名郡のうち)津名町、淡路町、北淡町、一宮町、五色町、東浦町、(三原郡のうち)緑町、西淡町、三原町、南淡町

【大阪府】(12市)

大阪市、堺市、岸和田市、豊中市、池田市、吹田市、高槻市、茨木市、泉佐野市、大東市、箕面市、高石市

Q3

Q2の3つの権利はどのようにして行使するのか。

A

 これらの権利は次のようにして行使される。

(1)敷地の優先的賃借権(罹災都市法第2条)について

 権利者は震災により滅失した建物の借り主である。この者がその土地所有者に対して賃借の申し出をする。申し出は内容証明郵便によるべきである。
  土地所有者が申し出を受けた日から3週間以内に拒絶の意思表示をしないときには申し出が承諾されたものとみなされるうえ、拒絶の意思表示をするには「正当な事由」が必要である。
  賃借の申し出は、政令施行の日(平成7年2月6日)から2年以内である。
  建物の敷地に借地権が存する場合には後記の借地権の優先的譲受権の問題となるので、この権利は主張できない。また、その土地を現に建物所有の目的で使用する者(第三者または土地所有者)があるときは、この申し出ができないことは注意すべきである(罹災都市法第2条第1項但し書)。所有者等による建物の建築が始まっているときは、ここでいう使用にあたる。
  敷地の優先的賃借の申し出によって発生する借地権の借地条件(地代、権利金等)については、申し出の段階では何も決まっていないのであるから、当事者間にて協議をするほかないが、協議が調わないときは、申立てにより裁判所がこれを決定することになっている(罹災都市法第15条)。ただし、借地期間は10年と法定されている(罹災都市法第5条)。

(2)借地権の優先的譲受権(罹災都市法第3条)について

 これも権利者は震災により滅失した建物の借り主である。
  敷地上の借地権が従前から存する場合(借家が借地上の建物である場合が典型例である)は、その借地権者に対して、借地権譲渡の申し出をすることができる。申し出を受けてから3週間以内に借地権者が拒絶の意思表示をしないときには譲渡を承諾したものとみなされ、拒絶をするには「正当な事由」が必要であることは前記と同様である。この借地権の譲渡の申し出も、前記同様、政令施行の日(平成7年2月6日)から2年以内であり、所有者等によってその土地の使用が開始された後はこの申し出ができない。
  借地権譲渡の対価について当事者間の協議が調わないときは、申立てにより裁判所がこれを決定する(罹災都市法第15条)。

(3)再築建物の優先的賃借権(罹災都市法第14条)について

 これも権利者は、震災により滅失した建物の借り主である。
 建物滅失後に当該借り主以外の者によって最初に築造された建物についてその完成前に賃借の申し出をすることによってその建物を賃借することができる。これによって発生する賃貸借の条件(賃料、敷金等)について協議が調わないときは、申立てによって裁判所がこれを決定する。

Q4

 借家(店舗兼居宅)が地震で滅失した。罹災都市法第2条を根拠にして借地権を取得し建物を自ら建てて営業を復活させたいが、注意することはあるか。
  なお、滅失した建物は地主の所有である。

A

 たしかに借地権は借家権よりも価値の高い権利ではある。しかし、借地権の申し出に先立ち慎重に検討すべき問題がある。
 まず、借地権が認められる場合も地代のほかに一時金(現時点では鑑定の手法を含めてその金額算定については研究が進んでおらず、適切な先例も見当たらないので金額の予測をたてることは極めて難しい)の支払いが必要となることが予想される。加えて、建物再築の費用は当然自己の負担となるし、地域によっては街としてのにぎわいが回復し商売が成り立つまでには多少の年月を要することもある。その間の経済的負担に耐えられるのかどうかについては冷静に検討しておくべきであって、かかる資金的見通しを持たずに借地権の申し出をすることは勧められない。
 また借地権の申し出を行った場合、地主としては客観的に拒絶の正当な事由が備わっているかどうかは別として、今後の展開を有利に導くべく何はともあれ拒絶の意思表示をしておくことが多いと考えられる。そしてここに紛争が発生するわけである。借地権の有無・条件について当事者の協議が調わなければ当事者の申立てにより裁判所がこれを決定することになるが、紛議の決着がつくまでには多少の時間が必要である。決着がつかない間は、借地権の申し出を行った旧借家人といえども一方的に敷地の利用を開始できるわけではない。
 さらに注意すべきこととして抵当権(根抵当権を含む。以下同じ)の存在がある。借地権の発生より前に抵当権が土地に設定されている場合には、この借地権といえども抵当権に優先しないので、競売に至った場合は借地権が消滅することになる。このことは通常の借地で借地前に土地に抵当権が設定されている場合も同じ理屈になることであり、決してここだけの問題ではないにせよ、今回の震災によって地主も経済的危機に陥っている例が多いので、特に注意を要する必要があろう。このように越えなければならない幾多のハードルがあることについて十分留意する必要がある。
 ところで、地主が建物の再築を計画している場合には、再築後の新建物の優先的賃借(罹災都市法第14条)が認められる。資金的負担の面からはその道を選んだ方が現実的である。地主が応分の再築計画を有し新築建物の優先的賃貸を提案しているのならば、特段の事情がないかぎり、地主のかかる計画を押し退ける形での借地権の申し出については、申し出拒絶の正当な事由ありとされる可能性が強いので、その場合まずは再築建物に対する優先的賃借という方向で話し合いを進めてみるのが適切である。ここで何らかの合意を成立させるときには、弁護士に相談して合意書の作成について指導を仰ぐことをお勧めしたい。
 地主が誠意ある話し合いをしないとか、地主が当方の意向を全く聞き入れないとか、地主の計画では当方の営業が再開できないなどの事情が判明したときに、以上の問題点を検討したうえで借地権の申し出をすることになろう。ただし、Q3で述べたとおり、借地権の申し出は政令施行の日(平成7年2月6日)から2年以内になされることが必要であり、2年以内であっても所有者等の権原のある者が建物所有の目的で土地の使用を開始したときにはこの申し出はできないので留意されたい。

Q5

借家が倒壊または全焼した場合、敷金は全額返してもらえるのか。

A

 借家が滅失した場合、賃貸借契約は当然終了する。そのことは罹災都市法が適用される今回の震災においても変わらない。したがって、借家人は罹災都市法が定める権利を主張する意思であるかどうかにかかわらず、いったんは荷物等を撤去して明け渡す義務があり、賃貸人は敷金を返還する義務がある。
 問題は、敷金の返還に際して一部を控除するという特約(関西では「敷引き」と呼ばれる)がある場合、「敷引き」がされるのか、それとも「敷引き」がされずに全額が返還されるのかという点にあり、相談例も多い。
 関西では「敷引き」の条項が置かれている建物賃貸借契約の例は多いが、その定め方も一様ではなく、賃貸借終了の理由を問わずに一律に「敷引き」を行うことが定められている場合もあれば、「賃借人の都合による解約の場合」にのみ「敷引き」を行うことが定められている例もある。家主の都合でもなく賃借人の都合でもなく、「建物滅失」という客観的な事由による賃貸借終了の場合に賃貸人が「敷引き」を行うことができるかどうかは、基本的には当該賃貸借契約の条項の解釈によって決まる問題である。契約条項の解釈はその条項の文言(契約条項の字句)、契約に至った経緯事情、当事者の置かれた客観的関係、或る解釈を採用したときの当不当などが勘案されて判断される。したがって、必ずしも契約書の字句通りに解釈されるとは限らない。ただし、条項の文言に反してまで賃貸人に有利に判断されることは少ないということは一応言える。また「敷引き」の有無については、残存契約期間の長短を考慮すべきとの説もある。
 なお、「天災による家屋滅失の場合は敷金を返還しない」という条項が入った契約例も見受けられるが、この条項については無効と解する説が有力である。
 もしも、両当事者間に見解の対立があって折り合いがつかないときには裁判で争うことも可能であるが、裁判結果の予想が困難であるケースが多いこともあり、高額の敷金が差し入れられているオフィスビルなどのケースは別として、裁判で争った場合の時間、労力、費用等を考慮すれば、多くの場合はこの際双方が譲歩して早期に円満な解決をしておくのが得策であろう。
 また、借家人が罹災都市法上の権利を放棄する場合には(住居用の借家の場合には営業用の借家に比べて罹災都市法の権利を行使しないで終わるケースが多いであろう)、権利放棄の代償として敷金返還とは別に多少の金銭的補償をしても理論上は少しもおかしくないわけであり、そのことからしても紛争の対象となる金額が小さいのであれば、賃貸人としても事情が許すかぎり敷金全額を払って処理することが望まれる。
 他方、集合賃貸住宅(文化住宅、賃貸アパート等)では、一時に多数の契約終了者が生じたために敷金の返還すら困難になる例も多く、家主が賃借人に対して分割弁済の承認を懇請しているケースも目立つ。

Q6

 地震で借家が壊れたので避難所での生活をしているが、家主が「建物を取り壊すので荷物を早く出してほしい」とうるさく迫って来る。応じなくてはならないか。

A

 借家の損壊の程度によって法律関係が異なってくる。すなわち、(1)建物が滅失に至っている場合と(2)建物が滅失には至っていない場合とがある。

(1)建物滅失の場合

 「建物の滅失」という言葉は今までにもしばしば登場しており、この言葉こそは罹災都市法の適用においても大きなキーワードになるわけであるが、「建物の滅失」とは何を意味するかがそもそも大問題である。ここでは一応「建物が物理的に破壊され、取引通念上建物としての社会経済的効用を失った場合である」と定義しておこう。そして、修繕が可能であれば「滅失」には該らないとされている。修繕が技術的には可能であっても修繕に過分の費用を要する場合には修繕不能とされることはQ1で述べたとおりである。したがって、建物が完全に倒壊・焼失していなくても、「滅失」と評価される場合が大いにありうるわけである。たとえば建物が傾斜している場合や傾斜はしていないが柱などの構造部分の強度が不足している場合も「滅失」に該当することがありうる。
 建物が滅失に至っている場合は建物賃貸借が終了しているので、今後罹災都市法上の権利を行使する意思であるかどうかにかかわらず、いったんは荷物を撤去して明け渡す義務がある。
 ところで、敷金の返還とその受領の事実があれば罹災都市法上の権利が消滅するがごとき理解が一部にあるが間違いである。従来の借家関係は建物滅失という事実によって終了するのであり、これとは一応別個の権利として罹災都市法による借地権・借家権が生じるわけであるから、とにもかくにも従来の借家関係は一応清算すべきものであり、敷金を受領したとの一事をもって罹災都市法上の権利放棄とされるものではない。仮に、返還敷金の領収書に「今後罹災都市借地借家臨時処理法上の権利は主張しません」というような文言が挿入されていたとしても、その領収書の記載のみを取り上げて権利放棄の効果を認めることができるかどうかは大いに疑問である。
  もしも、今後罹災都市法の権利を行使することがありうるときに、そのことを明確にしておきたいのならば(つまり当該権利の放棄と受け取られないためには)、念のために「罹災都市借地借家臨時処理法の定める権利は留保して明け渡す」と通告したうえで明け渡せばよい。
  問題は、避難者にとって仮設住宅もなかなか当選しないために荷物を保管する場所がないことから明け渡しができないというケースが多いことである。この問題については、当事者双方が知恵を出し合い応分の譲歩をして解決しなければならないという以外にない。

(2)建物が滅失に至っていない場合

(a)修繕が可能だとして明け渡しをせずに修繕を求める。

(b)建物の再築後の権利関係について地主と約束を交わしたうえで明け渡す。

などの対応が考えられる。

 ところで、建物が滅失に至っていないが建て替えの必要性があるときに、家主が借家人に対して「明け渡しを求める正当な事由がある」(借地借家法第28条、旧借家法第1条の2)として賃貸借の終了を主張できるかどうかは難しい問題である。上記の(a)、(b)のような話し合いが成立しなかったために解決が訴訟に持ち込まれた場合にそのような主張がなされることが考えられる。しかし、この場合も、罹災建物の借り主の保護という罹災都市法の精神は「正当な事由」の存否の判断の中で大いに生かされるべきであるから(そうでないと建物滅失の場合の方が借家人の保護に厚くなり不均衡が生じる)、家主が借家人に対して再築建物の優先的賃貸を提案しているかどうか、応分の補償金の支払いを提示しているかどうかという事情が「正当な事由」の存杏の判断において重視されることになろう。

Q7

地震により
(1)借家の全部の一時的使用不能
(2)借家の一部の一時的ないし恒久的使用不能が生じたときは、家賃は減免されるか。

A

 借家全部の恒久的使用不能はすなわち借家の滅失にあたるので、建物賃貸借契約が終了することは既に述べたとおりである。ここでは、(1)、(2)の場合について検討する。これらの場合に賃貸人に落ち度がないとしても、「賃貸借契約によって当然想定された便益が享受できない」という意味では賃料の減免をもたらすというのが考え方の基本である。

(1)借家の全部の一時的使用不能について

 ドアが故障して借家に立ち入れない場合のように借家全部の一時的使用不能が生ずる場合がある。この場合は、その期間に限り賃料の支払義務を免れるものと解される。
 借家の使用が一応物理的には可能であっても避難勧告等によって避難を余儀なくされる場合がある。この場合も原則的にはその期間中の賃料につき、支払義務を免れるものと解される。もっとも、避難を余儀なくされるケースのなかでも、当該敷地や建物自体に危険性がある場合(Q8参照)と外的事情(海岸のガスタンクからのガス漏れ、山側からの土砂崩れの危険、近隣の建物の倒壊の危険等)によって危険が発生している場合とに分けることができ、後者については法律家の見解が多少分かれることも考えられる。

(2)借家の一部の一時的・恒久的使用不能について(民法第611条参照)

 借家の一部損壊については、一時的なものはその期間のみ、恒久的なものは永続的に、賃料が減額されるというのが一応の原則である。
 しかし、一部の使用不能が短期間ないし軽微である場合には、賃料の減額すら主張できない(賃料全額の支払義務がある)こともある。つまり、少しでも不便が生じたら直ちに賃料の減額をもたらすというわけではない。
 たとえば、「一定期間内は危険防止のためにAという入り口からの出入りはできずBという入り口のみから出入りした」とか「電気の供給停止と点検・補修のために一定期間エレベーターが使用できなかった」という事実があっても、それのみで賃料減額にはならないことが多いのである。ただし、そのような事態が一時にとどまらず固定化した場合はやはり賃料減額の問題が生じる。
 電気、水道、ガスの不通によって建物の有効利用が困難になる場合については、建物に付随する配管等の破損が原因となって不通になった場合は賃料減額になることについてはあまり争いがないが、建物の配管等には故障がなく(あるいは建物の配管等がどうであれ)地域全体の供給が停止されていることによって不通になった場合は、賃料減額をもたらさないとの説が有力である。しかし、この場合も「賃貸借契約において当然想定された便益が享受できない」という理由から賃料が減額されるとの説もありうる。もっとも、この減額肯定説によっても契約の経緯、契約内容、建物の使用目的(住居、事務室、店舗、工場等)等の事情によって減額の有無・金額が異なってくることは否定できないし、建物設備自体に故障がないかぎりは減額金額がさほど大きくならないものと察せられる。なお、このような場合の処理について契約条項が置かれているときには、それに従うべきことはいうまでもない。
 「交通の途絶によって客足が期待できない」「周囲が廃墟のようになり街としてのにぎわいが途絶えたため、営業が成り立たない」というような外的な環境の変化を理由とする減額の主張については、それが賃貸借の趣旨に照らして重要な事情の変化であり、かつ一時的なものでなく継続性がある場合にかぎり、借地借家法第32条(または罹災都市法第17条)の手続をとることによって多少の減額が達成されることが考えられないではないが、このようなケースについての不動産鑑定の手法も確立しておらず判例学説の蓄積もないことから、訴訟になった場合の判決結果は誠に予想しにくいものがある。

Q8

 ビルの一室を賃借している。そのビルには「使用禁止」「危険」という札が貼られている。ビルは傾いてはいないが、安心してビルに立ち入ることができない状態である。賃料全額の支払義務はあるのか。

A

 今回の震災後、災害対策本部などがビルを検査して危険なビルには「使用禁止」や「危険」の札を貼っている。
  これは、簡易な判定であって精密な鑑定ではないこと、所有者や使用者に注意を喚起する目的にすぎず行政上・裁判上の法的効果に直結するものではないこと、建物使用の危険性を問題にしているだけであって修繕可能かどうかや建物が滅失に至っているかどうかの評価とは一応無関係なこと、罹災証明等に言うところの「全壊」、「半壊」、「一部損壊」の判定とも一応異なった尺度による判定であるということが共通する性質としてあげられる。
 しかし、「使用禁止」や「危険」の札を貼られていると、借家人は安心して建物に立ち入ることはできないのであるから、危険を避けるために使用を差し控えたりすることは常識的判断だと言える。
 そもそも建物賃貸借においては「建物の安全性」は必要不可欠の要素であるから、それが欠けて生命、身体、財産に対する危険性が発生しているのであるならば、それは「使用不能」に該当するので、その危険性が除去されるまでの間、賃料全額の支払いを拒絶することができる。
 ところで、前記の危険度判定はあくまで簡易な判定なので、訴訟等で精密な鑑定を実施した場合にこれとは異なった判定がなされることもありうる。しかし、客観的な事後的判断とは異なっていようとも、通常人を基準として当時の状況において合理的な危惧感が発生するかぎり、「建物の安全性」が欠如しているものと解釈される可能性がある。
 ここで、建物所有者(建物賃貸人)の側の責務について付言しておきたい。前記のような札が貼られたら、建物所有者としては直ちに専門家に検査をしてもらい修理が可能ならば修理をすべきであり、修理が不可能ならば借家人に退去を要請する等の処置をとるべきものである。いずれの場合においても、借家人に対して十分な情報や資料の開示をすべきものである。危険性はない(ないしは修繕によって危険性を除去した)ことについての合理的な情報を提供したのであるならば借家人は以後賃料の支払いを拒絶できないのであるから、情報開示は建物所有者の利益にも資するのである。「使用禁止」「危険」等の表示があるのに建物所有者が何らの対策をとらずに漫然と放置するのは論外であるし、借家人に対する十分な情報開示をしないで修理を始めるというのも好ましくない。

Q9

 借地上の建物が震災で倒壊・焼失した場合、そのことを理由として借地権は無くなるのか。

A

 借地権は消滅しない。
 借地人は、原則として建物を再築することができる。
 再築に対して地主が異議を述べた場合も将来の借地権の存続期間に影響をあたえることがあるだけであり、再築自体を阻止する効果はない。
 増改築制限の特約がある場合は、その特約の効力については諸説あるものの判例は有効と解している。したがって、一応は特約に従った手続をとる必要がある。すなわち、地主の承諾を求め、地主が拒絶するときは、地主の承諾に代わる裁判所の許可(借地借家法第17条第2項)を求めることが必要である。地主が故無く拒絶したからといって直ちに再築工事にかかることは、特約違反の問題を惹起することになるから適当でない。
 借地人が借地上の建物を(再築ではなく)修繕することについては、地主の承諾は不要である。増改築禁止の特約があっても修繕は何ら制約されないものと解されるし、修理・修繕自体を制限する特約があっても無効であると解されるからである。
 付言するに、罹災都市法を適用する政令施行の日(平成7年2月6日)において、地上建物が滅失した借地権の残存期間が10年未満のときは残存期間が10年に伸長される(罹災都市法第11条)。
 ちなみに、土地所有者は建物が滅失した借地権者に対して、1ヵ月以上の期間を定めて借地権を存続させる意思があるかないかを申し出るように催告することができ、その期間内に借地人から借地権を存続させる意思があることを申し出ないときは、借地権が消滅する(罹災都市法第12条第1項)。この場合、借地人としては「借地権を存続させる意思がある」と回答しておけば借地権消滅を免れることができるので、それほど心配はない。もっとも、借地人の連絡先が不明であると厄介な問題が生じることがあるので(罹災都市法第12条第2項ないし第5項参照)、借地人は居所や連絡先を必ず地主に連絡しておくべきである。

Q10

 借地上の建物が震災で倒壊・焼失した後に地主が土地を第三者に譲渡した場合、借地人の権利はどうなるのか。

A

 本来、借地権は借地権自体の登記がなくても、借地上に借地権者が登記ある建物を所有していることによって、第三者に借地権を主張する力(これを「対抗力」という)を持つ(借地借家法第10条)。対抗力があれば、底地の売買があっても借地権が覆る心配はない。
 ところが、建物の滅失があると、この意味での対抗力が消滅する。
 そこで、建物滅失の場合にも対抗力の不存在が生じないように、借地借家法第10条第2項は、一定の事項(滅失した建物の表示、建物の滅失があった日、建物を新たに築造する旨)を書いた立札を作り、これをその土地上に掲示することによって建物の滅失から2年間にかぎり対抗力が存続することを認めている。
  しかし、このたびの震災に罹災都市法が適用されるので、同法第10条により震災によって地上建物を失った借地権者は、前記の掲示をするまでもなく、政令施行の日(平成7年2月6日)から5年間にかぎり、登記ある建物が存在していなくても、その間に土地を譲り受けた第三者に対して借地権を対抗できる(なお、震災による建物滅失から政令施行の日までの間に底地の売買がなされ、借地借家法第10条第2項の掲示をしていなかった場合には法の保護の空白が生じるが、ここではこの問題に深入りしない)。
 つまり、罹災都市法は借地人に対して借地借家法以上の強力な保護を与えているのである。とはいえ、建物の「滅失」に該当するかどうか(すなわち罹災都市法が適用されるケースかどうか)は微妙なケースが多い。加えて、不法占拠等を事実上防止するためにも、念のために借地借家法第10条第2項の掲示をしておくことが勧められる。
 ところで、建物の滅失には至っていないが地震によって建物が損傷を受けたためにやむをえず建物を取り壊す場合がある。罹災都市法にいう「建物の滅失」は、災害そのものによる同時発生的な滅失に限らず災害によって建物が危険な状態になったためにやむをえず(人為的に)取り壊すケースを包含するとの有力な見解もあるが、かかる見解が裁判所において支持される確たる保証はないので、この場合もやはり念のために借地借家法第10条第2項の掲示をしたうえで取壊しを実施すべきである。なお、建物を再築しないまま借地契約の期間満了(建物が滅失していない場合は罹災都市法第11条の保護がないことに注意)を迎えてしまうと更新請求ができなくなること(旧借地法第4条第1項、第6条)にも注意をしておく必要がある。

Q11

 地震によって損傷を受けた建物を建物所有者が取り壊すことについて借家人の同意は必要か。

A

 必要である。
 市に建物の解体撤去を願い出る場合も借家人の同意書が必要とされている。ただし、願い出書の提出時に同意が揃っていなくてもよく解体実施までに同意を取り付ければよい。
 建物を取り壊す場合には、(1)既存建物につき倒壊・傾斜が発生し建物としての効用が失われ、滅失したと評価される場合、(2)滅失には至っていないものの危険性があるために今後の継続使用には耐えられないという場合、(3)危険性は一応ないが建物が古いのでこの際に建て直したいという場合等いろいろなケースが考えられるが、いずれにしても滅失していない場合は一応従来の借家権が存続しているし、滅失の場合も残置された動産類の問題もあるというように、借家人の権利が何らかの形で存在する。
 そうである以上、取壊しの段取りや取壊し後の権利関係について明確にしておくのが後日のトラブルを防止するうえで必要である。たとえば、借家人が借家権を放棄する場合はその旨の確認、地主・家主が建物を再築し借家人の優先的賃借を認める場合にはその旨の合意などがこれにあたる。また、借家人が残置した動産の所有権を放棄する場合にはその旨の確認をしておくことも大切である。
 建物が明らかに滅失し借家人所有の動産の残置等の問題も残っていないケースについては、借家人の同意なしに取り壊しても違法でないが、そのことが確実でないかぎりはやはり借家人の同意をとるべきである。
 また、倒壊の危険が大きく建物を取り壊さなければ危険が除去されないのに、借家人等の利害関係人が行方不明になっていて連絡が取れない等の特殊な事情があるケースでは「緊急避難」を根拠として無断で取り壊すこともありうるが、残置した動産についてのトラブルが発生しないよう慎重に対処されたい。その場合も建物の内外の状況等を写真やビデオに収めて後日の証拠とする配慮を忘れてはならない。このことは、これに限らず建物の損壊に関するあらゆる紛議において大切なことである。
 なお付言するに、建物に金融機関等の抵当権が付いている場合は、建物の倒壊の危険があるような緊急やむを得ない場合は除き、当該金融機関等と事前に相談しその同意を得てから取り壊すべきである。

Q12

 地震によって倒壊の危険が発生している建物・塀・石垣等を放置することによって責任が生じることがあるか。

A

 少なくとも震度6または7の地震があった地域については、地震とほぼ同時に発生した人的物的損害については、倒壊物件の所有者に損害賠償責任が生じることは考えにくい。
 しかし、地震により倒壊等の危険が発生し、かつ危険防止措置をとることが可能であるのに、合理的期間内に危険防止措置をとらずに放置した場合には、たとえ経済的困難等の事情があろうとも、倒壊による二次災害につき損害賠償責任が発生することがある。
 法律の原則からすれば、危険防止措置の費用はその所有者が負担する。ただし、市によって建物等を取り壊してもらう場合にはその限りで費用負担を免れることになる。
 もっとも、市による解体撤去が実現されるまでには願い出から多少の時間を要するので、応急の危険防止措置だけはこれを待たずに自費で行うべきである。つまり、市への願い出をしたというだけでは免責されない。

Q13

 地震で持ち家が倒壊して隣の家を破損した。いかなる責任が生じるか。

A

 前記のとおり、少なくとも震度6または7の地域においては、地震とほぼ同時に発生した家屋倒壊による人的物的損害につき、倒壊物件の所有者に損害賠償責任が生じることはまずないが、この場合も隣地に入った瓦礫の撤去の義務はある。
 したがって、その撤去費用を負担しなければならない。ただし、市に瓦礫の撤去をしてもらう場合はその限度で費用負担が免れることになる。

Q14

 隣家の人が倒壊しそうな建物や工作物について危険防止措置をとらないために当方に危険が生じている場合、危険防止措置をとるよう請求ができるか。

A

 請求できる。
 訴訟や仮処分もできるが、まず最初は鋭意説得すべきであろう。また、緊急性が高いのに相手方との連絡がとれない場合等では、相手方の所有物を損壊することを含めて自力で危険防止のための必要最小限度の措置をとり、後日相手方にその費用を請求することもありうる。

Q15

 借地上の建物の地盤が地震で損壊し強度が不十分になった場合には、借地人は地主に対して地盤の修繕を要求できるか。

A

 「賃貸借においては賃貸人に目的物の修繕義務がある」とする民法の原則からすれば、借地における地主の修繕義務を一律に否定することはできないものの、自然災害による地盤の損傷のケースにおける修繕義務の有無・範囲に関しては借家の場合以上に微妙な問題がある。
 というのは、借家の場合には借家人が当該家屋を自由にいじれないのと対照的に、契約ごとに差異はありつつも借地における借地人の地盤の利用はもともと比較的自由だったわけで、建物建築の際に借地人は土地に石垣や擁壁を設置したり、土砂に加工を施したり、地盤を掘り下げあるいは盛り土を施し、杭打ちをする等の変形加工は比較的自由になしえた立場にある。そのこととの均衡上、地盤の損傷が生じるやその不利益を地主に転嫁するのはいかがなものかという考慮は当然働く。
 このことを理論的に言い直すと、借家の場合は物質的存在としての建物を貸すという色彩が強いのに対して、借地の場合は「土地利用権」を与えてはいるものの物質的存在としての「地盤」を貸すという色彩がやや希薄であると言える。
 さらに、地盤の補修工事はかなり高額の費用がかかることが多く、地主に修繕義務が発生すると地主にとっては不測の事態となるケースが多い。
 このような考慮から、借地について修繕義務が発生する場合はかなり限定されるということができる。
 もっとも、借地における地主の修繕義務については学説上の議論も少なく判例も極めて乏しいので法律家に一定のコンセンサスができているとは言いがたく、訴訟等の結果予想が難しいことを踏まえて対処することが望まれる。

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