生きる力は愛の中で育まれる : こうべキッズビタミンIの子どもたちの記録 / ビタミンIリーダー会編 - 発行:大阪 : 大阪YWCA(大阪キリスト教女子青年会), 1999.4. 請求記号:震災-7-330. p29-31

9)喜びの三段階が見事に実現されていること

 文部省主催の報告会で専門家の助言の中で頂いたお褒めの言葉によると「ビタミンIの活動には喜びの三段階が見事に実現されている。」ということであった。その喜びの三段階とは、もらう喜び、できる喜び、あげる喜びである。

 「もらう喜び」では子どもたちはまず、リーダーたちからたっぷりの愛をもらう。練習を通して、それ以外のたくさんの関わりを通して、子どもたちに注がれる眼差しは温かい。
 そしてまた、仮設住宅の高齢者の方々からもたくさんの愛を頂いている。公演での大きな拍手、失敗しても大きな応援が寄せられ、温かい感謝の言葉やお手紙、お礼状。

 どれもこれも子どもたちが「もらう喜び」を十分に満喫できる機会となっている。ところでもらう喜びとは、生まれてきた時から神様にもらってきた愛にその起源を発している。
 もらっている愛に気づき、それを受けいれることができる時、ひとからもらうこともまたできるようになる。すべてのことを、すべてのものを感謝しつつ、しっかりともらうこと、これはできそうで簡単にできることではない。

 「できる喜び」はいうまでもなく、パフォーマンスを練習によって自分のものにしていく中で獲得されている。そしてできるようになっていくプロセスをグループの仲間やリーダーと共に過ごしていることも見逃せない。自分だけで、自分だけができるようになるのではない。自分もでき、仲間もできるようになり、私たちみんなができるようになるプロセスだ。メンバー同志の中で教えたり、教えられたりする大切なプロセスだ。
 もちろん、はじめから上手にこの関係をつくられるわけではない。子どもたちのこれまでの日常生活の中で、友達と比べられ評価されることが多過ぎるので、このように心底対等な友人関係をつくることが難しくなっている。

  

 ビタミンIでは、褒めるときも、認めるときも、勇気づけるときも、人と比べるような言葉やそれによって点数づけるような言動はほとんどない。
 その人ひとりひとりを大切な固有な存在としてみているからだ。

 ナンバーワンではなくオンリーワンの存在としての子どもたちをみているのだ。

 「あげる喜び」はいつもキャンプの終わりにたくさんあらわれる。仮設住宅のふれあいセンターでビタミンIの公演を行う時がそのひとつのハイライトである。
 練習したパフォーマンスを披露して、観客の笑顔と拍手に包まれる晴れ舞台でもある。この瞬間はすでに「あげる喜び」だけでなく、「もらう喜び」、「できる喜び」のどれをも満喫している時でもある。
 すべては関係の中におこり、すべてが相乗効果となって引き出しあっている。

 しかし、パフォーマンスのように何かをして、はじめて他者に「してあげること」ができるのではない。むしろ、なにもしなくとも、ただ「いる」だけで、ただただそこにいるだけで、もうすでに「してあげている」のだと思う。子どもたちがいる、そのことだけで喜ぶことのできるリーダーたちがいる。仮設住宅の方々もおそらくそうだろう。自分たちのことを忘れずにいてくれるこどもたちが「いる」。

 いること、存在していること、それはやがて、目の前に存在することだけでなく、リーダーや住民の方々の心の中に存在することまでを含んでいる。
 そう、時空を超えて存在すること、そのこと自体が、関係の中ですでに何かをして「あげて」いることなのだ。

 すでにそういう存在である人間が、「あげる喜び」をもう少しだけ自覚する瞬間が、こうして実際に何かをして「あげる」時なのだろう。

 喜びの三段階を子どもたちに起こっていることから読み解いてみた。しかし、すでにお気付きのように、このことはリーダーたちの中に起こっており、高齢者の方々の中に起こっており、関わってくださったすべての方々の中に起こっていたことなのである。

 喜びはモノではない。これほどモノに溢れた現代社会の中にあって、ビタミンの活動の中でやりとりされたもの、あげたりもらったりしたものは何一つ高価なモノはない。どれもこれも見栄えは既製品のようにパッとしないかもしれない手作りのもの。

 

あるいは目に見えることもなく、手でさわることもできないようなものばかりだ。

 しかし、それらは確かに存在し、あたたかく、やわらかだった。

 我々に寄り添い、こころを温め、こころをやさしく包み込み、こころを癒すものであったのだ。

 これを説明しようとするとき、今の我々は「愛」以上にふさわしい言葉をもっていない。そしてこの相互作用の働く時空はまさに「愛の磁場」といえるだろう。

 まだまだ書ききれないたくさんのことがある。たとえば「いのちをみつめる」キャンプのこと。そのためのリーダー研修として「生と死をを考えるワークショップ」も実施した。このプロセスの中にもたくさんの報告すべきことがあるように思える。

 また、親と子の双方のリラクゼーションと癒しをめざして行なった「親子キャンプ」のこと。そこには従来のキャンプにないたくさんの工夫があった。親のためのグループやそのグループカウンセラーをおき、親のためのワークショップやリラックスタイムを導入して、どれも効果をあげた。
 この経験からは今の時代の「親子関係づくり」にキャンププログラムが貢献できる可能性がはっきりとみえてきた。

 今、2001年からの総合学習の導入にむけて学校現場ではさまざまな研修や準備が進んでいるが、ビタミンIの活動実践はまさに地域に開かれた総合的な学習としてたくさんの示唆を残している。

 ビタミンIの活動実践を総合学習としての視点から分析すること、「心の教育」として分析すること、「ボランティア学習」として分析することなど、今後に残された課題である。

スーパーバイザー
金 香百合


(c) 1999ビタミンIリーダー会 (デジタル化:神戸大学附属図書館)
目次画面へ戻る