神戸大学附属図書館報 Vol. 10 No.1 (2000.4)
BOOKS 自著を語る

『武士の成立 武士像の創出』

高橋 昌明著 (東京大学出版会 1999.11)


 平安中期、貴族は都で儀式や享楽にあけくれ、かたや東国農村では新興の武士が営々と農業経営や開発にいそしむ。やがて武士は源平内乱・鎌倉幕府の創設を経て、退廃した貴族にとって代わり、時代の主役となる。これが、あなたやわたしの小学校以来の常識であった。両者は善玉・悪玉、イソップの寓話でいえばアリとキリギリスの関係にある。
 本書はこの常識のウソにチャレンジする。結論から言えば、武士の発生母体は都の貴族社会であり、その登場の時期も奈良・平安時代初期にまでさかのぼる。だから貴族と武士を単純に新旧の対立と見るのはあたらない。華美文弱と質実剛健の対比も、意識・無意識の先入観とできあいの価値観による、誇張や事実の歪曲であることが多いのである。
 筆者は、この虚像創出の背景には、江戸幕府の公式史観や、近代富国強兵の軍国国家下のナショナリズムの作用があった、と考える。ご用とお急ぎのない方、だまされないぞと思う方、NHKの大河ドラマ風ワンパターンの歴史に飽きた方、武士や武器・合戦のお好きな方には、ぜひ、ぜひ、ご一読を。

(たかはし まさあき 文学部教授)  

所蔵:人文系図 210-3-TAK