The Kobe University Library Bulletin. Vol.11 No. 3

インターネットと図書館

林  文 夫

 良かれ悪しかれ国立大学は大きな変革期にさしかかっています。それと同時に大学の図書館もインターネットの登場によって大変革を迫られているようです。生命科学研究分野で見られる文献情報環境の急激な変化を紹介し、インターネット時代を迎える大学図書館について考えてみようと思います。
 生命科学分野の情報環境を大きく変えたのは、何と言っても1997年に米国の国立医学図書館(NLM; http://www.nlm/nih.gov.)がMedlineという生命科学研究文献(1,100万件)の膨大なデータベースを開放したことです。当時の副大統領ゴアは、すべてのアメリカ人が医学や生命科学の最先端の知識にアクセスできるようにと、インターネット上でMedlineなどを無料で開放しました。NLMが開設したウエッブサイトにはMedlineの他、病気の原因や最先端の治療方法の詳細を理解するためのデータベース(Medline Plus)、さらに、Medlineだけでなく、ほとんど全ての生命科学系出版社のWebサイトにリンクした検索システム(PubMed)も無料で提供されています。PubMedの使い心地は大変快適で、私自身にも研究の展開に絶対に欠かせない有力なツールになっています。こうしたサービスを一般に開放する理由としてうたわれたのは、「良質の情報が最良の薬である」というものです。専門家だけでなく消費者もこうした情報に接することによって正しい治療を受け、命を永らえ、不要な治療をさけ、入院者数を減らすことにつながると考えるわけです。個々人の幸福を実現するとともに、国家財政に重い負担となる医療費の削減に結びつけようというリベラルかつ合理的な発想が感じられます。また、PubMedは文献情報だけでなく、生命科学に興味を持つ研究者にDNAの塩基配列、タンパク質のアミノ酸配列、タンパク質の立体構造などのデータベースと一体となった情報検索システムを提供し、生命科学の飛躍的発展を促しています。
 さらに驚くべきことに、NLMは出版社に参加を呼びかけ、無料でfull textにアクセスできる電子図書館(PubMed central)を2000年2月から開設しました。ディジタル時代の世界図書館構想です。現在までに米国科学アカデミー紀要や生命科学雑誌(植物科学も含む)49誌が無料で読め、コピーもできます。近いうちにBiochem. J.やEMBO J.などヨーロッパの学会誌を含む有名誌もこのデータベースに参加するそうです。なぜこんなことができるのでしょうか?出版社がなぜこのような無償行為をするのでしょうか?私としてもこの辺の事情がまだよく分かっていませんが、少し考えてみると不思議ではないのかもしれません。専門学会誌の出版目的は、できるだけ早くなるべく多くの人に自分達の研究成果を知らしめることです。PubMed centralのように電子媒体を介して、世界中の人にあっという間に披露してもらえばそれに越したことはないはずです。こうした目的を達成できる学会誌には投稿者が殺到し、もたついている雑誌は出版そのものが難しくなくなります。従って出版社は冊子体の販売を維持するために若干の猶予期間を置くもののインターネットでのfull textへのアクセスを解禁する傾向にあるようです。米国政府がこういう政策をとるのは生命科学分野で米国が断然優位に立っていることの証ですし、英語情報の集積である点も英語圏の人々に断然有利なのは事実です。しかし、インターネットを通じてだれでもが人類共通の知識や知恵の総体に触れることができるようになりつつあるというのは素晴らしいことだと思います。
 こうした文献情報に関する世界の動向を目にするとき、ディジタル化された人類の知的集積を利用する術を大学内のすべての構成員にひろめ、大いに活用できるようにすることが大学図書館のひとつの大きな使命ではないかと思えます。大学の様々な専門分野での状況を話し合って、敏速に対応していく必要があるように思います。また、本学を含め、日本の大学図書館で現在問題になっている電子ジャーナル有料化問題もインターネット社会のもたらす情報環境の質的変化を考慮しながらスマートに対処していく必要がありそうです。
(はやし ふみお  副館長・自然科学系担当)


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