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神戸大学附属図書館報

本・書物・書籍・図書・書

− 雑 感 −

濱口 八朗

 「本」は英語でbook、独語でBuch、仏語でlivre(又はbouquin)、露語でкнига、トルコ語でkitapであるが、日本では「書物」、「書籍」、「図書」、さらに「書」などのように、種々の表現がなされ、その使われ方が大体決まっている。たとえば「図書館」(明治の中頃までは「書籍館)には「図書目録」、「庫」、「架」があり、郵便局では「書籍小包」を扱う。「屋」・「店」では「図書券」、「文庫」から「豪華」まで、あるいは「和」から「洋」まで「書籍販売」を行う。
 この「本屋」には「書店」の意味のほかに(建物の)「母屋」、「本館」の意味があり、「ほんおく」とも読む。これについては、以下に述べるように、今から考えると 筆者の勘違いによる、子供の頃のおかしな思い出がある。
 旧国鉄のプラットホームの番号(1番線、2番線・・・)の付け方について雑誌か新聞の記事で、「本屋に近い方を1番線とする」旨の記述があった。当時姫路の郊外に住んでいた私は、国鉄姫路駅の北側に位置する新興書房という比較的大きな書店を思い浮かべた。当時、子供の雑誌には「定価」のほかにそれよりやや高額の「地方売価(という表現だったと思う)」が書いてあった。家の近くでは地方売価であったが、新興書房へ行くと定価で買えたので時々行っており、その本屋を知っていたという次第である。
 つまり、駅の北側に「本屋」があるので、国鉄姫路駅は「本屋」に近い北側が1番線だと理解した。その後、実際そうなっているのを確認してなるほどと思ったが、な ぜそうなっているのか、国鉄と書店との関係が当時どうしても理解できなかった。
 今思うと、「姫路駅の本屋(建物)」が北側にあったということであるが、大きな書店も同じ北側にあったことは必ずしも偶然ではない。駅の「本屋(建物)」は駅の本通り(繁華街)に面して立っているのが普通であり、「書店」も同様である。このように考えると、たとえば大阪は南側に書店があるから南側が1番線(あとから0番線が加わった)であり、納得できる。ただし、三宮や最近の東京駅東側のブックセンターのように逆のケースがある。
 以上、誤解からきた笑い話を紹介したが、この勘違いも日本語での「本」の表現が多様なために起こった出来事である。英語ではbook storeとmain buildingを取り違えることはない。
 ところで、本というと一般には印刷した複数枚の紙を綴じたものといってよいであろう。この「綴じた」というのが重要である。最近ある地方都市の書店で、新聞を置いていないか聞くと、やはり置いていない。「うちは本屋ですから」という。なるほど、新聞は綴じていない。コストをかけてまで綴じる必要がないからであろう。本は綴じてないと困る。仮に、本にページが打ってなくて、ばらばらになった状態を想像するとよい。文芸書でいうと、小説ではほとんど価値がなくなる。俳句集では俳句そのものを鑑賞する目的であれば差し支えないが、ある俳句を探す、すなわち検索が目的であれば価値がなくなる。図鑑や絵画集、辞書も同様である。ばらばらになっても価値を失わないのは乱数表くらいのものである。それも本来の目的である乱数を発生させる場合に限るのであって、暗号解読などの目的であればその価値はなくなる。
 つまり、本というものは、多くの情報を順序だてて保管するために、適当な大きさの複数枚の紙に書いて(あるいは印刷して)綴じたものである。多くの情報を入れるにはこの他、一枚の大きな紙に書いておくということが考えられる。日本に古くからある巻物がその例であろう。しかし巻物には大きな欠点がある。巻物を読んでいて、別の部分をすぐ見たいと思っても無理である。あるいは一つの巻物を複数の人が交互に読もうとすることも難しい。その点、本はどの部分でもすぐに開くことができ、検索が大変やりやすい。
 1960年代半ばに神戸大学に初めてコンピュータ(当時は電子計算機)が導入されたとき、データなどの入力は紙テープであった。ところが途中に1文字入れる等の修正は大変な作業であった。巻物であるから紙を一枚追加というわけにはいかないからである。それから数年後、入力がカード方式に変わった。今度は間違った部分のカードを差し替えるだけでよいから大変楽である。ところが大変困ったことがあった。カードを計算センターに持ち運ぶ際、数百枚、数千枚のカードを落としてばらばらにしたら悲劇である。この経験をした人は少なくなかったと思う。私も一度経験がある。
 このように、テープつまり巻物方式でもカード方式でも大きな欠点があるが、本においては、それらの欠点が「紙を綴じる」ことで克服されている。紙を綴じて本にすることは偉大な発明であると思う。

(はまぐち はちろう 副館長・人間科学系担当)