●はじめに
「フランスの大学図書館事情調査」の目的で、神戸大学創立九十周年記念事業による「国際交流・地域交流にかかわる活動の助成」をいただき、2003年10月26日〜10月31日の6日間、フランスの幾つかの図書館を訪問する機会を得ました。主に電子的資料、資料の電子化、伝統的図書館と電子図書館の関係について報告いたします。
●パリの大学図書館
今回はフランスの中でもパリに集中しての訪問となりました。パリの国立大学は1969年の高等教育基本法によって再編成され、「パリ第1大学」から「パリ第13大学」にわけられました。各大学に名称はあるのですが、正式にはこのように番号で呼ばれています。同じ「パリ」と付いていてもそれぞれの大学は全く別個の組織で、分野ごとに分けられているのが特徴です。また、日本で言うところの"**大学附属図書館"というものがほとんどありません。近い分野の複数大学が、ある図書館を利用するという体制がパリの大学図書館の在り方です。また、国立図書館や公共図書館も分野的に必要と判断されれば、大学図書館と同様に利用できます。
1. ジュシュー大学間共同利用図書館(la Bibliotheque interuniversitaire scientifique Jussieu)
パリ最初の訪問図書館は、パリにあって比較的「近代的」な大学の在り方をしている、パリ5区のJussieuキャンパスと呼ばれる所にある大学図書館です。名称からも分かるように主に理化学系分野の図書館です。このキャンパスは「パリ第6大学(Universite Pierre & Marie Curie)」と「パリ第7大学(Universite Denis Diderot)」が共同で使用しています。全くの余談ですが、第6大学は見ての通りキュリー夫妻の名が付いています。その昔ソルボンヌ大学で学び、後に教鞭もとった夫妻にちなんで(現在ソルボンヌと呼ばれる大学には物理分野はないので)付けられているようです。

(Jussieuキャンパス)
パリ名物(?)メトロ10番線のJussieu駅で下車。すぐのところにそびえ立つのがJussieu図書館でした。その外観はとにかく大きく無機質で、お世辞にも美しいとは言い難いものです。入り口は、キャンパスの大きさからするとあまりに貧相な物で、中にはいると神戸大学と同じようなブック・ディテクション・システムらしきゲートがあり、小さなカウンターがありました。ここでは「1er Cycle Scientifique」図書館の主任司書 Mme.Michele Ollierに案内していただくことになっていましたので尋ねると、奥から手に「歓迎」と書かれた紙を持って走って来てくださいました。
ここJussieuキャンパス自体は1968年に作られたそうです。このキャンパスはパリ第6、第7大学それぞれ3万人、会わせて6万人の学生が利用するとのこと。14の専門分野に適応した図書館が存在し、図書館の総面積は15000u、座席数2500席、所蔵資料は図書25万冊、雑誌7200タイトルとのことです。14の図書館の所属は第6大学と第7大学に分かれて組織が違う為、コンピュータシステムも違っているなど統一性がとれず、問題点も多いようです。Mme.Ollierのおられる「1er Cycle Scientifique」は、第6、第7大学に所属する1回生が利用する図書館なので、自然科学分野の総合的な資料を収集しています。電子ジャーナルについては、フランスの大多数の図書館が参加しているCouperinコンソーシアムに加入し、1870タイトルのフルテキストと5つのデータベースを提供しています。2つの大学から構成される複数の図書館が存在するためプリント版の定期購読を淘汰することが難しく、加えて電子ジャーナルを購入することで費用の負担が多くなり、さらにデジタル資料の購入には19.6%の消費税が加算されるというフランス独自の問題点もあるということでした。電子資料の提供は、さらに自宅からのアクセス、資料の拡大を求める要望も強いそうです。印刷は、1人につき年間60頁までしかできないようにコンピュータシステムで制限をしているようですが、図書館組織の違いや著作権の面などで、一貫した制限がつけにくい状態だそうです。資料の電子化はしておらず、現在検討中ということです。
次に物理学図書館「Biologie-Recherche」に案内していただきました。ここは博士以上および教官の為の図書館で、座席数30席という小さな図書室でしたが、17万冊の図書、1500タイトルの電子ジャーナルを提供、独自のホームページも作成し充実した研究ができるように工夫されていました。

(物理学図書館にて。左端がMme.Ollier)
最後に2003年11月12日に開館予定の数学図書館「Mathematiques -Informatique -Enseignent」に案内していただきました。ここは座席数500席で、キャンパス中庭の地下にありながら採光を大きくとった独創的な設計の、夢ひろがる図書館といったイメージです。ID/パスワードの認識無しで利用できるパソコンが設置される予定や、11の講義室が設けられているのも大学図書館としては珍しい試みとのことでした。

(開館を待つ数学図書館閲覧室)
このジュシュー大学間共同利用図書館は、理化学系分野の図書館であるため、電子ジャーナルやデータベースへの取組も進んでおり、色々な問題をかかえながらも先進的な大学図書館という印象を受けました。
2.ソルボンヌ図書館(Grande Bibliotheque de la Sorbonne)

(宰相リシュリューも眠るソルボンヌ礼拝堂)
ソルボンヌ大学は13世紀にソルボンヌ神父がサンジェルマン・デ・プレ教会で学ぶ神学生13人の為に学寮を建てたのが始まりで、ルイ13世の宰相リシュリューが眠る礼拝堂を中心に大学が建っています。現在ソルボンヌの名を残すのは「パリ第3大学(Universite Sorbonne Nouvelle)」と「パリ第4大学(Universite Paris Sorbonne)」の2つで、人文・社会科学分野の大学です。大学内へは身分証明書を各自提示しないと入れず、私達もその場で大学からの案内状を提示するように言われ、厳重なチェックに驚きました。
ソルボンヌ図書館では、Mme.Marina Weillを中心に参考・雑誌担当等の5名のスタッフが、シャンデリア輝く美しい会議室で私達を迎えてくださいました。この図書館はパリ第1・3・4・5・7大学の3回生以上の学生及びフランス全国の修士課程の人等が利用できます。現在の図書館の所蔵資料数は300万冊、雑誌7000タイトルで、利用登録数は12000人だそうです。
電子ジャーナルについては年間約8000万円の費用がかかっており、アメリカ等による英語の2000タイトルのジャーナルと250のフルテキストを提供しています。フランスには5000タイトルの電子ジャーナルがあるそうですが、やはり人文・社会科学分野は少ないということでした。
この図書館の創設は1762年と歴史が古く、所蔵資料も貴重なものが多いため、貴重な資料の保存という目的での電子化は進めなくてはいけない問題であるとのことですが、利用者からはやはり原本の利用を希望する声が強いそうです。現在は他大学のサーバーを利用しているので、サーバーの導入・最新式のコンピュータの購入、独自のネットサイトの立ち上げ等、多くの費用が必要な上、資料電子化の機器はある会社との共有という状態のため、なかなか進まない様子でした。また今までに電子化しCDに保存したデータがコンピュータ機種の更新により再生できないという問題も発生しているそうです。

(Mme.Weillと会議室で。後ろは礼拝堂)
話をお聞きした後、閲覧室、古書室、書庫などを見学させていただきました。閲覧室は昔のままのものらしく、壁画や絵画に包まれた荘厳なものでした。古書室は研究者にしか開放されておらず、18世紀以降出版の歴史の資料を利用できるとのことです。閲覧室とは違ってごく普通の現代的なこぢんまりとした部屋で、パソコン用の接続プラグも設置されています。フランスでは珍しくないとのことでしたが、ここソルボンヌ図書館は「閉架式」図書館で、書庫の様子は神戸大学の人文・社会科学系図書館の様子とよく似た作りだったのが印象的でした。
このソルボンヌ図書館は、費用等の問題もあって資料の電子化や電子ジャーナルの提供は困難な様子で、資料の原本の提供・保存等を優先とする伝統的な大学図書館という印象を受けました。
3.国立美術史研究所(INHA : Institut national d'histoire de l'art)
国立美術史研究所(以下INHA)では、資料収集担当の主任司書Mme.Catherine Brandに案内をしていただきました。
INHAはパリ2区リシュリュー通りにあったフランス国立図書館がパリ13区トルビアックに移転した後に、芸術分野の研究所として2001年に設立されました。この建物は19世紀の建築家ラブルーストによる設計ですが、広く壮大な閲覧室の壁面に書棚が設けられ、アーチになった天井にむかって一面に壁画が描かれており、そのすばらしさに深く感動しました。この建物には、フランス国立図書館の専門部門(版画・貨幣・メダル等)、古文書学校附属図書館とINHAの3館が共存しており、入口にはそれぞれの案内所があり、閲覧カウンターも隣り合って置かれていました。

(INHAのある旧フランス国立図書館入口)
INHAはパリ第4大学と第1大学の専門図書館としても利用されており、2つの分野から成り立っています。1つは研究教育分野で、研究所長(1名)・審査委員(4名)・研究員(16名)・他国の研究者に加え、大学院博士・学芸員を目指す学生等によって活動が開始したところだということでした。もう1つは図書館分野で、4つの図書館が統合されるそうです。その中の「Jacque Doucet 美術考古学図書館」「古文書学校附属図書館」はすでに80万部の資料と共に移転しており、2004年にはルーブル美術館の「国立美術博物館中央図書館」(資料約10万部)、その後「国立高等美術学校図書館」(資料約25万部)の移転が予定され、2008年には「ラブルースト館」として130万部の閲覧が可能になる予定です。年間購入部数は、一般書1万部、専門雑誌1600部。

(フランス国立図書館の表示が残る入口上部)
案内していただいたMme.Brandは重要資料の欠本を補充する仕事をされています。INHA図書館の前衛、Jacque Doucet図書館は財団所有だったので19-20世紀のコレクションは充実しているそうですが、資料を購入できない時代があり、その不足箇所を完全なものとし、利用者へ提供する事を第1の目標とされていました。2000年から始め、全部で3万部の購入を予定しておられ、収集は研究者との協力の元に行っているとのことです。新しい図書館としての活動の最中ということもあり、新しい在り方として130万部中の26万5千部の図書を開架にするという、フランスでは珍しい規模での開架図書館を目指すことや、視聴覚資料を増やすこと、古書・貴重書、美術史上重要な物(18-19世紀の版画、写真など)の電子化計画など、とても意欲に燃えていらっしゃいました。
4館の共通カタログは来年1月までに公開予定だそうです。美術工学分野の電子ジャーナルは遅れているという理由もあり、電子ジャーナルの提供はできていませんが、INHAは、2008年の全面開館に向かって資料の充実、多くのパソコンの配置、電子化資料・電子ジャーナル等を提供いくという、大きな計画を持って動き出していました。
4. 新フランス国立図書館(BNF: Bibliotheque nationale de France)
新フランス国立図書館 (以下BNF) では、文学美術部門で日本書担当のMme.Josiane
Destouetに、日本語で案内をしていただきました。
BNFはミッテラン大統領によって大規模な新式の図書館として計画、パリ13区のトルビアックの地に建設され、1996年に一般用閲覧室、1998年に研究用閲覧室が開館しました。研究用閲覧室の開館当初は、コンピュータの不具合や職員側のトラブル等によって一ヶ月以上の閉館に追い込まれたようですが、私達の訪問時にはスムーズに運営されているようでした。広々とした中庭を囲んで四隅に20階建ての建物が、本を開いた様子をイメージしてL字形に建つ巨大で近代的な図書館です。

(新フランス国立図書館外観。北側)
入り口では空港さながらの厳重な持ち物検査を受けました。閲覧室は一般用と研究用に分かれており、一般用には座席数約1500席・開架図書38万冊、研究用には座席数約2000席・開架図書48万冊が用意されています。一般用は分野別の10の閲覧室があり自由席ですが、研究用は予約制になっていて利用する図書も座席からコンピュータで取り寄せ、未返却の場合は出口でチェックがかかり退館できない等、すべてコンピュータで管理されているそうです。総蔵書数は1000万冊、雑誌35万タイトルの大規模を誇ります。
地下にある、図書の配送システムの様子も見せていただきました。丸いゴンドラ風の鉄製の箱が天上を這うレールに沿っていくつも移動している様はまるで工場です。
BNFの大きな特徴としてあるのが電子図書館Gallicaです。現在は10万点の電子資料に加え、辞書・百科事典・定期刊行物が提供されています。資料の電子化は19世紀のフランスの著作を対象としており、有名な哲学、文学的資料を優先的に、将来的には20万点を電子化していく予定だそう
です。さらにフランスを中心としたヨーロッパの企業データベースの閲覧権利をとっており図書館内からの検索が自由にできるそうで、Gallicaは膨大な資料に利用者が迅速にたどりつくことができる電子図書館となっています。
電子化の問題点として、貴重本を写真や画像にすることや現物を守る作業が困難で、電子化のスタッフは25名いますが、まだまだ時間と人が必要だということでした。これからも電子化は進める計画ですが、20世紀以降の資料は著作権の関係上、実現には時間がかかりそうです。
問題点を抱えながらも、最新技術を生かしたBNFは、近代的建物とともに電子図書館として目覚ましい進展を見せていました。

(Mme. Destouet。隣はBNFの模型)
●おわりに
フランスの歴史ある伝統的な図書館と、大規模で先進的な図書館を同時に視察できたことは、私達にとってすばらしい貴重な経験となりました。フランスの大学図書館は、電子化と言う点では日本と大差がないというのが素直な感想ですが、各図書館の司書の方々の意欲、誇りは大いに学ぶべき点が多いと実感しました。これらの機会を与えていただいた事に深く感謝し、お世話になりました多くの方々に心よりお礼申し上げます。
(やの まゆみ 雑誌掛)
(かさはら ゆみ 医学系情報サービス掛)
<関連URL>
ジュシュー大学間共同利用図書館
http://www.bius.jussieu.fr/
・物理学図書館(Biologie-Recherche)
http://bibliotheque.snv.jussieu.fr/
ソルボンヌ図書館
http://www.paris4.sorbonne.fr/rubrique.php3?id_rubrique=1134
http://www.sorbonne.fr/Websorbon/Arborescence/5-Etablissements/BIU.html
国立美術史研究所(INHA)
http://www.inha.fr/
新フランス国立図書館(BNF)
http://www.bnf.fr/
・Gallica
http://gallica.bnf.fr/