神戸大学附属図書館報 Vol.6 No.3(1996.10)

図書館としてのインターネット(前編)

玉岡 雅之


 私たちは日頃、図書館を利用し、そこにある膨大な本から無数の恩恵を得ています。インターネットを図書館に例えると、インターネットという世界中に広がっている図書館からも我々は無数の恩恵を得ている、あるいはこれから得ようとしています(私たち自身の発する情報が、インターネットという図書館の蔵書になりうる点が実際の図書館とは若干異なります)。インターネット利用を図書館利用に例えてお話をしますと、問題点は2つあると思います。1つ目の問題点は、この膨大なる図書館の利用環境を誰が整備するのかということです。もう1つの問題点は誰もがこの図書館を利用できるのかどうかということです。この2つの問題点は非常に密接に関連しています。
 前編では私自身のインターネットについての個人的な体験について述べ、後編では上の2つの問題点の解決策を探るべく、今後のインターネット利用の問題点について私なりの考えを述べたいと思います。

 本論に入る前に、少し長くなりますが、私とインターネットの出会いからお話ししたいと思います。出会い自身は今から5年以上も前になるのですが、本当に出会ったといえるのは、今から3年前、1993年の10月から94年の9月にかけて私がイギリスの大学に留学していたときです。イギリスの大学では、当たり前ですが、英語しか扱えないパソコンしかありませんでした。日本との電子メールのやりとりに、英語を使うのは何だかおかしい気がして、日本から持っていったノート型のパソコンで電子メールの文章を打ち、それを英数字や記号のみからなる文章に変換して、英語のパソコンを使って日本へ電子メールを送っていました。日本で私のメールを読むには、英数字や記号のみからなる文章を同じプログラムを使って元に戻す必要がありましたし、日本から私宛に送るメールも同じプログラムを使って文章を変換する必要がありました。この方法は、この手続きを踏んでいる者同士での連絡にはいいのですが、そうではない日本語のメールについてはまったく役には立ちませんでした。
 ある日、日本の私の電子メールの私書箱に、1通の手紙が届いていました。手紙の題に「KHAN(Kobe Hyper Academic Network)」とかいう文字がついていましたが、本文は全く読めない状態になっていました。そこで、その手紙の発信人である神戸大学情報ネットワーク運用委員会の委員長であった先生に、私がいつも使っているプログラムを使って手紙をもう一度送って下さいとお願いし、イギリス宛に送ってもらいました。その際に、別のプログラムを使えば私の行っているような複雑な手続きは必要ではなく、もっと簡単に日本と日本語でのメールのやりとりが出来ることを教えていただき、そのプログラムも送っていただきました(同じプログラムを当時、総合情報処理センターの助手をつとめておられた先生にも送っていただきました。また有用なその他のプログラムについて、別の先生からも教えていただきました)。今にして思えば当時はKHAN立ち上げの大変忙しい時期で、そんな中をいろいろとお願いをして、先生方にはご迷惑をおかけしました。
 その後、インターネット上で日本語がどう処理されているのかに興味を持ちました。当時は今大流行のWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)がようやく世間に知れ渡り始めた時期で、私はその存在を94年の春頃までは知りませんでした。そこで、gopher(ゴーファー)と呼ばれる一種の情報探索システムを使って、Japaneseであるとか、Kanji であるとかの語句を頼りに(文字のみによって)インターネット上における日本語の扱いについて調べました。そこで多くの驚くべき事実が分かりました。インターネット上で日本語を扱う際の基準が出来ていること、英語の端末(パソコン)しかなくてもその上できちんと日本語を表示する方法があること等ですが、一番驚いたのは、英語のOS(オペレーティングシステム)上で動く日本語ワープロがあること、しかもそれが無償でインターネット上で公開されていることでした(2)。日本語関係に限らず、数多くの有用なプログラムや文献がインターネット上で無償で公開されており、「インターネットって本当に便利だな」ということを実感し、ひたすら受信者としてのみインターネットの世界を堪能しました。そしてそのインターネットを支えている数多くの方々の献身的な努力に感謝するほか方法は知りませんでした。

 (後編に続く)

(たまおか まさゆき 経済学部助教授)


(1)本稿作成に対して、蛯名邦禎(神戸大学)、石定泰典(神戸大学)の各氏から有益なコメントを頂きました。また山名早人(電子技術総合研究所)氏は本稿を書く動機を与えて下さいました。ここに記して感謝いたします。
(2)日本語関係についての有益な情報は、例えば Jim Breen の Japanese Page (http://www.rdt.monash.edu.au/~jwb/japanese.html) などを参照すれば分かります。