神戸大学附属図書館報 Vol.7 No.3(1997.10)

良い大学図書館とは・・・?

相薗 泰生


[はじめに]

 大学図書館とはいかなる機能を発揮するためにあるのだろうか? 筆を起こすに当たり抱いた単純な疑問である。従来通り、学術関連の情報資料の収集・蓄積、整理・保存、閲覧・貸出を行うことにより教育・研究を支援する機能を果たすことで事足りるのであろうか? ”温故知新”を欲する利用者のために、膨大な資料を保存しながら、さらに収集を続け蓄積しておくだけで良いのだろうか? これも図書館の重要な機能には違いないが、この状態は、”時代遅れ”であることは誰もが認めるところであろう。
 この状況を打開するために、大学図書館が電子図書館(Electronic Library)へ向けて機能の充実を図らねばならないことは必然の成り行きである。このためには、まず膨大な所蔵資料を電子化(データベース化)整理して情報として提供できる態勢をつくることが急務である。
 それでは、効率的に”学術情報の流通”を行うために組織化されるべき”学術情報システム”において、これから大学図書館はどのような役割を期待されているのだろうか?
 概略は、 i)学術一次情報の収集・蓄積を継続し、 ii)目録所在情報、収集した情報などのデータベース化を行いながら、 iii)他の図書館と相互協力体制を強化させることにより学術情報の共有化を推進し、 iv)学術情報検索の窓口機能を充実させるとともに、 v)ネットワーク上で情報サーバとしての役割を果たすことにあると言えるであろう。とはいえ、現在の大学図書館が、この役割を全て担うには荷が重すぎ、学内の情報処理センター(計算機センター)、データベース作成機関と並列するサブシステムとして、学術情報システムを構成することが肝要であると考えられる。

[学術情報総合センター]

 ”百聞は一見に如かず”の教えに従い、電子化を進めながら大学図書館として機能している先端的な施設である大阪市立大学”学術情報総合センター”の実態を視察することにした。以下、他大学の施設紹介で恐縮であるが、国公立大学の施設充実度でトップクラスにランクされている実情がどのようなものか、客観的に直視されることを期待して筆を運ぶことをお許し願いたい。
 このセンターは、既存の附属図書館と計算機センターを統合し、これに情報処理教育機能を付加した組織として、昨年10月に開設された。学内の諸施設とはキャンパス・ランで、また、国内外の学術機関とはインターネットで結び、大学の学習・教育および研究を強力に支援する先端情報拠点となっている。
 このセンターの設置には、300億円の経費が投じられ、地下4階、地上10階の建物の内に、閲覧者席数 1,220を配置し、建築面積と延床面積は、それぞれ神戸大学新営医学部分館の3.7倍と23.2倍となっている。
 施設は、レファレンスゾーン(蔵書目録を検索するOPACコーナー、CD−ROMによる検索コーナー)、図書閲覧ゾーン、マルチメディアゾーン(ビデオ閲覧、マイクロフィルム検索、LL室)、研究・閲覧ゾーン、特殊資料ゾーン(特殊資料庫・貴重書庫・新聞保管庫)、情報処理センターゾーン(情報の発信・受信の中心)、学術雑誌センターゾーン、デポジットゾーン(利用頻度の少ない書籍の保存)に加え、情報処理教育に利用する授業演習室と自習用実験室が配置されている。なかでも、センター専任の教官が情報処理教育と図書館の電子化を強力にサポートしていることは、当然なこととはいえ、この組織にとって不可欠な要素と考えられる。
 また、デポジットゾーンに配置された電動集密書架の凡そ半分は未配架のままで、情報の収集・提供がペーパーメディアと共存する電子化への過渡的状況を考慮しても、この先20年間程度、発刊書籍・雑誌の収納が可能なスペースとして保有されている。
 横道にそれるが,AGV(Automatic Guided Vehicle:自動搬送車)システムが開発されていて、施設内を電動車が床の磁気テープに組み込まれた情報に従って指定場所へブックトラック共々多量の書籍を搬送していた。この Vehicle は、専用のエレベーターに乗り込んだり、充電室におもむき自動充電したり、なかなかの優れものである。
 また、書類は、天井裏を張り巡らされた軌道を利用して目的場所まで自動配送されるなど事務の省エネも行われている。
 明るく、ゆったりした空間をもつ施設内で、持ち込んだノートパソコンを専用の端末に接続して情報を発信したり、自由に学習に取り組み、疲れた時にはゴロリと横になれるゆとりのスペースまであり、学生の学習意欲の高揚にとってこの上ない環境が与えられているように見受けられた。
 関心の高かった電子化情報は、OPAC、多数のCD−ROMの導入を初めとし、大学紀要論文全文、貴重図書画像、マイクロフィルム画像情報検索システム、阪神大震災画像などがデータベースとして、インターネット機能を利用して提供されている。また、貴重書籍の電子化、新着学術雑誌のデータベース化等、このセンターの全体像は、「真夏の夜の夢:私の『中央図書館』見学記」(附属図書館報 Vol.6, No.3, 1996:佐々木弘先生)に書かれた夢物語の現実版であり、情報システムのユートピアを目の当たりに感じた。

[神戸大学附属図書館の今後]

 神戸大学附属図書館でも、電子化にむかって努力が積み重ねられている。現に、インターネットを利用したOPACシステムによる蔵書目録の検索、学内ランを介した Current Contents, MEDLINE, Chemical Abstracts, PsycLit 等の学術情報の検索、e-mailを利用した文献複写の申込み等が、常時、研究室で行え、昔気質の私ですらパソコンを手放せなくなってしまっている。さらに、概算要求に、特別設備費として「電子図書館化システムの構築(3ケ年計画)」が組み込まれている実情からも、図書館の電子化が急速に進展することが大いに期待される。
 一方、この数年、新営総合図書館の建設計画が議論されていることは周知のとおりである。しかし、諸般の事情で構想は、サスペンドの状況にあるように伺っている。冒頭の”学術情報システム”で述べたように、これからの大学学術図書館には、全国の学術図書館と連携を保ちながら、個性豊かな特徴のある図書館として電子化に対応していくことが要求されるであろう。従って、新営総合図書館構想においても、電子図書館化に必須である情報処理関連施設とどのような形で有機的に機能するのが好ましいのか、情報処理教育も含めて十分に議論する必要がある。
 神戸大学は教養部を廃止し、4年一貫教育を掲げて組織改革を行ったが、現代の学生教育における重要課題の一つと考えられる”自主学習能力の開発(知的好奇心から、問題意識を持って自主的に学習に取り組むように啓発する)”のために必要な教育環境の改善は全く手付かずで、お粗末な環境としか表現のしようがない。社会は豊かな時代となり、快適な環境が学生の学習意欲の高揚に重要な要素であろうと思うのは、私だけであろうか? 知的情報の収集と提供により、研究だけでなく、教育の支援も行ってきた大学図書館が、教育環境改善の一環として、ゆとりあるスペースを確保し、学生に学習の場として提供することも重要なことと考えられる。そのためにも、自主学習の場の確保が、新営図書館構想の主要項目の一つに組み込まれ早期に実現されることを期待して筆を置くことにする。

(あいぞの やすお 附属図書館副館長・自然科学系担当)