神戸大学附属図書館報 Vol.8 No.1(1998.4)

電子図書館の現状

森 匡史


 またも電子図書館の話かと思われるかもしれないが、やはりいま最も話題になっていることであるからご容赦願いたい。印刷紙の文化は独自の存在意義を持ち、絶えることはないであろうが、図書館の電子化もまた、すでに指摘されているさまざまな点で大いに望ましいと考えている。 しかし、電子図書の出版が増えているとはいえ、依然として出版されるのはほとんど紙の図書であるのが実情なのだから、いま大学で最先端を行く電子図書館の現状がどんなものであるかをぜひとも知りたいと思っていた。 ちょうど執筆を依頼されたので、関西学術研究都市にある奈良先端科学技術大学院大学を所用で訪れた機会に、その図書館を見学させていただくことにした。

 同大学院大学は平成3年に創立され、現在、情報科学研究科、バイオサイエンスおよび物質創成科学研究科の3つの研究科を持ち、附属図書館は国家プロジェクトにより日本で最初の実用電子図書館のモデルケースとして平成8年に誕生した。 それ以前に情報科学センターが設立されていて、この学研都市にも2002年に国立国会図書館関西分館が「電子化資料にある程度対応できる」ような形で建設予定であるが、大学附属の本格的な電子図書館はまだ他にないので見学の申し込みが絶えず、1日6件にのぼることもあるという。 延べ面積約2千平方メートルの3階建ての建物の1階は電子化機器室・作業室など、3階はマルチメディアゾーンとなっていて、「本のない図書館」を目指して作られたというだけあって、書物としては2階の一部に学術雑誌が並んでいるだけであった。 やはり従来の図書館とはずいぶん違う「未来の図書館」というのが第一印象であった。

 ここでは冊子体の図書・雑誌、マイクロ資料、ビデオ、電子化データなどのあらゆるメディアがディジタル情報として一元的に統合し管理されている。CD−ROMだけはメディア変換されず、オートチェンジャーに乗っているが、冊子体は目次情報、一次情報(本文)にわけて電子化される。 専門の職員2〜3名で1日約2千ページの電子化が可能という。一次情報については、閲覧表示のための本文画像データと、全文検索のための本文テキストデータが作成されている。こうして情報検索は非常に高度なものになっていて、 従来の標題、著者名、著者の指定した少数のキーワードによる検索に加え、必要な単語をキーワードとした全文検索ができるので、文献探しに役立っている。WWWを通じて海外を含む学外からのアクセスが平成8年度で約70万件に達し、全体の6割あまりを占めているのもそのためであろうと推定されている。 もちろん、著作権を保護するため、電子化された本文の閲覧は、ごく少数を除いて学外者には許されていないし、学内者でも利用者IDとパスワードが要求される。ここでは非常に優れた学内LANが整備されていて、教職員・学生にほぼ1人1台のネットワーク対応型ワークステーションが導入され、 研究室・宿舎などから24時間中いつでもアクセスして本文閲覧を含む多様なサービスを受けることができる。少し前からみれば夢のようなシステムである。

 それではシステムと並んで重要な点である図書の電子化状況はどうであろうか。現行の法律では電子化するにはまず個々の著作権者ごとに電子化利用許諾を得る必要があり、著作権専門部会を設置して教職員一丸となって交渉されている。 その結果、現在のところ、理科系の大学院大学であるために最も要求の高い学術雑誌については、利用許諾依頼の約59%に当たる142タイトルの許諾が得られていて、冊子体で電子化された資料計25万ページの95%以上を占めている。 書籍は辞典類を中心に56冊が電子化されているが、許諾を得にくいのが実状で、許諾率は約20%にとどまっている。和文・欧文電子化比率では欧文が68%強、バイオサイエンス系だけをとれば96%強を占めている。 電子化資料は設備と費用の関係から7年の保存期間をすぎるとテープに移される。もとの図書・雑誌は、もともと電子化されないものとともに、従来の図書館とまったく同様に書架に保存されている。

 以上モデルケースの電子図書館の現状をできるだけ客観的に紹介した。ここから、理科系と文科系の学部から成る大学の図書館を電子化するにあたってどのような課題が浮かび上るのかについては、紙数が尽きたので省略せざるを得ないが、上記からかなり明らかであると思う。 長期的なヴィジョンのもとにさまざまな情勢の変化に柔軟に対応していくことが要求されるであろう。なお、貴重な時間を割いて応対していただいた奈良先端科学技術大学院大学附属図書館職員の方々にあつく感謝したい。

(もり まさふみ 副館長・人文科学系担当)