神戸大学附属図書館報 Vol.8 No.3(1998.10)

文 献 複 写

本岡 達


これまで、図書館といえば情報資料の収集、整理、保存、閲覧、貸出などを行う機関であった。昨今、コンピューターの急速な発展とともに、その内容が大きく変貌する時期にさしかかっているようである。
 神戸大学にも電子図書館システムが導入されることになり、図書館の利用価値は大幅に増大するものと期待される。電子図書館については本館報で、いく人かの先生方が取り上げておられるので、 ここでは図書館機能の1つである「文献複写」について、その移り変わりを私の体験を通して記述させていただくことにする。
私の若い頃の文献複写は、現在の若い人には想像もつかないほど面倒なことをしていた。まず、写真機で固定台を使って必要な頁を撮影し、次に暗室で現像して印画紙に焼き付ける。 現在もその品物が手許に残っているが、水洗が悪かったせいか黄ばんでいる。この作業にはかなりの時間を必要とした。その上に、複写にかかるまでにも大きな問題があった。それは「文献探し」である。 現在のように、パソコンネットワークで自分で探すあるいは図書館で検索して複写するあるいは複写依頼をすれば手に入る時代ではない。当時は有名な雑誌であっても簡単に入手できないものも多かった。 大学の図書館で見つからないものはアメリカ文化センターなどに出向いて探したものである。内容の平易な論文や短いものはその場で要約するあるいは手書きで写し取ったが、 多くは雑誌を借り出し持ち帰って前述の面倒な方法で複写し、再び返却に足を運んだ。今から思うと随分と無駄な時間を費やしたものである。
 その次に私が体験した複写方法は、古くから用いられている青写真いわゆる「青ヤキ」である。また、それとは異なる感光紙を用い、文献に密着させて感光した後、 現像液中をローラーにより通過させる方式のものも使用した。これらは写真撮影法に比べると手間は相当省けるが、得られたコピーは時間が経つにつれてバックグラウンドが現れてコントラストがなくなり、 読みづらくなるという欠点があった。特に、後者のものは、実物を引っ張り出して眺めているが茶色くなって読めなくなってしまっている。  これに対し、ところにより差はあるが、現在は1枚わずか10円程度で、きれいなコピーが短時間で入手できる。さらに、拡大縮小は勿論のこと、カラーコピーさえも可能であり、当時から思えば夢のようである。
 さらに、文献の入手も非常に容易になっている。図書館の蔵書数も大変多くなっているし、入手の手段もインターネットにより容易に検索可能となり、図書館のサービスも充実し、昔とは様変わりした。 しかし、問題がないわけではない。図書経費が大きな問題となってきたのである。インターネットで詳細に調べようとするとかなりの経費がかかるし、図書館の蔵書数の増大は、それだけ購入費が必要である。 現在のように文献の数が非常に多くなってくると、全国の大学に必要な文献のすべてを配備することは予算的に無理であるので、学術書蔵書の拠点校を作りそこに集中的に文献を備え、他の大学等の文献複写の依頼に応えるようになっている。 にもかかわらず、各大学の図書購入経費は膨らみつづけているようである。それは、発行される図書の数量の増大は勿論のこと、外国雑誌などは出版社の大幅値上げに加え(これはコピー機の普及と密接な関係がある。 本の値段が高いのでコピーをする。そのため本が売れなくなるので値上げをする羽目になる。いわゆるニワトリと卵である。)、このところの円安傾向が拍車をかけ経費は異常に膨れ上がっている。これも経済が右肩上がりの場合は、この要因を吸収してくれるが、現在は逆に右肩下がりのために逆風となりかなりの負担を強いられることになっている。
 ともあれ、経費の問題はあるにしろ、研究者にとって文献を調べることは必要不可欠である。 これから本格化する電子図書館化はネットワークの普及と相俟って、研究室に居ながらにして、文献が得られるという、写真機を片手に文献探しをしていた時から考えると夢のような時代が訪れつつあることは間違いがない。

(もとおか いたる 図書館運営委員・工学部教授)