神戸大学附属図書館報 Vol.8 No.4(1999.1)

古 書 と 新 刊 書

加納 哲也


 毎月配布されるリーフ「近刊図書情報……これから出る本」を手にし、毎月、膨大な書籍が出版されているのだなと感心するばかり。専門書と言われるものから、一般大衆文庫本までジャンルだけでも相当数にのぼる。
 しかし、書籍というのは、どうしても自分の専門分野のものしか目に止まらない。当然そうだろう。それがいかに高価本、希少本であっても専門外のものでは、それは自分にとって何の価値をも見出すことができない。
 私の所属は発達科学部人間行動・表現学科身体行動論講座というネーミングで一度聞いた程度では殆どいかなる内容の講座なのか理解して貰えない。簡単に言えば健康・体育・スポーツに関する領域なのだが、 研究分野として自然系から人・社系にわたる幅広い研究フィールドとなっている。したがって、私自身の研究が実技系(スキー、サッカー専門)の方法論的アプローチであるため、 これらの技術要素・構成・体系・指導法等に関連するものが多く、これらに関する書籍には非常に興味がある。身体運動、スポーツ技術の形成、その遂行に関しては言語的手がかりに依存する場合が多く見られるが、 これを文字、文章、ビジュアル情報により表現されるもの、即ち、書籍などの重要性を強く感じている。一般的に運動技術、スポーツ技術などの獲得には体感的(視覚、知覚、小筋、大筋)運動であると言われるが、 これらを方法論的に伝達するには、やはり言語的手法が当然必要になる。
 10年ほど前、スキー関係の古書を多く購入した。特に、自分に必要な書籍は古いものが多く、サッポロ堂(北海道・札幌市)という古書店まで求めに行った記憶がある。
 中でも、私がスキーに関するレポート作成中、資料が手元に無く、北海道大学図書館にコピーを依頼した『部報1』(北海道帝国大学文武会スキー部発行 (1931))の原本や、 後に、同じ『部報2・3』を入手することができた時は本当に嬉しかった。更に古い『記念 創立拾五年』(北海道帝国大学スキー部 (1926))を見付け、私の現在保持する日本のスキー関係書の中では価値の高い希少本となっている。 スポーツの中でも外国から日本へ移入されたスポーツなどに関しては、当時の古い文献に頼らざるを得ない場面に直面することが多く、これらの資料は、日本にスキーが移入された直後の様子を知るには絶対に必要なバイブル書的な存在になっている。 幻の古書ではとあきらめていたものが、ある日突然現れたり、未だに次から次へと出物があるので、現在でも古書目録を眺めるのを楽しみにしている。
  一方、今年の夏以降には書店の店頭にサッカー関係書籍の夥しい陳列が見られた。スポーツ種目数の多さにも驚くが、恐らくこの時期は何にもましてサッカー関係の書籍が一番多かったのではなかろうか。 日本のスポーツでは野球がメジャーと言われながら、丁度、スポーツのビッグイベントであるサッカーワールドカップ大会が開催された時期でもあった。
 従来、この種のスポーツ関係書籍は技術解説や指導方法等を中心とした教育的書籍が大部分であったが、この時ばかりは、執筆者も多種多様で、にわかスポーツ評論家と思われるような作品まで店頭に並んだのである。 内容的には大会の歴史に始まり、参加国の戦力分析、指導者論、戦術論、さらに大会終了後には全64試合の試合経過の詳細など居ながらにしてフランスの地へ赴いたかのごとくの錯覚を覚えるほどの情報を得ることができた。 その中には、一般的にはあまり興味を持たれないような情報も数多くあった。「サッカーは戦争だ」「サッカーは世界共通の言語だ」「サッカーは世界共通の文化だ」などと言われる所以は、 ワールドカップ大会に出場する各国の民族的、宗教的な背景、政治状況や、さらには経済状況等までもが全世界に提示されることである。 このようなサッカーを通じてサッカー以外の世界を知ることのできるのも知的側面から書籍の価値として認めるべきであろう。その中で感動的な2冊の書籍のことに触れなければならない。
 それは『幻のサッカー王国』(宇都宮徹壱著)と『日韓キックオフ伝説』(大島裕史著)である。前者はバルカン半島の内戦から独立に至ったスロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、ユーゴスラビア、マケドニアを著者自らが旅をし、 各民族とサッカーの関わりを主題にしたものであるが、この戦争は民族戦争とまで言われるほど激しい戦いで、各民族間の友愛と団結を求める戦争であった。結果的にはサッカーが民族の団結を勝ち取ったのである。 ワールドカップフランス大会代表国、初出場の民族的背景を持つクロアチアの活躍は承知のとおりである。政治的イデオロギー、戦争、民族性などは一見サッカーとは無関係のように思えるが、実際にはサッカーの存在がそれぞれの国の独立を支えたとするものである。
 また、後者は、サッカーに関わる日韓関係を、遡って朝鮮半島の日本植民地化時代から現在に至るまでの経緯を著者の韓国在住という立場で詳細に記したものである。 単に日韓関係に止まらず、38度線を挟んでの南北問題にまで言及し、日韓共催の2002年のワールドカップ大会を通じて南北統一を期待するなど韓国情報を提供するものである。
 このように私にとって、自分の分野に関連する書籍には限りない愛着を感じるし、また、そこに大きな価値を見いだすことができる。

(かのう てつや 副館長・人間科学系担当)