神戸大学 > 神戸大学附属図書館 > デジタルアーカイブ > Kernel

【お問合せ】
神戸大学附属図書館 電子図書館係
657-8501 神戸市灘区六甲台町2-1
社会科学系図書館内
Tel 078-803-7333 Fax 078-803-7336

森本政之先生インタビュー2009.8.11於・工学研究科

2009年7月14日、神戸大学学術成果リポジトリKernelの登録件数が1万件を突破しました。2006年7月12日の試験公開より3年後の成果となりました。ご登録いただいたみなさま、並びに関係のみなさまにご協力を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。

記念企画第一弾として、石本雄真さん(人間発達環境学研究科博士課程)にインタビューを行いましたが、その第二弾として、1万件目の論文をご登録になった工学研究科 森本政之先生にインタビューを行いました。工学研究科長でもある森本先生のご専攻は環境音響学です。

神戸大学環境音響学研究室EALKU
http://www.arch.kobe-u.ac.jp/~en1/index-j.html

研究について1万件目となった論文について

森本先生(以下敬称略)(開口一番)光栄なことですね。

図書館(以下「図」)(笑)1万件目のご登録、ありがとうございました。今回、先生にはまとめて5本の論文をご登録いただきました(このページの最後に一覧) が、どのような内容でしょうか。

森本:だいたいは「空間音響」、つまり音の拡がりと、音の方向感について研究したものです。建築音響において、どのように音の拡がりや方向感を制御するか。これは私のライフワークです。

<90000852>はそこから派生した研究で、「聴きとりにくさ」についてのもの。この論文のミソは、従来の音声伝達の評価尺度に対して「聴きとりにくさ」という尺度を導入したことです。従来の「単語了解度」という尺度を使うと、普通の生活環境では評価にほとんど差が出ないんです。もうひとつのミソは単語の「親密度」という尺度の導入で、これはNTTが辞書一冊まるごとについて親密度(単語に対する「なじみ」の度合い)を調査したデータに基づいています。この2点によって、尺度に現実性をもたせました。


「単語の親密度」についてご説明いただきました

図:1万件目の論文<90000853>の内容についてご紹介下さい。

森本:これは音の方向感に関するものです。なぜ音がやってくる方向がわかるのか。水平面と正中面についてはこれまでの研究で明らかになっていますが、この研究では、それらの面から外れた時にどうやって方向を知るのか、実証しました。耳介(耳たぶ)がないと音の前後や上下が分からないんですよ。

図:へえ~。

森本:もっと言うと、耳介のくぼみがないとダメです。

図:音の方向感ということはなぜ重要なのでしょうか。

森本:ふだん意識することはないけど、生活の基本ですからね。音の来る方向が正しく分からないと困ったことになってしまいます。また、例えば目の不自由な人を音で誘導する「誘導鈴」なども、このような研究の応用例です。

図:先生のご専門である「環境音響学」は耳慣れない用語なのですが…

森本:前川純一先生(神戸大学名誉教授)が1974年頃に国際会議で "Environmental Acoustics" という呼び名を使ったことが初めてだったようです。教科書のタイトルにもなっています。(前川純一, 森本政之, 阪上公博『建築・環境音響学』共立出版 第2版 2000年)

リポジトリについて

図:リポジトリに登録したことで、何か反応はありましたか。

森本:登録してすぐに、ちょうどいいタイミングで抜き刷りを求められたんで、ネットで見られますよと言いました。むかしだったら、いちいち手紙を書いたり発送したり、大変でしたよ。

図: 今回、出版社の制限により「著者原稿」をご提供いただいたものが2点あります(Applied Acoustics掲載分)。これについてご意見はおありでしょうか。

森本:たとえ誌面そのものではなくても、ネットで見られるのは有益ですよ。私が使う立場の時でも、どの雑誌の何号に掲載されたかのデータが載っていれば、原稿版でも大丈夫です。

図:ありがとうございます!図書館としてはすごくうれしいお答えでした(笑)

森本:あとは、引用数が分かるといいんだけどねえ。Elsevierに投稿した論文なら、引用されたという通知がメールで来たりします。ダウンロードする人に、利用目的のアンケートをとったりできないの?

図:期間限定でアンケートを取ってみてもいいかも知れません。さて、朝日新聞の「大学ランキング2010」に「機関リポジトリ」という項目が初めてあがり、社会的にも大学評価の指標として認知されつつあるようです。森本先生は工学研究科長でいらっしゃいますが、論文の電子化について、工学研究科としてのご意見がおありでしたらお聞かせ下さい。

森本:ひとつは紀要。ペーパーが見られて、引用されてこそ、研究の成果があがったといえるので、電子化して見られる機会を増加させたい。

図:工学部の研究紀要は残念ながら、図書館での電子化ではなく、外部委託で電子ジャーナルとして出版されるんでしたね。

森本:同じことが実現できるのなら、どこに任せても構いません。

図:査読プロセスの管理やDOI取得など、現在の図書館の体制では難しい面があります。課題とさせていただきます。

森本:もうひとつは博士論文。入手しにくいので、電子化する価値があります。研究科長として、これら研究成果を発信していく任務があると思っています。

今後について

図:最後に、今後の研究についてご予定などをお聞かせ下さい。

森本:これからは基礎研究を活かした応用の方面に向かいます。さっきも言った「誘導鈴」の話ともつながりますが、公共空間での音、たとえば非常放送の聴こえ方について、これまでの「方向・拡がり」「聴きとりにくさ」といった研究が応用できます。また神大病院と共同で、病院や薬局でのスピーチプライバシーを研究中です。聴こえなければいけないもの、聴こえたら困るもの、どちらも同じ研究から応用できるものなんです。

図:森本先生、お忙しいなか、大変興味深いお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

後記

実は森本先生、ちょっと怖そうなお方という先入観があったのですが、実際にお会いしてみて、難しい研究内容をひとつひとつ丁寧にご説明下さる姿に感銘を受けました。

それから先生はちょっと変わった、「栓抜き」のコレクターでもあり、壁には鍵屋のごとく(?)栓抜きがかかっているばかりか、実はあちこちにある置き物も全部栓抜きとして使えるものだそうです。

音楽ホールの音響や、森本研究室と民間企業が共同開発した「スピーカで聞くように感じるヘッドホン技術」など、もっとお聞きしたい・ご紹介したい話題は尽きないのですが、このページをお読みの方には、インタビュアーの力不足をお詫びします。(文責:附属図書館電子図書館係 中山)


秘書の熊崎さんと。後ろの壁にかかっているのが栓抜きコレクション。

<森本先生に今回ご登録いただいた5編>
90000851
Effects of frequency characteristics of reverberation time on listener envelopment
森本, 政之 / 神谷, 宗宏 / 中川, 浩一
Journal of the Acoustical Society of America 122(3) 1611-1615 (2007-09)

90000852
Listening difficulty as a subjective measure for evaluation of speech transmission performance in public spaces
森本, 政之 / 佐藤, 洋 / 小林, 正明
Journal of the Acoustical Society of America 116(3) 1607-1613 (2004-09)

90000853
The contribution of two ears to the perception of vertical angle in sagittal planes
森本, 政之
Journal of the Acoustical Society of America 109(4) 1596-1603 (2001-04)

90000856
The relation between spatial impression and the law of the first wavefront
森本, 政之 / 中川, 浩一 / 飯田, 一博
Applied Acoustics 69(2) 132-140 (2008-02)

90000877
The role of reflections from behind the listener in spatial impression
森本, 政之 / 飯田, 一博 / 阪上, 公博
Applied Acoustics 62(2) 109-124 (2001-02)