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小田啓二先生インタビュー2011.6.28 於・海事科学研究科

2011年6月10日、神戸大学学術成果リポジトリKernelの登録件数が15,000件を突破いたしました。ご協力いただいた皆様に御礼申し上げます。またKernelは2006年10月2日の正式公開よりまもなく5年となります。開設5周年にちなみ10月末に記念講演会を計画しておりますが、記念行事の一環として二つの教員インタビューを行いました。

まず、15,000件目の論文を登録いただいた海事科学研究科の小田啓二先生にインタビューを行いました。先生は海事科学研究科の研究科長でもいらっしゃいます。

・神戸大学海事科学研究科環境応用計測科学研究室HP
http://www.research.kobe-u.ac.jp/gmsc-iris/

「測りにくい中性子」を計測する

図書館(以下「図」):先生の教員紹介にライフワークとして「線量計測」があげられていますが、それはどのようなことをするのでしょうか。

小田先生(以下敬称略):放射線による被ばくを測るものが線量計ですが、線量計は用途によって、「場所」と「個人」に分けることができます。 「場所」はその土地、空間の放射線量率を測るもの、もうひとつは「個人」の放射線量をはかるものです。私がこの論文で扱っている個人線量計は、ポケットに入るように軽くなければなりません。現在、福島県の原子力発電事故が話題になっていますが、この事故の場合はγ線を計測する線量計が主です。一方、私がこの論文で扱ったのは、中性子で、これはγ線と並び、測りにくいものです。

図:測りにくいとはどういう意味ですか?

小田:α線やβ線と異なり、γ線や中性子は透過性が強いので、測定器を透過して測定することができない、という制約があります。また、先程申し上げたように、透過しやすいγ線や中性子を小さくて軽い個人線量計で測るのは大変難しく、感度を上げる努力をしなければなりません。

図:先日、都市安全研究センターから放射線量計を貸し出すという話を聞きました。

小田:まさに、「個人」の被ばく線量(γ線)を測る線量計のことです。最初に私の研究室から1台、貸し出しました。その後、センターの方で購入されたのでしょう。私の研究はもうひとつの測りにくい中性子についての研究です。原子力発電所で働いている人、SPring-8といった大きな加速器をもっている施設、あるいは宇宙ステーション、航空機などでの応用を考えています。

中性子の数を測るだけでなく、放射線の強さによって換算係数を考える

図:今回15,000件目となった2つの論文の内容を解説していただけるでしょうか。

Response of semiconductor-type electronic personal dosemeter to high-energy neutrons
Oda, Keiji / Iwano, Kensuke / Yamauchi, Tomoya / Nunomiya, Tomoya / Abe, Shigeru / Nakamura, Takashi Radiation Measurements 43(2-6), 1072-1076, 2008
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/90001378

Several techniques for improving energy dependence of a commercial personal neutron dosemeter package based on PADC track detector
Oda, Keiji / Hayano, Daisuke / Yamauchi, Tomoya / Ohguchi, Hiroyuki / Yamamoto, Takayoshi Radiation Measurements 44(9-10), 977-980, 2009
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/90001379

小田:これらの論文はどちらも個人の中性子量を測る線量計に関する研究ですがはじめの論文はリアルタイムに応答する直読型の線量計、もうひとつの論文はPADCという特殊なプラスチックに記録された放射線の通った跡(傷)の形を分析する積算型線量計について述べています。

この実験で工夫した点ですが、個人への放射線の影響(「ミリシーベルト」という単位で表します)を考えるためには、中性子の数を測るだけではだめで、放射線の強さ(エネルギー)によって換算係数が異なるため、線量計感度のエネルギー依存性をその換算係数のそれに合わせなければなりません。そこで一度、水素を含む物質(ラジエーター)を素子の前に置き、特殊な原子核反応を起こし、そこから出てきたα線や陽子で間接的に中性子を計測しています。たとえば素子の前に置くラジエーターの形状や種類、厚さをコントロールしてやり、中性子一個あたりに反応して係数される確率を、線量への換算係数に合わせています。

図:その成果を線量計の設計に生かしていくのですね。

小田:そうです。共著者にメーカーの方がいらっしゃいますが、レスポンスがよりいいもの、あるいはもっと高いエネルギーの中性子を計測したいという趣旨で始めました。アイディアやデータはたくさんあります、それを使うかはメーカーの方が判断されるわけですが。


研究科長室にて、お話いただきました

図:放射線安全管理学会より最優秀論文賞を受賞された論文はどのようなものでしょうか。

イメージングプレートにおけるPSL強度分布に着目した線種弁別法の提案
小田,啓二 塚原,一孝 多田,英哲 山内,知也
日本放射線安全管理学会誌 5(1) 32-38 2006

小田:こちらは先程との研究とは全く異なります。イメージングプレートというのはX線フィルムのようなもので二次元の画像を撮るものです。レントゲン写真より2-3桁ほど感度が高いものです。レントゲン写真は濃淡ですが、イメージングプレートはX線だけでなく、β線などの他の放射線も計測できます。

(「目で見る自然放射線」というパンフレットを持って来られて)

小田:この写真は、イメージングプレートに野菜を置いて撮影したものです。


中部原子力懇談会制作「目で見る自然放射線」より

図:これはレンコンですね。これはショウガかな。

小田:野菜のカリウムにβ線が含まれているんです。この論文でやったことは、イメージングされたものを詳しく調べることによって、どんな種類の放射線が出ているのかを見分けることができる、という付加機能を持たせたことです。

原子力工学をこころざして

図:ご専門の研究をはじめられたきっかけを教えてください。

小田:もともと山口の美祢という炭鉱の町で生まれました。まもなく炭鉱は閉山になりました。高校時代に第一次オイルショックを経験し、エネルギーに興味を持つようになりました。そして原子力が次のエネルギーだと思い、この分野に進みました。

図:先生のテーマとして、計測の他に「放射線防護」ということもあげられていましたが。

小田:「防護」という考え方は専門分野では「安全学」と言っていますが、「安全学」を考える際、汚染した土地はどうするのか、そこに住む人、田畑や山をどうすればよいのか、単に理工学だけでなく、社会的、経済的な視点が必要です。

justification(正当性・正当化)という原則があります。これは被ばくによるデメリット(発がんのリスク)に対し、メリットが多くないと使ってはならないというものです。さらに、私は職業としてこういう道を選んでいるわけですけれども、かといってどれだけ浴びてもよいというわけではありません。職業を続ける中でどれだけ浴びてもよいか(線量限度)というのも「防護」の原則のひとつです。

ICRPという国際組織があります(会議録を見せていただく)。その中で正当性について触れられていますが、例えば医療行為に対しては完全に正当性が認められています。今回の福島原子力発電の事故のような場合、住民にはメリットはありません。これをどう考えればよいのかも我々は考えてきました。

職業人の場合は、線量の限度を5年間で100ミリシーベルトと定めています。今の計画的避難区域と同じ程度です。ただこれは、職業的に浴びてもよいという値であり、この値についても議論の余地はあります。

数値が勝負の分かれ目になります

図:ありがとうございました。ちょっと話題が変わりますが、ふだん情報検索には何をお使いですか。

小田:Science Directをよく使っています。ジャーナルはある程度限定して検索しています。私が学生のころと比べるとはるかに楽になりました。文献を検索するときは自分と同じようなことをやっている人をチェックしています。発表する論文は数値(例えば、絶対感度、効率、処理速度など)が大切になります。数値で劣っていては成果としてなかなか認められませんから。学生にも他の人と似た実験を行った場合、少なくとも理論的には数値を越せるように指導しています。また、他の素子や素材(半導体など)について、他分野で当たり前に使われているものを転用できないかを気を付けるよう指導しています。

図:Web of Scienceなどはお使いにならないですか。

小田:ジャーナル数が限られているので、Science Direct調べる方が早いです。このリポジトリっていうのは、外部からはどうやって検索するんですか?

図:一般的なウェブ検索や、CiNiiから検索して来る人が多いです。

小田:KUID(神戸大学の研究者DB)ともリンクしてますよね?

図:はい、しています。

小田:KUIDに論文を海事科学研究科として積極的に登録しています。研究の成果を国民に、広くは世界に還元していくことは大切だと考えています。

これまで原子力工学の研究をやってきましたので、今後もずっと関わっていくことになります

図:最後に、今後の研究や抱負について教えて下さい。

小田:論文としてまとめるという個人的な業績をあげることはさておき、今の福島の原子力発電事故を受けて、私たちのこれまでの研究を適用し、放射線安全学を実践していかなければならない義務が私たちにはあります。どう被ばくを管理するか、どうケアするか、今の損害と将来のリスク(発がん)に対する保証/補償について、個人として、学会として、国に対して意見を言う必要があると思います。また、今回の事故後の国の対応についていくつか疑問を持っています。ICRPレポートにステークホルダーエンゲージメントという考え方があります。これは基準・対策を決める際にステークホルダー(住民、市、町、会社)が関係して決めていくというもので、日本においてはこの過程がスキップしているように思います。 また、ある基準を決めた場合、その経過の議論を発表していないのも問題です。これまで放射線安全学に関する研究をやってきた者として、身体が動く限りこの問題にずっと関わっていきます。

図:お忙しい中、ご協力いただき、ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

後記

ニュース等でよく耳にする機会の多い「線量計」や「線量計測」について、専門的なお話をかみ砕いて解説していただきました。
今回、小田先生のお話を聞き、どのような材料で判断するのかが大切であるように感じました。

最後になりましたが、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(文責:附属図書館電子図書館係 末田)