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嶋田博行先生インタビュー 2011.6.28 於・海事科学研究科

2011年6月10日、神戸大学学術成果リポジトリKernelの登録件数が1万5千件となりました。またKernelは2006年10月2日の正式公開よりまもなく5年となります。開設5周年にちなみ10月末に記念講演会を計画しておりますが、記念行事の一環として二つの教員インタビューを行いました。

お一人目は1万5千件目をご登録いただいた海事科学研究科の小田啓二先生。お二人目は同研究科の嶋田博行先生です。附属図書館の海事科学分館長でもある嶋田博行先生のご専攻分野は、認知心理学と人間工学・教育工学です。

図書館(以下「図」):先日、Kernelへの論文登録数が1万5千件となりました。ちょうどその直前に嶋田先生から論文登録のご依頼があったことと、先生は海事科学分館長でもいらっしゃいますので、その関係で今回インタビューを申し込ませていただきました。どういうことでリポジトリに興味を持っていただいたのでしょうか。

嶋田先生(以下敬称略):日本の学会誌に掲載されても、会員には配布されますが、海外オンラインジャーナルのようにインパクトファクターとか出ません。そして、あまりオンライン化されていません。アブストラクトが公開されないものもある。

日本語論文の場合、書いても一般の目に触れる機会が少ないです。日本はまだまだ遅れていて、論文が埋もれてしまっていると思うのですが、図書館の人からリポジトリを使えるということを聞きました。こういう点で、リポジトリというのは、潜在的には需要があるんじゃないでしょうか。

図:そうですね。先生方に、成果公開のお手伝いができるということをお伝えしたいです。さて、先生のご研究について教えていただけるでしょうか。

考えることと覚えることは別のことか

嶋田:ずっとむかしからなんですけど、「ストループ効果」というのをやっています(→嶋田先生の認知心理学研究室のサイト「ストループ効果」)。最近任天堂のゲームにもなっています(「脳を鍛える大人のDSトレーニング」)。こういう、色のついた文字を、ワードを読むのじゃなくて、色の名前を読み上げることは非常に難しいです。

ストループ効果の例

きいろ あか あお

図:左から…青…緑…赤…

嶋田:こういうのは、かなりしんどいんです。

図:そうですね。

嶋田:要は人間のコントロール機能をとらえていこうということです。普通、考えるということと覚えるということは別のこととされています。でもそうじゃない。何回も繰り返し「出会う」ことによって記憶に入っていって、自動化します。すると何も考えなくても自動で検索して出てくる。「出会い」の回数と反応時間はぴったり比例しているんです。

「できない」子ほど自分の頭を信じています。勉強しない子ほど、試験の時に自分の頭で考えてしまうんですが、そうすると考えたことが頭に残るでしょう。そうして間違えると、次の試験の時にまた同じところで間違ってしまう。要は、勉強してないのに試験に臨んで、考えちゃいけないんです。

図:(笑)

嶋田:よく、「自分で考えなさい」というけれども、考えて間違うと間違えた答えが次にまた出てくる。だからいま私がやっているのは、間違いがどうやって記憶に残っていくのかということです。

「技能」というのは蓄積して記憶に残っていくんですが、悲しいことに自覚が伴わないんです。自分がどれだけ勉強したか、「出会ったか」は、自覚はできてないんですが、不思議なことに脳はカウントできているみたいなんです。だから成績は勝手にあがっていくんです。

その検証のために「アルファベットの足し算」という実験をやります。

アルファベットの足し算の例

a+1=b
a+2=c
a+3=d
...

これを学生の被験者に覚えてもらうと、最初の日はa+1よりa+5とかの方が難しいんですが、6日も同じことばかりやっているとそのうち直接覚えてしまって、だんだん記憶検索ができるようになります。この時に練習がどのように行われたのかということを調べます。

要は「技能」の習得ですね。技能は「考える」とか「覚える」と関係がないような気がするのですが、関係があります。先にいったストループ効果も、これまで普通に練習してきた「文字を読む」という技能を使わずに、練習していない方の「色を言う」ということをしないといけないので、コントロールする必要がでてきます。

ゆっくりした何かに集中するという技能

図:リポジトリにご登録いただいた論文について解説をお願いします。

堤, 教彰 / 嶋田, 博行 / 芦高, 勇気
遅延応答環境における人間の追従性獲得に関する基礎研究
人間工学 44(4):202-207, 2008
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/90001364

嶋田:これはゆっくりした動きに対して人間がどこまで追従できるかということを調べました。これまで技能というのは、だんだん技能がよくなるほどスピードアップするといわれてきました。ところが例えば太極拳とか日本舞踊とか、船もそうなんですけど、とてもゆっくりしている。ではそういうのは技能ではないのか? 日本舞踊も茶道もゆっくりやりますよね。これは、習得がすごくしんどい。10年とか、相当長くかかる。

でも10年間データをとるわけにはいかないので、実験としては短期間でできる方法をとりました。やってみると、確かにゆっくりしたものは習得が難しかった。例えばタンカーというのは、舵を切ってから1分くらいしてやっと動きます。そういうゆっくりした動き、追従性の遅い動きに人間がどれだけ適応できるか。ゆっくりした動きに対してタイミングをはかるのはとても難しくて、何回も練習しないとなかなか身につかないです。

図:この論文の次の展開があれば教えてください。

嶋田:今は「なぜ遅い動きが難しいのか」ということを研究しています。例えば幼稚園児は、リズミカルな曲を覚えるのは得意なのに、ゆっくりした曲になるともじもじしてしまいます。集中するのが難しいんですね。日本の伝統文化というのは、茶道にしても、ゆっくりした何かに集中するという技能なのではないかと思うのですが、そのことには意味があるはずです。

基礎と応用はつながっている

図:ご専門の研究を始めたきっかけは何だったでしょうか。

嶋田:もともと阪大の助手だった頃にストループをやっている先輩がいて、その影響です。発達心理学の立場からそれをやっていたのですが、指導教員の影響で数理的なこと、知覚的なことに興味を持ち、その関係で認知心理学に進みました。認知心理学は、一時の流行と思われていたこともあるんですが、いまではごくオーソドックスな心理学です。

研究に関連して言えば、基礎と応用はつながっていると思っています。基礎研究はいろいろな学説を立てて検証していくということなので、成果があがるまでに時間がかかるのですが、大事なことです。一方、わたしは工学系の学部に所属していますので、企業との連携など応用方面の研究も求められます。

図:ところで先生は普段どのようにして必要な論文を入手されていますか?

嶋田:JabrefやEndNoteを使って検索しています。特定のジャーナルは必ずフォローしますが、検索結果だけでは量が多すぎて絞り込むことが難しいです。なお英文のものは日本語に翻訳して学生にも読ませて、知識の共有を図っています。

図:オンライン化されたものが多くなって、逆に大変ではないでしょうか。

嶋田:そうですね。アメリカに行くと感じるんですが、とにかくテンポが早くてめまぐるしいです。やはりことばのハンデは大きいです。アメリカでは盛んなのに、日本では取り上げられていない研究がたくさんあります。

授業にマイクロブログを使う実験

図:他にも多数ご登録いただいていますが、この論文はどういったものでしょうか。

堤, 教彰 / 芦高, 勇気 / 石坂, 洋輔 / 嶋田, 博行
他大学出身学生・社会人学生の研究室受け入れ後の入門学習としてe-Learningを用いた教育実践
日本教育工学会論文誌 32(Suppl.):1-4, 2008
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/90001358

嶋田:社会人学生など、特定分野の専門知識が必要な場合にe-Learningが有効だということです。ただ、もはや研究室単位でそれを実験する段階は終わっていて、実用段階に入っていますので、研究としては終わりました。

いまは授業にツイッターを使う実験をしています。ツイッターといっても、公開されているものを使うには危険性があるかもしれないので、ツイッターに似た仕組みを学内限定で作りました。 これを心理学の演習中に使っているんですが、学生は授業時間中になかなか手をあげません。またTAに聞いてもいいが、それでは情報共有ができません。ツイッターに質問を書いてもらうと、それをみて私が解説することができるし、それをみんなで聞くことができます。

こういうことは認知の研究と関連がないように思われるかも知れませんが、ストループ効果のところで「出会い」と言いましたけど、その出会いを提供するのが「教育」で、それを受け取るのが「学習」と考えれば、私の研究テーマとしてつながっているんですよ。

最後に図書館へのご意見

図:話は変わりますが、嶋田先生は海事科学分館長でいらっしゃいます。分館長として図書館に要望などありましたら。

嶋田:Web of Scienceの講習会を学生が希望しています。こちらのキャンパスでもやってください。(注:海事科学分館のある深江キャンパスは遠隔キャンパスなので)

それから図書館のサイトをみやすくしてほしいです。サービスは色々追加されているのに、よくなっているという声をあまりきかない。図書館に行って使う人だけじゃなくて、オンライン的な利用法の周知がもっと必要ですよ。

図:はい……非常に貴重なご意見ありがとうございました。

後記

次々と繰り出される嶋田先生のお話に、ちょっとついていくのが大変でしたが、論文を読んだだけでは分からないこと、また論文には書かれていない次の段階まで視野に入れたご解説をいただきました。図書館へのご意見はさっそく職員にお伝えします。お忙しい中、長いお時間をいただきまして、ありがとうございました。

(文責:附属図書館電子図書館係 中山)