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渡部昭男先生インタビュー2012.7.13 於・人間発達環境学研究科

Kernel で論文を公開されている研究者を、通信でも取り上げてご紹介しています。今回は、大学院人間発達環境学研究科 渡部昭男先生です。今年の4月に先生の論文のダウンロード数が、ずば抜けて1位となったことをきっかけに、インタビューをお願いしました。

―――先生の『地域を創る教育福祉』、こちらの論文が4月にダウンロード数1位になり、本日はインタビューをさせていただきます。登録していただいたきっかけは何でしょうか?

渡部先生(以下 渡):神戸大学に来たのが昨年春で、その直前に前任校で書いたものです。そこでKernelにも早速お願いしました。今回ダウンロード1位になったのは、実は学生レポートの参考文献に指定したんです。受講生が250人ほどいますので、1人1回ないし複数回ダウンロードしてあの回数になったんではないかと思います。

リポジトリは講義にも使える

―――私達も教材などのリポジトリ登録があったらいいなと思っているので、そんな風に使っていただくのはとてもありがたいです。

渡:リポジトリについて最初に受けたイメージは、非常に便利になるということでした。こちらからの発信も、誰かのものを受け取るにも両方に対してですね。今大学は対面授業だけではなく、授業に基づいた自習、学生の「深める時間」を取って欲しいという思いがあります。このKernelで教員が書いている論文を学生にも使ってもらったり、テキストを登録して授業ごとに学生がプリントアウトすることも可能ですよね。著作権の問題も絡んでくるでしょうけれども。最近は授業のビデオ録画などに学内アクセスできるものをよく聞きます。そういうシステムに載せるかリポジトリに登録するのか、どちらもあり得ると思いますが、うりぼーねっとなどと図書館機能とが連携できると面白いんじゃないでしょうか。

―――先生がご研究をされる際に、リポジトリが役に立っている所などはありますか?

渡:私がよく使うのはJ-STAGEやCiNii、NDL-OPACなどですが、大学院生の頃などはそういうシステムはなくて、情報源である図書館に物理的に近いかどうかによる格差がありました。
今はそれが無くなりましたし、システムそれぞれに収めている文献タイプなどの特徴がありますから、リポジトリも含めてニッチを補い合っている。活用したい人が活用しやすい情報にアクセスできている環境ではないかなと思います。

―――なるほど。ありがとうございます。

渡:期待させてもらっています。今1000人以上教員がいますが、論文のコピーや抜き刷りを送ってくる先生は多いですか?

―――進んで送って下さる先生は、数名~10名ほどでしょうか。

渡:まだよく知らない先生が多いんじゃないでしょうかね。私も最初はよく分からなかったけれど、抜き刷り一本送れば、公開できるかどうかとか図書館で全てやっていただいてますよね。自分の論文を発信したいという気持ちがおありの先生だったら、お知りになればもっと増えるんじゃないでしょうか。

図書館の良いところは「速さ」と「サポート」

―――図書館全体について、ご意見ご要望がありましたらぜひ伺えますか。

渡:便利なのは図書の予約・取り寄せですね。OPACから予約できて、早ければ翌日に手に取れる。これは非常に便利です。学外への複写申込みをした場合にも蔵書の有無を図書館で確認してくれて、なければ届けてくれる。時間があれば本や論文を探すことに手間をかけられますが、今は非常に他の仕事が忙しい。数日で原稿を仕上げないといけない時に短期間で資料が届くというサービスは、我々の知的生産の活動を支えてくれている図書館の機能だと思います。
要望という事では、研究室所在の図書もOPACから予約なり利用申請ができればいいと思いますね。

―――そうですね。各研究室でもいろいろなご事情があるので、図書館が代理でお願いをする形になっています。

渡:例えば図書館所蔵のシステムと研究室所在用のシステムを分けたり、時間がかかってもいいからシステム上で利用できる・できないが分かればありがたいです。

―――なるほど。OPACなりパソコンの画面上から、ということですね。

渡:図書館にもスペースがなくて申し訳ないんですが、購入した図書や著作を寄贈させてもらってます。整理されていて必ずその場所にありますから、急ぎの原稿がある時にも使える資料が大抵手に入る。ただ時々欲しい資料に研究室所在の本が混じるので、何とかなるとありがたいなと思います。それと夜間も開いているのも良いですね。研究や原稿書きは夕方以降になることが多いですし、学生の利用も期末試験期などは増えるでしょうから、長く開館してもらえるのはありがたいです。

授業でふるさとを見つめ直す

―――レポートの課題というのは、どのようなテーマなんでしょうか。

渡:教育福祉の先達である「糸賀一雄について」というものです。「教育」や「福祉」は自然現象と違って人間が創っていかないと起こってこないと思うんですね。その創るプロセスを実感してほしいという事で、糸賀一雄という滋賀県で活躍した方を扱っています。書くこと自体に時間を割くよりは、情報にアクセスして自分の目を通し、講義も組み合わせて、自分が感じるところを表現して貰えたらという狙いです。
大学院の講義では糸賀さんのことを取り上げつつもう少し専門的なことをやっています。若い人たちは糸賀さんのような大きいことはできないと諦めたりするんですが、糸賀さんは「一隅を照らす」という言葉を言っておられます。一隅を照らすような活動を行って、その一隅を照らす灯りがいくつも集まれば万灯になる、すべての社会を照らすような光になると仰ってるんですね。院生には、自身の研究テーマがどのように人間の発達や社会の進歩進展に関わるのかまとめなさいというレポート課題を課しました。
また学部生の講義で5本レポートを書く方は、学校教育や保育について自分の出身地がどんな政策を行っているか、見つめ直してもらおうという課題です。自分の故郷の市町村・学校をインターネットで調べて、授業で習ったようなことが実施されてるのか、ホームページは市民に分りやすく発信しているのかなどを書いてもらいます。故郷のことがもう一度捉えられて面白かった、という感想を大体寄せてもらっています。積極的に情報公開している自治体もあればわかりにくい自治体もあって、出身地に不満を言う学生、予想以上だと見直す学生といろいろです。レポートを読んでると面白いです。

―――地域による違いがいろいろと出るんですね。

渡:他にも教養原論で「教育学」という授業があるんです。「憲法と教育15講」として、憲法の中に子どもの権利、親の権利、教師の権利、学校自己評価書など、1回でひとつずつのテーマを話していきます。そうすると受講前は全然マスコミ報道の背景が読めないんだけど、だんだん様々な事件について誰が説明に立っているのか、校長なのか教育長なのか、市町村なのかなどが読めてきたり、教育に関する報道が前よりもよくわかるようになったりします。
またそれぞれの人が18年間受けた教育の中で持ってる考え方も、100人いれば100人多様なんです。毎回の感想カードの中から面白かった20~30人分くらいを次の回で紹介します。例えば校則だと「髪の毛が何cm」とか「スカートはひざ上何cm」だとか決められた学校がある一方、「茶髪でも何でも自由だったしそれで学校は何も荒れてませんでした」なんていう学校もあります。紹介すると自分の過ごした所や考え方がちょっと客観視できたりします。
各回の冒頭で前回の感想を共有、講義の最後に感想を書いて、また次の回で共有、という回転を作ると、感想カードを使った双方向のやり取りができます。教師対学生だけでなく受講生同士の中で意見交換ができて、こちらも楽しいです。

研究の歩み

―――先生のご研究について伺いたいのですが、学生の頃からこういう分野に関心がおありだったのでしょうか。

渡:大学に行くまで障がい児教育のことは全く知らなかったんです。障がいのある人たちの土曜教室や子ども会活動をしていたサークルに入ったのがきっかけでした。
専門では教育行政学を学んで、教育の場が提供されていない人たちの権利保障の問題に取り組めるのではと考え、取り上げる対象を障がい児教育にしました。師事した田中昌人先生が先述の糸賀一雄さんが創った近江学園におられて、糸賀さんの「この子らを世の光に」という有名な言葉を聴きました。
修士論文では、戦前の児童保護事業、社会事業の中に教育の萌芽があったのではないか、そこから戦後の「教育を受ける権利」につながったのではないかということを述べました。またその後、戦後の権利保障の歩みを『特殊教育行政の実証的研究』と題してまとめ、1996年に出版助成から出版されています。
その後障がい児教育の担当として鳥取大学に採用されたんですが、鳥取は糸賀一雄さんの生まれ故郷でした。皆が糸賀さんを知っているし、「この子らを世の光に」という言葉は障がいのある人の保護者さんの中では当たり前に共有されている、そういう場所で30年間勤めさせていただきました。

―――鳥取では糸賀さんを皆さんご存知だと。そういう地域性というのはやはりあるものなんですね。

渡:鳥取県と滋賀県の方は、生まれ故郷と実践の場だったということで特にそうですね。糸賀さんが生まれたのは1914年、2014年が生誕100年になります。今滋賀県と鳥取県がチームを組んで、生誕100年をどういう風に迎えるかという相談をしているところです。

多様性を包摂する教育

―――もう一つ登録してくださっている『日本型インクルーシブ教育システムへの道』について、「インクルーシブ教育」とはどういうものなのでしょうか。

渡:今ちょうど『日本型インクルーシブ教育システムへの道』という本を準備しているんですが、「インクルーシブ」は「包摂」「包括」という意味合いです。障がいのある人に限らず高齢者の人、外国籍の人たちを包摂していく、排除しない形を目指した考え方です。
江戸時代の頃は、地域社会の中に障がいのある人が一緒に存在していた、いわば「混合」状態でした。明治近代化の過程で地域社会が解体し、就学猶予免除もあってそうした人たちの居場所が家庭の中に埋没しました。やがて社会保護事業などにより障がいのある人たちが集まり、社会問題化を経て施策が遅ればせながら進んでいくわけです。
戦後は生存権・教育を受ける権利などの権利保障という形で進んでいきます。しかし学校、文部省の施策は遅れ、福祉事業が受け止めて、先述の糸賀さんの近江学園やびわこ学園のような形になっていきます。60年代にはそうした実践例が映画になったり、社会認識が徐々にできあがって、教育施策が重い腰を上げて養護学校で教育を提供しようとなったのが1979年でした。
この段階ではまだ特別な教育、特別支援学校という施設に限られていましたが、21世紀になると、専門的なケアやサービスを配達したり、在宅の状態で教育・福祉・医療を受けられるようにという機運になってきました。多様なニーズを包摂する地域社会や教育・福祉・医療を創っていこうというものです。「日本型」というのは、従来の特別支援学校の持っている良さを活かしながら、地域ベースの新しい包摂システムが創れないか。せっかく100年もかけて築いてきたものを活かし、不十分なところを改める形で日本型が作れれば、という構想です。

―――どこか日本で、実践しようとしている例などはあるのでしょうか?

渡:この発達科学部に、「ヒューマンコミュニティ創成センター」というのがあって、「あーち」というサテライト活動をしていますね。スタッフや学生・院生が障がいのある人も含めた子ども会をしたり、神戸大学にきてプログラムを実施したり。
もう一つ日本型インクルーシブ教育でのポイントは、一般の学校や地域が多様性を包摂できるようになっているかどうかです。障がいのある人たちの、特別支援学校や支援学級への就学希望が右肩上がりで増えています。保護者さんの気持ちとしては専門性を求めて、「うちの子に合うものを提供してほしい」と考えている。通常学級と特別支援学級・学校だと人数がまず違います。また先生もそれに応じた教員免許を取っていて、少なくとも知識はベースに持っている。ところが、一般の先生達は知識や機会がまだ不十分です。文科省の調査では一般の学級に約6%、40人いれば2人か3人は発達障がいと言われる子がいるので、そういう子を含めて教えられるようにほんとはしないといけない。

―――仰る通りですね。まだそれは教員免許の中で義務にはなってないんでしょうか?

渡:「子どもの発達」を教える際に「障がい児の発達」も入れなくてはいけないので、1コマくらいは教えられています。しかしできるなら発達障がい関係の科目を1単位か2単位、大学独自に選択科目に入れるなどして、発達障がいとは何かを教わると違うと思うんですね。発達障がいと言われる子たちは言葉通りに捉える特性があって、「ダメ」という禁止語句じゃなくて、「あと10分座っててね」などの言葉ならこちらの希望や意図が伝わり、ネガティブな否定は伝わらない。そういう言葉ひとつでも大学で教わっていくと、教壇に立った時に少しの工夫でうまく対応できる。大きな専門性ではないんです。本当に専門的なことはセンター的機能を担ってる専門家に相談すればいい訳なので。
この発達科学部は鳥居先生や赤木先生や、発達障がいとか自閉症については全国に名だたる先生がこの2年ぐらいで着任されましたので、カリキュラムの工夫も行えたらいいんじゃないでしょうか。

身近な記事もリポジトリに

―――「インクルーシブ」という言葉について、今のご説明ですごくよく分りました。教育ってすごく大事なのに、普段関わりのない社会人には見えにくい所がある。
私にも子どもがおりますが、母親が読んでわかりやすい、取っかかりになるような本ならありがたいですね。

渡:そういうものを目指しています。保護者さんが手に取りやすいような。

―――論文や一般記事などでも、わかりやすいものをKernelに登録できたら、周囲の保護者さんに聞かれても紹介できるなあと思います。「知識を身につけたいけれど、どこから入口を探せばいいのかわからない」という話も聞きますので。

渡:他の先生方も、一般の雑誌に記事を書かれてると思いますが、「学術成果リポジトリ」という名前から「学術論文でないと」という意識があるんじゃないでしょうか。
一般向きの原稿とか教材をもっと気軽に登録してもらうと、また新しい一面が実現されるかもしれませんね。もちろん登録の際は出版社の了解が必要ですが。

―――頑張ります。本日は本当にありがとうございました。

(文責:附属図書館電子図書館係 小村)