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松田宣子先生インタビュー2012.12.11 於・保健学研究科

Kernel に論文をご登録いただいている研究者を、通信で取り上げてご紹介しています。今回は、大学院保健学研究科 松田宣子先生です。紀要論文を中心に多数ご登録いただいており、また保健学研究科の先生としては初めて、インタビューさせていただきました。

地域看護学とは

―――本日はよろしくお願いいたします。まず、地域看護学という研究領域についてお聞かせいただけますか。

松田先生(以下 松):もともとは〈公衆衛生看護学〉と呼んでいました。保健所や保健センターを拠点に人々の健康を守る保健師の仕事です。近年病院への入院期間の短縮化が進み、地域生活の中での看護が重要になってきました。また医療法改正で、訪問看護ステーションなど看護施設の経営が可能になりました。病院での臨床看護以外に仕事の場が広がり、臨床と区別した「地域で展開する看護学」へと概念が広がって〈地域看護学〉というようになったんですね。公衆衛生・訪問看護・学校保健・産業保健の4つの分野が包含されます。私自身は保健師(公衆衛生看護)の教育に携わってきました。

―――4つの分野とは幅が広いのですね。

松:そうですね。働く場所が広がってきたことで地域看護という分野がクローズアップされていると思いますね。病院の臨床は臨床で、救急ができる人やストマ*1などのスキンケアができる人などさらに専門分化しています。地域看護の方は、看護施設を起業する人が出て来ている動きがありますね。臨床看護は病気の人に対する看護、地域看護は健康の維持、病気の予防という観点からの教育が行われています。最終的には、学生は両側面の知識と観点を統合して学ぶカリキュラムが組まれています。

―――そうすると学生の皆さんの進路としては?

松:私のゼミ生たちは保健師を目指す学生がほとんどです。保健師の就職状況は厳しくて、兵庫県や各市で1人か2人の採用、応募者は数十名といった状態ですね。それでも神戸大学出身者は採用されることが多く、私のゼミを卒業した保健師は全国でたくさん働いています。隔月で開いている勉強会参加者も30人程はいますね。

―――保健師も国家資格なのですよね?

松:そうです。さらに看護師資格がないと保健師の資格は取れません。看護師の国家資格に通った上で、助産師や保健師の国家資格を取るということですね。保健学科では助産師の資格も取れるので、全て選択する学生もいます。つまり看護師を含めて国家試験3つですね。1日中授業がありとてもハードですが、志望する学生は3つの国家試験全てに合格してくる力があります。

―――皆さん優秀な学生さんなのですね。

松:採用試験は兵庫県の場合だと地方公務員の上級にあたります。センター試験をくぐった学生たちですから、一次試験の一般教養はほとんど合格してきます。二段階目の面接試験もうまく行けば、毎年7~8人の卒業生が全国で採用されていますね。

―――保健師を目指す学生さんは、どのような動機から志望されるのでしょうか?

松:中には過去に保健師にお世話になったからという人もいますが、はじめは看護師になりたい、という学生が多いです。そういう学生は地域看護学の授業を通して志望を変える場合が多いと思います。病気の患者さんに対する看護も良いけれど、予防的に様々なケアをする保健師の仕事も素敵だなと思うようになるんですね。私を含め、地域看護学の教員は全員が保健師の経験を5年以上持っているので、きっと授業でも保健師の仕事を熱く語っているのだと思います(笑)
保健所での実習も志望の大きなきっかけになります。ある男子学生の話ですが、実習先で乳児健診を見学した時に表情の暗いお母さんがいて、保健師とのカウンセリングで育児や家庭の悩みをたくさん打ち明けたのだそうです。保健師は話を全て聞きながら、「でも前回より赤ちゃんの体重はちゃんと増えてますよ。頑張っているんですね。」と励ましているうちにそのお母さんの顔が少しずつ明るくなった。学生は、その保健師の受け止め方とお母さんの変化を見て、「すごいな。こんな仕事だったらやってみたい。」と思ったのだそうです。
それから看護の場合はチームで取り組むことが多いですが、保健師は単独で仕事をすることが多いので、自分自身が主体的に判断して企画立案できるところが魅力だという学生もいます。そのようなきっかけで保健師に魅力を感じながら、さらに臨床実習を進めて本当に志望を固めた学生が、4年生で地域看護学のゼミを希望してきますね。

研究の歩み

―――先生はずっと保健師養成に携わってこられたのですね。

松:以前の専門学校や短大では、取得資格は看護師のみでした。4年制大学へ移ってから、保健師資格も取れる統合カリキュラムへと変わったんですね。
看護短大勤務の時は小児看護を教えていたんですが、保健学科を設置するときに保健師養成の教員をと求められて着任しました。保健師の経験が7年、教員経験は10年になります。
もともとは小児看護がしたいと考えて、大学卒業後こども病院で臨床看護をしていました。結婚を機に臨床から退いて神戸市の保健師になりまして、当時は訪問看護ステーションもない頃でしたから、乳幼児からお年寄りまでケアをしていました。
やがて訪問看護ステーションが増えはじめて、お年寄りのケアはそちらに移っていきました。また自分が子どもの臨床看護からスタートしたせいか、やはり母子保健活動に関心が向きますね。普通なら元気に生まれて育つはずが、お母さんに何らかの精神的な負担がかかって虐待が起こってしまうケースも多いので、どうやってそこを予防すればいいのか、というのが研究の中心になっていきました。
先日『地域保健』という雑誌のインタビューでも触れましたが、虐待の他に難病の子どもの在宅支援も研究していたんですね。未熟児で生まれた子や難病の子が病院から地域へ帰る時、お母さんだけでは看護や介護が大変です。訪問看護もですが保健師もそこに関わった方が良いと思って、病院や訪問看護のスタッフと共にケアに関わるモデルを考えて実地調査をしました。今は少し中断しているのですが、大事にしているテーマです。
現在は国立大学での保健師教育を考える場の委員長や、看護系大学での保健師教育の位置づけを考える委員会の委員もしています。そこで知り合った先生たちと、2012年10月に「日本公衆衛生看護学会」*2を立ち上げました。保健師教育に携わる教員と現場の保健師が集まる学会で、保健師の社会的認知度の向上を目指しています。今の会員は400~500名ほどで、1000名が目標です。

―――現場の保健師さんはどのくらい入ってらっしゃるのでしょう?

松:会員の半分くらいですね。学会立ち上げの際に、理事会も半数は現場の人に入ってもらったんです。ですからこの人たちが広めてくれたのだと思います。

―――現場の保健師さんも、研究や情報共有をしたいと考えてらっしゃるということですね。

松:そう思います。普段は業務に忙しくてまとめる時間がない、と皆さん仰るんですね。そこは大学の教員が協力していければ良いと考えています。これまで教員は現場のデータだけをもらって研究は独自で、という場合もありましたが、そうではなくて、また現場の人の研究スキルも上げていこうという狙いもあります。

保健師の養成・大学院化

松:現在の保健学科では、4年間で看護師に加えて保健師・助産師の資格を取れるようになっています。しかし保健師、助産師については、もっと専門的に深めたレベルの高い教育をしたい、リーダーシップが取れて健康政策の企画立案までできるような人材を育てたいという考えで大学院化の構想を持っています。定員枠など課題はありますが、平成28年頃に大学院へ移行する予定です。

―――保健師、助産師はそこまで高い専門性が必要な職業なのですね。
現在は助産師の数が減っているようなイメージもあったのですが?

松:そうなんです。産婦人科医がまず減っていて、助産師も減っています。ですから国立大学では今、しっかりした助産師をたくさん育てようとしています。医師に近いような判断を下す職ですからなかなか難しいのですが、国の方針では助産師を増やそうという方向です。
保健師の場合はまず職業としてあまり知られていないのですが、実は児童虐待など難しいケースにも上手に関わっています。虐待の総数は増えてきていますが、保健師の関わりによって予防できているケースも多いように思います。
専業主婦の家庭でも保育園に子どもが入れるよう福祉事務所にかけあったり、育児のアドバイスをしたり、母親のストレスを軽くして虐待を止められるようサポートをしています。これには通常の看護の知識だけではなく相談技術やケアマネジメントの専門的スキルが必要です。若い人にも優秀な保健師がたくさんいますが、ベテランになればなるほど経験則を備えて優れた人が多いですね。
精神障害を持つ人の家庭を訪問すると入れてもらえないこともあるのですが、何度も訪ねては少しずつ距離を縮め、病院へ橋渡しをして治療のきっかけを作ります。そういう現場を見ていると、専門性がないとできない仕事であるし、いろいろな人々が地域で助けられているのではないかと感じます。そういう保健師を育てたいですね。

保健師という専門職

―――今日お話をうかがって、保健師という職業に対するイメージが変わりました。

松:地域看護の対象となる人々は、生活保護を受けているなど社会の底辺にいる方が多く、本当に様々な人々がいます。私が保健師になった当初はいろいろな人と出会うことに戸惑いもありましたが、その人々から学ぶこともとても多かったです。難病を抱えながらもご本人はとても明るいとか、家族の方との愛情の深さに心打たれることもたくさんあります。信頼関係を築くのが難しいケースであっても、専門職として鍛えられるというか、悩みながらも成長できる職業じゃないかと思っています。
虐待に関する研究で現役の保健師にインタビューをしたりデータを取っていると、担当するお母さんを受けとめてサポートするだけでなく成長させているんですね。子育ての仕方やストレスへの対処を教えたり、お母さんのサポートだけで改善できなければ他の家族も含めてサポートをする。保健師本人はすごく悩み苦しむし、深刻なケースなら「いつ報道に出るような事件になるか」と気を揉みもするんですが、そういうケースバイケースの専門スキルはすごいです。
児童相談所との連携ももちろんしていますが、虐待は、児童相談所が動く頃には既に起こっている状態です。でも保健師は乳幼児健診や新生児訪問など早い段階で親子に関わるので、発見が早い。何か気にかかる点があれば、保健師側から家庭訪問できる職業でもあります。児童相談所や警察は、虐待が起こった後や相談が持ちこまれてからでないと動く権限がないわけです。保健師が虐待の予防や早期発見をすることで、フォローできる部分が大きいと考えて最近の研究対象にしています。

―――乳幼児健診は、必ず行かなければならないものなのですね。

松:そうですね。赤ちゃんの健診は保健センターがやらなければいけないと、法律で決まっているものです。ですので健診の案内が全ての家に送られます。9割以上のお母さんが来られますが、来られなかった世帯には全て連絡が行きます。虐待が起こっている可能性があるからですし、事実虐待が見つかる率は高いです。

―――たくさんのお仕事をされて、地域へも深く入りこんでいるのですね。

松:今はインフルエンザなど感染症の問題や、災害の危機管理に関しても保健師が活躍しています。というのは災害被災地域の救助や健康管理の責任を担う施設と位置づけられているからです。担当地域に住んでいるケアの必要な人を把握していますので、阪神・淡路大震災の際にも活躍しました。

―――どれくらいの地域や人口をカバーしておられるのでしょう?

松:保健師1人で平均1万人程度と言われています。人口動態や出生率の把握はもちろん、病気の中には治療費補助などで届けの必要なものがありますね。それらの情報が保健所に集まります。最近は保健所や保健センターが減らされて、介護や福祉の担当部署に統合されたりしているのですけれども。

―――保健所や保健師さんの数がもっと増えたらいいのにと思いますね。

松:そうなのですよね。なかなか人を増やすというのは難しいようです。先日、地域看護学会のシンポジウムでは大阪市が少しずつ増員しているとも聞きましたが、保健師の仕事や成果というものがあまり論文などで社会に公表されていないですね。大阪市の場合は、担当者が様々な成果の根拠や資料を集めて行政側の理解を蓄積し、健康政策には保健師が求められるような土壌を作ったのだそうです。ですから各自治体や社会へ向けてもっと表現していく必要があって、私はそのために研究をしているようなものです。

図書館への要望など

―――図書館へのご意見、ご要望があれば伺えますか。

松:ずいぶんお世話になっていますよね(笑) うちの学生もお世話になってます。CINAHL*3も入っていますしね。ぜひ継続をお願いしたいです。
保健師関係のビデオ資料なども図書館にたくさんありますし・・・それらの情報もこちらから提供した方が良いのでしょうね。

―――そうですね。図書館で何を購入したら良いか、先生からもご意見を伺えるとありがたいです。

松:災害時の危機管理や看護をシミュレーションしたようなビデオ資料などもあれば良いですね。最近のものがないかこちらでも探してみましょう。

―――ありがとうございます。CINAHL以外に、研究の際に使われる論文探索ツールはありますか?

松:医中誌が多いですね。『日本公衆衛生学会誌』の論文を使うことが多いです。あとは海外の『Public Health Nurse』などですね。図書館に複写をたくさん頼んだりしています(笑)
図書館の開館時間について、うちの修士や博士の学生には社会人が多いので、なかなか使いにくいと聞いたことはあります。

―――平日は21時までで、土曜日が18時までですね。

松:そうなんですね。通常平日の授業は20時までなんですが、2コマに延びると21時頃になるんです。そうなるとなかなか使えないようですね。授業の前も、社会人ですから時間がなくて。開館時間を延ばすのは難しいのでしょうけどね。

―――社会人の学生さんは多くいらっしゃるのですか?

松:うちの研究室では修士に2人、博士はほとんど働きながらですね。大学教員の傍らという人が多いです。

―――自宅からデータベースを使っていただけるサービスもありますね。

松:そうですね。使えるんですよね。そうしているという学生もいました。

―――最後に質問というかお願いに近いのですが、Kernelは市民の方からのアクセスも多くて、特に医療系は多いんですね。検索エンジンでもヒットするようになっていますし。
今後先生がお書きになられた論文や発表報告などもお寄せいただけると大変ありがたいです。

松:そうなんですか。学生が書いたものでも良いんですか?

―――許諾をいただければ、博士課程後期に在籍された方の著作は登録させていただいています。

松:わかりました。

―――ぜひよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました。


*1ストーマとも。消化管や尿路の疾患などにより、便又は尿を排泄するため腹部に設けられた
 排泄口のこと。人工肛門、人口膀胱とも呼ばれる。
*2日本公衆衛生看護学会:http://plaza.umin.ac.jp/~JAPHN/ (2013.3.26 確認)
*3看護学の基本的な文献データベース。

(文責:附属図書館電子図書館係 小村)