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竹田真木生先生インタビュー2013.11.28 於・農学研究科

 神戸大学の先生方を、通信で取り上げてご紹介しています。今回は、大学院農学研究科 竹田真木生先生です。研究対象である昆虫のお話や、飼育室の見学など内容の濃いインタビューとなりました。

研究のきっかけと歩み

―――本日は先生のご研究に関して、関心がおありのところを中心にインタビューをさせていただきます。また、研究室の中の写真なども撮らせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
まず、昆虫をご専門に選ばれたきっかけをお聞かせくださいますか?

竹田先生(以下 竹):男の子の趣味というのは「ほし」とか「むし」、「いし」など、「し」がつく名前のものが多いと言われていますけれども、私はたまたま虫に興味がありました。また子どもの頃、近くに県立博物館があったんですね。そこによく出入りして昆虫 を採ったり標本 を作ったり、いろいろ教えてもらいました。そうやって趣味として昆虫を採ったり飼ったりしていたんですが、大学で農学部に入って仕事を決める段階になり、昆虫を選びました。他に植物にも関心がありましたからそちらへ進む可能性もあったんですが、やはり好きなことをやるのが良いだろうという、先生の助言もありました。

―――プロフィールを拝見すると、学位は海外の大学でお取りになられたんですね。

竹:私が大学に入ったのは1969年のちょうど大学紛争があった頃で、授業が何もなかったんですね。4年間を過ごして、先生に進路相談に行ったら「君は弘前大学に行きなさい」と言われたんです。「日本で一番優れた昆虫学者が弘前にいるから、そこへ行きなさい」と。さらに「弘前大学にはドクターコースがないから、その後は海外へ行くんです」とも言われました(笑) 先生の勧めに従って進学しましたが、弘前の先生は素晴らしい方でした。勉強らしい勉強は全てそこで教わりましたね。
弘前大学の次はアメリカへ願書を出してミズーリ大学へ行き、ポスドクはデラウェア大学とマサチューセッツ大学、イェール大学へ行きました。しかし当時の、レーガン政権の経済政策*1の影響で大学の居心地が悪くなってしまって(笑)、また滞在が7年を超えてビザの更新も難しくなったので、オランダへ行きました。
10ヶ月ほど滞在して日本に帰ってきて、それからケニアにある国際昆虫生理・生態学センター(ICIPE)に行こうと考えていたんですが、シオノギ製薬から誘いをもらって就職しました。その後神戸大学のポストに応募して今に至ります。

昆虫分子機能科学研究室と研究テーマ

竹:この研究室は、兵庫県立農科大学の時代から続いていて、初代の教授は「日本のファーブル」と呼ばれた岩田久仁雄先生です。非常に個性的な、社会性昆虫学の基礎を築いた方で、伝統としてはハチの行動や分類の研究が行われてきました。ただ私はそうでない領域の仕事をしてきましたし、シオノギ製薬にいた頃からゴキブリの研究をしていました。
ゴキブリはとにかく強靭な生命力があって飼育と繁殖がしやすいので、昆虫学の材料としては良い材料なんです。ヒトなどの哺乳類とは神経細胞が違っていてある程度自立性がありますから、一度切れても自力で再生することができるんですね。違う個体の脳を移しかえるような実験も可能です。

―――そんなことができるんですか。

竹:ヒトであれば拒否反応が出たりしますけれども、昆虫ならそういうことができます。例えばゴキブリの生物時計は脳と複眼とのつながりの間にあると考えられているんですが、生物時計と脳の間を切ると、ゴキブリはその個体独自の時計で生きるようになります。24時間より短くなったり長くなったりするんですが、しばらくするとまた24時間周期に戻ります。神経細胞が再生しているわけですね。ですから昆虫の場合、神経回路を切ったりつなげたりという実験が容易だというメリットがあるんです。
昆虫分子機能科学研究室は、それまでPHメーターやディープフリーザーなど何もない研究室だったんですが、少しずつ導入してウェットな研究を進めてきました。

―――昆虫の観察だけではない、生理反応を見るような研究ということですね。

竹:そうです。はじめは大規模な酵素の生成などはできなかったものですから、大阪大学の蛋白質研究所の共同研究員を3~4年やって、N-アセチル転移酵素(NAT)の生成をしていました。弘前大学にいた頃から生理学の中でも時間生物学の分野に興味を持っていまして、NATというのは生物時計に関わる大事な酵素なんです。哺乳動物においては生物時計を制御していて、網膜や松果体などにあって重要な働きをしているのですが、昆虫の場合はもっと広範な場所で活性があることがわかりました。
昆虫は下等な生物と認識されがちですが、本当は高等な生物なんです。動物の進化の過程は二つに分かれていて、片方はヒトに至る道でもう片方は昆虫に至る道なんですね。ですから非常に発達した生物です。ヒトも昆虫も同じ地球―昼と夜があって呼吸をして、有害な紫外線などが降り注ぐなど、ある程度共通した環境で生きているわけです。その環境への適応に対して同じような方法を取る場合もありますが、昆虫が根本的に違うのは小型動物であるところです。
ヒトは動物界全体で見ると大型動物に入ります。体が大きいと体内で恒常性が作りやすく、生理反応も一定の体温のもとで継続することができます。小型の動物は恒常性が保てず、逆に環境に同調する力があるわけです。その異なる状況がそれぞれの動物に反映されていて、ヒトではこうだけれど昆虫では違う、なぜそうなるのかという部分にずっと関心を持って研究してきました。
研究の中でNATの活性を測っていると、時間と関係のない生物組織の中にもNATの発現が多いことがわかりました。生物時計に関連するのは脳が中心ですけれども、他の消化管や生殖腺からも見つかったんですね。そこで、時間制御以外にNATが制御している生理機能も調べることにして、その過程でいろいろと面白いことがわかってきました。

ハチの日齢とNAT

竹:ハチの仲間は、メスは働きバチとして、姉妹である他のメスの世話や労役に就くんですね。この仕事の調整は、生まれてからの日齢で決まります。
日齢3日目くらいから ローヤルゼリーと蝋を作り、それで 巣を作り、新しい子どもを育て、女王を守る仕事へと変わっていきます。 さらに日齢が経つと巣の門番になります。天敵のスズメバチなどが近づくと、お尻を振ってナサノフ腺という分泌腺から匂いを出して採餌バチを呼び戻し、敵を迎撃します。日齢20日くらい経つと、内勤から外へ出て採餌バチになるんですね。年を取るほど危険の多い外へ出すという合理的な仕組みです。
このように日齢によって働きバチの仕事が変わっていくわけですが、では何がこれを制御しているのか、という疑問が出ますよね。

―――そうですね。

竹:そこで研究してみると、この日齢による分業は先ほど話したNATが制御していることがわかってきました。
内勤バチが外勤バチに変わる時にメラトニンという物質 ができます。もとはセロトニンという物質ですが、酵素 NATによってメラトニンに変わり、日齢とともに増えるんです。これは、若い内勤バチにはメラトニンがないけれども、人工的に投与すると外勤バチに変わることからもわかります。
はじめは生物時計に関わるものとして研究し始めたNATが、他の働き、広範な器官での活性もあることがわかって様々に研究の幅が広がって きたんですが、もう一度ミツバチの日齢という時間に関わる部分へ戻ってきたわけです。こんな展開になるとは全く予想していなかったことですが、重要な酵素に遭遇していたことはある意味ラッキーでしたね。

ハチの採餌活動とNAT

竹:採餌バチになったミツバチは、より効率良く採餌活動をするために、蜜をたくさん出している花があるとそこでナサノフ腺から匂いを分泌して、近くの採餌バチを呼び寄せます。そして巣へ帰ると、お尻を振りながらダンスをするんですが、 そのダンスが花の方向を指しているんです*2。太陽の方向を垂線に取って、ダンスの方向が垂線からどれだけずれているかで花の方向を示すわけです。そうして巣の仲間たちが花を目指して飛んでいくのですが、ミツバチは数km離れたところで採餌することもあるので、ダンスをしたハチが採餌した時と仲間のハチがそこへ飛んでいく時では時間差が生じ、太陽の位置がずれてきます。ダンスで示した角度と1~2°ずれただけでも、数km先では大きな誤差になるわけです。
しかし、仲間のハチ達も同じ花のところへたどり着けるということは、ハチは太陽の移動を補正するような時計を体内に持っているということになります。
時計を動かすシステムと、その時計がどうやって太陽の移動を補正しているかは別の仕組みで詳しくはまだわからないですが、ここにNATが関わっているだろうと考えています。

光周性とNAT

竹:このようにNATは生物時計に関与するわけですが、その生物時計は時間を刻んで生物の行動をコントロールする働きを持っています。そしてもうひとつ、季節を読む、つまり日長を読むという働きも持っています。これは1950年ごろにアメリカの農学者や、日本の蚕の研究者、木暮槇太さん が発見しました。蚕が一年間に何世代発生するかは日長で決まることを発見し、それを「光周性」と呼びました。
私達もこの光周性をひとつの研究の軸としてやってきまして、柞蚕(さくさん)という中国にいる蚕を研究材料としてきました。何故かというとこの蚕のサナギには窓があって、外の日長によって休眠期間を調節しているんです。その調節機能は脳にあることがこれまでにわかっていて、脳を取り出してあちこちの回路を切ってまた昆虫の体に戻す、というような方法で調べています。
柞蚕は大きい昆虫なので、NATやNATの遺伝子、様々な神経伝達物質、その受容体などの抽出が容易です。それで長い間研究材料に使ってきたのですが、休眠に入る時には変態を制御するホルモンが出ます。一番重要なホルモンが前胸腺刺激ホルモン(PTTH)というものです。このホルモンが出ると変態が進み、出ないと止まるわけです。PTTHが出るか出ないかの制御は神経伝達物質が司っている可能性があります。そこでPTTHが分泌されるかどうかを指標にして休眠が覚めてくる時に起こる変化を見ると、先ほど話したセロトニンとメラトニンも変化していました。NATの活性が上がってメラトニンが生成され、PTTHが出て変態が始まるわけです。
それでこの可能性を証明するために、これまで生物学では突然変異で特定の物質の働きを失った個体を確保して実験していたんですが、分子生物学が進んだ現在では、DNA複製の過程で作られるメッセンジャーRNA(mRNA)というものを操作できるようになりました。操作した二重鎖RNA を投与することで、個体のNATを壊すことができるようになり、その個体は日長が長くなって通常なら休眠が覚める時期になっても覚めなくなります。逆にNATを抑制する因子を壊した個体は、日長の短い休眠時期でも覚醒する。これによってNATが休眠の制御を司っていることがわかってきました。
ハチの日齢制御と併せて、NATが幅広い役割を持っているということですね。はじめに研究対象に選んだ時は、こうなるとは思ってもいませんでした。

―――本当ですね。非常に多岐にわたる物質なのですね。

竹:昆虫の生活に非常に多く関わる物質なので、このNATを制御することは、害虫防除に応用できる可能性があります。NATとして 発現した酵素と適合しそうな物質で、農薬に利用できそうなものを発見はしたんですが、特許の関係で研究は進められませんでした。創りだした人を保護するには必要ですが、後発で研究する側には厳しいものですね。ただ昆虫の世界は未知の物質や未開拓の部分がたくさんありますから、面白い研究対象には困らないです(笑)

研究方法、図書館へのご要望など

―――少しご質問を変えさせていただいて、普段のご研究で論文や情報を集める時には、どのような方法で集めていらっしゃいますか?

竹:そうですね。オンラインのジャーナルで論文を読むのがほとんどです。

―――Kernelに登録していただいている論文は英語のものが多いですが、普段読まれるものも発表されるものも、海外の論文が多いでしょうか?

竹:ほとんどがそうですね。

―――ご研究の中で図書館をどのように活用されているかや、ご要望などあれば伺えますか。

竹:論文は図書館の契約がないと見られないものがたくさんありますよね。そこが機能していないと困る部分は多いですね。

―――何かこのジャーナルは契約が続かないと困るというようなことは?

竹:そうですね。ないことはないですが、それよりも科学関係のものが幅広く揃っていないと具合が悪いのではないでしょうか。
例えば私達は昆虫学をやっているわけですが、昆虫学というのは分野が大きいもので雑誌がたくさんあるんですね。他の分野の研究にはあまりメリットのない雑誌もあるんですが、ただ科学というのは、狭い分野の雑誌だけ読んでいてもいけないところもありますね。ミツバチの社会を理解するにも、私達の体の免疫機構と似たようなところがありますので、昆虫の社会を学ぶ人は免疫機構を学ぶ必要があるわけです。学ぶとインスピレーションが湧いてきたりする。
また他分野からの目で私達の昆虫学を見ていただいたり、そういう横のつながりも必要です。それらの仲介を図書館にやっていただけたらなあとも思います。
学部単位でもセミナーなどはあまりないんですね。時々開催していると聞くこともありますが、大学単位でどういうアクティビティをしているかを知る手立てがあまりないですね。そういう情報を提供したり、ひとつの中心になるのは図書館ではないかと私は思っています。

―――確かに、館内にポスターなど広報物を掲示するくらいはやっていますが、より広く情報提供をすることまではできていないですね。

竹:セミナーなど、学部だけでなくて図書館でやってもいいと思いますよ。

―――そうですね。会場にもなれますものね。
ミツバチの社会性のお話などは、文系の人が聞いても面白いと思いますし、図書館でできれば興味深いですね。

竹:E.O.ウィルソンという社会性生物学の有名な研究者がいまして、『The Ants』や『Consilience』を書いてピューリッツァー賞を取ったりTEDに出たりしている人ですが、この人の論文はアメリカの経済学会が取り上げたりしています。
これからますますそういうことは必要になってくるでしょうね。種のダイバーシティ(多様性)を守るということが私達昆虫学者のやらなくてはならないことですが、それにどういう意味があるのかということまではなかなか訴えられません。環境倫理学とか環境経済学といった分野の研究者と、生物学者もつながらないといけないのではと思いますね。
日本の大学は縦割り構造が強いので、なかなか他の研究者が何をやっているのかなどが見えにくいですね。そこを図書館が中心になってつなげていくのはひとつの方法なんじゃないかと思います。
以前は自然科学系の三学部合同の会議があったり、瀧川記念会館の喫茶店に発達科学部やいろんな学部の人が来て先生がいろんな話をしたりと、エキサイティングな場があって面白かったんですが、なくなってしまいましたね。今の大学にはボトムアップが起きる場所や装置が全然ないです。
ピアノを置いてくれと言ったこともありましたね。音楽ができる場所もいいと思うんです。図書館でコンサートをやっても、いいんじゃないですか?(笑)

―――そうですね(笑)、響きすぎないところがあればいいかもしれません。できたら面白いですね。

竹:他に要望というと、DVDの面白いものなどもありますよね。報道番組やドキュメンタリーなど。そういうものをあちこちで見て、議論ができるように、自由に使えるプロジェクターがあればいいと思いますね。なかなか学部の備品として購入ができないので、図書館で用意されていたりするとありがたいです。

―――なるほど、参考になります。
今日はいろいろなお話を聞かせていただいて、どうもありがとうございました。


*1 「レーガノミクス」と呼ばれる自由主義経済政策。減税と規制緩和、軍事費と社会保障費以外の歳出抑制などが行われた。

*2 参考:「ミツバチの尻振りダンスと採餌行動における効果」岡田龍一/比較生理生化学/Vol. 29 (2012) No. 3/p. 121-130/
DOI:http://dx.doi.org/10.3330/hikakuseiriseika.29.121/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/29/3/29_121/_article/-char/ja/ (2014.4.9 確認)

(文責:附属図書館電子図書館係 小村)