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山内靖雄先生インタビュー2015.3.3 於・自然科学系図書館

Kernelで論文を公開されている研究者を、通信でも取り上げてご紹介しています。今回は、植物が厳しい環境でも強くなる方法について研究され、最近2本の論文をオープンアクセスジャーナルで公表された農学研究科の山内靖雄先生です。

オープンアクセスジャーナルとAPC1について

―――本日は、先生のご研究や、1月にオープンアクセスジャーナルに掲載された論文についてお伺いさせていただきます。よろしくお願いします。

山内先生(以下 山):こちらこそよろしくお願いします。

―――まず、1月に” Scientific Reports”2、昨年12月に”International Journal of Molecular Sciences”3にそれぞれ論文を発表されました。これら2誌はオープンアクセスジャーナルですが、選ばれた理由はおありなのでしょうか?

山:オープンアクセスは読者が無料でアクセスできるので、研究を幅広く知ってもらえる良さがあります。今回オープンアクセスジャーナルに投稿して、色々な人から「ダウンロードして読んだ」と聞きましたので、その点では良かったと思っています。

―――普段とは違う層の方々からも反応があったのですね。オープンアクセスだと幅広く読まれる、ということが窺えますね。

山:そうですね。大学のホームページなどから論文にリンクが貼られますので、「山内さんの名前があったから、細かい内容はよく分からないけど読んでみた」というような反応がありました。こういう声は、購読誌に論文が掲載される場合とは違いますね。ですが出版費用は割合に負担になるような金額です。もう少し安ければもっと普及すると思うのですけれどもね。

―――やはりAPCについては、高額だと思われますか?

山:論文1本に十数万円のところが多いですね。その程度ならまだいいのですが、1本数十万円の雑誌もあります。有名な一流誌は研究者にとってお金にかえられない価値があるので、それでも出そうと思う人もいるのでしょう。しかし現実問題としてAPCがそれだけの金額になると、薬品や機械の購入など研究のために使いたいとも思いますね。

―――今回は企業との共同研究費からAPCを支払われたとのことですが、単独での研究の場合も必要があれば捻出されますか?

山:研究費の総額にもよりますが、数万円程度であれば支払う研究者は多いのではないでしょうか。ただ研究費も減少傾向ですから、年に何本分も支払うことは難しくなっていくでしょう。一方で論文を出さないと評価にも関わりますし、厳しいところですね。年度末近くなど決算の時期に十数万円を支払うことは難しい場合もあります。今回は実験結果が共同研究のテーマに合致するものだったので共同研究費から出せましたが、そうでなかったら難しかったかもしれません。

オープンアクセスジャーナルの課題

―――海外の研究助成機関には、助成対象の研究にオープンアクセスを義務づけるというケースも増えています。私達も研究者の方々がこのような状況をどのように感じておられるのか、率直なところを伺いたいと思っています。

山:公的な資金でなされた研究は、広く誰でもアクセスできるのが当然だと思います。一方で、オープンアクセスのジャーナルは非常に増えていて、広く公開という本来の理念のためにやっている雑誌もあれば、利益追求のみを考えているように見える雑誌もあります。APCを取るにも関わらず、公開された論文は査読や編集を経たように見えないものなどですね。だから最近「オープンアクセス」と聞くとやや胡散臭さを感じる部分もあります。やがて淘汰されていくのかなとは思いますが。

―――APCというものが取り沙汰される前から、学会誌などに投稿料を払って論文が掲載されて、別刷りが届くというパターンがありますよね。そのためAPCを払うこと自体には抵抗感はない、という研究者の声も聞くのですが、そのように思われる方も多いのでしょうか?

山:学問分野にもよるのかもしれませんが、我々の分野でいうと、投稿料を払う学会誌の類と投稿料がかからない出版社のジャーナルとがあり目的に応じて選びやすいんですね。私の場合は投稿料のかからないジャーナルを中心に投稿してきて、「いつかは載せたい」と思う一流誌で投稿料がかかる場合には支払う、というやり方でやってきました。ですからAPCも払うこと自体には抵抗はないんですけれども、APCを稼ぐことが主目的のように見えるジャーナルにさほど質の良くない論文を投稿することには、若干疑問を感じます。

―――国や大学が購読誌の購読料を払い続けている一方で、APCも研究者から出版社へ支払われている。オープンアクセスジャーナルの増加も相まって、二重払いの状態が加速していくのではないか、という懸念もあります。

山:オープンアクセスジャーナルも今までのAPCではなくて、一定額を払えば年間や生涯投稿し続けられる、というジャーナルも出てきていますね。きっと様々な試行錯誤がなされる過渡期なのだろうと思います。

オープンアクセスのための支援

―――イギリスでは国がAPCを少し補助したり、現在Springer社がAPCを10%割引するクーポン4を配布したりしています。こういう動きについてはどのように思われますか?

山:やはりAPCはある程度の負担になっているので、オープンアクセスを推進しようという動きがあるなら、APCの補助や割引は非常に効果が高いと思いますね。大学や国の研究機関からAPCを補助するような後押しがあれば、オープンアクセスに踏み出す研究者はさらに増えるのではないでしょうか。
補助や割引率が高ければその方が助かりますが、そうするとお金がいくらあっても足りないということにもなりますね。オープンアクセスジャーナルは非常に増えていますから、インパクトファクターなどでジャーナルを選別したうえで補助を出す、などの施策があれば非常にありがたいですね。

―――質の担保とバランスを取りながら、ということですね。

―――こういう「補助が出る」とか「APC割引クーポン配布中です」という情報を図書館からお知らせするとき、ホームページへの掲載以外にどのような方法でお知らせするのが、先生方に届きやすいのでしょうか?

山:メールが一番良いような気がします。人によるでしょうけれども、インターネットの長所はいつでも見られるところですが、短所は見ようと思わなければ見ないところですよね。研究者がAPCについて関心を払うのも論文を出す時なので、時期は人によってランダムになります。手元に届くメールで情報をもらっていた方が、目につく可能性は高いのではないでしょうか。

―――SpringerのAPC割引クーポンは1月からHPに掲載しているのですが、どのくらいの先生がご存知なのか、こちらも計りかねています。

山:私は知らなかったですし、周囲の先生も知らないのではないでしょうか。

―――例えば学会を通じてお知らせするのは、先生方に届きやすいのでしょうか?

山:確かに学会からメールは届きますが、いろいろなお知らせにクーポンの情報が混じっていると、埋もれてしまうのではないでしょうか。メールを隅々まで読む人も限られるでしょうし。件名にわかりやすく「APCクーポン」などと記載されて、図書館からメールが届けばまだ目を引きやすいのではないでしょうか。

オープンアクセスへの関心

―――オープンアクセスやAPCについて、先生方の間で話されることはありますか?

山:PLoS ONE5ができた時は話題になりましたね。先駆的でしたし、鳴り物入りというか研究者の間でも有名でした。「どんなジャーナルなのか」「オープンアクセスで有料だけれど、論文の内容がしっかりしていれば載せてもらえる」といった話をしました。同様のジャーナルが増えてくると、常識化したというか、取り立てて話すことはなくなりましたね。

――――オープンアクセスの概念がずいぶん浸透したということですね。

機関リポジトリによるオープンアクセス

―――今回の論文はAPCを支払ってオープンアクセスにされたわけですが、図書館で運営しているリポジトリのように、購読誌の掲載論文を一定期間後に載せたり、著者の最終原稿を載せたりという形のオープンアクセスについてはどのようにお考えですか?

山:それらに大変助けられているところもあります。Google Scholarなどで検索すると大学のリポジトリが出てきてダウンロードできたりしますね。博士論文など重宝しています。学術誌の掲載論文は研究の良い結果をまとめたものになりがちですが、博士論文には試行錯誤の過程も書かれていることが多くて、「同じようなところで苦労しているのだな」など参考になる部分が多いです。
神戸大学でも博士論文が公開されているんですよね?

―――ちょうど3月2日に、2013年度に学位授与された論文を公開したところです6。119編登録できました。

山:そういうのも検索エンジンでヒットしてくるのですよね?

―――はい。即日反映されるわけではないですが、検索エンジンのクローラーからアクセスがあれば。図書館ホームページから直接Kernel7の検索もできます。

―――リポジトリは、論文の著者にも読者にもコストがかからないオープンアクセスのモデルですが、公開している論文は、学術誌の掲載論文そのものでなく著者最終原稿であったり、学術誌掲載から一定期間後にしか公開できなかったり、学術誌よりは劣る条件下になっています。この点は、読者側にとって大きなマイナスになるものではないのでしょうか?

山:それは問題ないですね。それほどマイナスではないです。

―――リポジトリの論文が読者側にとってどれほどの価値があるのかということは、私達もなかなかわからないことなので、そういうご意見が伺えるのはありがたいです。

山:購読誌で読もうとすると数十ドル払わなければいけない、という論文を、体裁は多少違っても同等の内容が読めるのであれば、こちらとしては問題ないと思いますね。分野にもよりますが、掲載後6ヶ月で公開という場合にも「それくらいなら待とうか」という気になるのではないでしょうか。
アブストラクトだけでは、論文の質まではわからないんですね。結局は本文を見ないと判断できないことが多い。ですから購読料を払わないと読めないのに比べると、無料で質の程度を確認できるリポジトリなどは助かっています。

研究について

―――ご研究について、神戸新聞の記事8を拝見しました。” Scientific Reports”に掲載された論文を拝見した時には、私達に理解できるのだろうかと思いましたが、この記事では稲や野菜など身近な農作物に適用できる研究なのですね。

山:そうなんです。3月2日付の読売新聞9にも載りまして、そちらの方が気象データや米の品種改良にも触れた総合的な記事になっています。

―――研究成果を実用化するとなると、例えば作物にこのヘキセナールを混ぜた水を撒くと、高温に強くなる効能が期待できるのですか?

山:そうです。そういう方法が考えられますね。

―――こういった研究をご専門にされた経緯を伺えますか?

山:もともと植物生理学という、植物の生きざまを研究する分野を専門にしていて、特に「植物と環境」をテーマに研究してきました。学位取得後、鳥取大学で働いていたのですが、鳥取には砂丘があるので、その関連で乾燥に強い植物を作るには、どういう遺伝子を働かせれば良いかという研究をしていました。
ただ遺伝子組み換えの植物は、実用化できてもまだ受け入れられにくいですから神戸大学に移った際、遺伝子組み換え以外で植物が環境に強くなる方法を研究することにしました。
植物は環境が悪くなった時にどのような変化を示すのか、植物の中にできる化学物質を調べていると、ヘキセナールという物質が作られることがわかりました。これは、植物の青臭いにおいの物質なんです。

―――私たちもよく知っているあのにおいですね。このヘキセナールを抽出するのですか?

山:化学的に合成できるので、実用化する際には合成したものを使うと思います。
環境が悪くなって植物にストレスがかかった時にこれが作られるということは、そのストレスに耐えるためなのではないかと考えて、逆にヘキセナールを植物に与えて、たんぱく質や遺伝子の変化を調べました。すると「熱ショックたんぱく質」が増えることがわかりました。
「熱ショックたんぱく質」は全ての生きものが持っているものです。普通たんぱく質は熱に弱いですが、この熱ショックたんぱく質は他のたんぱく質を熱から守る働きをします。例えば卵に混ぜると、茹でても固まらなくなるんです。人間でいうと、風邪を引いて熱が出ると熱ショックたんぱく質ができて、病原菌に攻撃されたたんぱく質を修復したり新しいたんぱく質の合成を促したり、という働きをします。
植物にも熱ショックたんぱく質を多く作らせると高温に強くなることが知られていて、今回、ヘキセナールを与えると熱ショックたんぱく質が作られることがわかったわけです。

―――では、地球が温暖化してもこれによって作物を育てられるということなのでしょうか?

山:イメージとしては、実用化に近いのはビニールハウス栽培です。冬でも日差しがあれば、ハウス内の温度は短時間で上がります。夏場など、温度が上がり過ぎると予想される時に、あらかじめ作物にヘキセナールを与えておきます。すると熱ショックたんぱく質が作られ、温度が高くなっても耐えられるわけです。

―――そんなに短時間で変化が起きるものなのですか?

山:ヘキセナールを与えて、だいたい2時間後くらいにはたんぱく質ができます。日差しが強いと、ビニールハウスでは数十分程度で温度が上がり、植物が適応できなくて傷んだり枯れたりしてしまいます。それを予測して、あらかじめヘキセナールを与えておくと防げるわけです。
農家の方々はこういうことに困っているそうなので、共同研究でもヘキセナールを水に混ぜて与える、といった方法で進めています。

―――面白いですね。ハウス栽培は、露地栽培よりも安定した環境と生産量を目的に行うものだと思っていましたから、温度管理の困難さがあるとは考えたことがありませんでした。今のお話を伺って驚きました。

山:安定はするんですが、温度管理は大変です。冬はストーブなどで温められますが、夏に温度が高くなる場合、エアコンをつけるというのは非効率だしコストも過大です。ビニールを上げて風を通しても限界がありますね。簡単な方法で植物を高温に強くすることができれば、ニーズは高いと考えています。

マスメディアの発信力

―――新聞記者の方は、どこで先生の研究を知って取材に来られたのでしょう?

山:神戸新聞は、大学の記者会見で発表した内容が記事になったものです。読売新聞の方は、大学のホームページに掲載されたものを見て、記者の方から問い合わせが来ました。新聞以外では、農家向けのWebマガジンからも取材が来まして、共同研究先の人と一緒にインタビューを受けました。やはり関心を持たれていると実感しましたし、新聞で報じられる効果は大きいなとも感じました。論文がオープンアクセスになっても、マスメディアの発信力ははるかにすごいのだなと。

―――見る人の裾野が桁違いに広いのでしょうね。

山:それに日本語で発信されますし。論文だとどうしても英語で、難しい単語が並びますからね。

今後の展望

―――今回の研究では、何種類くらいの植物で実験をされたのですか?新聞記事ではお米やトマトが載っていましたが。

山:私が使ったのは、シロイヌナズナという実験用植物です。植えてから種が取れるまでのサイクルが1ヶ月半と短いものです。米やトマトは、共同研究先と協力農家とで「試作品」として実験してもらいました。
熱の耐性以外にも面白い結果が出ていて、ヘキセナールには虫も寄せつけなくなる効果があることがわかりました。

―――そうすると減農薬も期待できますね。

山:そうですね。トマトは花も熱に弱いのですが、実験に協力してくれた農家の方が、試しに花にもヘキセナールを噴きかけてみたそうです。そうすると、花の蜜を吸ったり若い実に傷をつける虫が寄らなくなったとのことでした。熱の耐性以外の、意外な効能ですね。

―――神戸新聞には「切り花の鮮度を長引かせることも期待」とありますね。

山:これはまだ「期待できる」という段階ですが、今後実証できるかやってみるつもりです。
もともとは葉っぱのにおいですから、農家や消費者の方も知っているし、実用化は受け入れられやすいと思いますね。

加齢臭の効用??

―――すべての植物が持っている物質なのですよね。

山:そうです。植物だとヘキセナール、人間だとノネナールという物質になります。

―――ああ、加齢臭の原因になるものですね。

山:そうです。生きものの細胞膜はもともと脂でできていて、その膜は年齢とともに酸化されやすくなります。
植物は環境が悪くなると、内部に活性酸素がたくさん作られます。その活性酸素が細胞膜を酸化させて、ヘキセナールが発生するわけです。人間の場合は同じ仕組みでノネナールができます。実はノネナールにも、ヘキセナールと同じ作用があるんですよ。

―――熱ショックたんぱく質を作る作用ですか。

山:そうです。ですから年配の方がガーデニングをすると、植物に熱の耐性がつく、かもしれないですね(笑)

―――なるほど。さらに人間に身近になってきました(笑)

山:生きもの全般が持っている物質ですから、植物でも動物でも、根底に共通点があるわけです。先ほどの例の逆で、森林浴で植物のにおいを嗅ぐと人間の体内にも熱ショックたんぱく質が作られているかもしれないですね。

―――本当に身近な話で、面白いですね。

山:年配になってからガーデニングをすると、植物が喜ぶかもしれません。素手で触ってあげるとか(笑)

―――ちょっと弱ってきたら、身につけた服を被せてあげたりとか(笑) 論文を拝見した時とはずいぶん印象が変わってきました。農学のお話は、伺うと身近なもので面白いですね。

山:そうですね。社会に目を向けている研究が多いですから。

―――本日は長い時間お話を聞かせていただいて、ありがとうございました。

山:ありがとうございました。


  1. APC(Article Processing Charge):オープンアクセスジャーナルで論文を発表する際に著者が出版者に支払う論文処理費用
  2. Reactive short-chain leaf volatiles act as powerful inducers of abiotic stress-related gene expression/Scientific Reports 5,Article number:8030/doi:10.1038/srep08030
  3. Regulation of Photochemical Energy Transfer Accompanied by Structural Changes in Thylakoid Membranes of Heat-Stressed Wheat/Int. J. Mol. Sci. 2014, 15(12), 23042-23058/doi:10.3390/ijms151223042
  4. http://lib.kobe-u.ac.jp/www/modules/news/index.php?page=article&storyid=765
  5. PLoS ONE:2006年に創刊された世界最大のオープンアクセスジャーナル
    http://www.plosone.org/
  6. http://www.lib.kobe-u.ac.jp/kernel/seika/journal_list.html#Thesis
  7. http://www.lib.kobe-u.ac.jp/kernel/
  8. 農作物に「植物由来物質」噴霧 高温でも収穫大丈夫/神戸新聞/2015年1月27日/1面
  9. 暑さに強い植物 開発/読売新聞/2015年3月2日/21面

(文責:附属図書館電子図書館係 井庭・花崎)