神戸大学 > 神戸大学附属図書館 > デジタルアーカイブ > Kernel

【お問合せ】
神戸大学附属図書館 電子図書館係
657-8501 神戸市灘区六甲台町2-1
社会科学系図書館内
Tel 078-803-7333
Fax 078-803-7336

野海正俊先生インタビュー2015.11.12 於・自然科学系図書館

kernel通信では研究者の方々に、普段のご研究の内容や方法、図書館のサービス等につきご意見をうかがい、ご紹介しています。今回は、2015年4月より附属図書館長に就任された理学研究科の野海正俊先生です。

――よろしくお願いします。

野海先生(以下 野):こちらこそよろしくお願いします。

10月13日・14日のシンポジウムとオープンアクセス(以下、OA)について

――早速ですが、先日開催されたEUIJ関西のシンポジウム1について、ご感想はいかがでしたか?

野:面白かったですね。ただOAには様々な考え方があるため、OAと一言で表しただけでは意味するところが誤解される可能性があり難しいですね。
シンポジウムの内容からは、EUというフレームの中でOAがどのように考えられているのかがわかりました。印象的だったのは、特にインフラ面の整備ですね。

――OpenAIRE2やFOSTER3でしょうか。

野:OpenAIREがインフラ、FOSTERは指導や普及活動ですね。EUでは組織的に体制を整えているところが大変印象的でした。

――研究者の立場からは、OAをどうとらえていらっしゃいますか?

野:学問を行って生み出した研究成果は公共財ですから、それに対してアクセシビリティを高めたり、公表した成果が正当であることを証明する根拠を公開したりすることについては全く異論はありません。研究者としては当然のことと考えます。 ですがそれを、不特定多数の方々に無料でアクセス提供するということに対しては、疑問を感じる部分もあります。
例えば著作権の問題と同じですね。著作権の制度に関しても、本を書いたり芸術作品を作ったりする人にそれなりの尊敬の念を持ってほしいわけですよね。見る人がお金を払うかどうかという問題よりは、作品・研究成果に対して敬意を払うことを忘れないでほしいと思います。
また最近ではさらに、データを利活用できるように公開をする必要性も提唱されていますね。確かにユーザ目線からすると利便性は高まると思います。ただし作る側はそれまでに相応の努力をしているわけです。それを不特定多数の誰もが無料で自由に使えるということに対しては疑問もあります。間違ったデータが流通した場合取り返しがつかない、という問題もあります。

OAの義務化について

――なるほど、そうですね。それでは、たとえばシンポジウムでも論題にあった、ミーニョ大学や京都大学のような大学での研究成果のOA義務化についてはいかがお考えでしょうか?

野:機関リポジトリ(以下、リポジトリ)によるOAの実現は、グリーンロード4と言われているものですね。それはOA実現のための1つの方法ですが、分野によっては他にも様々な方法があるだろうと思います。
リポジトリは自然科学系よりも人文社会科学系向きのように思えます。

――特にどのあたりでそのようにお感じですか?

野:自然科学系では、神戸大学で読める電子ジャーナルタイトルの現状では、必要な論文が見られなくて困るということはほとんどないと思います。自分からリポジトリに登録をしようという気持ちにはなかなかならないのが現状ですね。

――和雑誌でも同じ状況でしょうか?

野:私の専門は数学ですが、数学の分野では論文雑誌はほとんど欧文のものです。岩波書店の『数学』5のような和雑誌もありますが、掲載されているのは概説的な論説や書評等で、数学では日本語の論説は研究論文とは見なされないのが普通です。日本語論文や和雑誌の位置づけは、分野によって大きく異なると思います。

――なるほど、ご自身でご不便を感じられることはないのですね。神戸大学での義務化となるといかがでしょうか?

野:義務化に関しては、検討が必要ですね。何より分野により事情が異なります。義務化するのであれば、何を目指すのか明瞭にする必要があると思います。

――実情からするとそうなのですね。ただ、たとえば、規模の大きくない大学や、発展途上国から見られるようになることについてはどうお考えでしょうか?

野:確かにそういった面もありますね。ただよほど意識を高めないといけませんね。ただし、図書館長として電子ジャーナルの予算確保に苦労していることもあり、OAの実現で、学術情報へのアクセスに選択肢が増えることに期待していることは確かです。国立大学の予算が厳しい状況にあるだけに余計そう感じます。

リポジトリ登録のメリット

――先生方にリポジトリへの登録を依頼していますが、なかなかすすみません。先生方に実感していただけるメリットがあればよいのですが。現状ではダウンロード数の通知を行っていますが、それ以外にリポジトリにあったらいいなと思われる機能などはありますか?

野:そうですね……。たしかkernelには論文以外も登録されていますよね?

――教材や標本データベース6などですか?

野:はい。講義の資料や標本データベースのように、リポジトリの他に公開の媒体がないものにとっては有用なのではないでしょうか。もしくは、紀要の電子化は意味があると思います。大学が出版している紀要や講義録は、リポジトリ以外では電子的にアクセス出来ない場合がありますね。

――なるほど。紀要のバックナンバーの電子化は需要がありそうですね。バックナンバーの電子化はkernelでも順次すすめています。

野:どれくらいすすんでいますか?

――たとえば、『国民経済雑誌』7は、著作権を個々に確認して許諾を得られた場合電子化しています。

野:それは大変な作業ですね。(kernelをご覧になりながら)他にもいろいろな紀要が電子化されているんですね。そういえば、専攻・学科などで発行しているセミナーノートのようなものもありますよね。京都大学の『数理解析研究所講究録』などは研究集会の報告集を兼ねたものですが、個々の論文でなく、そういうものはいかにもリポジトリに向いていますね。

――個々の論文の登録の意義については、もともとは大学の研究成果のショーケース的役割という文脈もありましたが、KUID8があればその役割はリポジトリには必要ないともいえますね……。
ただ、KUIDからリポジトリへのリンクを作成しており、リポジトリにはコンテンツ自身があるという役割があります。

野:なるほど、そういった棲み分けなのですね。とはいえ、コンテンツがOAジャーナルに掲載されている場合、出版社サイトにリンクを作成することができればいいわけですよね。リポジトリ自身がコンテンツをもっている意味はあるのでしょうか。

――リポジトリには保存という意味もあります。可能性は低いかもしれませんが、今OAジャーナルでアクセス可能なコンテンツでも永続的に公開される保証はありません。

野:なるほど。通常はOAで見られる論文雑誌でも、出版社が変わったり、係争中で一時的にアクセスできなかったりするときなどにそなえた保存用アーカイブとしては確かに有用かもしれないですね。そのほうが、意義があるかもしれないです。電子ジャーナルでも、誰が恒久的に資料を保管するのかという心配があります。

――それでは保存という意義もメリットとしてアピールしていくとよさそうですね。ご相談にのっていただき本当にありがとうございます。

普段の業績管理

――さきほども少しKUIDの話がでましたが、通常の業績管理はどのようにされていますか?KUIDへの入力は義務付けられているのでしょうか。

野:KUIDとは無関係に、インターネットが大学でも使われ始めた1990年代ごろから、自分で業績リストを作成しています。内容は、出版した論文や口頭発表のリスト、どんな授業をしているかなど、学術的活動に関する記録のようなもので、随時更新しています。
KUIDの入力方法は部局ごとで異なると聞きますね。私の所属する数学科では、年次報告用のフォーマットがあり、教員がそのフォーマットでデータを送ると、KUIDへの入力は事務の人がやってくれます。

――なるほど。先生はResearchGate9のページもお持ちのようなのですが、ご自分で登録をされたのでしょうか?

野:自分では登録していないのですが、論文が自動的に収集・登録されているようです。たびたび、勧誘のメールが送られてきます(笑)。研究者の方で積極的に利用している方もいますね。また論文にアクセスするときにResearchGateの方が便利という方もいるようです。

普段の研究スタイル

――通常はどのようなツールを使って研究をすすめられていますか?

野:通常はコーネル大学図書館が運営しているarXiv10というプレプリントサーバで情報収集をすることが多いです。数学や物理の研究者の多くは、雑誌に投稿する前後に、論文原稿をarXivにアップロードします。そのため、論文が雑誌に掲載される頃にはすでに内容を知っていることが多く、論文雑誌が速報であるという感覚はあまりありません。

――arXivはとても便利なのですね。

野:そうですね。誰でも投稿できて審査もないので玉石混淆ともいえますが……。通常は、注目すべき研究者や論文の情報をあらかじめ知り合いの研究者から聞いていて、サーチすることが多いです。

――そうなるとリポジトリを利用しようということにならないですね……。

野:出版社版とarXivに登録されているプレプリントでは、タイトルやフォント等の組版の仕方は多少異なりますが、だいたいの内容は確認できます。出版前にarXivに原稿をアップロードする習慣なので、それをしないと他の研究者に情報が届きません。

――それくらいよく使用されているのですね。その他、どのようなツールを使われていますか?

野:一般的な雑誌論文のデータベース等よりも、アメリカ数学会のMathSciNet11というデータベースをよく使用します。 こちらは検索機能等が充実しているのはもちろん、特定の研究者の業績リストや、特定の論文を引用している論文のリストなどを出力することも出来ます。

――とても機能が充実しているのですね。ご様子がよくわかりました。ありがとうございます。

ご研究内容について

――それではご研究内容について教えていただきたいと思います。まず、大学に入られたときかと思うのですが、数学を専攻された動機をうかがえますか?

野:もともと自然科学全般に興味がありました。ただ、どんな分野も自分だけでは結論が出せないのが普通で、他の研究者の実験や計算の結果に基づいて研究をすすめる必要があります。その点数学の場合は、証明にせよ計算にせよ、原理的には自分の頭と手で確認して決着をつけられるところが面白いと思いました。

――なるほど。ご著書を見てみようとしましたが、前書きだけでも私たちにはなかなか理解がおよびませんでした。すみませんが内容をご紹介していただくことはできますか?

野:パンルヴェ方程式についての著書12は、専門分野の最近の話題を、学部や修士レベルの学生が読めるようにまとめたものです。

――このような著書を見ていても、数学にあまり知識のない者からすると、日々の生活と数学との関連か想像しにくいのですが、いかがでしょうか?例えば農業などなら品種改良等、生活との関連が想像しやすいのですが。

野:普通はリンクしていないと思います。音楽を楽しむ人が、普段音楽が生活に役立つかどうかは気にしないですよね。私の場合は音楽や絵を味わうような感覚で、直接世の中に役立つようなことは考えていません。
もちろん数学そのものは、ありとあらゆる分野で使われていて、間接的に実社会の役に立っています。例えば壁の内部に傷があって非破壊検査をする場合でも、どういうデータをとりどういう計算をすると何が言えるか、ということは数学を使って考えるわけです。自分の研究にしても、今直ぐではないとしても、何らかの形で役立つ場面があるだろうと期待しています。

――ご専門はどのように位置づけられるのでしょうか?

野:通常、数学は代数・幾何・解析と分けます。私は解析(関数、微分・積分)的な問題を代数的な手法で研究していて、代数と解析の境目のようなところにいます。たとえばパンルヴェ方程式は、解析の中の、微分方程式の一種です。
またオイラーの図書13については、18世紀半ばに書かれた本を題材にしています。ある事情でその本を読むことになったときとても感動し、高校生でも味わえるようにと、どこがどのように面白かったのか書いたのがこちらの図書です。

――定理や数式には数学者の名前がついていることが多いのでしょうか。

野:パンルヴェもオイラーも数学者の名前ですね。パンルヴェ方程式は6個の微分方程式の総称です。一言で内容をあらわす名称をつけられればいいですがそれは難しいため、数学者の名前がついていることが多いんじゃないでしょうか。
ただし、ヤコビ多項式のように多項式についている人名は発見者とは限らないという話もあります。発見者でなく、役立たせた・広めた学者の名前がより有名だからという理由で数式の名称となることがあるらしいです。

――面白いですね。普段のご研究では、数式を解かれるのでしょうか?それとも数式を何かに応用をされた結果を公表されるのでしょうか?

野:解けていない方程式を解くこともありますし、解の存在は分かっているが正体が分からないときは,解をどう具体的に記述するかを考えたりします。
一つの方程式について、解がどれくらいあるか、個々の解や、解の全体がどんな構造を持っているかを理解するために、いろいろ試行錯誤します。うまく表現するのは難しいですね。(笑)
方程式には変換ということをするのですが、方程式を変換して簡単にする仕組みがわかれば、解けたともいえますね。
私の場合は、式そのものが興味の対象で、それが世の中の何を表しているかは研究の段階ではあまり考えません。やっていることは、式のどこを見てどんな計算をすると何がわかるか、というような知見を深めることといえるでしょうか。

――やっぱり芸術に近い感じがしますね。

野:そうですね。そういった研究が他の分野の研究に役立つこともあるだろうと思っています。

――大変勉強になりました。本日は本当に、ありがとうございました。


  1. http://lib.kobe-u.ac.jp/www/html/events/euoa.html
  2. https://www.openaire.eu/
  3. https://www.fosteropenscience.eu/
  4. グリーンロードは、研究者による論文の各種リポジトリへのセルフアーカイブを指す。
    OA実現のための方法として、OAジャーナルを手段とするゴールドロードとともに、BOAI(Budapest Open Access Initiative)で提唱された。
    参考:http://www.lib.kobe-u.ac.jp/kernel/letter/kernel_letter14.pdf
  5. 日本数学会出版、岩波書店発売の『数学』
  6. http://www.lib.kobe-u.ac.jp/products/※「学内研究成果」として公開している。
  7. http://www.lib.kobe-u.ac.jp/kernel/seika/ISSN=03873129.html
  8. http://kuid.ofc.kobe-u.ac.jp/InfoSearch/
  9. https://www.researchgate.net/
  10. http://arxiv.org/
  11. http://www.ams.org/mathscinet/※契約制データベース
  12. 野海正俊. パンルヴェ方程式 : 対称性からの入門. 朝倉書店, 2000, (すうがくの風景, 4)
  13. 野海正俊. オイラーに学ぶ : 『無限解析序説』への誘い. 日本評論社, 2007

(インタビュー:附属図書館電子図書館係 井庭・花崎 / 文責:花崎)