神戸大学 > 神戸大学附属図書館 > デジタルアーカイブ > Kernel

【お問合せ】
神戸大学附属図書館 電子図書館係
657-8501 神戸市灘区六甲台町2-1
社会科学系図書館内
Tel 078-803-7333
Fax 078-803-7336

浅岡先生インタビュー2016.6.22 於・海事科学研究科

kernel通信では研究者の方々に、普段のご研究の内容や方法、図書館のサービス等につきご意見をうかがい、ご紹介しています。今回は、kernelへの論文登録やライティングセミナー[1]へのご参加などの形で図書館のサービスを普段からよくご利用くださっている、内海域環境教育研究センター・海事科学研究科ご兼任の浅岡聡先生です。

――本日はお時間をいただき、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

浅岡先生(以下 浅):こちらこそよろしくお願いいたします。

科学者になられるまで

――それではまず先生ご自身につきうかがいたいと思います。科学者を目指されたきっかけを教えていただけますか?

浅:実は、少し重い話にはなるのですが、大学時代に2年間文学部で心理学を学んだものの、当時の私はカウンセラーの実習などで悩みを抱える人達の思いを受け止めきれず大学に行けなくなったことがありました。
 その際、自分の気持ちを振り返ると、そもそも高校までの間にも科学が好きで、実際は大学で理系学部に入りたかったのに、受験で妥協して文系に進んだことに思い至りました。本当は理系学部で実験をしたかったのですが、文系の中でも実験等ができる心理学を選んで気持ちを紛らせていたのかもしれません。そして、アルバイトをしたりして学校に行かない日々を過ごしていたのですが、もう1度大学に進むことを決意し、1年生から入り直して、今度は農学部の応用生物化学を専攻しました。

――そんなご経験がおありだったのですね。今の分野のご研究にいたるまでのお話も、できましたら聞かせていただけますでしょうか?

浅:大学に入学した2000年代当時、環境問題が社会的に注目されていたこともあり農学部に入って農学や環境について学んだのですが、機械を作る・環境を修復するなど、形になる成果を出すためには工学も学ぶ必要があるという思いから、大学院では工学を専攻しました。
 さらにそれから、環境を良くするには生態系全体を見る必要がありますので、博士課程では生物学の道へ進みました。その後は、これまでとは違う分野ですが、地球惑星学科の宇宙・地震・地学等をテーマにした研究組織に就職しました。その頃、東日本大震災が発生し、地震や福島の放射線に関する情報が次から次へと入ってきていました。その後、工学のポスドクを経て、神戸大学の内海域環境教育研究センターに赴任し、さらに現在は内海域環境教育研究センターと海事科学研究科での兼務となっています。

――とても多岐にわたる分野をご経験されているのですね。多様な分野のご経験が、他分野の方とのコミュニケーションに役立っていらっしゃるのではないでしょうか?

浅:そうですね、共同研究をする際には役立っていますね。
例えば今、昨年度に人工衛星の研究者・古環境[2]の研究者と共同で「若手研究者異分野融合研究アイディアコンテスト」に参加して採択されたため、外部資金への応募の準備を行っています。自分だけではできない、異分野融合の研究をする際にはこれまでの自分の経験が生きていると感じますね。

――確かに、環境分析に関するデータを、GISを利用してマッピングすると面白そうですね。

浅:そうですね。
 また、心理学は途中でやめてしまいましたが、普段、学生の悩みを聞いたりする際などに、今は役立っていますね。

教育への思い

――多様なご経験が、研究だけでなく教育にも生かされているんですね。

浅:教育に携わることになったきっかけに関しても、やはり一度自分が転向したことは大きな出来事でした。現在、化学関連の科目を教えていますが、高校生時代には文系でしたから、化学IIや生物IBの半分ほどを学んでいなかったんです。その状態で農学部に入学したので授業にもついていけなかったのですが、それでなぜ続けることができたかというと、大学に行けない時期があったため、授業の内容がわからなくても大学で講義を受けることができるようになっただけでも嬉しく感じたからだと思います。授業で出された課題を、ほとんどの友人は授業中に10-20分で解くことができていたのですが、自分はわからず、その時間中に終わらないので同じような境遇の学生と一緒に図書館に行き取り組んで、夜になり、やっと先生のところへ課題を出しに行くというような生活をしていました。
 その際、他の学生はとても頭の回転がいいのに、それを必ずしも生かし切れていないのではないかと思った経験があります。当時、自分自身は彼らと比較して、頭の回転はよくないと感じていましたが、頑張れば成果が出たんです。能力を出し切ることへの可能性に気付いたことが、教育に携わるきっかけとなった部分があります。

――では研究者だけでなく教育者も志されていた部分があったのですね。

浅:はい、多少ありました。研究だけをやりたければ研究所に所属していてもいいですが、大学には、研究と同時に教育も行うという意義がありますね。

――確かに、学生がどこまで能力を発揮できるか見守るというのは教育者としてやりがいがありますね。その当時からの思いは、研究室や学生で実際に学生に接する時も生きていますか?

浅:はい。そう思います。当時の思いが今も生きていて、方針を持って教育に携わっています。

――先生は、海事科学部の学生向けに多くの図書を推薦してくださっていますね。たとえばこちらの写真集[3]は、とても美しい本ですね。

浅:はい、足尾銅山からの鉱毒の影響を被った渡良瀬遊水地が、再生した姿の写真集です。完全に再生しきっているわけではないでしょうから、再生というと語弊がありますが……。

――あとは、仕事に関する本[4]や、その他研究方法についての本[5]もご紹介くださっていますね

浅:『ラボノートの書き方』[5]は自分でも購入しました。例えばここに書いてあるように、書き方の決まりがありますね。ノートに割り印・サインをすることなどもそのひとつです。このノートでも、ここ(天の部分)にアルファベットが書いてあり、途中で都合が悪いからといって破るとわかるようになっています。紙も通常の紙でなく、少なくとも20-30年保存が可能な丈夫な紙を使用しています。

――研究倫理や論文の書き方等は、先生ご自身は同じ分野の研究者の方から習得されたのですか?

浅:これまでは、本を読むなどして自分で学ぶものだと考えて自分もそうしていましたね。ただし、今は教える環境を整える必要もあるのでしょうね。

ご研究内容について

――それでは、先生のご研究の内容につきましても詳しく教えていただきたいと思います。たとえばこれらの文献[6][7][8]を読ませていただいて感じたのですが、先生のご研究は、地域への還元という側面が強いのですね。
 以前に広島で地域と連携したプロジェクトをされていたとのことですが、神戸でも自治体と連携したご研究をされているのですか?

浅:はい。地域に還元できる研究をしたいという思いは強いです。今、神戸では、広島にいた頃に続き、電力会社と連携して研究をしています。その内容に関しては「化学と教育」という雑誌で、高校の先生向けの解説[9]も書いています。これは石炭灰を使った研究なんですが、石炭灰は国内で年間どれくらい発生すると思いますか?

――1万トンくらいか、それとも5万トンくらいでしょうか?

浅:実は、1300万トンくらい発生するんです。そのためこれをうまくリサイクルできないかと考えました。石炭灰にセメントを混ぜると反応がおこり、硫化水素が酸化されます。現在、瀬戸内海では、硫化水素の発生によって生物が棲めなくなっている地域があるんですが、どれくらいの範囲だと思いますか?

――3分の1くらいでしょうか?

浅:いい線です。大阪から山口にかけての瀬戸内海の内、約3割の地域で、硫化水素だけが原因ではないですが、生物が棲めなくなっています。それを解決するため、石炭灰をリサイクルして海の環境を改善するということを電力会社と共に行っています。これを、島根県の中海、広島湾、山口県の田布施などで実践しています。

――石炭灰がセメントと反応を起こした後はどうなるのですか?

浅:石炭灰とセメントの混合物(以下、石炭灰造粒物)により硫化水素が酸化され、硫黄になります。わかりやすくいうと温泉などで見られる無害な「湯の花」に変わります。石炭灰造粒物中の硫化水素を酸化する物質は、季節が移り変わると再生するので、硫化水素との酸化反応を繰り返すことができ、石炭灰造粒物は一度、海底に埋めれば少なくとも10年くらい使用できることがわかっています。

――一度埋めた石炭灰造粒物はどうやって取り出すのですか?

浅:実験であればダイバーさんに採取してもらいますし、現場実証試験であれば10年くらいは採取しません。

――なるほど。ところで、研究を進められる際、水質改善という課題がまずあり、それに対するアプローチを考えられるのですか?

浅:はい。アプローチを考える際、大量に入手でき、かつ安全な材料を使うことを考えます。また硫化水素が減ったということだけでなく、どういうメカニズムで減ったのかということに対しても科学的根拠にもとづいて示さなければなりません。

――実験はだんだん大規模になっていくのですか?また、学部生・院生さんのレベルでもそれぞれの規模の実験を経験するのでしょうか?

浅:だんだん、実験の規模を大きくしていって、最終的に現場に行きます。
 すべては無理ですが、このような研究の一部を、学部生・院生が担うことはあります。

――少しお話が戻りますが、先ほどご紹介くださった「化学と教育」の解説[9]は、教育の目的で執筆の依頼があったのですか?

浅:はい、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の高校の先生向けに、高校の化学の教科書の範囲を逸脱せずに執筆するようにという依頼でした。少し難しいですが高校の化学がわかっていれば理解できる内容です。
 ところで高校で化学を習う際は、反応式を暗記することを教えられますよね。ですがこの文献[9]では、それを理論で覚える前にまず計測していて、反応式はほとんど出てこないです。例えば図4の値は、広島大学放射光科学研究センター[10]という施設で計測してデータをとっています。国内には、スプリング・エイト(SPring-8)[11]を含めて様々な放射光の実験施設があり、元素や実験目的によって施設を使い分けているんです。
 高校の化学で暗記が中心で苦手意識を持った学生さんでも、大学ではこのように計測や考えることが中心なのでそれを克服できる可能性があります。

 たとえば、この2つの図は高校の化学ではシスとトランスと覚えますが、どちらが安定していると思いますか? これを暗記すると難しいですが、これが、やじろべえだと思うと、見ただけでバランスの良し悪しがわかりますよね。
 

 

他にも、たとえば虫よけスプレーが人には効かずに虫には効く理由を考える際も同様です。高校や大学で、電気陰性度について習っていますよね。有機化学反応では、一般的にはマイナスがプラスを攻撃します。その性質を上手く利用して、薬剤の電荷や構造を操作することで、虫と人間に対する解毒作用の有無を変えることができます。
 暗記すると、物質が変わったらわからなくなりますが、原則がわかっていれば、物質が変わっても応用して考えることできます。

――こうやって実際に役立つことの為に考えているという実感があれば楽しくなりそうですね。

図書館のご利用について

――普段図書館はどのように利用されていますか?

浅:文献の利用については電子ジャーナルがほとんどなので実際に図書館に出向くことは少ないです。
 その他、ラーニングコモンズで開催されたライティングセミナーに参加したり、学生にガイダンスを案内したりしています。ただ実際の学生の参加は少ないですね。参加を促すためには教員と図書館で一緒に考えていかなければならないと思います。現在、文献の調べ方は、学部生や院生が研究室に入ってから、教えなおさないといけないので、彼らがそういった図書館のガイダンスに行ってくれるとかなり助かります。またライティングセミナーのような内容は、どの分野でも必要なので、教養原論の授業等で1コマあるといいですね。

――それが今後の図書館の課題でもあります。今後努力していきたいと思います。

浅:また、先般、電子ジャーナルの削減という話がありましたが、やはりそれだと研究にかなり影響があります。

――そうですよね。通常ご研究の際、必要な文献を大学で購読していなくて読めないということはありますか?

浅:時々はある、という程度です。神戸大学のように、それほど不自由なく文献をダウンロードできる環境の方が珍しいですよね。今の環境をぜひ維持してほしいです。

――神戸大学の学術成果リポジトリkernelにも先生自らご連絡をいただき、多数登録していただいています[12]。本当にありがとうございます。

浅:研究分野上、特に海外の共同研究者の方と文献を共有するのに、利用しています。

――ありがとうございます!投稿先にオープンアクセスの雑誌を選ばれることはありますか?

浅:現況では、研究論文の評価が引用数等で決まるという方法が確立されてしまっており、やはりインパクトファクターの高い雑誌に投稿せざるを得ないですね。ただそうなると、英語の論文ばかりになり、本当に情報が伝わらなければならない方に情報が伝わらないので、それらに加えてこういった一般の雑誌[9]のお話も受けるというようにしています。企業から問い合わせがあった時などにも、英語の論文だと伝わりにくいと思いますが、一般の雑誌に執筆していると研究内容を伝えやすいですね。

――先生としては専門の研究者同士の情報の流通の他に、一般の方にも届けたいというお気持ちをお持ちなのですね。

浅:そうですね。研究を社会に生かすという意味では、情報収集のために市役所等に足を運ぶこともあって、そこで課題が見つかることもあります。広島での、カキ殻のリサイクルの研究[6][7][8]もそうでした。

――最後に、研究者の方のサポートのために図書館は何ができるかについてですが、やはり現在はお忙しく、研究に専念するのが難しい状況ですか?

浅:はい。研究以外にもやるべきことは多いですね。神戸大学の授業以外にも、様々な場所で授業を行っています。内海域教育研究センターの仕事として、マリンサイト[13]での小学生の環境体験授業も担当していますし、他大学の学生向けの実習も担当しています。また月に1回、SSHの高校の理科指導員も担当しています。その他大学の会議等もありますので、忙しいのは事実ですね。

――たくさんのところで授業をされているのですね! 図書館や大学全体が、教育やその他の面でできるだけ先生方をサポートできるといいのでしょうね。先生方からも、研究に専念するために必要だとお感じのことについて、今後要望を挙げていただけましたら、ありがたいです。

浅:よろしくお願いします。

――本日はいろいろなお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。


  1. http://lib.kobe-u.ac.jp/www/modules/news/index.php?page=article&storyid=934
  2. 古環境とは、過去の環境(気候, 地形, 海水準変動, 水陸分布等)のことで、これらの環境を調査し地球の歴史を解明する学問を古環境学と呼ぶ。
  3. 堀内洋助. 再生の原風景 : 渡良瀬遊水地と足尾 : 堀内洋助写真集. 東京新聞, 2013
  4. 安藤眞. 環境の仕事大研究 : ビジネス分野と就職・資格のすべてがわかる!. 第3版, 産学社, 2012
  5. 岡崎康司, 隅藏康一編集. ラボノートの書き方 : 理系なら知っておきたい : 論文作成,データ捏造防止,特許に役立つ書き方+管理法がよくわかる!. 改訂版, 羊土社, 2012
  6. 山本民次, 山本裕規, 浅岡聡. "第3章 沿岸管理の現実と理想―水産業と沿岸―1 太田川―広島湾流域圏―". 森と海をむすぶ川 : 沿岸域再生のために. 京都大学フィールド科学教育研究センター編. 京都大学学術出版会, 2012, p. 127-150
  7. 山本 民次, 浅岡 聡. カキ殻 : カキ殻のリサイクルによる海域環境の修復 (特集 おまちかね地方名産品の化学). 化学と工業. 2013, 66(12), p. 978-980
  8. 山本民次, 浅岡 聡. カキ殻の化学的性状を活用した底生生態系の回復. 月刊海洋. 2015, 532, p. 96-101
  9. 浅岡 聡. ご当地の化学 兵庫県/近畿支部 石炭灰を用いた閉鎖性水域の環境の改善. 化学と教育. 2016. 64(1), p30-33
  10. http://www.hsrc.hiroshima-u.ac.jp/
  11. 兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出し、その中で物質の原子・分子レベルでの形や機能の調査を行うことのできる大型放射光施設。
  12. 浅岡先生ご執筆の、kernel登録済の論文
  13. http://www.research.kobe-u.ac.jp/rcis-kurcis/KURCIS/marine.htm

インタビュー:附属図書館 佐藤, 谷口, 花崎 / 文責:花崎(電子図書館係)