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萩原先生インタビュー2017.12.13 於・兼松記念館

kernel通信では研究者の方々に、普段のご研究の内容や方法、図書館のサービス等につきご意見をうかがい、ご紹介しています。今回は今年度、館長として就任されました経済学研究科の萩原泰治先生です。

――本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。午前中も「書評・キャッチコピーコンテスト」の授賞式に参加いただきありがとうございました。

萩原先生(以下 萩):こちらこそよろしくお願いいたします。今日は図書館デーなのかもしれませんね。

先生ご自身について

――さっそくですが、先生のバックボーンについて、現在の道を歩むきかっかけを教えてください。

萩:経済学部に進学したことは、祖父が神戸高等商業学校(神戸大学の前身)出身だったこともあり、両親の影響が大きかったのかもしれません。実際に入学してから、置塩信雄先生の授業を受けて、研究者の道を歩み始めました。

――置塩先生はどのような先生なのでしょうか。

萩:先生はマルクス経済学において世界的な研究者であり、その一方でケインズ経済学といった現代的な経済学も研究されていました。また先生は数理マルクス経済学という数学モデルをつかう経済学をはじめられた方です。こちらはその置塩先生の『蓄積論』[1]です。経済学に関心のある学生さんにも読んでもらいたいですね。

――こちら、ずいぶん時間が経っていますが、今でもよく読まれている名著なのですね。

萩:『蓄積論』の初版は1967年ですが、今でも色あせない1冊です。現在、こちらを英訳する仕事をしています。『Kobe University Social Science Research Series』[2]から英訳が刊行される予定です。

――そのようなお仕事もされているのですね。学部時代に経済学の面白さに出会って、研究者の道を歩むきっかけになったということですが、もし、今のお仕事でなければ、どんな職業に就いていたと思われますか?

萩:そうですね…研究者以外の進路について、当時、ほとんど考えていなかったように思います。学生にはいろいろな選択肢を考えるよう、指導していますが(笑)
幼いころは本が好きで、一年間に図書館で200冊くらい読むような子だったので、漠然と司書になれたらいいなと思っていた時もありました。図書館長として図書館に関わるようになって、想像していたよりもたいへんだなと感じています。

経済学者としてのあゆみ

――研究者としての道を歩み始めてからについてお聞かせください。

萩:大学院に進学して、ドクター2年生のときに、経済経営研究所の経営分析文献センターの助手の職を得て5年ほど企業データを用いた分析を行っていました。それまではマクロ経済学をやっていたのですが、企業分析というミクロな企業レベルでの分析を手掛けるようになりました。その後89年に経済学部に現代技術論(技術・環境分析の前身でもある)という講座ができ、そちらに移り、イノベーションの研究を行っていました。製造や取引といった行為を繰り返し、少しずつ変化していく通常の経済活動とは異なり、イノベーションは発明といった前例のないことをやるという側面がありますが、そこにどういうルールや法則性があるか、データとのきれいな関係性というのはなかなか見出しにくく迷うことも多いです。そのため、個別のイノベーションではなく、もっと大きな技術の変化、産業レベルの分析を手掛けるようになりました。

――産業連関分析について説明していただけますか?

萩:ボールペンひとつを例にすると、たとえばある会社がボールペンを製造しようとすると、インクの原材料、ペン先のボールの材料、それらを作る機械が必要になります。本体にプラスチックが必要になりますから、プラスチックのメーカーに注文して、プラスチックのメーカーは石油化学の会社に注文して…というようにさかのぼっていくことができます。インク、ボール、プラスチックなど、ボールペンに関わる様々な経済活動がどのように相互に依存しているかを、データをつうじて分析します。国内で最も細かい統計データは、産業を400に分類し、それらの消費・投資・輸出について示しています。身近な例として、阪神タイガース優勝の経済効果というものがメディアで取り上げられることがありますね。チケット、グッズや飲食代、球場に行く交通費、遠方の球場に行く際はホテルなどに宿泊するなど、我々が普段よりも余計に消費することで、需要がのびて企業の生産活動が増えます。その結果、生産がどの程度、増えるのか、近畿地方ではどれだけ増えるのか、賃金がどの程度上がるのかというのを産業連関分析の手法を用いて経済効果というものを計算するのです。

――産業連関分析とは経済学の中でどのような位置づけなのでしょうか?

萩:経済学の理論的な分野でいうと「一般均衡理論」ものに位置します。これは、「みんなバラバラに取引しているのに、全体としては巨大な売れ残りがない」ということに対してなぜそうなっているかという経済学の初期からの問題です。古くはアダム・スミスの「神の見えざる手」という言葉が有名ですね。理屈としては複雑な数学モデルはいくつも生まれていますが、実証的な、つまり実際のデータを用いるのは産業連関分析という手法なのです。

――実際のデータを用いる実証的な研究にはどのような特徴があるのでしょうか。

萩:産業連関分析は80年前に最初の論文が公開され、産業連関表というものに基づいて分析を行います。日本の場合、総務省が中心となって、1951年に最初の産業連関表が作成され、5年おきに更新されていました。たとえば兵庫県を中心として、他府県との取引を分析する兵庫県産業連関表という方向と、もうひとつは今まさに取り組んでいるのですが、47都道府県の取引をまとめる表づくりをやっています。産業連関表には、小さな地域の取引構造をみる産業連関表と、世界の貿易の流れを調べて各国がどのように相互に依存しているかを考える国際産業連関表という二つの方向があります。この流れはここ10年くらいの面白い研究のひとつで、日本がアジア産業連関表というものをつくったことに端を発しています。なかには180か国をまとめた産業連関表を作っている研究者もいます。経済活動というものはお金のやりとりだけではなく、たとえば、私の研究室に所属する院生さんは、二酸化炭素の排出量について取り組んでいます。日本で製品を作ろうとすると、各国から原材料を輸入しますよね、そのことで各国の生産活動が刺激されて、各地で二酸化炭素が排出されます。二酸化炭素の排出でいうと、排出源なのかその原因となった需要した国に責任があるのかという議論があります。日本が製品を作って輸入するのなら、外国から二酸化炭素をある意味では買ってくることになります。そして輸入することでその二酸化炭素も“引き摺って”輸出しているといえるでしょう。それは二酸化炭素を貿易するかのような考え方を取りいれています。

――バーチャルウォーターにも似ていますね。

萩:そうですね。考え方としては、カーボンフットプリント、エコフットプリントとも言いますが、足跡をたどっていくようなことも産業連関分析をつかって可能になります。経済活動の後ろにいろいろなものがくっついています。私が最近、論文で取り組んだマルクス経済学では、利潤というものをこのように考えます。たとえば私が働いて得た賃金で物を買います。この商品は誰かが作っているので、ここには誰かの労働が付随しています。この誰かの労働と私が提供した労働を比較して、前者の方が大きいとそれは搾取になります。搾取というものがあると、産業全体としては利潤があると考えます。

データの公開をめぐる状況

――こういったデータを入手すること自体が大変なように思いますが…

萩:かつては1年くらいかけて各国から収集していましたが、最近では特にEUのプロジェクトで、40か国をカバーした国際産業連関表を無料で公開するようになりました。昔は日本の産業連関表は有料でしたが、今は無料で手に入るようになりました。税金で調査した成果をオープンにするのはある意味、当然とも言えますし、国内においてもオープンにする機運が高まっているのを感じます。

――他にはどんなデータの提供事例がありますか?

萩:経済学研究科と経済経営研究所と総務省と一緒に、ミクロデータアーカイブというプロジェクトを行っています[3]。国勢調査で収集したデータは、公開にあたって個人情報が保護されたかたちで提供されていますが、研究のためにはより高度なデータも必要になってきます。行政機関等の承諾を得て調査票情報等の機密データを提供する窓口として機能しています。

――昨今、オープンデータの話題もよく耳にするようになりましたが、先生ご自身はどのように感じられていますか?

萩:国勢調査のデータ提供事例をとってみても、外国の方がもっとあっけらかんとしているかもしれません。そのような諸外国と競争するうえで、やはりデータのオープン化というものは国際競争においても必要だと思います。総務省のみならず、もっと企業データも公開にしてほしいと思います。
この他、たとえば「公共目的の利用ならOKですよ」というような条件付きで公開された場合、何をもって公共とするのかという判断はとても難しいです。依頼者の所属で判断するのか、目的で判断するのか…まだまだ、データの公開においては課題があります。

――政府や行政以外に、研究者が主体となってデータをオープン化する事例はありますか?

萩:東日本大震災で、東北大学が被災地域企業のアンケート調査を行いました。この調査結果は公開される予定です。その際に、調査会社の資料とともに公開するので「研究者にのみ公開」という条件付きで公開するという事例もあります。個別の研究者が収集したデータの公開というものは、国内ではまだ事例が少ないのではないでしょうか。海外に目を向けると、ミシガン大学が中心となって運営しているICPSR[4]があります。社会科学に関する調査の個票データを世界各国や国際組織から収集、保存し、それらを学術目的での二次分析のために提供するデータアーカイブです。日本のハブとして東京大学社会科学研究所が参加しており、神戸大学もそこに紐づく形で参加している。そこでは主に各研究者が収集した世論調査が提供されています。

震災の経済分析

――最近、取り組んでいる研究について、とくに震災の経済分析について紹介してください。

萩:95年、産業連関分析を用いて、停止してしまった産業が神戸からどこに移っていったのか、そして、復興の過程においてどのように産業構造が変化していたのかを統計データを用いて分析しました。2011年の東日本大震災をうけて、阪神・淡路大震災のモデルなどを用いて分析を行っています。東日本大震災では、影響が東北3県や栃木や茨城など広範囲に及んでおり、県や地域をまたいだ分析が必要になっています。さらに今年度、あらたに未来世紀都市学研究ユニットが立ち上がりました。これは都市安全研究センターからの呼びかけで、各研究科やセンターから教員が集まった文理融合型のプロジェクトです。南海トラフ地震を想定して、神戸をモデルにした被災状況シミュレーション、法制度、経済活動、復興、ケアや医療などについて取り組んでいます。

分野をまたがった研究

――領域横断型のプロジェクトが増えているように思いますが、各研究者間でどのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか?

萩:未来世紀都市学研究ユニットでは、月に一度、定期的に各教員から話題提供というかたちで集まる機会があります。今日もその集まりが予定されているのですよ。経済学はもともと数学的なモデルを持っているので、自然科学との融和性が高い傾向にあります。

研究環境

――ふだん、研究室にはどのくらいいらっしゃるのですか?

萩:会議や講義、土曜日に社会人院生の講義もあるので、大学にはほぼ毎日、10時ごろから夕方までいることが多いです。

――1日のスケジュールはどのような感じですか?

萩:昨日は何していただろう…図書館の会議、院生の指導があって、研究会に行って、授業をして…研究していたのは、電車のなかでノートパソコンを広げていた時ぐらいですね。

――色々な仕事を同時にされているのですね。

萩:そうですね。図書館の仕事、教育、震災関連とあとEUのプロジェクトにも関わっています。それぞれにバランスを取りながら進めています。

――先生の研究において、論文にまとめようと思うのはどのようなタイミングですか?

萩:研究しながら「これはかたちになりそうだな」と感じたら学会報告に申し込んで取り掛かります。あとは…締め切りでしょうか(笑)

――論文を共著されることは多いですか?

萩:院生との共著は多くはありませんが書くこともあります。同僚との共同研究は、データ収集と分析というように役割分担がはっきりとしていて、ここまでやったからあとはよろしく、というパターンが多いです。そのほかに教科書的な産業連関分析の解説論文は共著が多いですね。産業連関分析を学んでいる共著者に向けた、気持ちとしては対話型な論文[5]を書くこともあります。
責任者でもあるので機関リポジトリについて知りたいのですが、紀要については処理がある程度、自動化されていますが、学術雑誌論文に登録するのはこちらから連絡したらいいのですか?

――図書館から依頼をお願いすることもありますが、先生方からの積極的なご依頼を歓迎します。ぜひ、論文に関する情報をお知らせください。

萩:分かりました。

――本日はお忙しいところお時間いただき、ありがとうございました。


  1. 置塩信雄. 蓄積論. 筑摩書房. 第二版経済学全集, 7. 1976
  2. Kobe University Social Science Research Series. 経済学研究科、法学研究科、経営学研究科、国際協力研究科から発表されるシリーズ図書。http://www.springer.com/series/15423
  3. 神戸大学ミクロデータセンター(KUMiC) http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/kumic/
  4. Inter-university Consortium for Political and Social Research (ICPSR)https://www.icpsr.umich.edu/icpsrweb/
  5. 『産業連関』「続応用産業連関分析講座シリーズ」

インタビュー:附属図書館 花崎, 佐藤, 末田 / 文責:末田(電子図書館係)