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板倉先生インタビュー2018.12.13 於・国際文化学研究科

kernel通信では研究者の方々に、普段のご研究の内容や方法、図書館のサービス等につきご意見をうかがい、ご紹介しています。今回は国際文化学研究科の板倉史明先生です。

――本日はどうぞよろしくお願いいたします。

板倉先生(以下 板):こちらこそよろしくお願いいたします。

先生のご研究について

――まず初めに、先生の研究分野である映画学についてお伺いしたいと思います。

板:私が取り組んでいる映画学は、アメリカのほうで1960年代ごろから盛んになったものです。同じころ日本でも各大学に映画を研究する人はいたのですが、あくまでまだ少数でした。例えば、日本映像学会というのは1974年に設立されているのですが、それはテレビの研究だったり、製作者だったり、写真だったり、様々な映像メディアの専門家や製作者の人たちも集まるような学会でした。日本で若手の映画学者を大学院レベルで組織的に育てるようになったのは、1990年代と言えるかもしれません。それまでも興味のある人が例外的に大学院まで行って研究することはあったかもしれませんが、日本の大学で映画研究や映画学というものが知られるようになって、研究者が育つような環境ができたのはそのころだと思います。あとは日本映画学会が2005年にできたのですが、そこには200名くらいいますから、今では数百名くらいの映画学者が日本にもいるということですね。

――先生が映画学に出会ったきっかけ、その時のエピソードは何かありますか?

板:私が学部時代に出会ったある映画の本(加藤幹郎『映画とは何か』みすず書房)[1]が非常に面白くて、「映画に対してこんな新しい見方があるのか」というのを初めて知ったのがきっかけですかね。もちろん、中学くらいから映画に興味を持っていて、たくさん見ていたのですが、学問としてこういう風に見て、言語で説明して、分析していくということができるんだと、この本で初めて知りました。アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』という有名な1960年の作品があるのですが、特に第一章のところでは、その作品がとても詳細に分析されています。今の学部生にも、映画や映画学に興味を持った時に薦める本として、これをよく使いますね。

――映画学の中でも、先生は具体的にはどのようなジャンルの研究をされているのでしょうか。

板:私は特に日本映画を研究してまして、これまで色々な時代の日本映画について研究してきました。例えば、明治時代以降、多くの日本人がアメリカ合衆国に移民しましたが、彼らにとって娯楽の中でも一番重要なものが映画だったんですね。日系一世の人たちは日本語が母語ですから、アメリカの地に行ってもやはり日本映画が非常に重要な娯楽で、たくさんのフィルムが日本からアメリカに輸出されました。日本映画が彼ら移民たちにとって、どういった意味や役割をもっていたのか。そういったことを調査研究したのが、博士論文のテーマでした。また、日本映画の研究をベースにしながら、海外で日本映画がどう受容されたのか、そういった研究も行ってきました。最近の研究テーマについては、同時並行で様々なプロジェクトを進めていまして、最近では個人研究だけではなく共同研究にも多く取り組んでいますね。

――その最近の研究テーマとはどういった内容なのでしょうか?

板:3年ほど前から国際文化学研究科の共同プロジェクトを実施していまして、その中で私の同僚4、5人の方達と一緒に映画・映像を軸にして研究しています。その中には歴史学者、認知心理学者、文学者といった方がいらっしゃいます。これまでは、どちらかというと各専門分野の人たちが個々に研究活動をしていて、あまり交流がなかったように思うのですが、映画であれば多くの人が興味を持つということもあって、なにか共同研究ができるんじゃないかと考えて、みなさんをお誘いしました。色々な試みをやってきて3年目になるのですが、今年度うまく展開している研究テーマは二つあります。一つは《恐怖やホラー》といったテーマですね。例えば、「その映画はどういう仕組みで観客を怖がらせようとしているのか」ということを映画学的な観点では映像や音から分析することもできますし、そもそも人間が怖い映像を見た時にどんな反応をするのか、どういう感情が呼び起こされるのかといった点などは心理学や認知心理学といった観点から考えられるでしょう。何に対して怖いと感じるかは文化や時代によって違うと思いますから、そういった点では歴史学の方も参加できますね。このような《恐怖》というのが一つ目のテーマです。
もう一つは、理系的な要素を組み合わせた研究で、アイトラッカーという人間の視線がどこに向いているかを測定する機械を映画研究に活かしています。認知心理学者の同僚の方に協力してもらって、例えば、小津 安二郎という有名な映画監督の過去の作品を現代の人が見た時に、どのあたりに注目するのか、それは監督の質とどう関わっているのか、そういった実証的な研究もしています。最近流行りの文理融合的な研究もちょっと進めているということですね。やっぱり一人でやるよりは色々な専門家の方と一緒に議論することで、新しいアイデアが生まれてきたり、研究分野や自分の興味も広がったりますし、共同研究というのは非常に有意義で刺激を受けるものだと改めて感じています。

フィルムセンターでのアーキビスト活動

――博士課程を修了されたあとに、フィルムセンターのほうで7年間アーキビスト活動を行ってこられたということですが、そちらではどういった活動をされていたのでしょうか?

板:大学院を出たあとに最初に就職したところが、当時の東京国立近代美術館フィルムセンター(2018年4月に独立し、「国立映画アーカイブ」[2]へ改称)というところでした。そこでは、2005年から2012年までの7年くらい研究員として働いていました。フィルムアーカイブというのは、映画フィルムに関連する資料を収集・保存・公開する場所なのですが、そこで主に映画フィルムの保存や復元、修復といった仕事の担当をしておりました。美術の分野でいうと美術館や博物館の学芸員さんとよく似たような仕事だったと思います。多くの映画研究者は、完成された映画作品を分析対象にすることが多いのですが、そこは実際に”モノ”としてのフィルムや関連する資料に触りながら研究ができる場所だったので、映画作品がどういったプロセスで、どういった材質・物でできているのか、どのように映画がつくられてコピーされているのか、そういった物質的な側面を生で感じることができる非常によい職場でしたね。

――その7年間というのは、ソフトというよりもハードとしてのフィルムに触れる機会が多かったということでしょうか?

板:ええ、そうですね。例えば、私がその映画フィルムを保存する部署で働いていた時に、よくチェック試写という仕事をしていたんです。フィルムセンターには新しく入ってくるフィルムが問題ないかチェックする試写の場所があって、そこでは確かに映画を見ているのですが、内容についてはほとんどチェックしません。いかに面白い映画であっても、内容に集中してはいけなくて、映像の途中に何か傷が入っていないかとか、しっかり現像されて焼き付けられているかとか、そういった物としてのフィルムがちゃんと作られているかどうかということを、チェックするほうがより大事な場所でしたね。ただ一般の映画ファンや研究者ですと、このような映画フィルムの素材や物質的な面についてはあまり気にしませんが、そういった点を知ることによって、よりその映画を深く理解できたような気がします。現在の私の研究にとって非常に役立っていますね、そのフィルムセンターでの経験というのは。

――そういった研究の中で、映画のクリエイターと関わることもあるのでしょうか?

板:私がフィルムセンターにいたころは、現場で制作している方とはそれほど付き合いはありませんでしたが、映画会社の方や現像所の人たちとは交流がありました。現像や複製は現像所で行うので、その時の交流は現在でも色々な研究プロジェクトとして展開したり、続いたりしていますね。そういったこともあって、映画学の専門知識と同時に映画フィルムの保存や復元といったフィルムアーカイブ的な専門知識も身に着けることができました。その関連で、こちらに来てからは神戸映画資料館[3]という地域のフィルムアーカイブとの連携にも発展させることができました。現在では地域連携事業ということで、神戸映画資料館と様々な形で研究や教育活動のプロジェクトを実施していますね。

研究の進め方について

――それでは続いて、普段のご研究のスタイルや調査方法についてお伺いしたいと思います。

板:そうですね、私の研究の多くはめずらしい資料とか面白い資料との出会いがきっかけになっている気がします。例えば、私がフィルムセンターに在籍していた時、映画フィルムが初めて国の重要文化財に指定されたのですが、結果的にそこで収蔵しているフィルムが1本目の文化財のフィルムに指定されたんですね。このように、貴重なめずらしいフィルムに直接触って調査をさせてもらえたことがきっかけで論文を書くこともありました。あとは神戸映画資料館にもたくさんの資料やフィルムがあり、活用させていただいています。1960年代からピンク映画という成人男性向けの映画のジャンルがあったのですが、神戸映画資料館にはそのピンク映画を作っていた映画会社の一次資料がありまして、その中には、ある作品を作る時の明細書のようなものが詳細に載っていたんですね。それを活用させていただいて、そのピンク映画がどういう工夫によって低予算で作ることができたのか、といったような内容の論文も書いたことがあるのですが、それもやっぱり資料との出会いがないと思いつかなかったことですよね。この研究室にはそれほど多くの資料がありませんので、他の機関やコレクターの方との協力関係の中で資料を使わせていただきながら、研究を進めているともいえるかもしれません。

――そのようにフィルムを保管している組織・団体というのは、日本に何か所もあるのでしょうか?

板:たくさんではないですが、いくつか重要なところがありますね。国立ですと東京の国立映画アーカイブがありますが、各都道府県レベルで言うと京都府の京都文化博物館[4]、あるいは福岡市総合図書館[5]なども専用のフィルム保存庫を持つフィルムアーカイブとして機能していますね。あとは、神奈川県の川崎市市民ミュージアム[6]もフィルムアーカイブの機能を持っているところです。

――アーカイブだけではなく、図書館や博物館など様々なかたちがあるのですね。

板:そうですね。やはり、フィルムアーカイブという独立した組織としては、なかなか地域の人々の理解が得られないのかもしれません。他の美術館・博物館もそうですが、映画フィルムをちゃんと保存しようとすると摂氏5度とか10度くらいの低温環境を24時間体制で設置しないといけませんから、その設備だけでも大変ですし、電気代とかそういったことを考えると、ただ保存するだけのために国の税金や地方の税金を使えるかというと、理解はまだ得にくいと思います。ですから、そういった図書館や博物館の中の一部門として、何とかうまく交渉して実現しているということだと思います。神戸映画資料館の場合は、個人のお金だけで運営している民間のフィルムアーカイブで、非常に珍しいところですね。何かを守るということは、基本的にお金儲けとは直接繋がらない活動なので、そういった国の補助などがないと長期的には運営することは難しいような気がしますね。あとは地域のアーカイブと大学との連携という点で言えば、新潟大学は新潟県の様々な地域の資料館や博物館といったところと連携して、共同でデジタルアーカイブ[7]を立ち上げて公開していますね。そこは成功している例かもしれません。このように、大学がその地域のアーカイブの中で、重要な役割を果たすことはできるかもしれないですね。

――そこは映像のアーカイブもしているのでしょうか?

板:そうですね、写真や資料も含めて映像のデジタルアーカイブを作っています。国立大学の中には総合博物館を持っているところがありますが、そのようなところであれば研究成果や資料を展示する場所があります。そういった場所がない大学はデジタルアーカイブ的なもので研究成果や資料を公開すると、その地域のためにもいいかもしれないですよね。

研究のアウトプットについて

――映画学の研究サイクルや研究成果の発表方法について、何か特徴はありますか?

板:映画研究者の場合は、単著として本を出すことが一番頑張ったという感じはしますが、幸いなことに映画は一般のファンの方も多い分野ですから、いわゆる一般書的なもの、あるいは学術書と一般書の中間的なもの、そういった本も他の分野に比べると出しやすいかもしれません。その場合には、あるテーマについて共著で書いて、一冊の本として出版しているものが映画関連の本だと結構ありますね。

――本を執筆される最初のきっかけというのは、企画的に持ち掛けられることが多いのですか?

板:両方ありますね。最近ですと、先ほど申し上げた地域連携事業の中で、神戸の映画史に関する研究をずっとしてきたのですが、その神戸映画史に関する論文集を今編集しています。10人くらいの執筆者の方に、私のほうからお声掛けして書いていただいたものです。ですから、声を掛けられることもありますし、自分達で企画をして出版社に提案をすることもあります。学会の大会等に出版社の方が来ることもよくあって、映画の本を作りたいと興味を持ってらっしゃる編集者の方と、そういったところで繋がったりもしますね。

研究成果のオープン化や共有について

――研究に必要な情報の流通について、どのような変化を感じていらっしゃいますか?

板:私が論文を準備する時でも、まずインターネット上で検索をして基本的な情報を集めるほうが便利です。そういった時に、PDFで学術論文が公開されていると、効率的に論文の準備ができるのは確かなので、私も貢献しなければいけないなと思っています。あと私がよく活用しているのは、新聞データベースですね。あれは何かのテーマを調べる時に、まず基礎作業として、どういった記事があるのかを調べるときに使っています。学生にもこれを使いなさいと必ず伝えていますね。しかし、それはあくまで基礎調査だということも、同時に伝えています。資料へのアクセスは非常に便利になりましたが、我々に求められているのは調べた記事や資料をどう組み合わせて、どういった考察をするのかということですから、そこからどう独自性を出していくかという点はこれからも変わらないと思います。

――それでは、その映画学の研究成果や知識が、一般の人にも共有されることで広がる可能性について、今後の展望がありましたらお聞かせいただけますか?

板:私が担当している全学の共通科目に参加する学生たちは、映画がちょっと好きで、共通科目の中では面白そうだから選択した、というケースがほとんどだと思うんです。そういった学生たちにとっても、講義を通して映画学の基礎的な知識を得ることで、普段は気が付かなかったような映像表現の特徴とか、製作者がどういったことを意図してこの場面を作ったのか、そういったことに意識的になり、分析的な視点で映像を見ることができるようになる部分はあるようです。例えば、映画を見る時は、物語の展開が面白いとか、この俳優がかっこいいとか可愛いとか、そういった観点から見ることが多いと思いますが、映画製作者の立場からすると、画面の中のすべての要素に気を配って作っているわけですね。背景にせよ、小道具にせよ、衣装にせよ、それぞれの場面に最も合うものを、選択肢がある中から選んでそういった画面になっているとしたら、やっぱりそれぞれの要素に対して製作者の意図や考えがあるというのが映画学的な分析の前提になります。そう考えると、テレビドラマやニュース番組、バラエティー番組についても、どうしてこのように映っているのか、なぜこのような映像になっているのかということを、分析的な視点で見ることは可能だと思うんですね。映画学のそういった基礎的な部分やエッセンスを、分かりやすく学生に伝えることで、日常生活でも活用できる映画学のスキルみたいなものはあると思います。

――ひと昔前と比べると、映像を撮ったり作ったりして発信するハードルが低くなっていると感じます。その際に必要な表現技法のノウハウを映画学から知ることで、クリエイターが育ちやすい土壌を作っていくことにもつながりそうですね。

板:そうだと思いますね。いわゆるYouTuber的な人達もそういった技術を学ぶことで、より見やすい動画を作ったり、伝えたいことをより伝えやすくなったりしていけるかもしれません。

ボーンデジタル資料のアーカイブ

――近年では、制作の段階からデジタル媒体で作られるボーンデジタル資料が多くなっています。アーカイブという点では、フォーマットの変更対応などの課題がありますが、今後どのように取り扱っていくのがよいと思われますか?

板:私がフィルムセンターにいた頃、ボーンデジタルの話はまだ始まったばかりだったので、最新の情報はそれほど耳に入ってきていません。ですが、例えば今年、国立映画アーカイブで、ボーンデジタルの映画をどう保存していくか、というシンポジウムが行われたんですね。そこには今回、どういった人たちが参加していたかというと、実は芸術系の大学の先生方が中心だったんです。日本全国に芸術系の大学があって、毎年たくさんの卒業制作などができているわけですが、それをどのように管理していくか、今後の保存について議論されていたようですね。映画についても、これまでは伝統的なフィルムで撮られて物として残っていますが、ここ10年近くデジタルカメラで撮影されたボーンデジタルの作品がもっともっと増えていると思います。それをどう保存していくかという専門的な議論が、ようやく日本でも始まってきたと言えるかもしれません。一般的に、LTOテープという磁気テープにデータを保存していくという方法が、少なくとも世界中の映画業界では、今主流になっているとは聞いています。ハリウッドでもそうだと思います。低コストで、安全にデータを保存することができるそうで、磁気テープだと一回データを入れてしまえば、あとはテープとして保管しておくだけで、30年くらいもつと言われているそうです。ハードディスクだと、様々な要因でデータが消えてしまうとか、エラーが発生する問題があるようですが、それに比べると、磁気のLTOテープは比較的安全で長期間保存ができるので、コストの面でも世界中で使われているようです。ただ、それも今後どうなるのかは、ちょっと分からないわけですけが。

――最近は自然災害も多いので、物理的にダメになってしまう可能性もやはり捨てきれませんよね。

板:そうですね。例えば、国立映画アーカイブの保存庫は、東京ではなく神奈川県の相模原市に置かれています。それも色々な調査をして、震災などの問題が起こりにくい安全な場所だろうということで選ばれたそうなんです。あとはハリウッドなども西海岸と東海岸の両方に同じデータを置いて、どちらかで災害が起こっても片方は守られるという風に考えているそうです。いまできる様々な方法で、すべてのデータがひと時に無くならないような工夫はしているんでしょうね。

――日本で分散保存する場合、保存環境を考えると気温の低い北海道などで保存すると効率が良いようにも思えますが。

板:実際、アイデアの一つとしてはありました。ただ、フィルムアーカイブの場合は、保存だけでなく再活用も比較的多くあります。何十年も動かさなければ北国でもいいですが、映画会社の希望に従ってフィルムを保存庫から出す、ということになると少し不便ですよね。その関連ですと、北欧のフィルムアーカイブでは、氷点下以下でフィルムを保存しているところもあるようです。劣化を防ぐ意味では合理的ですが、やはりお金もかかりますので、保存量が限られているからできる話かもしれません。各地域の環境や状況に合わせて、最も良い場所を選んでいるのかなとは思いますね。

――最近の映画にもフィルムは使われているのでしょうか?

板:最近の新作映画は、撮影の時からほぼデジタル映像ですね。ただ、一部の製作者、カメラマンなどはやっぱり35mmフィルムのほうがいい、そういった映像の質感のほうがいいという人もいます。あとはCMなどの業界では、まだ35mmフィルムで撮影するという人も多いようです。ただし、撮影は仮にフィルムだったとしても、それをすぐデジタルスキャンして、それ以降のすべての編集作業はデジタルで行うのが、ほとんどだと思いますね。

――撮影における表現は、デジタルとフィルムで変わってくるのでしょうか?

板:ピクセル単位で画像が記録されるデジタルと、化学薬品でできた乳剤のつぶつぶが塗布されたフィルムに光を露光して現像したものですと、元々の材質が違いますからね。フィルム的な映像の質感と、デジタル的なツルツルした感じとはちょっとは違うと思います。小さいモニターやテレビで見る分には、もうほとんど変わりはないでしょうが、大きいスクリーンで拡大された時に、人によっては違いを感じるかもしれません。ただ、昔からフィルムを使ってきたプロのカメラマンや監督も、最近ではデジタルカメラで撮影した映像に対してほぼ満足しているような感じですから、それほど大きな違いは無くなっていると思います。

資料の活用と保存

――図書館のデジタルアーカイブでも媒体変換や維持コストが問題になってきて、今後の運用も課題となっています。

板:そういった点では、映画フィルム、特に伝統的なロールフィルムの場合は、世界中のフィルムアーカイブでフィルムはそのまま大切に保存しておき、活用はその時代に合わせて最新のデジタルフォーマットに変換して活用する、というのが一般的な考え方ですね。そのフィルムさえ大切に保存しておけば、それが最良のクオリティーの映像と音ですから。何年かおきにデジタルで新しいフォーマットへ変換することを考えれば、フィルムを低温低湿度の保存庫に入れておけば、低コストで管理できるということらしいですね。

――例えば、800年とか1000年前の古文書をいま研究できるような環境を、今後、未来にどうやって作ったらいいのかなということは、よく私たち(図書館)の中で課題になっています。

板:私もフィルムセンターにいた時は、常に50年後100年後のことを想像しながら、今のこのフィルムに対して、どうしていくかという判断をしていましたから、その辺りは共通しますね。

――活用と保存のバランスについて、保存を大切にすると活用がおろそかにになって、でも活用されないと保存する意義を世の中の人に分かってもらえない。映画学としてはどうやって、そのあたりのバランスをとっているのでしょうか?

板:研究者の多くは、フィルムで見なくてもデジタルで見られるのだったら、それでいいですよという人が大多数だと思います。もちろん、何らかの理由があってフィルムを映写機にかけないと研究ができないという人もいるかもしれませんが、極めて少数だと思います。そういった点では、デジタル化によって研究者にとってはより便利になったと思います。現在の国立映画アーカイブ館長の岡島尚志さんがよく仰っていたのは、今後フィルムで映画を上映するということは、「例えば、京都のお寺の仏像が30年ぶりに公開されました、という感じの特別なイベントになるのではないか。1960年に製造されたこのフィルムプリントを今日特別に上映しますよ、みたいな感じになるんじゃないか」と。私も多分そうなるのではないかと思います。一般的にはデジタル上映が主流になり、特別な時だけフィルムで上映するという感じですかね。

記録映像のアーカイブ

板:逆にお聞きしたいのですが、最近ですとアーカイブ的な映像を研究活用することが増えていて、例えば、建築会社が工程を撮影した建築映像も研究の対象になったりもします。大学であれば、医学系の研究者が学生に対する教育目的で、手術の様子を撮ったものが色々なところに分散されて適当に置かれているかもしれない。今は興味を持たれなくても、数十年後に研究対象になる可能性が十分あると思うので、そういったものがあれば図書館で保管していただけたりするのでしょうか?

――事例としてはとても少ないのですが、医学研究科の先生がご自分で作成された胚の培養画像や瀬戸内海で採取された海藻の写真[8]をお預かりして、それをウェブサイトで公開させていただいたりしています。コストや労力の問題はありますが、研究の基礎資料となる研究データは管理すべきだと感じています。

板:戦争中の手術の映像などは、その時代の医療技術もよく分かりますし、戦争史の資料と考えれば歴史学者が興味を持つかもしれません。撮影した人、使った人が思ってもみなかったような価値が後世で出てくることもありますし、この大学の医学部にも過去の素材が残っていればいいですね。例えば、1950年代に水俣病が社会的な問題となる前から、熊本大学の先生や水俣市の保健所の方たちが8mmフィルムや16mmフィルムでで病状を撮影していたんですね。そういったものが、1970年代の水俣病に関するドキュメンタリー映画が作られた時に再活用されて、裁判にも使われたということもあります。最近の映画研究ではプロの人たちが作った作品だけではなくて、アマチュアの人たちが作ったような映画作品とか、ホームムービーといったものも研究対象になり始めていますね。ホームムービーの場合は、撮影された方が亡くなった時に遺族の方が処分に困ってフィルムアーカイブや資料館、博物館などに連絡して寄贈されるというケースが多いと思います。多くの場合は捨てられていると思うのですが、奇特な方は連絡を下さったりもします。ホームムービーについては、プロの商業的な目的で撮った映像とは違う日常生活の風景や映像が記録されていて、当時の街並みやファッション、風俗といった様々なものが記録されているという点から歴史的な価値があるといった理由で研究対象になりますね。

――失われてしまった光景が残っていますからね。

板:特に神戸は、震災前と後では風景や建物が変わっていますからね。ホームムービーは個人的なものだから誰も興味を持たないだろうということで、これまでは捨てられることが多かったと思います。しかし、最近では毎年10月に世界中でホームムービーの日[9]というイベントをやるようになっているんですね。それは各地域の人たちが過去に撮った8mmフィルムを持ち寄って、そこに映っている本人が映像の解説をみんなにしてあげるといったイベントです。他人のホームムービーを見て楽しいのかという疑問が起こるかもしれませんが、実は非常に面白いんですよ。大体の場合は30~40年前に撮影されたホームムービーで、赤ちゃんとか子供が映っていることが多いのですが、大人になったその子が小さい頃こうだったんですよ、みたいなことを話してくれるのが非常に面白い。関西だと大阪・神戸・京都で毎年やっていますね。ホームムービーってこういう風に活用できるんだ、楽しいんだということをみんなに知らせるようなイベントとして世界中で行われていますね。今回は神戸映画資料館で行われたのですが、1970年の大阪万博の時にある家族が撮った映像なども上映されましたし、あとは在日コリアンの団体の集会映像があったりして、結構多くの人が見に来ていたと思います。そういう活動を継続することで、ホームムービーはやっぱり捨てないでおこうという風な認識が高まるといいなと思います。

――本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。


  1. 加藤幹郎. 映画とは何か. みすず書房. 2001
  2. 国立映画アーカイブ https://www.nfaj.go.jp/
  3. 神戸映画資料館 http://kobe-eiga.net/
  4. 京都文化博物館 http://www.bunpaku.or.jp/
  5. 福岡市総合図書館「フィルムアーカイヴ」 http://toshokan.city.fukuoka.lg.jp/theater_schedules/
  6. 川崎市市民ミュージアム https://www.kawasaki-museum.jp/
  7. にいがた MALUI連携地域データベース http://arc.human.niigata-u.ac.jp/malui/
  8. 瀬戸内海海藻類標本データベース http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003algae
  9. ホームムービーの日 http://filmpres.org/project/hmd/

インタビュー:附属図書館 佐藤, 山本, 榎, 末田 / 文責:佐藤, 榎