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川井先生インタビュー2019.12.2 於・内海域環境教育研究センター

Kernel通信では研究者の方々に、普段のご研究の内容や方法、図書館のサービス等につきご意見をうかがい、ご紹介しています。今回は、内海域環境教育研究センター(理学研究科)の川井浩史先生です。

研究者としてのあゆみ

――まず初めにご専門と経歴についてお聞かせください。

川井先生(以下 川井):私の研究のテーマは「藻類の多様性・進化・分類」についてで、藻類の中でも大型海藻類のうちコンブ、ワカメ、モズクといった褐藻類の研究がメインです。中学・高校時代から生物と山登りが好きで、本来は地衣類などの山に多い植物に興味があったのですが、理類という大まかな区分で入った大学で理学部植物学科に進学しました。その後、研究室を決める際に「フィールドワーク研究」ができる研究室を探したところ、該当するのが「藻類」の研究室しかありませんでした。そこで卒業研究で海藻の分類や生活史を研究テーマに選んで、それ以降ずっと海藻の研究をやってきました。当時、理学部の学生は修士・博士の道にすすむのが一般的で、私の分野では就職先も教師か研究者くらいしかありませんでした。それで私もそのまま博士課程まで進んで、学位を取って研究者となり、今に至るというわけです。

研究内容について

――藻類の研究はどのように行うのでしょうか?

川井:私が昔からメインとしている研究は、野外で研究対象となる海藻を観察・採集し、さまざまな手法でその特徴を明らかにし、分類し、その分布や進化の道筋を明らかにするというものです。
藻類を含め生物の分類のための研究方法は常に進歩しています。私が研究を始めた頃は、野外で採集した標本について、その形態の特徴を調べたり、室内で培養して生活史を明らかにしたりする手法が一般的でした。しかし、分類を行うための特徴を「分類形質」と呼びますが、褐藻類ではより多様な分類形質を求めて、電子顕微鏡を使った微細な構造の解析、光合成に関わる色素の解析や有性生殖の様式やそれに関わるフェロモンの種類などの研究が行われるようになりました。さらに、1990年頃からは見た目にとらわれない、より客観的な形質として「遺伝子」を調べる研究も増え始めました。

――研究手法が変わったということでしょうか?

川井:いえ、研究手法が変わったのではなく、研究手法が増えたということです。形や色といった特徴は環境の影響を受けて大きく変わることがありますし、他人のそら似のように、もともとは進化的に遠い生き物が似た特徴を持つこともあります。そこで、より客観的な判断ができる分類形質として遺伝子の比較が行われるようになり、形などの特徴とあわせて考えることで総合的に判断できるようになりました。ただ、どの手法をメインに使うかは研究者の好みもあります。私が研究を始めた頃は海藻類では遺伝子を調べるという選択肢は無かったので、当然、形などの特徴を詳しく調べることは必須でした。しかし、最近新しく研究を始めた人は「まず遺伝子」ということも多く、昔ながらの研究手法を行う人は少なくなってきています。今では遺伝子の解析を中心に研究をすることが増えたので、分類や進化に関する研究分野でも「生物に触らずに研究」する人もかなりいるのではと思います。

――なぜ昔ながらの手法を使う人が少なくなったのでしょう?

川井:遺伝子を中心にした研究では、場合によっては非常に短期間で成果が出ることもありますし、競争相手も多くなるので、最先端の技術を駆使し、短期間で研究成果を論文として発表しないと、研究者として競争力を保てないからです。たとえば私が大学院の頃に行っていた、培養によって生活史を明らかにする研究では、ある種類の生殖細胞から培養をはじめて、成長後、成熟して再び同じ種類の生殖器官をつくって生活環を完結するまでに2年もかかったこともありました。この様な場合、少なくとも2年の間は論文として報告することはできません。別の例では、大学に勤めて間もないころに調べていた種類は日本では北海道のオホーツク海の沿岸だけにしか生えていないのですが、どのような生殖器官をつけるのか不明で、その分類がはっきりしませんでした。そこで、この種類の成熟した標本を採集するため、夏から1か月おきに潜水することで成熟したものを探していたのですが、1年目は結局入手できないうちに流氷が着岸して終わりました。その後、何年かたって再チャレンジし、今度は流氷が着岸する直前にやっと成熟したものを見つけて生活史に関する論文を書くことができました。それでも、その当時は分類の問題は解決できずに、後年、遺伝子で詳しく調べてようやく分類のめどがつきました。最終的に決着した論文が出せたのは2015年ですので、研究を始めてから30年以上かかったことになります。同じように、大学院の頃から研究を続けていて、未だに発表できてない「宿題」もいくつかあります。海藻の分類に関する研究はこのような長期スパンのものも多いのです。

――そもそも海藻の研究はいつ頃から行われているのでしょうか?

川井:海藻類を含む藻類は、伝統的に植物の一部と見なされてきましたが、体系だった植物の分類に関する研究はヨーロッパで始まりました。今、われわれが使っている生物の分類や命名のシステムは18世紀にリンネという研究者が提唱した方法が基礎になっています。このころは藻類にはあまり注目されていませんでしたが、19世紀に入るとかなり活発に行われるようになりました。しかしながら当時の日本では海藻を食品や薬にするなどの活用は古くから行われていましたが、鎖国していたこともあって、国際的なルールに基づいた分類や命名といった研究はまだ行われていませんでした。その結果、当時日本からさまざまな海藻類を母国に持ち帰ったスウェーデン人やオランダ人がその分類・命名をすることになったのです。例えば、「ハナフノリ」という紅藻類のフノリの一種はペリー提督が率いる黒船の来航の際にアメリカ人が下田からアメリカに持ち帰り、ハーバード大学を経て、ダブリンにあるトリニティカレッジに渡りアイルランド人の研究者によって命名されることになりました。同じように、おそらく日本で最もよく知られた海藻である褐藻のワカメはシーボルトがオランダに持ち帰って、オランダで学名がつけられました。海藻などの植物の分類は「タイプ法」と呼ばれ、最初に国際的なルールに則って名前を付けられた標本がその種の学名の基準となります。当時、日本にそのルールに従って名前をつける研究者がいなかったために、現在は海外にある標本が正式な名前の「基準」となってしまったわけです。このようにヨーロッパのいくつかの大学の標本室には18世紀に採集されたものを含めて、古い標本が現在も保存されています。以前はこれらの標本の形や色を比較することで分類を行っていたのですが、最近はそれらの古い標本について遺伝子を使って調べることでいろんなことが分かるようになってきました。このように長い期間にわたって標本を維持するのは大変な手間と経費がかかります。しかしイギリスなどでは昔から淡々とデータを蓄積する研究も評価されており、標本の維持だけでなく海の水質やプランクトンを100年という長いスパンで調べるような研究も少なくありません。

モニタリング調査への取り組み

――長期的な取り組みといえば、海藻類のモニタリング調査にも携わられているとお聞きしました。

川井:はい。海藻類のモニタリング調査の場合、分類の研究とはすこし異なり、気候変動、汚染、開発などによる影響を測るという一定の目的があり、それに沿った調査対象を選び、定まった方法で決まった期間、定期的にデータをとります。例えば、「東日本大震災後、原子力発電所の事故で海に放出された放射能が沿岸の海藻にどのように蓄積し、消えていくか」[1]を調べるために発電所の近くを含む東北沿岸の複数の場所で数か月ごとに海藻を採集し、組織に含まれるセシウムなどの放射性同位元素から放出される放射能の量を計測しました。その計測結果をもとに「海藻の種類の間で蓄積されているセシウムの量に差異はあるのか」、「時間経過でどのように変化するのか」等を明らかにしました。 また同じく東日本大震災の関連では「大地震による津波で日本の陸地や沿岸から外洋に流出し、最終的にアメリカの海岸に流れ着いた漂流物に付着した海藻に関する研究」を行いました。これはアメリカやカナダの研究者と協力して、津波による漂流物でどのような種類の海藻が日本から北米西岸に流れ着き、またそれらの海藻が現地に定着して、外来種となっていないかどうかについて調べました。しかし、東北地方の沿岸と北米の西岸ではもともと同じ種類が生えていることもあることから、このプロジェクトでは単に日本の海藻が津波漂流物に付着しているかどうかを調べるだけでは無く、震災以前からアメリカの沿岸に生えていたと考えられる海藻と、日本の沿岸に生えている海藻、漂流物に付着していた海藻の3つのグループを遺伝子レベルで比較することで、漂流物に付着していたものが本当に津波によって日本から運ばれたものなのかどうか、またそれが北米の海岸に既に定着しているのかどうかを調べました。結果としては、幸いこれまでに明らかに津波の漂流物のせいで新たな外来種となったものは見つかっていません。しかし今後、新たな定着があった時に現地の研究者が見つけやすいように、今回の調査結果をもとに、これまでアメリカでは自生しておらず、日本から新たに流れ着き、定着する可能性のある海藻についてフライヤー(分類のためのフィールドガイド)[2]を作成し、アメリカで配布する、あるいはセンターのホームページからPDFをダウンロードできるようにする活動も行いました。

――時代に合ったグローバルな研究ですね!

川井:しかし、最近では生物多様性条約のABS関連[3]で海外の海藻類の調査や採集は大変になりました。この国際条約によって、基本的に海外の生物資源を採取する際は、その生物資源を持つ国と研究内容についての詳細な契約を行った上で採集・研究を行い、また研究成果によって得られる利益や業績をシェアする必要があるのです。国によっては交渉相手を見つけるのが難しかったり、手続きに非常に長い時間がかかったりするため、海外での研究調査はなかなか難しくなりました。ただ、この条約が発効する以前に採集された、たとえば標本室に保存されているような古い標本については基本的には制約を受けないので、今はそちらの研究を重点的に進めています。

――長期間のモニタリング調査において、途中で調査項目が変わることはありますか。

川井:ありますね。例えば、現在実施している、モニタリングサイト1000[4]という環境省のプロジェクトの藻場生態系の長期モニタリングでは、水中の温度を1年間継続的に記録する小形で安価なデータロガーが使えるようになったので、途中から現地での水温測定を調査項目に追加しました。その結果、この場所での藻場の衰退の原因が、当初考えていた水温の上昇ではなく大型の台風の波浪被害だろうということが明らかになりました。この機器は、大きめのボタンのようなサイズですが、海藻が繁茂している、激しい波浪を受ける岩場に設置して、1年間にわたって30分毎の水温を記録することができます。
一方、長期間の調査では予想をしていないアクシデントもあります。例えば、同じくモニタリングサイト1000のプロジェクトで、別の研究チームが調査されてきた東北の沿岸では、大地震の影響で海底の岩盤が70センチメートルも沈降し、調査を続けてきた藻場の大型の海藻は光合成のための光が不足して育たなくなり、藻場自体が消失してしまいました。この場合は、図らずも大地震の影響を明らかにすることができましたし、その後も調査を継続すると、一旦消失した状態からどのように藻場が回復していくかのデータをとることができることもあります。このように長期スパンの研究ではいかにアクシデントにうまく対応していくかも大切な要素です。

――そのなかで技術革新によるデータフォーマットの変化にはどのように対応されていますか?

川井:前述のように技術革新で便利になるのは良いことですが、古い機器が製造中止になって古いメディアに記録されたデータが読み取れなくことがあり、それは本当に困りますね。たとえば1990年頃にやった研究で、超高速カメラでコマ撮りした顕微鏡の画像を大量に記録した、当時としては最先端の規格の「レーザーディスク(LaserDisc, LD)」は、10年余りでそのディスクを読み取るためのリーダーが入手できなくなってしまいました。メーカーにも問い合わせましたが、もうそのディスクを読み取る方法はないという回答で、これらの研究成果の一部は日の目を見ないままになりそうです。一方、光ディスクよりはだいぶ古いメディアであるフロッピーディスクはまだリーダーが流通していますし、どのデータフォーマットが残り続けるかは予測が難しいですね。

――長期間の調査となると、人材の確保も難しいと思いますが…

川井:人材の確保は長期モニタリングでは死活問題ですね。環境省のモニタリングサイト1000プロジェクトでは「100年以上にわたる長期継続調査を目標」としています。プロジェクト内で海藻のモニタリング調査は今、12年目に入っていますが、すでに継続して参加することが難しくなった方もおられ、メンバーは一部入れ替わっています。もし100年続けるなら、一人の研究者が20年研究したとしても少なくとも5世代の研究者が必要となります。
後継者の育成はプロジェクトに欠かせませんので、内海域環境教育研究センターでは、そのための教育活動にも取り組んでいます。センターに所属する臨海実習施設のマリンサイトでは文部科学省の教育関係共同利用拠点[5]として、モニタリングサイト1000による藻場調査に参加して、海藻の生態やモニタリングの手法を学んでもらうワークショップを開催したり、ナショナルバイオリソースプロジェクトと連携して海藻類の採集や培養技術を伝えるためのプログラムを実施したりしています。後者のプログラムでは、最近では韓国やタイの学生も参加しており、基本的に英語で実施しています。私は今年で定年ですが、これらのプロジェクトは後任の教授があと20年は引き継いでくれると期待しています。このような研究では、常に「次の世代に事業を引き継ぐ」準備が必要ですね。

――長期的な視点が必要ということですね

川井:たとえば海藻類のモニタリング調査では、1年だけ、あるいは2、3年の調査ではあまり意味がありません。そもそも生き物の集団は数年の単位、あるいはもっと長い単位で自然に増えたり減ったりする揺らぎがあるので、たとえば海藻類の藻場の場合10年くらい調べてはじめて定常的な状態が把握でき、それによって検出された変化が特異なものなのかどうかの判断ができます。このため、「長期的なスパン(例えば100年)でわかることを調べます」というスタンスで研究できる状況が許容される環境を整備する必要がありますね。

研究成果やデータの公開

――収集した藻類はどのように整理されていますか?

川井:遺伝子の解析には培養株のほかシリカゲルで乾燥させた標本を使うことが多いのですが、それでは形は分からないので、可能な限り標本台紙の上で乾燥させた押し葉標本も作ります。それらの標本にそれぞれこのように通し番号を付与して標本として残すほか、スキャンして画像ファイルで整理しています。これらの画像ファイルには標本番号も記入してあり、簡単な画像データベースのようになっています。

押し葉にして保存している標本

海藻類の押し葉標本は、通常はA3版程度のサイズで作製しますが、私の場合は、海外の調査でも現地で作製して乾燥させ、また運びやすいように小さめのサイズ(A4版)で作っています。これらの標本は、シリカゲル標本はデシケーターか密閉できる缶のなかで保管し、また、押し葉標本は標本箱の中で保管しています。しかしこれらの標本はどんどん増えてスペースを取ることと、前述したように100年を越える期間、保管してほかの研究者が利用できるようにする必要があります。そのためには専門の管理スタッフがいる博物館のようなところで保管することが望ましく、私の収集した標本はいずれ国立科学博物館や北海道大学の博物館に寄贈して保管していただくことを考えています。

シリカゲルで乾燥させて保存している標本

――現在、「瀬戸内海海藻標本データベース」[6]を附属図書館のデジタルアーカイブ上で公開中です。

川井:当時、『瀬戸内海海産藻類標本集(The Marine Benthic Algae of Seto Inland Sea, Japan)』という全6巻の標本集(1つ1つの押し葉標本をクリアファイルに入れて綴じた冊子で、全体で約250葉の標本が収納されている)を150セット作製して、国内外の主要な博物館や海藻類の研究者などに配布しました。配布先には大英自然史博物館、スミソニアン自然史博物館などの海外の主要な博物館の標本室が多数含まれています。このとき押し葉標本づくりには可能な限りこれらの150セット分が「同じ場所」「同じ時期」でとられた標本を使っているよう意図して作製したので、かなりの部分がスキューバ潜水だった採集は非常に大変でした。

その際に標本をスキャナーでスキャンして高解像度の画像電子データも作成したのですが、当時は高解像度の画像データをメールなどで送付するのは難しかったのです。そのようなタイミングで図書館がデータベースの公開事業を行っていると知り、元の解像度に近い画像データを公開しようということで、図書館と共同で画像データベース化を行うことにしました。

――この画像データベースを公開したことでメリットはありましたか?

川井:大学からも研究費を配分していただいて取りまとめた研究成果なので、データを多様な方々に「使ってほしい」という意図はありましたが、直接的なメリットが研究者にあったわけではないですね。ただ、今では高解像度の画像もメールなどで送付することができますし、上述のフライヤーのようにセンターで管理しているウェブサイトからダウンロードできるようにすることも容易です。しかし2000年ころにこれを公開した当時は、標本の一部ずつとは言え、スキャナーでスキャンしたままの高い解像度で標本画像を見ることのできる画期的な画像データベースでした。ちなみに、公開して20年という長い年数が経った今でも「データベースの画像を本に使いたい」という問い合わせがあったりするので海藻研究の「宣伝」にはなっていると思います。この標本集自体も当時の有力な研究者が総力を結集して作製したもので、分類や命名の精度などが非常に高く、神戸大学としても世界に誇れるものだと考えています。

――現在はデータのやり取りはメールで行うことが多いのでしょうか?

川井:私の研究分野はデータ量がそこまで多いわけではないので、メール以外だと論文にそのまま掲載する(サプリメンタリーとしてデータを公開する)か、前述のように内海域環境教育研究センターのウェブサイト[7]からのダウンロードできるようにする、という2つの方法をとることが多いです。遺伝子のデータについてはDDBJ[8]など専用のプラットフォーム(DB)があるので、そちらを利用しています。
「KU-MACC」(神戸大学海藻類系統株コレクション)[9]では、ナショナルバイオリソースプロジェクト「藻類」の分担機関として、海藻類(大型海藻)を対象に、「成果有体物」として単藻培養株を収集・保存し、実費で研究者に提供しています。これは、実験生物として提供されるマウスやシロイズナズナなどと同様に、海藻も実験材料の一つとしてバイオリソースとして整備しているものです。KU-MACCでは画像情報を含む公開株の情報や提供依頼のためのウェブサイトの構築・管理は国立遺伝学研究所のサイトにお願いしています。この海藻類のバイオリソースは基礎生物学以外の分野でも利用されており、化粧品、健康食品、香料などの製品開発にも使われています。最近では「特定の海藻を食べると家畜が出すメタンガスが減少する、として温室効果の削減を目指す」[10]という研究に使われています。

――藻類研究は将来どのようになると思われますか?

川井:「分類」の研究は、上で紹介したタイプ法に基づいて行われている限り、誰かが古い標本を保存して公開しないと次に研究がつながりません。また最近の分類の研究には遺伝子の解析が必須になってきました。ただ、必要だからといって、現段階で各機関が所持している標本の全てで遺伝子を調べて、それをデータベース化するのは時期尚早といえるでしょうね。遺伝子を抽出するためにはごく少量とはいえ既存の標本を破壊することになります。このため、それらの標本を保持していて研究者の求めに応じて提供する側も慎重にならざるをえません。今後の技術の進歩で解析に必要とされる試料の量を少なくすることができるようになることを考えれば、今はとりあえず必要な分だけ解析を進めていくのが適当だと思います。また、現在は一度ホルマリン処理をした標本は遺伝子を抽出して増幅するのはかなり難しいのですが、今後は容易になるかもしれません。このあたりは技術の革新待ちですね。

――最後にオープンアクセスについてお考えを聞かせていただけますか?

川井:海藻類の分類や進化に関わる研究の多くはニッチなので、興味を持つ研究者が多い方ではありませんし、同業者の多くは学術雑誌を個人的に講読しており必要な論文に個人的にアクセスできることが多いです。それでもゲノム解析関連の広い範囲の研究者に興味が持たれそうな研究成果や、前述の海藻中の放射能の残留や移入海藻についての研究など公共性が高い研究についてはオープンアクセス論文として投稿しています。(Greenオープンアクセスの場合)最終稿でも学名の訂正といったミスや謝辞の抜けなどが見つかることはありますし、間違ったものをリポジトリに載せるリスクを思うと、モヤモヤした不安はありますね。また、最近では出版者との原稿のやりとりをWEB上で行うので、最終稿のゲラが(手元に)残らないこともあります。

――ご紹介いただきありがとうございます。附属図書館ではオープンアクセス方針にもとづき、Kernel(神戸大学機関リポジトリ)上で研究成果を公開していますが、様々なお考えを尊重しながら進めていきたいと考えます。本日は貴重なお話をありがとうございました。


[1]福島における植物と藻類の放射性セシウム汚染:その現状と将来について http://www.research.kobe-u.ac.jp/rcis-kurcis/KURCIS/fukusima_cesium.htm

[2]Identification guide of seaweeds on Japanese tsunami debris http://www.env.go.jp/water/marine_litter/ADRIFT-MacroalgaeGuideKawai2017_1.pdf

[3]ABSとは、生物多様性条約の目的である「遺伝資源の取得の機会(Access)、およびその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(Benefit-Sharing)」のこと。この実効性を高めるための国際ルール「名古屋議定書」の批准によって外国の遺伝資源を使用することに制限が課せられた。

[4]モニタリングサイト1000 https://www.biodic.go.jp/moni1000/index.html

[5]教育活動 [神戸大学 内海域環境教育研究センター] http://www.research.kobe-u.ac.jp/rcis-kurcis/KURCIS/education.htm

[6]瀬戸内海海藻類標本データベース http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003algae

[7]内海域環境教育研究センター データ集 http://www.research.kobe-u.ac.jp/rcis-kurcis/KURCIS/data.htm

[8]Bioinformation and DDBJ Center https://www.ddbj.nig.ac.jp/index.html

[9] KU-MACC (神戸大学 海藻類系統株コレクション) http://ku-macc.nbrp.jp

[10]Roque, B.M., Brooke, C.G., Ladau, J. et al. Effect of the macroalgae Asparagopsis taxiformis on methane production and rumen microbiome assemblage. Animal Microbiome 1, 3 (2019)  https://doi.org/10.1186/s42523-019-0004-4

インタビュー:附属図書館 佐藤, 小笠原, 末田 / 文責:小笠原